結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第二話:四国の勇者

 

「改めまして、埼玉から来た桐ヶ谷和葉って言います。年は十四、趣味はゲームです。よろしくお願いします」

 

 丁寧に挨拶する俺に対し、目前に居る面々の反応は様々だった。

 さっき挨拶を済ませた『高嶋友奈』はニコニコと楽しそうにしている。

 

 他は、大人しそうな印象の子が『伊予島杏』で、いかにも活発そうなのが『土居球子』。

 そして、一切の興味ない様子で目線を携帯ゲームに向けているのが『郡千景』。

 

 ふむふむ、なるほど。

 三者三様にも程があるな。

 

「おー、お前が若葉が今日から来るって言ってた桐ヶ谷さんか」

 

「はい。その桐ヶ谷です」

 

「って事は……キリっちだな!」

 

「え、キリっち?」

 

 いきなりあだ名で呼ばれた事に困惑する。

 球子は良くも悪くも人との距離感が近い気質のようで、この中でムードメーカーが居るとすれば彼女だろうか。

 

「もう……たまっち先輩。初対面の人にそういう呼び方はダメだって、いつも言ってるでしょ。すいません、桐ヶ谷さん」

 

 杏はそんな球子の暴走を止めるブレーキ、構図としてはこんな所だろう。

 

「別に構いませんよ。呼び方くらいなんでも……」

 

 人によって様々なのは前提として、別に俺はあだ名呼びが嫌な訳ではない。むしろ、向こうから距離を詰めてくれるなら願ったり叶ったりだ。

 

「それじゃあ私、キリちゃんって呼んでいい?」

 

「どうぞお好きに」

 

 友奈が手を挙げて聞いてきたので、快く了承する。

 何はともあれ、これで全員との初会話が完了……かに思われたが、残念ながら、一切の発言をしていない者が一人だけ居る。

 

 彼女、郡千景は手元のゲームに機に集中していて、俺のことなどまるでまるで興味がない様子。

 だから何だという訳でもないのだが、流石に頑張ってした自己紹介を無視されるのは、あまり心象が良くない。

 

 仕方がない。ここはこちらから声をかけよう。

 

「あの、郡さん?俺……」

 

「言い直さなくても聞こえてるわよ……あなたの事なら知ってるわ。もうかなりの有名人だもの」

 

 聞こえてるなら相槌くらい打ってくれよ、と思ったが、それをぐっと堪えて笑顔を浮かべる。

 

「へぇ、そうなんですね。知らなかったなー」

 

「………緊張感のない人」

 

 そんな俺の精一杯な平和的返答に何を思ったのだろう。あろう事か、言うに事を欠いて『緊張感のない』などと吐き捨て、千景は再び手元に視線を戻した。

 ピキっと、青筋の浮かぶ音がした。

 

「……………おい乃木、上里。ちょっとこっちへ」

 

 そっと手招きすると、若葉とひなたは席から立ってこちらに来る。二人が傍まで来て、俺はクラスを一瞥した後、二人だけに聞こえる声量で言い放った。

 

「あのさ、話が違う。何アイツ超感じ悪いじゃん。おいお前ら、良い奴らなんじゃなかったのか?明らかに一人、仲良くする気ない人がいるんだけど?」

 

「郡さんはいつもああでな」

 

「悪い方ではないので、あまり嫌わないであげてください」

 

 二人は状況の改善を放棄していた。

 それでいいのかと言いたくなるけれど然し、二人がこの様子な時点で察せられる所もある。

 確かに、思春期真っ盛りの少女を相手に正論をぶつけて注意した所で意味があるとも思えない。

 

 オーケー、ステイクール。

 俺は大人だ。

 少なくとも精神的には、ここに居る誰よりも人生経験が豊富な訳で、多少の無礼千万は笑って許してやろう、温情温情。

 

 そうして心の中の怒りの炎を鎮火していると、今度は杏が声をかけてきた。

 

「えっと……桐ヶ谷さんは、避難する人々を守りながら、三年もかけてここまで来たんですよね?戦うのが凄く上手だって聞きました」

 

「あっ、いえ、皆さんに比べればまだまだですよ。こちらこそ、色々と参考にさせてください」

 

