やる事は単純、とにかく敵の攻撃手段を減らしていく。
確かに、この風の中で何の対策もなしに身を投げ出した場合、一瞬にして無防備になってしまうだろう。しかし、俺だけは違う。
対処法を知っていて、尚且つそれをなせる技量さえあれば、十分に戦える。
「こちとら場数には自信があるからな。これくらい何度も経験してる!」
空中戦メインのALOは勿論、SAOにおいても白龍ゼーファンなど強風を武器にしてくるモンスターは何体も居た。だからこそ、そんな場合の対処法も分かっている。
身体が空中で振り回される中、その流れに抵抗せず、敢えて身を任せれば、案外簡単に体勢は整えられる。後は、武器や身体の重心を逸らしながら、少しずつ風の中を移動し敵へと接近すればいい。
▽片手剣単発技▽
スラント
「そらッ!」
二本目の鎖を断ち切る。
基礎スキルでかつ威力の低いこの技だが、暴風によって常に加速している状態なら、その効果は何倍にもなる。同じ調子で、敵の周囲を超速度で飛び回る。
――行ける!風も段々弱まってきたし、そろそろあの二人も動けるはずだ。
その感覚通り、鉄球の数が減れば風は弱まり、ようやくまともに身動きが取れる程度になる。そんな中、地上のある一点から矢が飛来して、鉄球を狙い撃ち、俺を狙う軌道から外した。
「ナイスサポート!」
こちらも仕上げだ。
空中でクルリと一回転し、身体を一本の杭のように真っ直ぐにして一直線に標的へと迫る。
二本の剣を、煌々とした黄色のライトエフェクトが包み唸りを上げた。
▽二刀流2連撃技▽
ダブルサーキュラー
「はあぁぁああッ!!」
引き絞った剣先を突き出し、狙いの鎖を捉えると、右手に握るエリュシデータを斜め上段から振り降ろす。剣が火花を散らして拮抗したのはほんの一瞬で、黄色の光を帯びた漆黒の刃は容易くバーテックスの強固な鎖を断ち切った。
元々あった鉄球の半分以上が消失し、完全に勢いを失ったバーテックスの周囲から暴風が消える。それによって、推進力を失った身体が重力に従って落ちていく。
敵は無防備、倒すなら今しかない。
「スイッチ!」
叫んだ合図に呼応するように、上空から大型の二刀を振り下ろす赤いシルエットが見えた。
□
暴風に吹かれて、ろくに反撃も出来ないまま樹海の浸食が進む。
焦ったわっしーが飛び出していって、でもそれを助けに行く事も出来ない。盾を持つわたしが皆を守らなければならないのに、現実には動く事すらままならない。
わっしーの反撃が失敗して、空中に投げ出され敵の攻撃を受けてしまいそうになった。でもその時、大橋を一直線に突っ切るようにして緑色の流星が飛んだ。
「うそ~……」
その一閃は、この風の中でも寸分違う事なく鉄球を支える鎖を切り飛ばした。そこから、卓越した身のこなしで荒れ狂う風すらも味方にし、わっしーを回収した後、少し離れた場所に離脱した。
「すっげぇ……」
一瞬の出来事だった。いやむしろ、その一瞬であれ程の事をやってのけた離れ技にミノさんも感嘆の息を付いている。わたしの勇者装束よりも更に黒い、漆黒の裾を
身のこなしもそうだけど、特徴的なのはその剣技だ。
刀身が光り輝いたかと思えば、目にも止まらぬ神速の連続剣が繰り出される。それによって鉄球を支えている鎖をスパスパと断ち切っていた。
「風が、弱まってきた?」
ミノさんが言って、わたしもそれに気付く。
「ああ、今なら行ける!」
これまで台風の只中に居るような暴風に襲われていたというのに、その勢いは既に半分程度まで落ちてきていた。チャンスは一瞬だけどそれでも活路は見出された。ミノさんが弱まった暴風の勢いを利用して空高く跳ぶ。
「……行くぞ!」
上空で上手く体勢を整えたミノさんは、大型の二刀を振りかざした。
「オッりゃあぁぁぁああ゛!!」
芯まで響き渡るような気合いが込められた咆哮。火花を散らし勢いを上げる二刀で咲き乱れるように切り裂く。
絶え間なく繰り出される連撃が、バーテックスの硬い外皮を粉々に切り刻んでいく。頂点から端まで、余すことなくバラバラにして、ミノさんが地面叩き付けられる形で着地した時には、バーテックスは既にほんの僅かな体の一部を残すのみとなっていた。
そして、大橋に無数の光の粒が立ち上り始める。
「鎮火の儀……やったんだ」
この世界の敵を追い出す勝利の儀式、幻想的な風景が大橋を満たしたと同時に樹海は光に満たされた。
■
視界が光に包まれて、目を開くとそこは元通りの現実世界だった。
姿も黒い装束から、変身前のラフな格好に戻っている。場所はあの世界に飛ばされる直前とは打って変わって、潮風の吹く海岸公園。
