結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第四十話:満開と記憶

 

 数の構図は前回と同じ。

 しかし、各々の力はその時とは比較にならない程に上がっている。キリト、園子、銀の三人で前衛を固めて、後方から須美が狙撃する。盤石な体制をバーテックスを迎え撃った事で戦線は優位に傾いていた。

 

▽二刀流8連撃技▽

ナイトメアレイン

 

「シッ!」

 

 キリトが二刀流の高威力な連撃を次々と叩き込み、早くも魚座のバーテックスを撃破出来ると思われた。その時、魚座のバーテックスの腹部から真っ黒なスモッグが放出される。

 

「うお!?」

 

 それは一瞬で大橋を覆ってしまう。

 

「この、視界が!」

 

「何も見えないー!」

 

 それに巻き込まれ四人は完全に敵を見失う。須美は危機を直感し上を向く、スモッグ隙間から上空のバーテックスが見えた。そして、バーテックスの突き出した切っ先が光ったのが見えた。

 

「まずい!」

 

 一筋の雷撃が降り、スモッグに引火する形で連鎖的な大爆発を起こす。

 

「――ッ!エンハンス・アーマメント!」

 

 キリトは青薔薇の剣を樹海の幹に突き刺して、自身の周囲のスモッグを凍らせる。

 園子、須美、銀は新装備に付与された精霊のバリアがあるので防げるが、キリトは一発大きなのを喰らうとその時点でノックアウトだ。他の三人よりもソードスキルと武装完全支配術で火力を出せる分、そのリスクを背負っているといった形だ。

 

 幾ら新装備の力が凄まじいとは言え、バーテックス相手にはやはり一筋縄では勝てない。

 

 このままジリ貧にもつれ込めば、樹海への浸食で現実世界にも被害が出る。

 

『やるしかない』

 

 園子と須美は心中で覚悟を決めた。代償を払い、大きな力を得る覚悟を――

 

「「――満開!!」」

 

 樹海に二人の少女の声が響き、二点を中心として光が収束する。勇者が持つ最後の切り札にして、バーテックスさえも凌駕する力を得ることができる『満開』。その隠された力がベールを脱いで、スモッグを払い樹海に現れる。

 

 園子のそれは、無数の刃を羽のして携えた舟。須美は幾つもの大きな砲門を搭載した戦艦とも呼べる様相、その二つの存在感は圧倒的でバーテックスを目の前にしてなお一切の見劣りを感じさせない。

 樹海から飛び上がったキリトが園子の、銀が須美の武装に乗る。

 

「ごめん、キリトさん。使うしかなかった」

 

「いや、そのっちが決めた事ならとやかく言わない。でも、無理だけはするなよ?」

 

 キリトが園子の背中を軽く叩く。

 

「銀の満開は後に残しておいて。私達がどんな代償を払う事になるのか分からないから……」

 

 『満開』とは切っても切り離せない要素『散華』、使うごとに力の代償として体の機能の一部を失う。

 まるで捧げものにされるような気分だが、それでも結局は使う以外に選択肢はない。そして、初使用な事もありどれほどの代償を要求されるのかも分からないのだ。

 場合によって、この『満開』の後に戦えなくなる可能性もある。それを考慮して、まずは須美と園子だけで使用した。

 

「分かってる。何があっても、後の事はあたしとキリトさんでどうにかするよ」

 

 キリトも銀も二人の覚悟に邪推するような事はしない。

 分かった上で使ったなら、それはもう本人達にとって揺るぎない信念みたいなものだからだ。

 

「大丈夫、二体は削るわ」

 

 牡羊座のバーテックスが放つ雷撃が須美を捉えるも、展開されたバリアによって阻まれて一切のダメージを受けない。

 

「お前たちの攻撃は、もう届かない」

 

 須美が手を前に出すと、一斉砲撃を開始して瞬く間にバーテックスを御霊ごと葬り去る。

 キリトからコアの役割を果たす御霊の話を事前に聞いていた為、バーテックスがその場で消滅した事にも大して驚かない。

 

「こっちも行くよーー!」

 

 園子の舟が地中から飛び出た魚座を千の刃で捉え、めった刺しにする。更に無数の刃が舟から離れて舞い、空中に投げ出されたクラゲ型の巨体を包囲する。パチンと指を鳴らしたのを合図に追撃し、こちらも御霊ごとバーテックスを屠った。

 

「すごい……」

 

 キリトですらもその強さに息を呑む。

 残るボス級と思われるバーテックス一体。しかし、そこで須美の体から急に力が抜けて満開が解除された。

 

「わっしー!あっ……」

 

 園子も同じで、崩れ落ちる体を寸前でキリトに支えられる。二人の巨大な武装は消滅して、園子はキリトに、須美は銀に支えられて一旦合流する。

 

「――足が」

 

 須美は両足の感覚ない事に気付く。

 

「あれ、右目が見えない……?」

 

 園子の右目からは光が消えて、補助具が出現する。須美の方にも、足の代わりの様な器具が出現した。

 

「これが、代償?」

 

 キリトが呟いた言葉に、園子たちも確信する。

 覚悟はしていた。だが、実際に体感するとかなり心に来る。体の一部が機能不全に陥る事の恐怖は、自分達が想像していた以上のものだった。

 

「……っ、待ってくれる訳がない。よな」

 

