結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第二十二話:あやまち

 

 願いは叶わない。

 希望はない。

 

 絶望的に、無慈悲に圧倒的力で花は手折られる。

 

✾『あやまち』✾

 

 町に鳴り響いた風鈴の音、それと共に虹色の光に包まれる現世(うつしよ)。俺に取っては三度目の樹海化、しかし今回は何かが違っていた。

 数年に渡って研ぎ澄ませた殺意と死への超感覚が、ここに来てかつてないほどの警鐘を鳴らしていたのだ。

 

 全速力で大橋まで向かうと、既に三人は到着していた。

 

「キリトさん!」

 

「そのっち、皆!バーテックスは?」

 

 いつになく緊張感を纏った言葉に、三人は只ならない雰囲気を感じつつも銀が答える。

 

「いや、まだです。もうそろそろ……来た!」

 

 その声がしたと同時に目を向けると、大橋向こうから悠々と接近してくる奇怪な化物が二体(・・)、その姿を現した。

 

「二体!?」

 

「そう来たか……」

 

 カニ型をしている個体と片やサソリのような尾を持つ個体。

 それを見て目を細める。一体でも限界近いほどにギリギリなのに、それが二体になる事の脅威は想像に難くない。だが、俺はそれとは別に無視できないほどの違和感を感じていた。

 

 ――胸騒ぎの正体はこれだったのか?でも、感じていたのはもっと濃密な死の気配だ。

 

 二体のバーテックス襲来は確かに脅威だが、それでも対処できない訳じゃない。今や、三人の実力は半年前とは比べ物にならないくらいに上がった。

 しかし、敵を実際に前にしても尚、警鐘は鳴り止まない。俺はこの死への直感に何度でも助けられてきた。だからこそ、何かあると確信を持って言えるのだ。

 

「わたしとわっしーで援護するから、ミノさんとキリトさんで一体ずつお願い!」

 

 しかし、それについて深く思案する余裕はない。

 一先ず思考を切り替えて、目の前の敵に意識を向ける。

 

「「了解!」」

 

 言って、俺と銀を先頭に後方から園子が追いかけ須美が援護しやすい位置取りに移動する。

 敵の距離が近まると、サソリ型のバーテックスがその尾をしならせて攻撃してくる。それを《クロス・ブロック》で受け流すと銀に向かって叫んだ。

 

「俺はこっちをやる!銀はもう片方の気持ち悪い方をっ!」

 

「分かりました!」

 

「どっちも気持ち悪いと思うんだけどな~」

 

 カニ型の方は見たところ六枚の羽のような物を使って攻撃してくるはずだ。そういう単純な近接戦闘型は銀にとっては格好の相手ともいえる。

 対して、こっちのサソリ型は予想通り――

 

「セヤッ!」

 

 自在にしなり予測の難しい方向から振るわれる尾を、ソードスキルも交えて的確に捌く。

 やはり、こう言った搦め手を使ってくるやつは俺が相手した方がいい。

 

▽二刀流2連撃技▽

エンドリボルバー

 

 弾いた尾が切り返してきたのを跳躍で躱すと同時に、敵にイエローのライトエフェクトを纏った回転斬りを叩き込む。

 その隙に視線だけで銀の方を確認すると、あっちも上手いこと後衛と連携して順調そうだった。

 

「よし、このまま行けば押し切れる!」

 

 こっちもあのしなる尾こそ厄介だが、SAOフロアボスの複雑なアルゴリズムと初見殺し同然の行動に比べたら是非もない。頭上から襲ってくる尾を最小限の身のこなしで躱すと、続けてソードスキルを放つ。

 

▽二刀流10連撃技▽

ボルティッシュアサルト

 

 十連撃にも及ぶ大技を容赦なくサソリ型の敵に叩き込む。神速の連撃にサソリ型は対応することは当然できず、ようやくその巨体を崩した。

 そこに一本の矢は飛来して、サソリ型のバーテックスに突き刺さる。

 

「そこッ!」

 

