結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第二十五話:キリトへの誕生日プレゼント大作戦! 二

 

 球子を筆頭に、夕方の町へと繰り出した丸亀組の面々は丸亀城から程近いショッピングモールにやってきていた。

 各々別れてプレゼントを選びをする中、若葉は眉間にむむむと唸っていた。

 

「お悩みですか?若葉ちゃん」

 

 ひなたが声をかけると、若葉は視線を棚に固定したまま頷いた。

 

「あぁ、プレゼントを送ること自体は賛成なんだが、生憎と私にはキリトの喜びそうな物が分からない……」

 

「そう難しく考えなくても、若葉ちゃんからの贈り物なら、桐ヶ谷さんなら喜んでくれると思いますよ?」

 

「そうかも知れないが……どうせなら、出来るだけ喜んでくれる物を贈りたいだろう?」

 

 趣味は何かと聞かれれば大真面目に『鍛錬』と即答する若葉だが、同時に生真面目な若葉らしく、折角の誕生日にくらい日頃の感謝も込めてしっかりとした物を贈るべきだと考えている。

 修練時にも勝る真剣そのものな表情であれやこれやと見比べる若葉に、ひなたは嬉しくてついくすりと笑ってしまう。

 

「ふふっ」

 

「……私が迷う様はそんなに滑稽か?」

 

 それを嘲笑だと受け取った若葉はいじけてしまう。

 

「いえ、その逆ですよ。いつも桐ヶ谷さんをいの一番に叱っている若葉ちゃんが、そこまで真剣になっているのが微笑ましくて……」

 

 真意を聞いた若葉は、少し気恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「……確かにキリトは、訓練はたまにサボるし、普段の生活態度だってお世辞にも良いとは言えない奔放な奴だ。まだ出会って数か月なのに、もう何度あいつの問題行動に頭を悩まされたか分からない」

 

 「だが」と、若葉はそこで言葉を切る。

 

「その不真面目さとは裏腹に、あいつは誰よりも仲間の事を大切に思っている。以前にあった諏訪への単独先攻も、学校をサボった上に友奈を病院から連れだした時だって、行動の仕方に問題はあれど全ては仲間の為だった。だからといって、これらが褒められた事じゃないのは事実だが……そんな風に、他や自己の一切を顧みず仲間を一番に思いやれるキリトが、私は眩しい」

 

 勿論、若葉とて仲間達の事は掛け替え仲間であり大切な友人だと思っている。他の皆も、きっと同じだ。しかし思うのだ。若葉は同じ立場に立たされた時、果たしてキリトと同じ様な行動が取れるのだろうか……と。

 その答えは既に出ている。

 

 ――否だ。

 

 若葉は、自身がそんな人間(・・・・・)じゃない事を理解している。それは自身に対する貶しでも、謙遜でもなく、その言葉通りの意味だ。生まれ持った人間性の違いと表現してもいい。キリトの――他人の為に迷いなく自分の命を掛けるその生き様は、悪く言えば"狂気的"とも取れる。

 と、話が脱線してしまったが……要するにそう言った面も含めて、若葉はキリトの事を買っているという事だ。

 

「長くなってしまったな。まあ、要するに私は普段の"呆れ"の数倍、あいつの事を友として好意的に思っているという事だ」

 

「故に先程の『しっかりした物を贈りたい』、ですか?」

 

 ひなたの問いに若葉は首肯した。

 若葉がここまで言うのなら、これ以上は何も言うまい。好きにさせてあげるのが、親友であるひなたに唯一出来る事だ。ひなたとしては、若葉にそこまで思ってもらえているキリトが内心では少し羨ましかったりする。

 

 それから三十分――

 

 熟考の末、若葉は文房具などが置いてあるコーナーで無意識に一つの冊子を手に取っていた。それまではこうして手に取ってもすぐに売り場に戻していたのが、手に持ったままそれを見つめている若葉にひなたはここぞと声を掛けた。

 

「それは、日記帳……ですか?」

 

「ん?あぁ、何となくこれが気になってな」

 

 表紙に『2018-2019 DIARY』と記された黒色の上等そうな日記帳。

 若葉自身も、何故これが目に留まったのか分からなかった。

 

「……なに、流石の私でも分かっているさ。こんな堅い物を誕生日に貰っても、きっと私達くらいの歳の者は満足しないだろう」

 

 まだ中学生の少女とは思えない言葉を口にして日記帳を棚に戻そうとする若葉に、ひなたが待ったをかけた。

 

