結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第七話:作戦会議

 

 場所は上社本宮の広間にキリト、歌野、水都の三人でテーブルを囲んでいた。

 

「神託では、次の大規模攻撃は二日後だって……」

 

「二日後か。もう一刻の猶予もないな」

 

 早急に方針を決定して行動を起こさなければ、次の攻撃も耐え切れるとは限らない。

 

「……ねぇ、キリトさん。方針に付いて話し合う前に、伝えておきたい事があって……」

 

「ん?ああ、いいぞ」

 

 深刻な様子で願い出た水都にそう返答すると、歌野はその内容を知っているのか特に口を挟む様子はなかった。

 

「実は、今日の大規模攻撃の前に神樹様からお告げがあったの、最後の神託だって……『よく三年間諏訪を守り続けた。白鳥歌野と藤森水都が敵を引き付けていたお陰で、四国は敵に対抗する基盤が出来た』って……」

 

「…………は?」

 

 水都の明かした事実に、俺は頭の中で処理が追いつかなかった。

 引き付けた?

 対抗する基盤?

 つまりは、諏訪は最初からバーテックスを引き付け四国が戦力を整える為の時間稼ぎ。その囮役だった?

 それも三年、俺が東京から四国へと渡った年月と同じ時間だ。このタイミングでの大規模攻撃と御柱の限界。こんなのが偶然に起こるとは思えない。その事から導き出される答えは一つだ。

 

「俺の、せいか?」

 

 神樹へと怒りや憤りよりも、自身を襲った衝撃の方が大きかった。

 

「違う!それだけは絶対に!」

 

 声を荒げたのはそれまで成り行きを見守っていた歌野だった。

 視線を向けると、歌野も水都も悲しそうな表情をしていた。こんな二人を見るのは、初めてで瞬間に俺が言った言葉の意味を理解する。

 

「……だとしても、歌野と水都は……三年間も、文字通り命をかけて戦い続けたんだ!それだけじゃない……ここに住む人達だって、どんなに絶望的な状況でも諦めずに前を向いていた。全部、いつかは四国から助けが来るって信じていたからだ!それが、ただの時間稼ぎの囮?明日にもこの諏訪が滅ぶかも知れないのに、助けもせずに使い潰すだと?許される事じゃない」

 

 現在の諏訪の総人口は約400人余り。三年前のバーテックス襲来以降も様々な困難と苦難によって追い詰められ、削られ、それでも前を向いて歩いてきた。その結晶がこの数百人であり、死んだ人も見送った人も、そうなりたかった訳じゃない。一つ一つが精一杯に生きて、いつか来るはずの救いの未来を待っていた。

 それを、多くの人に信仰される守護の神様が裏切るなんて、あまりにも残酷すぎる。

 

「他には……他に、何か神託はなかったのか?」

 

 最後と言いつつこうして防衛出来たからって、のこのこと顔を出したんだ。絶対に今度も何か言っているに決まっている。

 

「『次の大規模攻撃で出来る限り時間稼ぎ、黒の勇者を四国まで退避させろ』とだけ……」

 

「っ……!」

 

 何処までも救いようのない。

 それが人類全体の為だと理解は出来ても、納得なんて出来るわけがない。俺達は人間だ。神々と同じ尺度で世界や人を見ることは不可能だ。只目の前の大切な人を守れれば、幸せな時間さえあればそれで良いのに……。

 どうして、こうも叶わないんだ。

 

「ここで生きた時間は、もう俺にとって大切な一部になっている。見捨てる事なんて出来ない」

 

 どちらにしろ、そんな神託に従うつもりは無い。

 意地でもここに居る人々も、歌野も水都も守り通す。それが出来ないなら、一緒の戦場で死んでやるさ。

 

「分かってる。キリトならそう言うと思ってた。だから、何か考えるのよ。この状況をブレイク出来るオンリーワンな策を……」

 

 策、作戦、逃げ道、四百人程度を連れてこの諏訪から四国まで退避する以外に無い。しかし、勇者である俺と歌野、巫女の水都だけならまだしも戦う力を一切持たない住民を何百人も連れてそれは可能なのか?

