第一話:戦い抜いた少女の物語
■+のわゆ編+■
自分ではない、自分の記憶を持つ感覚って、どんなのか想像できるだろうか。
前世の記憶とか、自分ではない誰かの記憶がある日突然に共有される。みたいなのは、きっと殆どの人間がSF小説の中でしか起こりえない、オカルト的な事象として捉えているだろう。
少なくとも、これを常人が理解するような状況って言うのはそうないはずだ。
しかし、自分という人間はその大多数から逸脱している。
そう自覚したのは、小学生二年生の時だった。
埼玉県所沢市出身の少女、桐ヶ谷和葉は別世界の自分の記憶を持っている。ここではない何処かで生きる自分の記憶を、稀に夢に見るのだ。
彼の名は――――桐ヶ谷和人。
またの名を『キリト』。
その世界の俺は、ある日ゲームの世界に閉じ込められて、死と隣り合わせのデスゲームに参加させられてしまう。
そんな、おとぎ話みたいな夢の話だ。
数々の苦難と絶望、挫けそうになるような物語で、彼の目の前で仲間は幾度なく死んでしまう。最後には、愛する人さえも……
だけど彼は、そんな中でも生き残り悪の魔王を討ち取る。
空想的な英雄譚。
この後も長い旅路の末に、彼は様々な出会いと別れを経験する。
その分だけ多くの人を救う。こっちではただの一小市民でしかない俺からすれば、酷く眩しい話。でも、同じくらいに憧れてしまう在り方だ。
本当の意味で、別世界の話。
精神性が似ているからか、こっちでは女に産まれた俺ですら、彼の活躍を夢に見る度に苦い想いをすると同時に、感動してしまう。
楽園と呼ぶには余りにも苦すぎる世界で、どれだけ辛い目にあっても、彼の両目は真の意味で閉じる事はなく、両の足は決して折れない。
故に、思う。
俺もこんな風に強い剣士だったなら、皆を――――家族を守れたのかなって……
赤い、紅い炎と血の中で俺はうめき声をもらした。
「あっ、あぁ……」
人よりも何倍も巨大で大きな口のついた怪物は、その強靭な顎で人間を貪り食う。
友達も、家族も、目の前で殺された。
果てしない絶望の末に、俺と同じく命辛々生き残った者達の所にもこうして、数多の
抱いたのは、底知れない絶望だ。
死への恐怖、家族や友を失った無力感、全てのマイナスが一挙に負の感情として脳内でかけ合わさった。
そして、その果てに感じたのは――底知れない怒りだった。
「お前らのっ……お前らのせいで!」
こいつらのせいで、沢山の罪のない人が死んだ。
背後に居る生き残りも、俺自身も、このまま死ぬ運命にあると言わんばかりに、大口の化け物はケタケタと嘲笑う。
ふつふつと、負の感情はどす黒いナニカへと変貌する。
「ふざけるな……」
人の命は、思いは、そんな軽い物じゃない。
簡単に壊されていい物じゃない。
それぞれに大切な人が居て、思い出があって、掛け替えのない物なんだ。それを俺は、
それが蹂躙され、笑われるなんて、そんなの……
「そんな事…あっていい訳がないだろ!」
このまま終わるのだけは嫌だ。
勝てないと分かっていても、立ち向かわなくてはならない時だってある。俺にとってのそれが今だ。
――人は勝ち目のない戦いに挑み、勝利した時に英雄となる。
それは遥か彼方の夜空から、一筋の光となってその身に舞い降りた。
立ち向かう意思に呼応した力が黒く色付いて、身を包んでいく。
重い、強くて冷たい力が身体に満ちていくのが分かった。
風に靡く黒い長髪と、白いラインが入った漆黒のコートとズボン。
それらは所々が違うものの、かの世界で『黒の剣士』と呼ばれた男が身に纏っていた物と似ている。
そして藍色に仕立てられたマフラーの神秘が、それらと調和を織りなす。
純粋な剣士としての風貌というより、こちらは正装然とした趣向が際立っているだろう。
――勇者の戦闘着。
神樹様の加護を受けた、適正のある少女だけが身に纏う事が出来るそれこそが、今、桐ヶ谷和葉が着用している物の正体だ。
「これは……」
激しい怒りと冷たい闘志が溶け合い、少女の思いが形となった姿。
最強の剣士の面影を残しながらも、少女のこれまで生きた人生と元来の性格を投影した装い。
その背中には二振りの剣が出現し、和葉はそれを抜き放った。
「……こんな俺に、力を貸してくれるんだな」
右には漆黒、左手には蒼銀の剣。
異界にて『エリュシデータ』『ダークリパルサー』と名付けられたあの二振りに酷似した剣。
「分かった。ありがとう」
目の前の化物に向かって踏み込んだ時、誰かに背中を押されたような気がした。
それを皮切りに、俺のバーテックスとの戦いが幕を開けた。
■
西暦2015年、7月30日――
うだるような暑さの中、
世界の全てをのみ込み、蹂躙した白い大群の名は『バーテックス』。
人類は天敵の出現によって瞬く間に生存圏を追われ、最後には日本の四国が最後の砦となった。
人類最後の希望は、神の力を宿し、唯一バーテックスを殺す事が出来る存在である『勇者』のみ。