「でも、それが一番しっくり来たのでしょう?」

 

「だが……」

 

 ひなたの言い分も一理あると若葉は思う。そもそも最初から無難な線で行けば、失敗する心配も無い。しかし、完全に納得のいっていない物を贈る事を果たして祝っていると言えるのだろうか。

 これがもし、百パーセント相手の気持ちだけを尊重した贈り物ならそれもいいかも知れない。だが若葉の場合は、自分でも気付かない内に自身も納得のいく物を贈りたいと考えてしまっていた。この無意識の難題が彼女を長考へと誘っていたのだが、そんな事は当然、ひなたにはお見通しだ。そこに舞い込んだ一筋のチャンス。このQ&A(キューアンドエー)に終止符を打てる可能性のある答えが舞い降りたのをみすみす逃がす訳には行かない。

 

「若葉ちゃん。贈る相手の気持ちはもちろん重要ですが、同じくらい若葉ちゃん自身の気持ちも大切だと私は思いますよ」

 

「私の気持ち……か」

 

 若葉は改めて、なぜ自分が今手に持っている"これ"を選んだのか考えた。

 理由の半分くらいは『何となく』というのが正直なところで、本当に大層な考えがあった訳じゃない。しかし、残ったもう半分の理由は実に無意識下に抱いたもので『これがキリトに必要だと思ったから』だ。

 

 何故そう思ったのか?

 

 聞かれても分からない。ただ、何となくだ。

 しかし、ひなたが言ったようにそこには確かに己の想いがこもっていた。これを贈って、相手は満足してくれるだろうか、笑っている顔がみたい。そう思ってしまっている時点で、若葉の答えはとうの昔から決まっていたのだろう。

 

「そうだな。私は――」

 

 

 

 

 

 

 キリトの誕生日、当日――

 

 七人分に小分けされた、ささやかなショートケーキ。

 温まったキリトの部屋で炬燵を囲み、勇者達は仲間の誕生日を祝っていた。

 

「キリちゃん!お誕生日おめでとう!」

 

「あ、あぁ、サンキューな。友奈。……でも、まさか皆も一緒に祝ってくれるとは思わなかったよ」

 

 目の前に広がる光景はキリトが予想していた少人数で行う誕生日小パーティーではなく、自分を含め六人の勇者と一人の巫女、計七人による予想よりもずっと大層なものとなっていた。

 

「思わなかったよ――じゃねぇ!タマ達はお前の誕生日を昨日いきなり聞かされて、お忙しだったんだからな?」

 

「えぇ!?俺のせい?」

 

 キリトはこの中でもまだ付き合いも浅い事を考え、そんな皆に迷惑をかけないようにと誕生日の事はあえて黙っていた。しかし、これが完全な逆効果だったのである。

 

「キリトさん。私達はもう仲間なんですから、誕生日くらいちゃんと祝わせてください。私もタマっち先輩も、逆に何も言われない方が悲しいですよ?」

 

 杏の言葉にキリトは罰が悪そうに頬をかいた。

 だけど、いざ自分の立場になって考えてみると仲間に誕生日すら祝わせてもらえないのは確かに少し寂しいかも知れない。

 

「……そうだな。ごめん、皆。確かに杏の言う通りだったよ」

 

 不器用が絡まって、その結果仲間との間に一線を引くような真似はしたくない。

 そこで話を切るようにひなたがパンと手を叩いた。

 

「さあ、キリトさんも分かってくれた事ですし湿っぽい話はここまでにしましょう?今日は折角の誕生日なんですから」

 

「うん!私もヒナちゃんにさんせー!」

 

 友奈とひなたが空気を持ち直したお陰もあって、誕生日会は筒がなく進む。

 アッと言う程に豪勢ではなくとも、こうして親しい人達と共に過ごす記念日は嬉しい物だし、何よりも球子の持ってきた最高級讃岐うどんがべらぼうに美味い。キリトの好みは天ぷらうどんだが、主なトッピングなどなくともダシだけでいけてしまう。

 

「なんだこれ……美味い……」

 

「ふっふっふ、キリトもようやくうどんの良さに気付いたようだな?この魔力に一度取り付かれれば、簡単に脱する事は叶わんぞ?」

 

「ぐっ、すぐそこまで、うどん派の魔の手が……」

 

「あなた達……何やってるのよ」

 