 否、不可能だ。

 俺の時だって、百余人を移動させるだけでも神樹の全面的なサポートに三年の月日をかけたのだ。幾ら戦力が二人になった所で、全員を救う選択は現実的じゃない。だからって、誰かを見捨てる事も出来ない。

 

 神樹と交渉できれば話は違うのだが、巫女が受ける神託はいつも神樹からの一方通行でこちらから意思を届ける術はない。

 

「せめて、神樹様の加護で道を作ってくれれば……」

 

 諏訪から四国までの距離は凡そ500(Km)はある。勇者の身体能力を最大限活用して全速力で飛ばしても丸一日、一般人の足ならその五倍はかかると予想される。それも一昼夜寝ずに歩いた場合の話で、実際にはもっと多くの時間と労力が掛かる。

 こんな時にSAOの転移門のようなテレポート的な移動手段があれば全てが解決するのに……

 非現実に願い出たくなるくらいには、状況は絶望的。

 

「……水都、神樹様に祈りを送る事は出来るか?」

 

「出来るけど、それでまともに返事が返ってきた事なんて……」

 

「望み薄でも良い、やってくれ」

 

 人に出来る事は限られている。

 最終的には神樹の力が必ず必要になる。

 

「……分かった」

 

「私もやるよ。まあ、巫女でもない私がやってもあまり意味ないと思うけどね?」

 

 水都が歌野に笑い返した。

 

「そんなことないよ?うたのんのお陰で、私もより一層強く祈る事が出来るから!」

 

 手を合唱の形に組み合わせて、水都と歌野が祈りを始める。

 それに伴って、俺も右の手のひらを握って『切り札』を使う時と同じ感覚で神樹への接続を試みる。

 本来、勇者には巫女のように神託を受け、神に祈る能力は備わっていない。巫女と勇者、似て非なるこの二つにはどちらになろうにも全く違った適正が必要で、だからこそ一人の勇者に一人の巫女というセットで選定される。

 

 しかし、俺だけはこのどれでもない極めて特殊な事例に該当する。

 

 この三年間で実際に神樹の声を聞く巫女の役割と、先陣を切りバーテックスと戦う勇者の役割との二つを一人で担った。ならば、俺にも巫女と同じような事が出来ると考えたのだ。

 もしかしたら四国に居る俺に水都の意識が一瞬届いたように、俺の意識を届けられるかも知れない。どちらにしたって、やってみる価値はある。

 

 ――神樹様。いや、この地の土地神でも何でもいい。

 

 応じなければ、後は精一杯に足掻くだけだ。

 それでも、一筋を望みをかけて祈る。

 

 ――諏訪の勇者に、巫女に、人々に報いる気持ちが少しでもあるなら……お願いします、時間をください。

 

 全てを掬いあげろとは言わない。

 ただ、手を差し伸べて欲しい。

 

 ――三日でも、二日でも、一日でもいい。俺達に生きる術を、人として健やかに生きていくチャンスをください。

 

 それ以外は何も望まない。

 

 ――少しでもいい。歌野を、水都を、この世界に生きる人々を見てあげてください。

 

 思念はここで終わり。

 届いたかどうかも分からないけど、やるべき事はやった。

 

「キリトさん、終わったよ」

 

「そうか。……ふぅ、何だかドッと疲れたな」

 

 二人の祈りも終わり、後は神託が下る時を待つのみ。

 そうでないのなら、後は潔く戦って散ろう。出来る事は精一杯やった、文字通り後は神頼みだ。

 

「それなら、ちょっと遅いけど蕎麦でも食べに行く?」

 

「「行く」」

 

 歌野の提案に俺と水都は一秒の誤差もなく重なる。

 考えてみれば、今日は朝から何も食べていない。ダッシュで諏訪まで来て、バーテックスと戦って、作戦会議をして、気付いたらもう夜だ。自覚した空腹感がお腹を鳴らして、それが照れくさくて頬をかく。

 

「決まりね!」

 




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