 杏は丁寧な子で、この中では一番物腰柔らかで接しやすい。

 友奈と球子も人好しの部類な気はするので、テンションに慣れれば仲良くできるだろう。少なくともどこかの誰かさんとは大違いである。

 

 

 

 

 

 

 顔合わせが終わった後は、若葉達の鍛錬に参加する事になっている。

 勇者である彼女達は柔道から剣道と様々な武術を収めることを義務付けられているのだが、本日は俺の本来の武器種を考慮して剣術の稽古が割り当てられていた。

 

 俺は手に持った木刀を数回振ってみて、懐かしさのような物を感じていた。

 

「訓練用の木刀、か……」

 

 昔はよく振っていたが、最近は随分とご無沙汰だった気がする。

 何せ、この手に握られていたのは文字通りの剣で、それを片刻でも手放す事は死を意味していた。悠長に竹刀や木刀を素振りする余裕なんて、この三年はメッキリなかった。だが、俺に物思いにふける暇はないらしい。

 ここには一人、生粋の武人が居るからだ。

 

「ふむ、底知れない経験を感じるな……桐ヶ谷。少し私と手合わせしてもらってもいいだろうか?」

 

 そう言ったのは若葉で、俺は訝しげに返した。

 

「……別に良いけど、急にどうして?」

 

 気持ちは分からなくもない。だけど、敢えて是非を問うた。

 

「大した理由はないが……東京からの長い道筋を、たった一人で避難民を守り切った剣士の腕を確かめたいと思っただけだ」

 

 真剣な顔付きで言った若葉に、微笑して答えた。

 

「……分かった。そういう事なら、こっちとしても望むところだ」

 

 訓練前の肩慣らしには悪くない。相手が若葉ならこれ以上ない準備運動になるはずだ。

 若葉が勇者のリーダーとしての俺の実力を図るつもりなら、逆にこちらもその実力を見させてもらおう。

 

 

 

 お互いに木刀を持ち、間合いを空け、構えを取る。乃木は基礎的な正眼の構え、俺は半身を引くようにして剣を後方に振りかぶる変則的な構えだ。それを見た若葉は訝しんだが、すぐにその表情を引き締めた。

 剣を持った瞬間、訪れる心地よい緊張感。

 体の全てが剣と一体化して、その全てが技の精度を左右する一個の武器となる。

 

「……っ!」

 

 合図もなく、示し合わせたようにお互いが動く。

 踏み込みの速度は同じ、だが動きの速さは圧倒的にこちらが上だ。手始めに斜め上段から振り降ろした剣を若葉が防ぐと、即座に受け流して流れるように居合の切り返しが飛んでくる。それに反応して逆袈裟から切り上げ、弾いた剣を乃木が引き戻すよりも早く追撃する。

 勇者の力を使っていないとは言え、鍛錬は怠っていない分動きに淀みはない。実際に潜り抜けた修羅場の数もそうだが、何より俺の記憶には異界で幾多もの強敵相手に戦い続け、勝利してきた最強の剣士の経験が詰まっている。

 

「くっ!?」

 

 最初に苦悶の声をもらしたのは若葉だった。

 的確に彼女の予備動作に反応し、時に読みの交えながら攻守を網羅する。先ほど弾いた時に体感したが、若葉の打ち込みの重さは尋常じゃない。上、中、下段どのルートでもまともに受けるとこちらが押し込まれる。ならば、技に移行する前の一瞬の虚を突くのが得策だ。

 いかに熟練した使い手でも、技の前には必ず僅かな『起こり』がある。予備動作とも言い換えられるこれは、若葉クラスの猛者ともなればほんのコンマ数秒ていどしかない。それに上から的確に技を被せて潰すなど、尋常な事ではない。だが、ソードスキルを交えた高速戦闘を日常にしていた俺からすれば、不可能な事じゃない。

 

 現に、若葉は打ち込みが思うように出せずに攻めあぐねている。

 対人戦の経験値もこちらが圧倒的に上だ。向こうも凄まじい技量な事には違いないが、それでもまだ(・・)黒の剣士ほどじゃない。

 

 若葉が押され始めた事で周囲から驚きの声が上がる。

 

「強いとは聞いてたけど……」

 

「凄い……」

 

 この場の誰も、乃木若葉という絶対的使い手から一本を取れた事がない。

 その強さはこの場の全員が理解しており、だからこそ互角以上に渡り合うキリトに注目が集まるのだ。

 