 しかし、バーテックスがそんな彼女達に休息を与える事はない。

 獅子座の円形が開き、周囲に出現した火の玉が集まって一個の巨大な太陽のような熱弾を作り出す。それが直撃したら自分達はともかく、その後ろにある樹海がただで済まない事は安易に想像できた。

 キリトは一歩前に出て、青薔薇の剣を突き刺すと夜空の剣を両手で構える。

 

 漆黒の刀身が淡い光を帯びて、キインと軋む。

 

「――エンハンス・アーマメント」

 

 夜空の剣の武装完全支配術。

 悪魔の木たるギガスシダーの記憶が部分的に解放されるのと、獅子座の一撃が放たれたのは殆ど同時だった。

 

「ゼアアァァァアアアッッ!!」

 

 闇の奔流と赤の太陽が激突して、数秒拮抗した後に爆ぜる。

 大きな力のぶつかり合いは大爆発を起こして、耳を割るような轟音と共に大橋を中間を中心に消し飛ばした。

 

「大橋が……!」

 

「何て威力」

 

 自分達の目の前にはこれまで戦っていた戦場は既になく、キリトは大きな力の行使によって膝をつく。

 

「ぐっ!流石に、全力の武装完全支配術はかなり堪えるな」

 

 ズキリと痛む頭を抑えながら、漆黒の剣を杖にして立ち上がる。

 体に鞭を打って奮い立たせたのも束の間、またしても目に映った光景に驚愕する。

 

「は、嘘だろ!?」

 

 声上げた銀。

 獅子座のバーテックスはあろうことか、今のと同クラスの一撃を既に装填しつつあったのだ。これにはキリトも顔を青くする。もう一度、剣を握りキリトは叫ぶ。

 

「させるかッ!――リリース・リコレクション!」

 

「私も!――満開!」

 

 同時に告げられた切り札の起句。

 キリトが口にしたのは、嘗てアンダーワールドで騎士にとって最高にして最上の技に位置付けられていた『記憶解放術』だ。未だこの世界での発動は困難ではあるものの、不完全とは言えその威力は武装完全支配術を遥かに凌駕する。

 それに続いて、須美も『満開』を再度発動させる。

 

「私が後方への被害を抑えます!」

 

「了解!」

 

 須美の自身の戦艦を中心に大型のバリアを展開。

 その前に黄金のオーラを纏ったキリトが立つ。掲げられた夜空の剣には周囲から膨大なリソースが集約され、漆黒の刀身が瞬く間に優しい光を帯びいく。

 開いた瞳に宿る英雄の眼光が、巨大な太陽と化した相手の一撃を睨む。

 

「…………ッ!!ハア"ア"ァァァァァアアアア"ア"ッッッ!!」

 

 咆哮し、振り下ろす。

 束ねられた命の力が、煌々燃える炎のように揺らめき、眩い奔流となって放たれる。

 赤と金が激突し、先程以上の衝撃が樹海を揺らす。世界に生きる全ての人の意思すら束ねる夜空の剣の記憶解放は、本来の最大チャージの十分の一程度であるにも関わらず、その一撃を完全に相殺する。

 

「……皆。後は、任せたわ」

 

 その衝撃波から樹海を守り切った須美は、満開を解除させて落ちていく。

 

「うぐっ、ゴハッ!ゴホッ!!」

 

 キリトも無事とは行かなかった。記憶解放を解除したキリトの頭を割るよな痛みが襲い、咳き込む。園子が駆け寄ると、彼が口元を抑えた手は血で赤く染まっていた。

 

「わっしーも、キリトさんも……こんな無茶……!」

 

「だい、じょうぶ。まだ、戦える」

 

 そんな事を言うキリトに、園子が悲痛な表情で叫ぶ。

 

「大丈夫な訳ない!これ以上こんな事したら死んじゃうよ!?」

 

 本人はこうは言ってるが、何処からどう見ても限界だ。

 

 ――ミノさんがわっしーの方に行ってくれたみたいだけど、きっと彼女も……

 

「……わたしが、やるしかない!」

 

「待て、そのっち!?」

 

 キリトが痛む頭で必死に声を張り上げる。

 制止の声も聞かず、園子は止まる事なく獅子座のバーテックスに向かって跳んだ。

 

「満、開!」

 

 桃色の光が彼女を包み、精霊船が樹海に登場する。

 園子は舟を加速させると、そのままバーテックスへと突っ込む。

 

「ここから、出ていけーー!!」

 

 勢いのまま、バーテックスを壁に叩き付けた園子は出現した御霊が壁の外へと逃げていくのを見る。

 それを追いかけようとするもそこで満開が解除されて、地に膝と手を付く。まるで全身が壊死してしまったかのような、途轍もない苦しみが小さな体を襲った。

 玉の汗を流して、涙が滲む。

 

「――カハッ!はぁ、はぁ……心臓が、止まったかと思った」

 

 その時、園子は自身が失ったものに気付いていなかった。

 それ以上に、逃げようとする御霊を追う方が優先順位が高かったからだ。

 

「逃がさないんだから」

 

 園子が御霊を追って、壁の外へ向かう。

 

「ダメだ!そこから先は!!」

 

 ようやく復帰したキリトが制止する声も届かず、園子は世界の外へと出てしまった。




次回――『やくそく』
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