結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十九話:須美の決意とつながる絆

 

 私は馬鹿だ。

 大馬鹿者だ。

 

 自分一人でどうにかしようと焦って、いざ仲間の命が危なくなると結局は迷っているだけだった。乃木さんは家柄があったから勇者達のリーダーになった訳じゃない。乃木さんが見せる瀬戸際での閃きと判断力を、安芸先生は見抜いていらしたんだ。

 

 今回のバーテックス侵攻においては、三ノ輪さんの奮闘と桐ヶ谷さんの危険を恐れない行動力、そして乃木さんの閃き、そのどれか一つでも欠けていたら勝つことは出来なかった。

 キリトさんが合宿最終日の夜に言っていた通り、一人で戦っている人なんて初めから居なかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 樹海化が解けた世界は、元通りの時間の流れを取り戻した。

 四人も勇者としての姿から元の人としての姿に戻り、大橋前の公園の草原に円を囲うようにして寝そべっていた。

 

「はぁ、いたた」

 

「大丈夫か?銀」

 

「えぇ、なんとか……にしても、今回のは腰に来る戦いだったー」

 

 勝てこそしたが、それは一歩間違えればこの世界は今頃あの化物によって破壊されていただろう。誰一人命を落とさなかったのが奇跡と思える程の激戦、一抹たりとも余裕なんてなかった。

 

「ああして、ミノさんが攻撃を受け止めてくれたから、お陰で皆が攻め込めたんよ~。ありがとね、ミノさん」

 

「そっちこそ、凄かったじゃん」

 

「ミノさんが一分は持つって言ったなら、その間は大丈夫でしょ~?長引かせると危険だもんね~」

 

 死と隣り合わせの戦いの後だとは思えない程に、穏やかな声音で園子は言う。

 かく言う俺も、今回の戦いでは前回の様には行かなかった。他の三人と同じように傷だらけになって、限界ギリギリで策を捻りだして、それを通すために命すらも危険に晒すような無理をした。

 油断していた訳じゃないが、少しでも自分が先陣を切ろうなんて考えていたのが愚かしい。

 

「それにしても、腹減ったなぁ」

 

 バッと起き上がりながら言う。

 

「うどん、食べてる途中でしたもんね。あたしもお腹ペコペコ……」

 

 そうして、他愛ない話をしているとそこに一人の少女の嗚咽が聞こえた。俺含めた園子と銀の三人はぎょっとして見ると、須美が泣いていた。

 

「え!?」

 

「どうした須美!どこか痛いのか!?」

 

 すぐに寄り添って涙の理由を訊ねる二人に、須美は涙を拭いながら答える。

 

「違うの、私…ごめんなさい……次からは、ちゃんと初めから息を合わせる。頑張るっ!」

 

 年相応の涙を流す須美の言葉に、俺は優しく微笑して返した。

 

「ああ、頑張ろう。ここに居る四人で、一緒に――」

 

「はい、わっしー」

 

 言って、園子がハンカチを須美に渡す。

 

「ありがとう。そのっち……」

 

 消え入るような声量だったけど、それを園子は聞き逃さなかった。

 

「もう一回言って、わっしー!」

 

「う、そのっち!」

 

 須美にそう呼んでもらえた事が余程うれしかったのか、感極まったように身震いする園子。

 

「あたしは!あたしは!!」

 

「……銀」

 

 また、消え入るような声音で言った須美に「え?」と銀が聞き返す。

 

「――銀!」

 

 それは、彼女達三人の勇者の心と心が本当の意味で繋がった瞬間だった。心は、絆を運び届ける物――そうやって沢山の大切な思い出を、彼女達は自分の奥底にある魂に鮮やかな色として刻んでいくのだろう。

 

 そうして、しばらくすると須美も落ち着いて、俺達四人は一先ず大赦の迎えが来やすい場所まで出ることにした。

 歩き出すと、須美が俺を呼び止めた。

 

「あの、キリト…さん!」

 

「え?」

 

 まさかこのタイミングで呼ばれるとは思わず、振り返ると須美はそんな俺を見て深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました!」

 

 そう一言だけいって、須美はまた歩き出し俺の横を通り過ぎ、追い越した。そこから数秒間動けなかった俺を、ニヤニヤと眺めていた園子と銀に気付いて居心地が悪くなったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、三人は訓練により精を出すようになった。

