結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第三十九話:決戦へ

 

 町全体は絶賛のハロウィンムードで、ショッピングモールは色とりどりに飾り付けられ賑わいを見せていた。

 

「ハロウィンか。ちゃんとこう言う行事ごとを祝い始めたのって、SAOに囚われてからだったな」

 

 今ではもう遠い記憶だ。

 SAOに囚われる前。軽い人間不信を覚えていた俺は、同級生とも家族とも距離を取っていた。集団で賑やかす祭りなど無縁だったし、それを楽しいと思った事もなかった。

 勿論、今では信頼できる仲間も増えて、毎年そう言った季節感に沿った行事ごとを行うのがむしろ待ち遠しくすらなっている。

 

 今日、俺は訓練を休み。ある用事の為に安芸に付いて乃木、鷲尾、三ノ輪の三家を回る。『新システム』の通達と、俺の出した答えを今のうちに格家の両親に伝えておく為だ。

 

「はぁ、あの二人にどう顔向けしたものか……」

 

 事が起こるよりも前、早くも俺は憂鬱な気分だった。

 

 

 

 乃木家の応接室。

 そこでは片方に園子の両親、もう片方に安芸と俺が座っていた。

 

「お役目の為だと言うのであれば、仕方がありません。乃木家に産まれた、園子の使命です」

 

 乃木家は遥か昔、初代勇者として戦ったという先祖の活躍によって重要な地位に着いた一家だ。

 その令嬢が勇者になれば、身を尽くして戦う必要がある。――というのが、大赦とこの家に取っての決まり事のようなものだ。その対象が幼い子供ともなれば、もはやそれは名誉を引き換えにした詐欺とも言える。

 名誉が必要か、そうでないか、は本来彼女たち自身で決めるべきものだ。

 

 正直いって吐き気のする様な話だけど、過去三百年の歴史を殆ど知らない俺が自分だけの倫理観でそれを糾弾する事も出来ない。

 

「あの子には、何の責任もないのに……」

 

「その後の魂はずっと、神樹様と共に居られるんだ。とても光栄な事なんだよ」

 

 この二人に、俺は返しきれない程の恩がある。

 寝食を与え、可能な限りの世話と、時には相談も聞いてくれた。例えそれが、俺が神樹様の遣いだったからだとしても人間はそう単純な生き物じゃない。この二人の娘に対する愛情と根の良さは本物だ。園子のような優しく、そして責任感の強い子が育ってきたのが良い証拠だ。

 

「……そんな事にはさせませんよ」

 

 だから、俺はそれまで閉ざしていた口を開く。

 二人の視線が俺の方を向いた。

 

「そのっち達は、必ず俺が守ります。この命に変えても、この家に戻ってくるって約束します」

 

 本人たちが望めば『満開』と『散華』は回避しようのない未来だ。

 それでも、あの子達がこれからも普段通りの生活を送れるように、俺に何が出来るのかずっと考えていた。

 

「安芸さん、あれを……」

 

 俺の言葉で、安芸は頷いてもう一つの資料を取り出して二人に渡した。けれど、数秒後にそれを見た園子の父と母は驚愕した。

 

「こ、これは……!?」

 

「桐ヶ谷さん、あなた……!」

 

 それまで厳格な姿勢を示していた父が驚愕し、母が悲痛な表情を浮かべた。

 

「いざとなったら、の話です。もしそうなったら、これをそのっちに渡してください」

 

 変えるつもりのない強い意思だと確信したのか、二人はそれ以上は何も言わない。

 ただ俺が差し出した一通の『乃木園子へ』と書いた封筒を受け取って、深く頭を下げた。

 

「分かった。必ず、あの子に届けると約束しよう。……すまない、桐ヶ谷君」

 

 ただ一言謝った園子の父に対して、俺は微笑んで頷いた。

 

 

 その後も、鷲尾家と三ノ輪家を安芸と共に訪れ同じ内容を話した。

 両家の親とは面識自体はあったので、話はスムーズに進み、最後には同じようにそれぞれの子へ宛てた封筒を渡した。そして、どの家でも俺には勿体ないくらいの敬意が払われた。

 

 

 

 

 

 

 黄昏の道で、園子と須美と銀は並んで歩く。

 

「横断幕、もらっちゃったね~」

 

 今朝教室に行くと、三人を迎えたのはお役目を頑張る園子たちを応援する横断幕だった。

 

「お父様も、お母様も、学校の友達も……皆、応援してくれている」

 

 辛くても、皆の為なら頑張れる。この身をかけられる。

 例えその先に、少なくない代償を支払う事になっても、多分その後になって後悔する事だけはない。

 

