結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第三十二話:再びの邂逅

 

「本当にいいのね?」

 

 神樹様の御前、そこに用意された儀式の準備と清らかな白装束に身を包んだ園子に安芸は問う。

 

「うん、覚悟なら出来てる」

 

 緊張こそすれ、恐れの色は浮かべない。

 水場の中に足を踏み入れ、神樹様の元へと向かっていく。

 

 勇者の力は元来、神樹様から与えられる物だ。

 それをスマホに落とし込み、見出された少女達が使えるように実用化するのが大赦の役目である。園子がこれから行うのは、それをより確実にする為の儀式だ。勇者である少女が身体を清め、然るべき身なりと資格を持って神樹様にご挨拶をする。

 と、挨拶とは一言に口にしても、数々の神の集合体である神樹様に明確な自意識は存在しない。

 故に意思疎通も出来ないが、アップデートを行うには神樹様との繋がりをより強固にする必要がある。

 

 進み続けて、遂に手が触れられるくらい近くまで来てしまった。

 

「……これが、神樹様」

 

 体全身が緊張で強張るのを感じた。それを解きほぐすために、一度目を閉じてこれまでの事を振り返る。

 

 

 

 全員が勇者システムのアップデートに同意したものの、契約の上ではキリトがそれを凍結させた事になっている。事を大きくして全員に一度にアップデートを行えば、キリトが一体どんな行動に出るか分からない。

 

 つまりは、極秘裏に行うために現時点では三人のうち誰か一人にしかアップデートは出来ないと告げられたのだ。

 

 それを受けて、園子は一番に「わたしがやるよ」と言った。勿論、須美と銀も自分がやると名乗り出たものの、彼女がこれだけは頑として譲らなかった。梃子でも動かない園子の意思に小一時間の問答の末、ようやく二人は折れて彼女に託すことで決定した。

 

 

 

 その結果、今この場には園子だけしか居ない。

 頼れる友達が傍に居ない。心が縮こまるように萎縮していくのが分かる。

 

「ううん、大丈夫」

 

 意を決して、神樹様の幹に触れると不思議な気配を感じた。

 温かくて、広くて、何処までも大きな、まるで一つの世界と繋がるような感触。けれど、その感覚は一瞬ですぐに意識は現実へと戻ってくる。一秒にも満たない程の時間だったが、それでも確かに自分と神樹様の繋がりが強くなったのを確信する。

 

「……ありがとうございます」

 

 一言一礼をして、園子は神樹様の元から離れ、戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 前回のバーテックス襲来から(はや)一週間。

 学校に通っていない俺はバーテックスが来ない限りは、基本的にやる事がない。少し前までは園子たちとの訓練があったし、何より彼女達と過ごす時間の多さから退屈を感じた事はあまりなかった。

 それも、今となっては嘘のように味気ない生活になったものだ。

 

 一日三食、レトルトや出来合いの物で済ませて、夜になったら寝る。日中も園子たちと鉢合わせる確率を減らすために、なるべく部屋の中で過ごすようにしていた。

 そんな中、ふとした夜の事だった。

 

「ん、メッセージ?」

 

 ピロンと音を鳴らした携帯を見ると、SMSアプリから一通のメッセージが通知されていた。

 この世界では園子たち以外にろくな交友関係のない俺への送り主は、予想通り安芸だった。そこに書かれていたのは、今から一時間後に指定場所へ来てくれと言う旨のものだった。

 

「こんな夜中に急な呼び出しなんて、珍しいな?えっと、場所は……」

 

 そこまでは特に疑問も抱いていなかった。

 大方、バーテックスに関する神託が降りて、それに関する事だろうとタカを括っていた。そんな折に地図アプリで指定されていたのは、予想していた大赦の本部でも、将又(はたまた)この四国の土地の何処でもなかった。

 

 ピンが付けられていたのは住所すら存在しない場所。大橋の向こう、聳え立つ世界を隔てる壁の目前だった。

 

「…………」

 

 そこは俺が第一の絶望を味わった場所だ。

 可能ならば二度と足を踏み入れたくない領域への境界線が指定された場所であり、素直に行くかどうか迷った。

 

「いや、本当に緊急の要件かもしれない」

 

 こんな場所に呼び出すという事は、もしかすると『天の神』にも関連する事かも知れない。ここで無視して後悔するくらいなら、何があっても行った方がマシだ。疑念も疑問もその場で晴らせばいい。

 

「仕方がない。行くか」

 

 すぐさま準備をして、家を出る。

 ――とはいえ、出発したは良いが指定されたのは一時間後で、悠長に歩いて向かっても間に合わない。この世界ではバイクの免許もその物も持っていないので、この場で遅れない為に取れる選択肢はたった一つだ。

 

 スマホの中にある勇者アプリを起動する。

 

 光に包まれた体は数秒後には、黒いロングコートを纏っていて背中には二振りの剣が携えられる。勇者の身体能力を用いて跳躍すると、建物の上を伝い最速で大橋を目指す。

 冷ややかな夜風が黒い裾を揺らす中、三十分と掛からず大橋の前に到着した。

 

「また、ここに入る事になるなんてな」

 

 この先の、更に向こう側にはこの世の地獄が広がっている。

 あの光景を見た後では、近付くのにすら尻込みしてしまうが取り付いた恐怖心を振り払って進む。無数の御札の貼られた広大な橋を渡って、世界の端に辿り着くと、そこから続く境界線の大地を歩く。

 

 夜の闇を受けたこの場所は静かな物で、ふとした拍子に目前の壁の向こう側を思い浮かべてしまう。

 

「っ!……やめよう」

 

 脳裏に焼き付いた光景がフラッシュバックして、すぐに頭を振って追い出す。

 考えるべきじゃなかった。

 早くその場から脱したくて歩を刻む足が早くなる。暫くして、視線の先に三つの人影が見えた。

 

「あれは」

 

 夜の闇で誰なのかは分からないが、大赦の人間であると推測して近付いていく。

 特に深く考える事もせずに、体は向かっていても、視線は伏せて人影を見てはいなかった。カツカツとブーツが固い地面に音を鳴らして、その音が妙に心をざわつかせるのを無視する。

 浮ついた思考のままだった自分を責める事になるとも知らずに、俺はその三人が誰か分かるまで歩を止めなかった。

 

「……は?」

 

 そして、そこに居た人物たちの正体を目前で初めて直視して驚愕した。

 

「――やっと会えたね」

 

 その言葉は安芸の物でも無ければ、大赦の人間でもない。

 この世界で一番親しみ深い声音の主は、俺がこの前、自分の意思で突き放した少女……

 

 ――乃木園子だった。




総合UA10000行きました!
これからも頑張って更新し続けます
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