 更に園子が槍の切っ先をその着弾地点に叩き込み、バーテックスは完全に倒れた。

 

「ナイス!」

 

 このまま損傷を与え続ければ、どちらかは先に鎮火の儀で結界の外に追い出せる。そうなれば後の一体を油断せずに攻め立てれば、危なげなく倒せるはずだ。

 ――勝てる。

 そう無意識に確信していた。

 しかし、俺は忘れていたのだ。自身の胸の内で鳴り続ける警鐘が、今も尚その音を大にして『逃げろ』と俺に訴えていた事を……

 

 ――瞬間、大橋の奥から凄まじい殺意を感じ取る。

 

「ッ!」

 

 上、そう思って向いた時、無数の矢の様なものが飛翔してくるのが見えた。

 

「全員、そのっちの盾に隠れろ!!!!」

 

 破れてしまうのではないかと錯覚する程に喉を鳴らす。

 ぎょっとした二人がその声に反応して、園子が即座に盾を上に向けた下に身を隠す。俺は距離的に間に合わないのを察して、迎撃の構えを取る。

 

「キリトさん!!」

 

 そんな園子の叫びをかき消すように、矢が降り注いだ。

 

▽二刀流15連撃技▽

イクスタキオン・ユニベーション

 

 意識を集中させろ。

 命中しないやつは無視していい。

 

 世界から色が消えて、周囲の景色がソローモーションのように遅くなっていく。意識が加速して、降ってくる絶望の雨を前にしてもその目には一切諦めの色を写さない。

 

 無数に降る矢の雨の軌道予測。

 そんな離れ業と共に十五連撃からなる二刀流上位スキルが振るう。

 

 斜め、下段、上段から限界を越えた速度で剣を振り、ひたすらに集中する。

 

「もう、少し」

 

 十二、十三……。

 

 そして、最後のクロス型の切り払いを以って合計十五連撃のソードスキルを完遂し、同時に矢の雨も止む。

 

「はぁはぁ……何とか、耐え切った」

 

 それが何秒の事だったのかは分からない。それでも、短くない間ほぼ無呼吸で剣を振り続けた代償として胸を上下させて息を付いた。

 

 ――そのっち達は……?

 

 そう思って目を向けた先にあったのは――――――

 

 

 無残にも空中に投げ出された園子と須美の姿だった。

 

「……は?」

 

 距離は離れている。だが、どう見ても重傷だ。

 手を伸ばす。そんな俺を嘲笑うかのように、追撃の尾が二人に振り降ろされた。

 

「やめ、ろ!」

 

 地面に叩き付けられた二人の勇者、目前まで迫った敵の存在すらも忘れて二人のもとに駆け寄る。

 

「そのっち、須美!」

 

 傍まで来ると、身体の至る所に刻まれた痛々しい裂傷に、息が詰まりそうになった。

 樹海の固い地面に流れる血の赤さが、あの時(・・・)の光景をフラッシュバックさせる。真っ二つに両断された親友の姿が、俺の犯した最悪の罪が……

 

「キリトさん、二人はだいじょう………キリト、さん?」

 

 銀の声が聞こえたが、言葉を返す余裕はない。

 二本の剣を樹海に突き刺して、園子の体をそっと抱き上げると、華奢な体は力なく腕の中に収まった。目は固く閉じて、息は浅く、辛うじて生きているような状況。

 いつも楽しそうに笑っていた笑顔は、見る影もなく壊されていた。

 

「ぁ、ああ……」

 

 ――何で、こんな事になった?

 

 俺は確かに、この状況を予感していた。

 その気になれば、戦闘前に三人を引き留めて、もっと慎重な作戦を提案することだって出来たはずだ。

 ――俺はまた、同じ間違えを犯したのか?