「本当、お役目があるあたし達は幸せ者だよな」

 

 新システムの真実を知ってなお、銀は『幸せ』だと口にした。

 その言葉に二人は首肯する。

 

 夕暮れの道で、笑いあう下校はごくごく当たり前の風景。まるでそれが、一時の世界の気まぐれに攫われたように空気に立つ独特の気配が変化する。危機的な物が訪れる前兆を、須美を始めとして園子と銀も予感した。

 

「……来るのか?」

 

「うん、来る」

 

「何だか、分かるようになって来ちゃったね」

 

 そう言う園子の表情は何処か寂しそうで、これからの運命を憂いているようでもあった。

 スマホがアラームを上げて、真っ赤に染まった画面に【樹海化警報『FORESTIZE WARNING』】の表示が出る。

 

「気を引き締めて」

 

「うん!……あ、これわっしー持ってて!」

 

 疑問符を浮かべた須美に園子は自身の髪を結んでいたリボンを渡した。それを受け取った須美は、いきなりの事に驚きつつも嬉しそうにしていた。

 

「あー!須美と園子だけずるい!あたしのも持ってて!」

 

 声を上げた銀が、慌てて自身の髪飾りを取って須美に渡す。苦笑しつつもそれを受け取ると、園子のリボンと合わせて大切そうにしまった。

 

「いや、張り合うものでもないでしょうに……戦いが終わったらつけて見るわ。似合っていたら褒めてね?」

 

 少女達は厳しい戦いが待つと理解しつつも、きっと明日が何事もなく訪れると信じて戦場に赴く。当たり前に約束をして、そして次の日にはそれを果たす。世界が奇妙な静寂に包まれて、人の世の景色は虹色の波に流されていった。

 

 

 

 

 奇妙幻想の象徴足る樹海。

 もう幾度となく足を踏み入れたが、立ち込める神秘的な雰囲気と肌を刺すような焦燥感は未だに慣れない。

 否、むしろ慣れない方が良いのだろう。

 

 これに慣れるって事は、きっと人間から片足を踏み外すって事だ。神威的な力との親和性が高くなるというのはそういう事だし、俺はまだ人間で居るつもりなので神の一部になるのはごめんこうむりたい。

 

 変身して、大橋までやってくるとそこには既に三人の姿があった。

 

「おっす、三人とも」

 

 降り立つと園子たちからも挨拶が帰ってきた。

 園子、須美、銀はすでに勇者装束に換装済み。だが、その姿は以前までとは異なっていた。園子に関してはこの前に俺と戦った時と同じだが、須美はイメージカラーをスカイブルーとしたアサガオを彷彿させるような極限まで無駄を省くスーツに、武装は弓から一転してどでかいライフルになっていた。

 銀は赤色の色相がより濃くなり、一輪のツツジの花が装飾された装束になっている。両手に持つ斧剣も前よりも少しコンパクトになっていた。

 

「……見違えたな」

 

 思わず、戦場に立つ彼女達の姿を見てそう零す。

 

「最初は連携もガタガタだったもんね~?」

 

 そう、最初は連携も上手くいかず、各々の練度もまだまだ未発達だった。――それが今はどうだ?

 一度武器を握れば一挙手一投足に迷いも隙も見当たらない。お互いを信用し、信頼し、背中を預ける事で連携もより強度なものになっている。園子が指揮官として成長し、須美は冷静さを学び、銀は仲間を信じてその攻めに一層の磨きをかけた。

 

 この場に居る者で、剣士として俺に劣っている者は一人として居ない。全員、対等の実力者だ。

 

「さてと、そろそろお出ましみたいだな」

 

 銀の言葉で敵の気配のする方向へ視線をむけた。

 大橋の下の海から出てきたクラゲのような形をしているものに、カブトガニのような様相をしている個体。更にはその奥から進んでくる一際大きな存在感を放っている巨大な姿、獅子の顔を模ったような見た目のデカブツの三体が強襲してきていた。

 

「三体……。向こうも複数体がキツイ事を学習してきた訳か」

 

 前回、三体同時に攻めてきた時はこちらも絶体絶命の窮地に追いやられた。

 向こうの統率者の考えに悪態を付くも、園子が前に出て声を上げる。

 

「大丈夫、今のわたしならきっとやれるよ!わっしーはバックアップ、わたしとミノさんのキリトさんの三人のフォワードで蹴散らすよー!」

 

 開戦の合図が切って落とされる。

 少女達は戦うしかない。その先に待っているのが、どれだけ残酷な運命であったとしても……

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