体中ボロボロになっても、感覚が無くなっても、理不尽な現実に抗い続ける。
得物たる鞭を振るい続けて、背後に大切な親友が居る限りこの足を折る訳にはいかない。覚悟などとうの昔に完了している。――戦え、戦え、戦え。
「まだ、みーちゃんとの夢を……」
魂をかけた叫びが、沈む日にこだまする。
「叶えてないんだからァーーーー!!」
埋め尽くすバーテックスが殺到してくる。
目を背けない。屈しない、負けない、体は死んでも心だけは殺させない。
日が沈み切って、暗く染まる景色。そこに、流星が煌めいた。
▽二刀流15連撃技▽
イクスタキオン・ユニベーション
十五の星光、星屑を討つ。
「――届いたよ、歌野。お前の叫び」
目の前に立ったのは漆黒のロングコートを着た二刀剣士。
黒い長髪を靡かせて、その足は一年と半年ぶりに長野の地に立つ。
「え、キリト……?なん、で?」
驚きのあまり、幻聴や幻覚を疑いたくなる。
けれど、静かな闘志を宿す眼光も、剣の鋭さと光も見間違いようもなく同じ。嗚呼、ならばこれは幻想でも仮想でもないんだ。
「そっちの巫女さんが助けてってヘルプミーだったみたいだからな?急いで四国から走って来たんだよ」
――走って来た?
一瞬、こいつは何を言っているのかと疑いたくなった。みーちゃんがキリトと通信したというのは今朝方の筈。その時点で四国を出発したとして、幾ら勇者の身体能力でもバーテックスが埋め尽くす結界外の世界をこんなにも早く踏破できるだろうか?
でも、事実として黒衣の剣士は悠然と目の前に構えている。
冗談めかした様子で、歌野の口調に似せた遊び心も彼女らしい。
「はは、本ッ当に無茶苦茶すぎ……」
思えば出会った時もそうだった。
たった一人で戦い抜く事に関してはこの剣士をおいて右に出る者は居ない。無茶無謀を上等でやり通してしまう様な規格外でなければ、そもそも避難民を四国まで護衛しきるなんて不可能なのだから。
「それを言うなら、昼夜続いた大規模侵攻から諏訪の結界を守り抜いた歌野の方が無茶苦茶だと思うけどな?」
こんな風に軽口を叩き合えるのが堪らなく嬉しい。
「……さてと、まずはこいつらをどうにかしないと」
キリトは未だ健在なバーテックスの大群を睨む。
さっきの十五連撃ですら全体の十分の一すら減らせていない。幾らこの剣士が強くても、状況は依然として絶望的だ。
「キリト!私が時間を稼ぐから、みーちゃんや皆を連れて逃げて!」
それは東京から四国まで避難民を護衛しきった彼女だからこそ出来るお願いだ。
彼女であれば、例えみーちゃんや諏訪の生き残りの人達を抱えてでも四国まで到達できるだろう。ならば、自分のやるべき事は皆を生かすためにここで戦い抜く事だ。
「ダメだよ!うたのん!」
「みーちゃん!?なんで結界の外に……」
走り寄ってきた親友に驚く。
「一人で残るのなんて絶対にダメ!それなら私も残る、一緒に戦う!」
そんな事を言うみーちゃんに私は声を張り上げる。
「それこそダメだよ!私はみーちゃんに生きていて欲しい。少しでもその希望があるなら、私は――!」
言葉が最後まで出る事はなかった。言う前に、グッと頭を誰かが押さえたからだ。そして、わしゃわしゃと撫でられた。
「ちょっとなに、キリト!?いま大事な話を!」
「どーどー、まずは落ち着いて話会うんだ。確かにこのまま諏訪の結界を防衛し切るのは俺が居ても不可能だ。でも、可能性を繋げる事は出来る」
その目を今にも迫りくるバーテックスに向けて、キリトは二刀を構えた。
空気が張り詰める程の緊張感が放たれて、私もみーちゃんも何も言えなくなってしまう。――何かが来る。そう本能が予感した。