俺―――桐ヶ谷和葉は、そんな勇者のうちの一人だ。
東京の避難所にて力に覚醒した俺は、その場の人達を連れて、遥か遠くにある四国へと"三年"という長い月日をかけて逃げ延びる。
東京から四国までの間にあった計三十五箇所の中継地点は、それぞれが神樹の力によって"一時的"に作られた小さな結界であり、俺達避難民の安息の地となっていた。
それは
それらを一か月刻みで経由し、無残な残骸と化した世界を、正に地獄の只中を生きる為だけに歩み続け、少しずつ四国の地を目指した。
旅は困難を極めた。
戦えない人を大勢護衛するだけでも至難であるのに、彼らのメンタルケアも怠る訳には行かなかった。
支え合わなければ、励まし合わなければ、精神なんて一瞬で摺り潰れる。
そんな状況で、三年も旅をした。
そして、旅の終わり――
目的地たる丸亀城が見えた時には思わず、枯れたはずの涙を流した。
記憶の中にある黒の剣士の冒険と比べても、全く見劣りしないものだったと豪語できる。
■
現在はどうなのか、というと……
これまでの激動の日々とは打って変わって、それはもう平穏な日常の中に居た。
「顔合わせ。他の勇者との……」
早くも教室の前で憂鬱になった俺は、ため息をつく。
四国に到着した最後の勇者である俺は、当然この地に居る他の勇者達と共に、四国防衛の為に戦う事になる。
そうなれば必然的に彼女達との共同生活は必須。
しかし、俺は元からそこまで多くの友達を作るタイプではないし、社交性の富んだ人間でもない。
「上手くやれのかな、俺」
ネットで見た
「バックれるか?いや、それは流石に……」
後が怖い。
どうしようかと思案していると、そこに一つの声がかかった。
「……そんな所で何をしているんだ?桐ヶ谷」
「は、はい!」
突然声をかけられて情けない声が口をつき、視線を向ける。
声の主である『乃木若葉』は首を傾げ、傍に居る巫女の『上里ひなた』は苦笑していた。
四国に着いてから知った事だが、勇者には必ずそれを見出す巫女がサポート役として一人付くそうだ。
本来なら巫女の導きに従って、勇者はこの四国の地を目指す。
それが、俺の場合は状況が何もかも特殊過ぎたせいか、巫女なんて居なかった。
四国への道は、常に頭の中に神樹からダイレクトに通達されていたし、他人の導きに頼る必要がなかったのもある。
俺はそんな二人を前に、安堵の息をついた。
「なんだ、乃木に上里か。脅かさないでくれよ」
「脅かすも何も、お前がずっとこんな所で立ち止まっているからだろう。なんだ……まさかお前ほどの人物が、皆と会う前に怖気づいたのか?」
「わ、悪かったな。勇者の癖に怖気づいて……」
そんな事を言う若葉に、俺は口を尖らせる。
俺の知る『黒の剣士』は、さぞ美少女たちに囲まれて、その手のコミュニケーション能力を養っていた様だが、生憎とそんな面白おかしい展開を経験した覚えは、俺にはない。
無理ではないが憂鬱とは、まさにこの事だろう。
「桐ヶ谷さんからすれば、全員が初対面ですからね。前印象もネットの情報だけなら、緊張するのは無理もないです」
軽くフォローを入れてくれるひなたの優しさに、涙が出そうになる。
今の所、五人の勇者の中で面識があるのは、ここに居る若葉とひなただけだ。
この二人には、俺が四国に到着した際、真っ先に避難民の受け入れとバーテックス迎撃の援護をしてくれたという経緯があり、それ以来の仲だ。
恩はある。
だが、それと俺の感情は話が別で、このだだ下がったテンションをどうにかしない限りは前に進めそうもない。
要するに……だ。
「という訳で、顔合わせは明日にでも……」
言おうとした所で、教室の扉が凄い勢いで開かれた。
「あーー!やっぱり!君、今日から来るって聞いてた新しい子だよね?私、高嶋友奈!よろしくー!」
そこから現れたのは、赤い髪に桜の髪留めを付けた天真爛漫な少女だった。彼女は現れるなり早々、俺の手を握ってぶんぶんと上下に振る。
「……見つかってしまった以上、明日は無しだな」
「え、ちょっ、どういう事なんですかこれ!?」
これが、後の大親友である高嶋友奈との初対面だった。
お久しぶりです
新章はなんと『のわゆ編』です!
因みにこれがやりたくてこのシリーズ始めたまであります(n回目)
設定の解説をいれとくと……
今編の主人公である『桐ヶ谷 和葉』はゆゆゆ世界線側のキリトです
補足として、何度かシリーズ内で言及してますがゆゆゆとSAOは平行世界という風に位置付けているので
アスナ達のようにSAOで登場した人物も一応ゆゆゆ世界線の何処かには居ます(登場するかは未定)
キリト本人という扱いで呼んでもらった方が適切に物語を楽しめると思います
勇者装束はSAOラスコレの衣装みたいな感じです
それでは補足説明も一通り済んだので、引き続き『ゆゆゆ×SAO』シリーズをお楽しみください