結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第二十一話:へいわ

 

 守ると誓った。

 この命に変えても、彼女達の未来を守り抜くと――

 

 例え会えなくなっても、笑い合う少女達の日常を最後の最後まで決して壊させはしない。この体に刻んだ一個にして究極の意思、それがあれば剣士としての俺が倒れる事はないって思ってたんだ。

 

 ――けれど、俺は知っていたはずなんだ。

 

 どれだけ強かろうと、思っても、意思があっても、叶わない事があるということを……

 

 

 

✾『へいわ』✾

 

 

 

 いつも通りの昼下がり、園子達は今日は学校の遠足に出かけていて帰るのはいつもより遅い。

 夕方まで何をしようかと考えた時に、いつもならゲームの続きを作ったり、散歩に出かけたりするんだけど、今日は何故か外の晴れ模様とは対照的ザワザワが心の中でひっそりと音を立てていた。

 

 

 

 

 途轍もなく分厚い旅のしおりやら、几帳面な須美の度重なる持ち物チェックといった前日のイベントも乗り越えて、三人は遠足当日を迎えていた。

 

「そのっち、今回はちゃんと一人で準備したの?」

 

 バスに揺られながら須美が言うのも、園子は前回の合宿においても準備を殆どキリトに任せてしまった過去があるからだ。

 

「わっしーは心配性だな~。今回はキリトさんも「流石に自分でやれ」って言ってたから、自分でやったよ~」

 

「いや、その言い方だと最初は手伝ってもらおうとしてたように聞こえるんだけど……」

 

 そうして、園子の言葉に軽く突っ込みを入れながらも、着いたら何をして遊ぶのか?などと言った話題へとシフトしていく。

 途中で園子が眠りこけてしまったりしながらも数十分バスに揺られて、遠足先の公園に到着する。様々な遊具やアスレチックがあるそこに着くと、自由時間開始と共に元気旺盛な小学生達が走り出す。

 

 園子が独特な想像力によってアスレチックを怖がり、やっとの思いでクリアすると銀がそんな園子の頭をよしよしと撫でた。

 

「えへへ、本当にミノさん撫でるの上手いな~」

 

「そう?園子ってキリトさんにもしょっちゅう頭撫でて貰ってるし、やっぱりそういうの好きなのか?」

 

「キリトさんはキリトさんだよ~。ミノさんはまた何か違った感じなの~」

 

 かく言う銀も、キリトに頭を撫でてもらった時の感触は今でも鮮明に覚えているから、園子の言うことは分からなくもない。

 そこに須美が構ってと言わんばかりに、頭をスリスリと割り込ませた。

 

「おぉ、どうしたんだよ須美?」

 

「二人が仲良さそうにしてたから、私もと思って……」

 

「ミノさんは人気者だね~」

 

 そこからも銀は自身の運動神経の良さを存分に活かして、アスレチックをクリアしていった。

 雰囲気に乗せられてテンション高めの銀は、ロープ上りを片手でやるという事もし始めたのだが、そこで手を滑らせて落下したて園子と須美に受け止められたりと波乱もありつつ時間は昼時に入った。

 

 昼食はバーベキューに手作り焼きそばだ。

 銀は勿論、須美も普段から趣味の一つに料理が入るくらいにはやっているのでそつなく熟す中、園子は少々不慣れそうに手を動かしていた。

 

「美味しいね~」

 

「園子は普段からもっと良い肉を食ってるんじゃないのか?」

 

「そうなんだけど、こっちの方が美味しいよ~」

 

 何て笑顔で語った直後、急にその表情を悲壮的なものに変えた。

 

「忙しいテンションね」

 

「だって~、ミノさんもわっしーも料理できるのに、わたしだけ出来ないのが少し恥ずかしくなってきたんだよ~」

 

「焼きそばくらい、園子にだって作れるよ」

 

「じゃあ、次の日曜日わっしーと教えて!」

 

 園子が目を輝かせて言うと、二人は首肯した。

 

「良いけど、今度は折角ならキリトさんも呼びたいな。そう言えば、キリトさんは料理とか出来るの?」

 

 銀が聞くと、園子は目を丸くしてから俯いた。

 

「えっとぉ、あの人は出来ない訳じゃないんだけどね~。いつも具なしペペロンチーノとか言ったり、味付けを激辛にしたりして家のコックさんに怒られてるんだ~」

 

 園子にしては重苦しい珍しい苦笑いに、他二人も苦笑する。

 

「それは……お料理パーティーをする時はキリトさんは食べる専門にした方が良いもしれないわね」

 

「うんうん、激辛焼きそばとかちょっと気になるけど命には変えられない」

 

 二人の知らない尊敬する剣士の一面を知りながらも、三人は食べ進めた。

 昼食後は残りのアスレチックをクリアして、最後のベルは園子が鳴らして全面クリアとなった。その後は、公園の展望台から景色を見渡しながら三人はお喋りをしていた。

 

