結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第三十四話:対決

 

 夜闇に包まれた大橋の向こう側、本州との境目である大地を二人の勇者が駆ける。

 白の装束の少女と黒のロングコートが対比のように、お互いの拮抗を崩さず横並びに疾走しながら相手の様子を見る。

 

「やぁァ"!!」

 

 先に動いたのは園子だった。

 最小限の動作で槍を上段から振り下ろすと、キリトはそれを剣で受け止める。ジリジリと互いの武器を競り合わせながら、キリトは園子の力を分析する。

 

 強化された勇者システムは、武装の性能だけでなく全てにおいて過去の勇者の力を上回る。純粋な力量から敏捷、身体能力にプラスして精霊によるバリアが付与される。こうして上から振り降ろされた槍の重さも、以前までのそれとはまるで別人だ。

 こっちも本来の力を取り戻していなければ、この一合で容易く押し負けていただろう。

 

 しかし、キリトはそれを押し退けるとソードスキルを起動させる。

 

▽片手剣単発技▽

バーチカル

 

 ペールブルーのライトエフェクトを纏った斜め上段が園子へと迫るが、それは彼女へと届く寸前で不可視の力によって弾かれる。

 これによって、お互いに決定打を与えないままに再び距離が開く。

 

「今のが精霊のバリアか」

 

 剣撃を弾かれた時の感触がジリジリと手を震わせる中で、それでもキリトは動揺の色は見せない。

 園子の方も、今の攻防を経ても一切の逡巡すらもしない。精霊のバリアがある以上、圧倒的な有利は園子にあるように見えるが、この程度のビハインドで油断する事は有り得ない。

 キリトの目を見れば、そこには既に自分へと剣を届かせる手段があると暗に語っているからだ。

 

「――ッ!」

 

 二人の姿が同時に掻き消える。

 次の瞬間には、その中間地点で二人は剣と槍を合わせていた。そこからは目にも止まらぬ神速の攻防が繰り広げられる。園子が槍で刺突したかと思えば、キリトはそれを受け流してカウンター。それを躱して、槍の柄で打撃。園子はこれまでにキリトとの立ち合いで培った経験と戦いのノウハウを全て駆使して、かの黒の剣士と渡り合っていた。

 

▽片手剣4連撃技▽

ホリゾンタル・スクエア

 

 ボルテージの到達で一度、四連撃の技が閃く。

 園子は目を見開いてそれを凌ぐが、最後の薙ぎ払いが僅かに頬を掠った(・・・)

 

「シッ!」

 

 鋭い気合いで園子が上段振り降ろしから、足払いをするとキリトはステップ行動で後方に退く。

 手で頬に触れると、薄皮一枚を斬った程度とは言え僅かに血の赤が付着していた。

 

「やっぱり、こんなの気休めにもならないよね」

 

 精霊のバリアなど一撃目を防げたらそれで十分と、最初から園子はタカを括っていた。

 キリトの方はと言うと、精霊のバリアを貫通できた事に確かに手応えを感じると同時に、自身の推測が間違いではない事を確信する。

 

 あの守りは確かに勇者へのあらゆる攻撃を防ぐ盾になるが、キリトに限ってはその例外を付ける。この姿に戻った事で、多少使えるようになった心意の力を剣に付与すれば、幾ら神樹の加護とは言え無条件で防げるわけじゃない。

 体に纏う一切が魂の従属物であるように、精霊のバリアも外付けのアタッチメントに過ぎない。

 バーテックスや同じ勇者では決して突破できない不可侵も、こと心意に関しては対象外という事だ。

 

 尤も、これを成すには精霊の加護についての知識とそれを上回るだけの膨大なイメージが必要なのだが、世界すらも書き換えるキリトの心意であれば不可能ではない。

 

「それじゃあわたしも、取って置きを出しちゃうよー!」

 

 園子は槍を振り上げたのを見て、キリトは警戒しつつも訝しむ。

 この間合いでは幾らリーチの長いポールウェポンでも、刺突も斬撃も届かない。そう思っていたキリトの常識を園子は容易く越える。

 

「なっ、嘘だろ!?」

 

 キリトの視界には、何倍にも伸びた槍が映っていた。

 その全長は槍の本来の長さの凡そ十倍を越え、この長さなら当然間合いなど意味はない。

 

「よいしょーー!」

 

 振り降ろされたそれを何とか右に飛び退く事で回避する。

 

「まだまだ!」

 

 しかし、園子はその槍を更に横凪ぎに振るう。まさに全範囲をカバーする一撃に、キリトは何とか剣で受け止めるがその重さに息を吐き出す。

 

「ぐっおッ!」

 

 園子はキリトを引っ掛けたまま、上空に向かって槍を振り抜く。

 

「なに!?」

 