 そんな中、二人は剣を一度強く打ち合わせて鍔迫り合いに入る。

 

「……これが『何者にも囚われない力』。それを宿し、戦い抜いただけはあるな」

 

「そっちこそ、その歳でどんな修練積んだらこんなに固くなるんだ」

 

 押してはいる。依然有利な状況なのには変わりないが、寸での所で決定打が入らない。

 変身前でソードスキルによるアシストが無いとは言え、攻めが緩いつもりはない。それして攻め切れない、余りにも固く盤石な剣技だ。居合道の特徴をこれでもかと発揮した力強い攻めは輪をかけて秀逸だが、守りにおいても俺が今まで見た中では最上位に入る強さである事は間違いない。『動』と『静』の究極的なバランスは、攻めに特化したアインクラッド式二刀剣技をもってしても容易には崩しきれない。

 

「うぐッ!?」

 

 打ち払いから胴への一閃を寸前で受け止めるが、剣を持つ腕に凄まじい衝撃が伝わり、鋭い痺れが走る。

 この凄まじい膂力と技量こそ紛れもない強さの証。長く打ち合えばこちらが不利になる。そう判断した俺は、バックステップから一気に踏み込み、助走を付けて疑似的な〈ソニックリープ〉を放つ。

 

「シッ!」

 

 鋭い気合いと共に振り抜かれた剣は防がれこそしたが、余りの速さに受けきれなかった若葉は数歩後退する。

 これを機として、剣を水平に構えて後方に引き絞った。体全体に溜めを与え、力を極限までチャージした全身を連動させて放つ。

 

「ハア゛ァァァアアアーーーーッ!!」

 

 獣の様な咆哮と共に放った渾身の刺突。

 〈ヴォーパルストライク〉と呼ばれたこの技は、黒の剣士が愛用した必勝の決まり手だ。切り札にも等しい威力を内包し、その練度を継承したこの一撃に対して若葉は一瞬表情を変えた。

 

「っ、セヤァッ!」

 

 紙一重の差で剣を寝かせる。気迫を込めた構えで重単発撃を受け流した。

 正面からは受けず、衝撃を逃がす防御はこの技に対しては最も有効かつ最善の対処法だ。いなされ、技の隙を晒した俺を若葉が待つわけもなく……

 

「ぐげっ!?」

 

 最後は呆気なく、振り降ろし一本で取られてしまった。

 

 

 

 

「初日だってのに……えげつねぇな」

 

 球子は二人の立ち合いとその行く末を見て、表情を引き攣らせた。

 お互いに容赦手加減の一切ない真剣勝負は見ごたえはあったが、同時に友奈が四国に来た時の事を思い出して苦笑する。

 

「まだ休憩時間なのに……」

 

「でも、二人共すごく気合い入ってた。私、最後までどっちが勝つか分からなかったもん!」

 

 武術に覚えのある友奈からしても、今の立ち合いは驚くべきものだった。

 若葉は剣技、柔術、格闘技とどれを取っても最高クラスの実力者なのは周知の事実だが、キリトに関して言えば全くの未知数。更に剣術は若葉の最も得意とする戦闘分野であり、多少かじった程度では容易くあしらわれて終わりだ。

 それが、ほぼ互角レベルにまで渡り合って見せたのだ。

 

「あの乃木さんを相手に……」

 

 これには千景も、心中穏やかではない様子で見つめる。

 

 

 そんな空気はいざ知らず、当人達はお互いの健闘を称えあっていた。

 

「確かに……凄まじい才能だな。技量もそうだが、特に反応速度は私以上だ。これ程の力があれば、避難民を誰一人として死なさず守り切ったというのも頷ける」

 

 相手の攻撃と防御に的確に反応し、追撃と反撃を叩き込む技の冴え。熟練した使い手同士の高速の読み合いにも、手堅く、時には創意工夫を織り交ぜた解答を手繰り寄せる勝利への嗅覚。そして、これらを高水準で維持する卓越した集中力は、若葉からしても目を見張るものがあった。実際、最後の〈ヴォーパルストライク〉も、若葉の反応が追いつくかは紙一重だった。

 

「私が立ち合って来た中でも、間違いなく類稀なる剣技だ。改めて、手合わせ感謝する」

 

「……ああ、こちらこそ。手合わせありがとう」

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