何体ものバーテックスが、四国の側から切り開かれる。
「すまない桐ヶ谷。遅くなった!」
乃木若葉。
香川を拠点とする勇者達のリーダー的存在であり、その強さはキリトや歌野と同等クラス。この八方塞がりな状況ではこれ以上ないくらいの助っ人だ。彼女が作った隙間に続々と諏訪の人達が逃げ延び、結界の中へと入っていく。
「いや、これ以上ないタイミングだよ!」
美味しい所を持っていかれた感は否めないが、彼女が加われば露程だった光明が燦然と輝く太陽に変わる。
「中に入った者は友奈達が導く!私達はここを死守するぞ!」
どうやら、友奈達も結界の中で動いてくれているようだ。
俺が四国へ来た時のようにドンパチやっていれば何処かのタイミングで助太刀に入ってくれると予想はしていたが、まさかここまで早いとは思わなかった。
活路を開いた事で諏訪民はすぐに過半数が四国結界への避難に成功した。そして、後は歌野が連れていた最後尾の者達だけになった。乱戦でそれぞれが孤立してしまってから幾ばくかの時が経っている。戦闘音はするのでまだ最悪の事態は起きていないが、早く見つけなければいつまでも無事である保証はない。
「乃木!北西の戦闘音がする方向に歌野が居る!」
「分かった。合わせるぞ!キリト!」
言葉から意図を察した若葉が俺に合わせて剣を振る。
両者でカバーし合う事で一匹たりとも仕損じる事なく、瞬く間にある一か所に殺到していたバーテックスを切り払う。敵の包囲網の先には、案の定ボロボロになりながら十数人の民を守る歌野が居た。
「無事か?歌野!」
「キリト!それに……あなたが乃木さんね!ベリーにグレートなタイミングよ!」
奇しくもこの戦場で叶った白鳥歌野と乃木若葉の邂逅に感動を覚えそうだが、今はそれどころじゃないと気を改める。
「白鳥さん、ここまでよく頑張った!後は私達に任せろ!」
「俺も頑張ったんだけど、なッ!」
背後から襲いかかってきた星屑を切り裂く。
若葉は歌野と即席のコンビネーションを組んで、最後の民を結界まで護衛する。――行ける。如何にバーテックスと言えど、神樹の結界の中までは手出しできない。
全員が退避できればこちらの勝利。それがもう目前まで迫っている。
「最後の一人、入ったわ!」
歌野の声で、俺と若葉は結界へと向かう。
バーテックスが逃がすまい迫ってくるが、こんな所で死んでたまるかと俺も乃木も目前の敵を次々と薙ぎ払う。若葉が先に結界まで辿り着き、俺の方は一番離れていた事もあってか結界までは、まだ少し距離があった。
進化体も何度か屠っているのもあって、星屑の数は先程までよりは減っている。
このままなら、無事結界まで辿り着けるだろう。
そう、このままなら。
「っ、今、何か……」
微かに声のようなものが聞こえたのだ。
そんなはずがないのに、思わずその方向に視線を向ける。すると、そこには物陰にすっぽりと収まる形で幼い子供が隠れていた。
「な、嘘だろ!?」
逃げ遅れた?
いや、今はそんな事どっちでもいい。
「キリト?何してる!?」
歌野に若葉が驚きの声を上げるのも無視して、子供の方へと走る。
それほど離れていなかったのが幸いして、すぐに子供の傍に駆けつける事が出来た。
「おい、大丈夫か!」
周囲のバーテックスから守るように立ち塞がって、背中越しに聞くとか細い声が聞こえた。
「あ、足が……動かないの……お姉ちゃん、僕、死んじゃうの?」
怯える子供に確かな声音で返答する。
「死なない。俺が死なせない」
左手の剣を鞘に収めて、子供を片腕で抱え上げる。
手数が減ってしまうのは痛手だが、だからといってこれ以外に方法もない。見捨てるなんて論外だ。
「子供!?どうして……」
「逃げ遅れたのか?」
それを見た若葉と歌野は俺が取った行動の意味をようやく理解する。
二人が驚いている間にも、俺は片腕一本で子供を庇いながら大立ち回りを演じていた。
「だぁ、もう!しつこい!」
群がってくるバーテックスを全て相手にしていてはキリがない。
両手が使える状態なら突破は造作もないが、今は片腕が塞がっている上に抱えている子供を守りながら戦っている。それもあって、今は常に満足に戦えない状態なのだ。このままでは埒が明かない。そう考えた俺は、一種の賭けに出る。
「しっかり掴まってろよ?」
▽片手剣単発技▽
ヴォーパルストライク
引き絞った剣先を真っ直ぐ水平に、そこ一点を貫く刺突を放つ。
クリムゾンレッドの重単発撃が星屑の巨体を諸共せず突き進む。そして、一瞬開けた隙間から子供を若葉に向かって放り投げる。
「乃木、頼んだ!」
「なにっ!?」
驚きをの声を上げながらも、宙を舞った子供を受け止めた若葉は泣き出してしまった子供に右往左往としている。
「ナイスキャッチ!」
子供の無事を確保できた事で、再度二本目の剣を鞘から引き抜く。
▽二刀流2連撃技▽
モーメント・バイト
ぐっと上半身を捻り、両手の剣を後方に引く事で刀身を剣技の光が纏う。
力を解き放つと体全体をシステムアシストの推進力が押し出し、回転しながら突進する。溜めの動作から始動するこの技は、二刀流スキルの中でも最も移動距離の長い技だ。その名は伊達ではなく、瞬く間に結界との距離を詰めた。
「早く!」
歌野が退路を確保し、こちらを誘導する。それに従って、追いかけてくるバーテックスは無視して疾走する。
「届けぇええッ!」
そうして、俺の体は結界へと吸い込まれるように飛び込んだ。
それを見て、歌野と若葉もすぐさま結界の中に逃げ込む。それまでの地獄絵図が嘘のように、静まり返った世界。
視界に広がる瀬戸内海と、その先にある四国の地。人類の最終生存圏に渡る門には、まだ多くの諏訪民がへたり込んでいた。
「……四国。本当に、辿り着いたのか?」
目の前の光景が現実かどうか分からなくて呆然としていると、両サイドから二人の少女が覆いかぶさってきた。
「やったあぁあああーーー!」
「生きてる。うたのんも、キリトさんも、みんな生きてるよぉ……」
感極まった歌野と水都の二人はとめどなく大粒の涙を流し、その安心した声音がようやく俺にこの光景が現実の物だと実感させる。
へとへとになった諏訪の人達は一人ひとり大社の神官や、友奈たち四国の勇者に連れられて瀬戸大橋を渡っていく。極限状態から解かれた体と心は、急速に上がった熱を冷ましていく。
そんな状態で出た言葉、それはきっと誰もが思った事だった。
「疲れたぁ……」
しばらくは休養したい。
諏訪救出編これにて終了です
あと1話挟んでのわゆ本編へと入っていきます