結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十一話:生きるため

 

 諏訪を出発してから三度目の夜。

 進行度合いは概ね、大阪と京都の県境に差し掛かろうとしていた。日付も回った深夜、計三度目の休息地点でキリト達は日の出以降のルートの打ち合わせをしている。だがここに来て、地図を囲む三人の話し合いは難航していた。

 

「神樹様の加護があるのは、今日の夕刻まで……ここからじゃ、どれだけ頑張っても明石までしか行けない」

 

 苦し気に水都が言う。

 本来、本州から四国へと至る道は明石海峡大橋、瀬戸大橋、来島海峡大橋の三つが存在した。しかし今現在、瀬戸大橋を除く残り二つのルートは破壊されてしまっている。

 故に四国へ渡るにはどうしても岡山までいく必要がある。ここで問題なのが現在位置からの距離だ。

 今は宇治市を抜け、丁度大阪と京都の県境に突入しようという地点に居るのだが、ここからでは日の出と共に出発したとしてどう頑張っても、タイムリミットである今日の夕刻までに岡山に辿り着く事は不可能。

 住民たちは着実に近付く限界の中でよく頑張ってくれているが、現実にはここから休憩なしで突き進んだとしても大橋付近にある結界の縁に到着するのは、恐らくタイムリミットから二十四時間後……つまり、次の日の夕刻という事になる。

 

 三年間よりはバーテックスの数が減少しているとは言っても、あくまでそれはひっきりなしになだれ込んで来るわけではないというだけの話だ。

 神樹の加護が切れれば、当然会敵する確率は途轍もなく上がる。そうなった時、果たしてこの数百人の民をたったの二人の勇者だけで守り切れるのだろうか?

 

「住民の人達の限界も近い。タイムリミットまでにゴール出来ないなら、残された道は一つだ」

 

 現状を変え得る切り札がないのなら、早めに腹を括った方が良い。

 キリトは立ち上がって、地図を指差す。

 

「まず、今日の夕刻までに確実に明石までは行く。そこで最後の休息を取ろう」

 

「休息って、そんな悠長な事……」

 

 焦る歌野の言葉にキリトは返答する。

 

「神樹の加護が切れれば、バーテックスの襲撃は避けられない。これまでは無かった大群との連戦になる可能性だってある。でも神樹の加護がある内は、こうして腰を据えて休憩する事だって出来るんだ。それなら、無理に進むよりもそれ以降の道を踏破しきる為に体力を回復させた方が良い」

 

 普通この状況なら、安全なうちに距離を稼いだ方が得策なように見えるが、これには一つ大きな落とし穴がある。それはリミットを越えた後の生存だ。魔除けのない中で魔の道を進むのなら、当然それ以降は一刻も早い進行が求められ、それを出来るだけの十分な体力と精神力を要求される。

 安全なうちに少しばかりゴールとの距離を縮めた所で、残りを走り切る余力が残っていなければ待っているのは確実な詰みだ。

 それだけは絶対に避けなければならない。

 

「諏訪の人達だけじゃない。歌野や俺だって、もう限界が近いだろ?」

 

「それは……」

 

 付いてくる人達もそうだが、守る側の体力だって限界が近い。

 タイムリミット後の極限状態を考えるなら、俺達こそこの状況で過度な無理をするべきじゃない。十分な休息を取る事、これは生き延びる上で絶対条件だ。

 

「うたのん、一旦落ち着こ。私も、こればっかりはキリトさんの言う通りだと思う」

 

 歌野の気持ちは水都にも痛いほど分かる。その上で、彼女は親友の背中に手を置いた。

 

「うたのんも、キリトさんも、最初の休憩から殆ど寝てないよね?交代でって言ってたのに、ずっと二人で起きてたの知ってるよ?」

 

 痛い部分を指摘されて、キリトも歌野も押し黙る。

 

「早めに明石に着いたら、その分多めに休憩の時間を取れるんだよね?」

 

