結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第三十一話:繋がりと真実

 

 わっしーとミノさん、二人とも沢山話し合って方針は決定した。

 その中でも最初にやるべき事はキリトさんを見つけ出す事だ。しかし、闇雲に探したところで見つかるとは思えないし、自分達だけの力では時間もかかり過ぎる。

 この前のように樹海化が解けるタイミングを狙っても良いけど、これにも確実性はあまりない。

 

 そこで、わたし達はキリトさんに最も近しい人物を頼る事にした。

 

「それで私の所に来たと……」

 

 神樹館の生徒指導室、そこでテーブルを挟み片方のソファーにはわたし、わっしー、ミノさんと対面には安芸が座っていた。休日でも職員室に居た彼女に懇願したわたし達の間にはこうして話し合いの場が設けられた。

 わっしーが代表して事情を説明すると、安芸は一度俯くとすぐさま首を横に振った。

 

「ごめんなさい。この前も言った通り、彼について私の口から何か教えることは出来ないの」

 

「直接的な事じゃなくて良いんです!何か、少しでもあの人に関する情報があれば、教えてくれませんか?」

 

 安芸が大赦内部で非常に難しい立場にあることは理解している。だからと言って、分かりよく引き下がる事は出来ない。

 

「…………ごめんなさい」

 

 安芸はただ一言、少女達に謝る事しか出来ない。

 

 目的も、事情も、仔細の一つですら話す事は許されない。

 それ程に徹底的に、キリトは園子たちが自分へと繋がる事を拒んだ。三人も安芸の様子からそれを察する。それだけあの人の決意は固いし、でなければこんな事態にだってなっていない。だから、一筋縄では行かないのは最初から分かっていた。

 

「この前、キリトさんがわたしに言ったんだ。『足手纏い』だって……」

 

 それを聞いた安芸は益々悲痛な表情をした、言っているわたしだってきっと酷い顔をしている。だけど、ここで向き合わなかったら絶対に後悔するから、わたしは俯くことも目を閉じる事もしない。

 

「悔しかったし、悲しかったよ。『何でそんな事いうんだろう』って、何も考えられなくなった。でも、よく考えたらそれって全部"事実"なんだって気付いた」

 

 そう、わたし達は現実としてこれまで何度もあの人に守られてきた。

 最前線で命をかけて戦っていたつもりが、わたし達の居た場所はいつだってキリトさんの一歩後ろだった。

 キリトさんが言い放ったのは、突き放す為の嘘ではなく、紛れもない事実だ。

 わたしは盾なのに、一度だってあの人の事を守れていない。いつもいつも、一緒に戦っているようで『いざとなった時はキリトがどうにかしてくれる』と彼の強さに甘えていた。

 

「安芸先生、わたしもう嫌だよ。大切な人を守れないのは……」

 

 目を覚ました時には全部終わっていて、傷付いたミノさんとキリトさんが倒れた樹海で思った。

 自分はなんて無力なんだろう、と。

 

「私も、守られるだけで終わりたくありません。まだ何も、あの人に返せていないんです!」

 

 わっしーが。

 

「あたしはこの前の戦いで、キリトさんに命を救われた。大切な家族を守ってくれた恩を返せないままなんて、絶対に嫌です!」

 

 ミノさんが、それぞれの心中を口にした。

 勇者として戦う以上、明日隣に親友が居ない事だってあり得る。世界を救う為に、自分や大切な誰かが犠牲にならなければならない状況だって、いつの日かやってくるのかもしれない。

 死ぬのは怖い。

 だけどもっと怖いのは、最期の時に笑いあった日々すら思い出せなくなる事だ。

 

 大切な人が居なくなってから泣いても遅い。

 

「わたし達が出来る事ならなんだってします!だから、キリトさんを一人にしないでください!」

 

 その恐怖を一身に背負わせたままなんて、絶対に間違っている。

 安芸は、目の前の少女達が本当に自分の生徒なのか一瞬わからなかった。誰一人として生半可な覚悟ではなく、それこそこれから生身でバーテックスと戦えと言われても今の彼女達ならやるだろう。

 そこに映るのは、以前までの少女ではなく"勇者"で、決意を固めた黒衣の剣士と同じ目をしていた。

 

 

 

 

「…………分かったわ」

 

 安芸もまた、約束を破る事になるのを心中で謝って、彼女達に手を貸す事に決めた。

 

「全部は話せない。でも、あなた達が桐ヶ谷さんと話す場を作る事には協力します」

 