 基礎訓練ではより自身の練度を高めるべく、単発からの連携など技を磨くという面でも高度な事も実践し始めていた。そして、俺が来てから取り入れられた模擬戦方式の実戦訓練に於いても――

 

「とりゃあッ!」

 

「フッ!」

 

 振り降ろされた銀の剣を受け流すと、二連撃技のスネークバイトからスキルコネクトで四連撃技のバーチカル・スクエアに繋げる。合計六連撃の剣技によって銀は防御しきれず体勢を崩す。そこに剣を振り降ろすが、銀は崩した姿勢から無理なく体を半回転させて反撃する。

 

「うおっ!?」

 

 まさかのタイミングでのカウンターに、今度は俺が意表を突かれて僅かに隙が出来る。

 それを見た銀はニヤリと口角を上げる。

 

「もらった!!」

 

 ここぞとばかりに二刀を振りかぶるが、それを見て俺は不敵に笑い返した。

 

「残、念ッ!」

 

▽体術基本技▽

弦月

 

 バク転の要領でライトエフェクトと纏った足で蹴り上げると、予想外の行動に銀はぎょっとすると慌てて体を後方に逸らした。しかし大剣を二刀も振りかぶった状態で体を後方に逸らせば、バランスを崩すのは自明の理だ。

 

「はい、今回も俺の勝ちだな」

 

 尻餅を付いた銀に剣を寸止めすると、そこで安芸から終了の合図がかかった。

 

「ちぇ、今回は行けると思ったのになー」

 

「まあ、こっちも今のはかなり冷やりとさせられたよ。ただ、まだまだ勝負を決める場面での冷静さが足りないな」

 

 バーテックスとの戦いにおいても同じで、命のやり取りであればある程に勝負を決する際がもっとも隙になりやすい。精神的に未熟故かも知れないが、それさえ無くなれば俺だっていつ一本取られてもおかしくはない。

 

「さて、今日はここまでかな」

 

「ミノさんにおつかれ~」

 

「お疲れ様、銀」

 

 先に模擬戦を済ませていた二人が駆け寄ってきて、お互いを労う。

 今の銀との立ち合いもそうだったが、先に戦った二人もあと一歩という所までその切っ先を迫らせていた。

 

「それにしても、今日も一本も取れなかったわね……」

 

「仕方ないよ~。本当にこの人強すぎるし、でも三人で毎日やってるのに全敗は悔しいよね~」

 

「毎回、あと少しって所までは行けるんだけどなー」

 

 そんな風に話し合う三人に、俺は飄々とした雰囲気を纏って告げた。

 

「ふっ、まだまだ精進したまえよ?諸君」

 

「くっそー、絶対近いうちに負かしますからね!」

 

「帰ったらまた作戦を練り直さないと!」

 

 分かりやすく食いついて来る銀と須美を見ていると、微笑ましくなる。

 三人の熱量と、使命への責任感、そして仲間を守りたいと思う意思は本物だ。――三人は今よりもずっと強くなれる。それこそ、単純な数値や力では表せないような、もっとずっと大切で得難い物を手に入れるだろう。

 

 訓練後、安芸の元に集まりミーティングを行う。

 

「勇者の力は、神樹様に選ばれた無垢な少女にしか使えないわ。あなた達に頑張ってもらうしかない。そこで、次の任務は――」

 

 置かれた間に四人は緊張の表情を浮かべた。しかし安芸はそれに対して一転、穏やかな表情して言った。

 

「しばらくの間、しっかり休むこと」

 

「それは、休暇って事ですか?」

 

 聞くと、安芸は首肯して答えた。

 

「安定した精神状態でなければ変身は出来ない。だから、これも重要な任務よ?」

 

「休むのなら任せてください!」

 

「何する~?」

 

「やっぱりイネス行く?」

 

 休みとなり大はしゃぎの銀と園子。ただでさえ三人は俺よりも一回多くバーテックスとの死闘を経験している分、疲労やストレスは見えない所で着実に溜まっていたはずだ。この辺りで一度休んでおかないと最後まで持たないだろうし、俺も気を休めるとしよう。

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