■
水都との交信が途絶えてからの俺の行動は早かった。
刻一刻を争う状況な事もあって、すぐさま最低限の書き置きだけを残して四国を出発。最低限の戦闘のみでバーテックスを処理しながらノンストップで長野の方向へと突き進んだ。
避難民を誘導しながら戦い抜いた道筋に比べれば、俺一人での旅路は驚くほどにスムーズだった。道も方向も一切迷う事はなく、約半日をかけて長野の県境だった区域に到着。そこから接敵するバーテックスすらも無視して、諏訪の結界がある場所へと直行。
バーテックスの大群に突っ込んだら、絶体絶命の窮地だった歌野を何とか発見できた。
「まさか、三年ぶりにこれを使うことになるなんてな……」
何も俺は無策でこの地に足を踏み入れたんじゃない。
歌野たちを救える確約と確信の元で、俺は戦場に降り立ったのだ。
「帰ったら乃木にドヤされるだろうけど……まあ、仕方がない」
決意は固まった。
後は実行するだけ。
「さあ、行くぞ」
勇者の力に隠された奥の手。
切り札と目されるそれの発動は時として約三年ぶり。
「――来い!」
躊躇いなく、俺は二刀の名を呼んだ。
「『エリュシデータ・ダークリパルサー』!!」
この身に宿る英雄の力、記憶、その能力に至るまでを体に降ろし投影する。
舞い上がった光が嵐の様に吹き荒れて、植物のように両の手に持つ無名の二刀に巻き付くとその姿を変化させていく。
名は英雄の遺物、鋼鉄の浮遊城の勝利者が手にしていた宝剣。片や魔剣クラスと恐れられた漆黒、片や龍の結晶から作り出された無二の白銀。幾多もの
『何者にも囚われない力』がその真明を明らかにする。
ロングコート英雄が実際に着用していたそれになり、力の収束が終わる。
――切り札『黒の剣士』。
これが桐ヶ谷和葉に与えられた勇者の力と真価だ。
「一瞬で蹴りを付ける!」
切り札は強力無比な力を勇者に付与するが、その代償として長く使えばつかう程に命を削る事になる。
和葉の場合、特異的な力である故に身体的な損傷とはまた違った代償を背負っているのだが、どちらにしても"切り札"を使ったのならなるべく早く決着を付ける必要がある。
黒いシルエットが上空に飛び上がる。
狙うは無数の星屑、そして大群の奥に佇む進化体。
「邪魔だ!」
▽二刀流5連撃技▽
シャインサーキュラー
二刀流の基本技であるダブルサーキュラーの上位派生技で、シビアなコントロールを求められる変わりに高威力の連撃を叩き込める。
五回の剣線で目前の敵を二十体ほど切り捨てると、続けざまに次のスキルを起動する。
▽二刀流2連撃技▽
エンドリボルバー
周囲を取り囲む異形の軍団を広範囲を一閃する回転斬りで切り払う。
道が開けたのを見逃さず、一直線にボス格の元へと疾走した。
立ちはだかる有象無象は全て刻んで、切り札の使用から僅か二十秒で進化体の懐に迫った。まさに神速の剣域が織り成され、それが巨大な矢をつがえる進化体に襲い掛かる。
「落ちろ!」
▽二刀流9連撃技▽
インフェルノ・レイド
真紅のライトエフェクトを纏った連撃がバーテックスを上から下まで刻み、その巨体を地面に叩き付けた。
「これで、終わりだ!」
刀身を水平に、上体を捻り引き絞る。クリムゾンレッドの輝きが死んだ灰色の世界を照らし、耳を割る轟音が響き渡る。
▽片手剣単発技▽
ヴォーパルストライク
引き絞った剣を突き出す。
神業の領域に踏み込んだ渾身の刺突は、致命の一打となってバーテックスを抉る。
現代兵器や銃火器すら物ともしないバーテックスの固い外皮に、勇者の心意の有らん限りが突き刺さる。抵抗を許さず、黒の剣士の突きはバーテックスの巨体を穿った。