 それを聞いた三人は、希望を得たように笑顔を浮かべた。

 皮肉なものだ、と自嘲する。三人を救いたいというキリトの意思を尊重しておきながら、今度は彼を救いたいという少女達の意思を尊重しようとしている。どちらを選んだとしても、どちらか(・・・・)に、或いは両方に大きな悲しみを背負わせることになる。

 それでも、懸命に戦う生徒の願いを蔑ろにするなんて自分には出来ない。

 

「ありがとう。先生!」

 

 園子や二人の感謝の言葉に微笑み返して、安芸は表情を引き締め直した。

 

「……あなた達がお役目の任から降ろされる前、ある案が大赦の中で秘密裏に動いていたの」

 

 安芸は自身のバッグの中から、一つの冊子を取り出した。

 くしゃくしゃになったそれは、キリトから安芸に返された『勇者システムの強化案』の資料だ。

 これを勇者たち本人に伝える事は、大赦の上層部にもキリトにも許されていない。それでも、彼女達が彼と対等に話すためにはこれを隠し通す事は出来ない。

 

「勇者システムの強化案?これって……」

 

 銀が説明を求めるように目を向けてきたので、目を閉じて頷く。

 自らの説明ではなく、自分達の目で確かめるように促した。それを正しく察した園子達は、その冊子を開いて一ページずつ読み始めた。

 

 

 

 

 わたし達は、安芸が渡してくれた冊子を読み進めた。

 そこに書かれていたのは、余りにも人の心を感じない残酷な内容だった。過去の苛烈な戦いを根拠に『貴重な人材である勇者』の損失を惜しむ文章と共に綴られた、勇者を強化する方策の数々。

 

「なんだよ、これ」

 

 ミノさんが溢した言葉と、わっしーの息を吐く音。そして、わたし自身が抱く動揺と大きく早くなっていく動悸。

 安芸はこれが"秘密裏"に動いていたと言っていた。更にこの資料の中にも裏付けるように、こねくり回した醜い言い訳と一緒に『当代の勇者には伝えない』という文面があった。

 

「ここに書かれている事は、本当なんですか!?」

 

 わっしーが問うと、安芸は「そうよ」と肯定した。

 

「大赦は、乃木さんたち勇者がどうすれば死なせずに戦い続けられるかを考えました。その末に、そこに書かれている内容を打ち出したのよ」

 

「……もしかして、キリトさんはこれを?」

 

 これにもまた、安芸は言葉もなく首肯した。

 それを見て、わたし達はキリトさんの行動の理由をようやく理解する事が出来た。あの人がこんな物を見て許すはずがない。どんな方法を使ってでも阻止しようとするに決まってる。

 その行動の結果が今の状況なんだと、手元の無機質な紙がそれを証明していた。

 

「キリトさんは、私達の為に一人で戦う事を選んだのね」

 

 こんな事を考えた大赦に怒り狂ってもおかしくないのに、わっしーは優しい声音で言う。

 

「あぁ、本当にあの人は……」

 

 ミノさんも同じだ。

 

「ふふっ、でもそれがキリトさんだよね~」

 

 わたしも怒りよりも、大切な人への慈しみから笑みがこぼれた。

 だって、そうじゃないか。

 キリトさんがこれを見たところで、別に彼自身には何も関係はない。むしろ、他のメンバーが強くなるのなら自分も楽になって良い事の方が多いはずだ。

 ここに書かれている事が本当なら、この強化が実装された勇者は決して死ぬことはないという。

 それなら、キリトさんはわたし達が苦しまないただ一点の為に一人で戦う事を選んだという事になる。

 

「……わたし達がまた戦う事になったら、これを使うことになるんだよね?」

 

「ええ、そうなるわ」

 

 勇者が再び戦場に立つ時、既にそれは強化された進化版の勇者システムへと生まれ変わっているだろう。

 

「いいよ。わたしは」

 

 覚悟は出来ている、初めから死地に赴くつもりで直談判しに来たのだ。思うところはあるものの、行く先は以前と何も変わらない。

 安芸はその返答に驚きの表情を浮かべた。

 

「私も、そのっちを一人で行かせたりしないわ」

 

「どこに行く時も三人……いや、四人一緒だもんな?」

 

 わっしーもミノさんも同じ決意と考えをもって賛同してくれた。心の中でそんな二人に何度も感謝を告げて、わたし達は安芸を見た。

 

「先生、わたし達はそれでも戦います」

 

 名誉も栄華も必要ない。

 誰からの称賛もいらない。

 たった一つ、この四人で同じ場所に居られるならそれ以上は何も望まない。

 

 それがわたし達の答えだった。

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