結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十九話:千景の巫女

 

「ごめん、ひなた。ちょっと……」

 

「桐ヶ谷さん?」

 

 本人から聞けない以上、最もその手の事情に詳しい人間に聞くしかない。

 巫女であるひなたは常に大赦と連絡を取っている為、内情やそれ以外の情報にも精通している。ひっそりと話しかけたキリトの真剣な表情から何かを察したのか、ひなたは頷いた。

 

「……分かりました。訓練場の裏手に行きましょう。そこなら、あまり人の目もありませんから」

 

「あぁ、助かる」

 

 こういう時、ひなたの察しの良さは頼りになる。

 彼女の言った通り、訓練場の裏手は丁度よくに建物の陰になっていて配置的にも盗み聞きされる心配もなさそうな場所になっていた。

 

「話し、というのは……もしかしなくても、千景さんの事ですよね?」

 

「っ!その通りだけど、よく分かったな」

 

 俺はまだ何も話していない。……にも拘わらず、ひなたは話の主旨を言い当てて見せた。ここまで察しが良すぎると、もう既に全部知っているんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。

 

「昨日、桐ヶ谷さんと友奈さんは千景さんと一緒に彼女の故郷である高知まで行っていたでしょう?タイミング的に、それが関連していると考えるのは自然ですから」

 

 だとしても、そう簡単に予測がつくものだろうか。俺が彼女の立場だったなら、そこまで思慮が及んだかは分からない。いや、むしろこの場合はひなたの察しの良さ云々というよりも、彼女がそれだけ勇者達に常に気を配っていたという事だ。

 それは、俺や皆に見せている部分よりも遥かに……

 

「ともあれ、それなら話しが早いな。実は昨日……」

 

 俺はひなたに高知で起こった出来事を包み隠さず話した。

 勝手に口外した事を千景が知れば傷付くだろうけど、こればかりは仕方がない。

 

「……以前から、千景さんは他の方と比べても故郷の事をあまり話したがらないので気にはなっていましたが……そんな事があったなんて……」

 

 いつになく真剣な表情で思考を巡らせるひなたに、俺は問いかけた。

 

「この話を聞いて、君はどう思う?正直、俺はチカっちを今はそのままそっとしておくべきか、こっちから何か行動を起こすべきなのか、計りかねてるんだ」

 

 理由も、名分もある。

 千景に高知での事を問い質せば、恐らくは聞き出すこと自体は可能だ。しかし、それでは根本的な解決に至る前に取り返しのつかない傷を彼女に残してしまうかも知れない。

 

「これは、勇者としての役目以前にチカっちの今後の人生を考える上でとても重要な事だと思う。だから、常に勇者のメンタル面に気を配っている君に相談した」

 

 人一人の人生、それも大切な友人の事となればどうしても俺だけでは手に余る。事を急いて仕損じるくらいなら、せめて誰かに客観的な意見を求めたい。

 

「……難しい問題ですね。千景さんの過去に何か私達の知らない秘密があるのは確かだと思いますが、この段階でどうするべきかは私にも判断できません。早期解決の為に動く事は一見正しく確実なように見えて、後々になって良くない事を引き起こす可能性が付いて回ります。世の中、蓋をしておいた方が良い事なんて沢山ありますからね」

 

 そう、千景が今まで誰にも話していないという事は、少なくとも本人にとっては隠したい事なのだと言うのは確かなんだ。

 もし仮に本人の中では解決した過去の場合、逆効果なんて物じゃない。高知での変容ぶりからしてそれが有り得ないのは分かり切っているが……

 

 結局のところ、箱の中身も分からない状態では開けるも、封じるも、分からないの一択なのだ。

 

「村民に直接話を聞くことはできませんか?」

 

「無理だろうな。あの村はかなり閉鎖的な様だったし、外の人間である俺達が訊ねたところで真実を教えてくれるとは思えない」

 

 勇者は世間から救世主的な扱いを受けている。そんな存在に何か後ろ暗い事をしていたなど、村にとっては真っ先に隠すべき事柄だ。艇の良い嘘偽りを口にされるのが関の山だ。

 それでも、大社に調べさせればすぐに事実は露呈するだろうがこれでは『調べた』という事が真っ先に千景に伝わってしまう。

 

「……せめて大赦内に、チカっちに付いてよく知る人とか居れば…………いや、待てよ」

 

 内々に話しが通せて、千景の幼少期からの出来事を知っていて、且つ信用できる人物。

 そんな都合の良い人が居るのかと疑問に思ったが、一人だけ思い当たる筋がある。

 

「居る。一人だけ、それに該当する人が」

 

「本当ですか?」

 

 名前も顔も知らないが、確実に存在する。たった一人の少女。

 

「あぁ、俺も会った事はないけど、可能性があるとしたら"彼女"しか居ない」

 

 そして、その人の事を多分ひなたは知っている。何しろ、それは大社の内部の人物だからだ。

 

「ひなた、チカっちを……彼女を勇者としての見出した巫女に会わせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 大社の管理する施設の中でも、巫女が生活する区画。

 特別な理由が無ければ、大社の関係者でも出入りする事を禁じられている。そこに今、俺と友奈、ひなたは居る。

 本来なら、この場所に勇者が立ち入る事は出来ない。

 しかし、神樹からより大きな加護を受けるひなたの発言力と、勇者の中でも特段異質な存在とされている俺の言葉があれば、意外とどうにでもなるものだ。

 大社の上層部は腐ったみかんのバーゲンセールのような連中ではあるが、それでも馬鹿ではない。

 

 友奈に関しては連れてくるか迷った。しかし、検査入院を終え、戻ってきた彼女もやはり千景の事を気にしていた。

 あの場に居た時点で友奈も既に当事者だと考え、彼女も連れて来たのだ。

 

「私、巫女の人達が生活する場所って始めて来たけど、こんな場所なんだね」

 

 友奈が落ち着きなくキョロキョロとしている。内装は一見すると清潔感のある寮で、丸亀組の勇者が生活する寮舎ともよく似ている。

 

「普段は頼んだっておいそれと入れるような場所じゃないからな。今回だって、俺とひなたが無理言って入れてもらってる訳だし……それに、手伝ってくれたで言えば歌野にも感謝しないと……」

 

 恐らく、水都を通じて知ったのであろう歌野も大社上層部の説得に一役買ってくれたらしい。

 

「そうですね。今度、顔合わせも兼ねて皆でお見舞いにでも行きましょうか」

 

 そうした幾つかの無理を通して、俺達三人はこの場所に居るある人物に会いに来た。

 

 花本美佳(よしか)

 彼女は千景を勇者としての見出した巫女で、今は大社内部に身を置いている。そして、恐らくは大社の人間の中でも勇者や巫女を含め、郡千景について最も知っている人物でもある。

 

 ひなたによって施設内の応接室に通される。

 そこにいたのは、赤い花の髪留めをしたおさげの少女。眼鏡ごしの瞳がこちらの存在を見留めると、立ち上がり頭を下げた。

 

「お待ちしておりました。勇者様に上里さん。私は、郡様の巫女をしておりました花本美佳と申します」

 

 こうして、俺達は花本美佳と対面を果たす事となった。

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