 その問いにキリトは頷いた。

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 返答に胸を撫でおろした水都。つまる所、彼女は親友の事が心配なのだ。

 幾ら歌野が強いと言っても、これまでと全く違う環境でずっと警戒し続けるのは並大抵の事じゃない。それは三年の旅を経験したキリトにしても同じことだ。人には明確な限界がある。それを見誤れば大変な事になってしまう。

 その前に、巫女である自分が止めなければならない。

 そう、水都は強く思っていた。

 

 対して歌野は、水都の言葉で改めて自分が焦っていた事に気付く。

 自分が無理をすれば、それで何とかなる。そんな状況はとっくに過ぎているという事実を、受け入れなければならない。

 

「ッ!!」

 

 パチンと音がなる勢いで、両手で頬を叩く。いきなりの事にぎょっとした二人に反して、歌野の表情にはもう雲一つなかった。

 

「ごめん。そして、ありがとう!二人のお陰でマインドにかかっていたクラウドは、オールクリアされたわ!」

 

 そうして方針が固まった頃には、既に暗闇に日の出の光が差し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 神に選ばれた少女が勇み人を助ける『勇者』になる。

 ならば、英雄の力を受け継いだ少女は一体何になるのだろうか?

 

 その力の意味は自分の中だけにあって、誰に与えられる事も無い。

 神に選ばれた訳でもなく、なるべくしてなってしまった英雄の物語の行く末は、未だ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 多くの困難があった。

 四度目の夜を越え、日の出を迎え、神の守護を失った少女達はそれでも戦う。

 

 それでも、その足は罪なき民を守りながら進み続ける。

 

「キリト!後方から更に来るわ!」

 

「二十秒押さえてくれ!その間に道を拓く!」

 

 岡山県倉敷市、瀬戸大橋と神樹結界を目前にした地点は正に地獄のような有様だった。

 まるで待ち伏せて居たかのように道中とは比べ物にならない量のバーテックスが、四国を目指すキリト達へと押し寄せた。歌野とキリトはそんな中でボロボロになりながらも民を守る。

 斬って、斬って、斬って、斬り続ける。

 先陣を切り開き続けるキリトの後ろには、民達も必死でその足を動かす。

 ゴールを目前にして、誰も彼もがなけなしの勇気で体を前に出す。

 

「くそ、あと少しなのにッ!」

 

 最後の数百メートルがどうしても崩せない。

 このままでは、後方を守る歌野が先に力尽きてしまう。

 

「グオォォォオオオオ"!!」

 

▽二刀流10連撃技▽

ボルティッシュ・アサルト

 

 幾度となく上位クラスのソードスキルを打ち込むが、バーテックスの数が多過ぎる。

 捨て身の攻めは身体に生傷を増やしていく。それでも諦めない。膝を付くのは死ぬ時だけだ。

 

「どけぇ!!」

 

▽二刀流2連撃技▽

エンドリボルバー

 

 広範囲のバーテックスを切り裂く。

 そのままくるりと体を空中で一回転、コバルトブルーの輝きをまとった二刀をクロス型に打ち払う。

 

▽二刀流2連撃▽

シグナス・オンスロート

 

 これによって、一瞬バーテックスの包囲に穴が開く。

 それを見た民達が一斉に結界を目指すが、そこに四方八方からバーテックスが押し寄せる。

 

「待て!まだ――」

 

 突破が甘かった事を理解していたキリトはすぐさま進もうとする者達を制止するが、その声も届かず遂にバーテックスの大きな口が迫る。キリトの脳内を焦燥が埋め尽くす。

 

 まずい。

 何か救う方法は?

 ソードスキルを……

 ――間に合わない。

 

 決定的な絶望の赤が突きつけられようとした……その瞬間だった。

 

「セヤァッ!!」

 

 慟哭。

 青い勇者装束を纏った少女の一刀がバーテックスを切り裂いた。




あと2話ほどで諏訪編終わります
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