その芝生に上に立って、俺は驚きをながらも冷静な頭で目の前の光景を吟味していた。
見上げる程に大きな建造物は、俺の世界にも明確に存在していたものだったからだ。
「これ、どう見ても瀬戸大橋……だよな?」
本州と四国の香川県を繋ぐ大型橋。何重にも縄がかけられていたり、札が張られていたりとその様相は異なるが間違いない。
だが、橋の先は本州ではなく、見た事もない植物性の大地になっている。その先には普通の景色が広がっているが、それが"幻の類い"であるのは一目で分かった。
しかし、触れようとは思わない。何故ならその先から、得体の知れない強大な何かを感じたからだ。
「あの~……」
注意深く大橋を眺めていると、金髪の少女が俺に声をかけてきた。振り返ると、そこには共に戦った二人も居て、皆も勇者の装束ではなく私服姿に戻っている。
「えっと、園子さん……だったか?それに二人も……とりあえず、お疲れ様」
話すべき事は沢山あるが、その前に労いの言葉をかけたかった。
一先ずの危機は退けた。
これ以上張り詰める必要もないだろうし、折角生き残った彼女達をあまり緊張させたくなかった。俺は慣れもあるから、基本的にあれくらいの戦闘で疲れる事はない。でも三人は服の上からぱっと見ただけでも分かるくらいにはボロボロだった。
「お姉さんもお疲れ様~。あ、そう言えばまだ名前聞いてませんでしたよね~?」
戦闘中はそんな暇なかったし、これを機に自己紹介くらいは軽く済ませておこう。しかし、ここで忘れてはいけないのは今の俺の身体的な性別だ。
――この体で『和人』は少し違和感あるよな?安直に和子にしてもいいけど、なんかもっと捻りがあった方が自然か。
「俺は桐ヶ谷、かず……かず……」
その場で頭をフル回転させて、最適な名前を考察する。
これはゲームのアバターネームみたいなものだ。この世界の、この身体に合った名前を付ける。ただそれだけでいい。
難しく考えず、これ自体をゲームのアカウント作成だと思えばいい。そうして考えると、自然と頭の中に浮かんだ単語や名前候補が絞り込まれていき、最後に一つ残ったそれを俺は口にした。
「
肝心な名前の由来だが、妹である直葉から名前を一文字借りて、和人と直葉で組み合わせて『和葉』という訳だ。
――うん、やっぱり安直だな。ごめん、スグ……
だが、そんな俺の心情など知るはずもなく、彼女達は首肯した。
「桐ヶ谷さんか~。わたしは、乃木さん家の園子さんだぜ~!そのっちとか、のぎーでいいよ~」
「あたしは三ノ輪銀って言います。銀って呼んでください!」
「鷲尾須美と申します。呼び方はお好きなように……先程は助けてくださり、ありがとうございます」
それぞれの自己紹介も終わって、ようやく話が進む。
最初に質問してきたのは須美だった。
「まず、お聞きしたいのですが……桐ヶ谷さん。あなたは勇者のお役目について、どの程度までご存知なんですか?」
彼女からしてみれば、それは最優先で確認すべき事柄だ。対して俺は、その質問に対する明確な答えを一つしか持っていない。
「それは……さっきも言った通り、何も知らないんだ。お役目とか、勇者の使命とか、そういった事は……」
肩を竦めて見せると、須美は何か考えるように口を噤んだ。そして、次に聞いてきたのは銀だった。
「何も知らないのに、あれだけ凄い戦いが出来たんですか?」
それを言われるとどう答えようか迷うが、本当の事を話すわけにも行かないのでそれらしい言葉を考えた。
「まあ、こういう事には慣れてるからな。腕にも多少の自信はあるし……」
この世界でもソードスキルが使えた事には驚いたが、その辺は深く考えても仕方がない。今の俺にとって重要なのは、この世界でも元の世界とほぼなんら変わりなく体を動かし、戦う事が出来たという事実のみだ。
とは言え、流石に神聖術や魔法の類いは望み薄だろう。
「ねぇ、桐ヶ谷さんって………」
機を待っていたように園子が訊ねようとした内容は、次なる来訪者によってまたもや最後まで伝わる事はなかった。
異様な雰囲気と共に俺達に近付いて来たのは、眼鏡をかけた女性と神官服の数人の大人だった。
どう見ても怪しすぎる集団に警戒心全開で相対するが、彼らが即座に深々と頭を下げた事によって呆気に取られる事となる。けれど、その沈黙も眼鏡の女性の一言によって破られる事になる。
「皆さん、お役目ご苦労様です。そして……お待ちしておりました。星に導かれし英雄、黒の剣士様」
彼女は確かに、俺の事を黒の剣士と呼んだ。
早くかっこいいキリト君が書きたい
でも、本格的に活躍しだすのはもう少し後だから出来るだけ早くそこまで行けるように頑張ります