「流石にイネスは見えないかー」

 

「ミノさん、本当にイネス好きだね?」

 

 銀がイネスついて熱く語り始めようとすると、須美がそんな銀の言葉が言い終わる前に「中に公民館もあるんだから」と付け足した。

 

「なんだ、もうパターン読まれたか」

 

「今のはわたしも分かったよ~?」

 

 お互いの思考がある程度までは読めるようになったのも、お互いの仲が深まった証拠だ。

 例外的に園子だけは永遠に読めないと遠い目で公言した二人に、園子がしょんぼりする。

 

「そのっちの思考を読めるのは多分、キリトさんくらいよ」

 

「キリトさん、最近は園子の世話役みたいになってるもんな。まあ、幾らキリトさんでも完全に読めてるかは怪しいけど……それに、あたしにも今の反応くらいは分かったよ?」

 

 銀の言葉に「私も」と須美が同意すると、園子は「まじ?」と嬉しさのあまり舞い上がって跳ねまくった。

 

「この跳ね具合は予測不能なんだよな」

 

「流石そのっちね……」

 

 そのまま嵐のように飛んで行った園子を見ながら、銀が言った。

 

「因みに、須美については取扱説明書が書けるくらいには詳しくなったぞ」

 

「あら、最初のページには何て書いてあるのかしら?」

 

 聞かれて、銀はふっと笑って返した。

 

「結構大変な品物ですので、くれぐれもご注意ください」

 

「め、面倒くさい人みたいな言われ方ね。でも、納得してしまう……」

 

 景色に目を向けて黄昏れた須美に、銀は気にするなと言うように励ました。

 

「良いじゃんか、奥行きがあって……あたしなんて、多分新聞の一面並みにペライぞ?」

 

「そんな事ないわ。分かりやすくはあるけど、書ける事は一杯あるわ!」

 

「え?そ、そうか……?」

 

 そんな返しをされるとは思っていなくて、恥ずかしくなった銀はその場でうずくまる。そこに、いつの間にか戻ってきた園子が言った。

 

「実はわたし、初めミノさんの事が苦手だったんだ」

 

「え?」

 

「私も」

 

「ええ!?」

 

 二人して自身への初手の印象の悪さに驚愕する銀を見て、二人は微笑する。

 

「ほら、スポーツ出来て友達も一杯居て、何だか違う世界の人みたいな感じがしたんだ~」

 

 「でも」と園子はそこに付け加える。

 

「話してみるとこんなにいい人なんだもん!わっしーも良いキャラだし!」

 

「私はキャラ!?」

 

 要するに、言葉にしきれない程にいい所が無数にあって、自分はそんな一面全部が好きだって事なんだ。

 

「ミノさんはどうだったの?」

 

「あたし?あたしは……二人には苦手とかそう言うのより、もっと仲良くなりたいとか守りたいって気持ちの方が強かったんだ。でも、そうだな……強いて言うなら、キリトさんかな」

 

 思わぬ人物の名前に二人は驚きの表情を浮かべた。

 

「えー、意外。ミノさんあんなに懐いてるのに~」

 

「いや、勿論いまは違うよ?けど、最初は何だか近寄りがたい人だなって感じてたんだ。あたし達よりもずっと強くて、年も上だし、何だか踏み行っちゃいけない一線みたいなのを引いてる感じがしてさ」

 

 銀の言うことは二人にも理解できた。それでも、園子は最初に会った時のキリトの印象が、須美はその強さへの尊敬が勝っていた事が銀とは違った部分だった。

 

「でも、気付いたんだよ。あの人が強いのは、自分の弱さに決して嘘を付かないからなんだって……弱くても、力が及ばなくても、目の前の戦いから絶対に逃げない……近寄りがたいと思ったのは、ただあの人の優しさを知らなかっただけだった。二人で一緒に遊んでそれが分かった」

 

 ひたすらに全力で、目の前の難敵に自身の剣で回答を出し続ける剣士。自分達と同じようにボロボロになっても戦う姿を何度も見た。敵の攻撃を受け止める自分を、ただ言葉なく信じてくれた。助けるのではなく、その背中を踏み台にしてでも戦ってくれた。そんなキリトに対して、今は尊敬こそすれ苦手意識なんて一切持っていなかった。

 

 

 優しいから、人を愛してしまうからこそ、自ら敵を作ってしまうキリトの生き様を三人は知らない。しかしそれを知ったとしても、三人は彼のそんな姿を受け入れると断言できた。

 

 

 

 

 遠足も無事に全てのイベントを終えて、三人はバスから降りると帰路を歩いていた。

 そのまま終わればいい。何事もなく、ただ明日を迎えられたらいい。それ以上は何も望まない。

 

 ――そんな少女達の無垢な願いは、町に訪れた災厄を報せる風鈴の音にかき消された。




次回はようやく『あの回』です
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