 あの時も、あの時も、あの時も、あの時も、あの時もあの時もあの時も――――全部、俺が愚かだったせいで、最善を取らなかったせいで、目の前で大切な人が死んだ。

 

 予想外なんかじゃない。

 俺にはちゃんと、この事態を予測し対策できるだけの時間と選択肢があったんだ。

 

「キリトさん、二人は……」

 

 「大丈夫なんですか?」恐らくそう言おうとした銀の言葉を、俺は遮った。

 

「銀。……二人を頼む」

 

 園子をそっと寝かせて、突き刺した漆黒と白銀の二刀を引き抜く。

 後ろで困惑している銀は、今の俺を見て一体どんな顔をしているだろうか?

 恐怖、軽蔑、もしかしたらその全てかも知れない。尊敬していた人物の本性に触れた彼女が、一体どんな目を俺に向けたって、今は……

 

 その一切がどうでもいい。

 

 ただ目の前に迫った三体の化物だけが、そして何より自分だけが、憎くて仕方がなかった。

 二本の剣をだらんと下げ、俯いた視線から一転、三体のバーテックスを視界に映した瞬間――頭の中で何かが切れた。

 

「ぐっ、お゛お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお゛お゛ーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 樹海に割れんばかりの咆哮を響かせる。

 狂った獣のような眼光をバーテックスに向けると、黒いコートが陽炎の如く霞む勢いで瞬迅する。

 

 接近を察知した弓の形をしたバーテックスが、先ほどのように矢を無数に放ってくるが、俺にとってそれはあまりにも遅く見えた。

 

「遅い」

 

 短く息を吐いて、足に力を込め一気に加速し、矢が降り注ぐ範囲を脱出する。その勢いのまま、立ちふさがるサソリ型のバーテックスに怒涛のソードスキルを叩き込む。

 

▽二刀流8連撃技▽

ナイトメアレイン

 

▽二刀流6連撃技▽

デュアル・リベレーション

 

▽二刀流10連撃技▽

ボルティッシュ・アサルト

 

 神業と表現しても比喩にならない程の究極的スキルコネクト。

 合計二四連撃もの光の剣が叩きこまれたバーテックスは、一瞬で樹海の上に叩き付けられる。

 

「まだだ!」

 

▽二刀流15連撃技▽

イクスタキオン・ユニベーション

 

 園子が、須美が受けた痛みはこんなものじゃない。

 バラバラにして、この世界から消し去ってやらなくちゃ気が済まない。

 

 一切の慈悲も容赦もなく追撃の十五連撃を叩き込むと、サソリ型のバーテックスは後数発の致命打を与えれば鎮火の儀に届くという所まで損傷する。

 

「ッ!」

 

 もう一発、二刀流の最上位技を叩きこもうとした。その瞬間、背筋に凄まじい悪寒を感じてその場から跳び退く。

 見れば、無数の矢が俺の居た場所を通り過ぎていた。それを放った主に目を向けて、ありったけの殺意を剣に宿らせる。

 

「邪魔をッ!!」

 

 するな、そう叫ぼうとした俺の耳に銀の悲鳴とも思える叫び声が届いた。

 

「キリトさん避けて!!」

 

 グサリッ、気付いた時には背中に一本の矢が突き刺さっていた。

 

▽片手剣防御技▽

スピニング・シールド

 

 見えていた訳じゃない。

 身体を走る激痛と、死の予感に突き動かされる形で、振り向きざまに片手剣の防御技を発動させた。

 次に瞬間、目の前を埋め尽くしたのは無数の矢による一斉掃射。

 

 ――バカな。さっきのは確かに回避して……

 

 ここで俺は、ある物見てその誤算に気付く。

 カニ型バーテックスの羽の一枚が反射板となり、矢の軌道を曲げているのを視界の先に確認したのだ。

 完全なミスだ。

 頭に血が上って、冷静な判断力を失っていた。防ぎ切れなかった矢が身体を抉っていく、咄嗟に発動させた防御技のお陰で致命傷は避けられているが、大ダメージは避けられない。

 

 矢の雨が止んだと同時、傷だらけの体を復活したサソリ型バーテックスの尾が強かに打ち据えた。

 

「ゴハッ!」

 

 樹海に激突しゴポリと血の塊を吐いて、意識を落とした。

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