 キリトの体はそのまま宙を舞い。

 その隙に、園子は上空に跳躍すると元の大きさまで収縮させた槍に目一杯の力を込めて振り上げる。

 

「お返しィ!!」

 

 ガギンと音を立ててキリトが迎撃に放った斬撃と衝突するも、拮抗する間もなく振り降ろされた槍が押し切る。キリトはそのまま地面に叩き付けられるとボールのように数回バウンドして、数十メートル転がった末にようやく体勢を立て直す。

 しかし、息を付く暇などなく、園子が凄まじい速度で接近して槍の切っ先を突き出した。

 

「ッ!?」

 

 キリトはそれを寸前で受けると、園子は勢いのまま突き抜ける。

 ただ無傷と言う訳でもなく、キリトの脇腹にも傷が出来ていた。それを見てかの剣士も冷汗を流す。あと少し反応が遅ければ、彼の脇腹は無残に穿たれていただろう。

 

「……早く抜きなよ。二本目」

 

 園子は視線で背中の二本目の剣を示唆する。キリトはそれに対して、剣を構えるのみで依然として空いた方の手は前にその柄には触れない。

 

「そう。キリトさんらしいね~」

 

 園子は相変わらずなキリトに微笑む。

 キリトはバーテックスとの戦いでこそ、二刀流による鬼神の如き剣戟を見せる。だが、園子達が相手にした時は必ずと言っていいほど二本目を抜かない。

 

「生憎と、これは奥の手なんでね。そう簡単に抜くつもりは無い」

 

 そう答える程までに、キリトにとって二刀流とは特別なのだ。

 だが、それと園子自身の心情は全く別物だ。彼女は再び、槍を引き絞るように持つとその切っ先でキリトを狙う。

 

「いいよ~。それなら、キリトさんがその気になる前に……」

 

 更に神速、空気を切る踏み込み。

 背筋に走った悪寒。それに驚異的な第六感による反応を見せたキリトは瞬時に体を横に倒すと、そこには槍の切っ先があった。

 

「終わらせるから」

 

 あの園子が発したとは思えないほど、底冷えするような声音で紡がれる。

 彼女はくるりと槍を手で回して、その長柄でキリトの脇腹を殴りつけた。

 

「かはッ!?」

 

 苦悶の息を吐いたキリトに、園子は更に絶えず連撃を仕掛ける。

 小さく飛び上がり、しなやかな体を鞭のようにして蹴りを放つ。斬撃のように鋭い足技にキリトは驚愕しながらも、アンダーワールドのセルルト流で学んだ合気を駆使して受け流し、体勢を整えながら園子の連撃を捌く。

 

 息もつかせぬ刺突と斬撃、そして打撃の嵐に防戦一方になる。

 

 足払いから、場合によって組み付きまで絡めてくる園子の体術は相当な練度で、それらは例外なくキリトが彼女に教えた物だった。戦いでは有効な物は全て使えと教えたのは自身だが、少し見ない間に一体どれだけの研鑽を積んだのかと感嘆する。

 

「っ、あぁ"!!」

 

▽片手剣単発技▽

ヴォーパルストライク

 

 クリムゾンレッドの光を纏う刺突で反撃する。

 それを見た園子は一瞬だけ目を見張ったが、すぐさま対応して槍を構えると刃の部分が広がって盾となる。

 

「う、ぐ」

 

 ズガァンと轟音を立てて、渾身の刺突が盾に突き立てられる。

 黒の剣士が放つ最上の一撃は確実な重みとなってのしかかるが、何とか足を踏み込んでそれに耐える。

 

「や、あぁぁぁあ"あ"ッッッ!!!」

 

「なっ」

 

 厚い鋼すらも貫くような一撃に耐え切った園子の反撃は、これまたキリトの想像を越えるものだった。

 突然、正面から凄まじい勢いで体が押されたかと思うと、園子の盾が剣を受け止めたまま先程と同じ様に、そのリーチを伸ばしたのだ。

 

「そんなのアリかよ!?」

 

 思わぬ反撃にキリトは完全に体勢を崩す。

 バランスを崩して転倒したキリトに、園子は槍のリーチを戻しながら肉迫する。

 

「まずい!」

 

 キリトはそれに気付きながらも、体を起こそうとした時には既に園子は間合いの内側まで来ていた。

 

「これで――」

 

 今度こそ逃がさない。

 そんな意思を込めて、槍を振り下ろす。

 

「終わり!」

 

 絶体絶命の危機にキリトは目を見開く。園子自身も、これには勝ちを確信した。

 誰がどう見ても防ぎようのない状態。そんな中で、キリトだけは加速的意識の中で見えて(・・・)いた。

 

「ぐぉおお"!」

 

 闘志のあらん限りを込めた咆哮と共に、キリトの左手が閃く。

 白銀の一閃が鋼の衝突する音を響かせて、不可避であるはずの決まり手は金属音と共に打ち払われた。

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