 誕生日会になってもうどんを布教する若葉と、三文芝居というにもお粗末な謎の掛け合いを展開するキリトに呆れた目を向ける千景。

 宴もたけなわ。時間も良い頃合いで、最後のイベントである『プレゼント』へと入る。

 

「それでは各々満腹になった所で、お待ちかねの『誕生日プレゼント』とまいりましょうか」

 

 司会にひなたを添えて、各々が持ち寄った物を取り出す。

 それぞれがラッピングに包まれたプレゼントをキリトに渡して、断りを入れてその場で開封した。

 

「え、なにこれ?『無限肩揉み&肩たたき券』?」

 

「あ、それ私の!」

 

 一つ目に小箱から現れたのは、紙に手書きで書かれたお手製の券。予想の斜め上を行くプレゼント内容に疑問符を浮かべたキリトは、元気よく手を挙げた友奈に視線を向けた。

 

「えっと、友奈?何で肩もみと肩たたきなのか理由をお聞きしても?」

 

「私、皆みたいにこれっていうのが選べなくて……それで、この前キリちゃんが最近肩がこるって言ってたのを思い出したんだ!だから、これを使えばなんと!高嶋友奈がいつでも何処でもキリちゃんの肩を解しちゃいます!」

 

 自信満々に胸を張る友奈にキリトは微笑んだ。

 数日前のたわいない世間話でキリトが訓練後に「現実の二刀流は流石に肩がこる」と言った事が恐らく発端だろうが、まさかそこからプレゼントを用意してくるとは思わなかった。

 

「分かった。そういう事なら、ありがたく受け取っておくよ」

 

 さて、続きだ。

 

「この寝袋は、タマっちか?」

 

 寝袋とは言ってもかさばる物ではなく、携帯性に優れたコンパクトなデザインの物だ。そして、出処はもしかしなくても、アウトドアグッズ好きの球子だろうと辺りを付ける。

 

「おう、それはタマのだ。キリトって諏訪の救援の為に四国の外に行ったりしてたし、今後もそう言う旅に出る事がないとも限らないだろ?そう言う時に寝袋があれば、いつでも何処でも快適!硬く冷たい地面とはもうおさらばって訳さ」

 

「あぁ、確かに……野営は結構体力を削られるからな。これは素直にありがたい」

 

 寝袋は何も安眠だけが目的ではなく、気温が低い時には寒さを凌ぐためにも役に立つ。

 実用的でかつ球子らしい選択だ。キリト自身は別段アウトドアに興味がある訳じゃないが、彼女の言った通りまた四国の外に出かける機会があるかもしれないし、その時にこの寝袋は役立つだろう。

 

「次は、マグカップか……んー、これは杏だな?」

 

「正解です」

 

 何となく気配で杏のような気がしたが当たっていたようだ。

 デザインは黒が基調でネコのマークがプリントされたマグカップで、恋愛小説や可愛いもの好きな杏の選びそうな物だった。

 

「マグカップは普段使いも出来ますし、何よりキリトさんはコーヒーもお好きなようでしたので、是非これで嗜んで頂ければと……」

 

「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」

 

 残りのプレゼントは三つで、どれもそこまで大きな物ではなくうち二つは薄い板のような形状をしている。

 何となく、そのどちらでもない小箱のような物から手に取った。

 

「……ヘアゴムに髪留め?」

 

 小箱の中から現れたのは、黒いリボンのついたヘアゴムに黒百合の花の装飾がされた髪留めだった。

 おしゃれなデザインのそれを物珍しげに見つめていると、ひなたが言った。

 

「それは私からです。普段使いが出来て、かつ今の桐ヶ谷さんに合ったものをと思い、その二つにしました。桐ヶ谷さんは千景さんにも負けず劣らずなきれいな髪をしているので、しっかり合う物をとなるとなかなか選び甲斐がありましたよ?」

 

 言われて、キリトは自身の長い黒髪を撫でる。

 黒の剣士の人格が移って来てから、何度か切ろうか考えて、その度にやめた大切な髪。手入れは面倒だし、戦う上でも邪魔になる事がない訳じゃない。それでも、記憶が消える前から大切にしてきた数少ない『桐ヶ谷和葉』の証を切り取ったりなんて出来なかった。

 『キリト』であり『和葉』でもある極めて微妙な人格がこの体に収まっている現状で、本当の意味で少女と呼べるのかも怪しいが、キリトは思い切って髪留めを自身の長い髪に付ける。

 

「……どうかな?」

 

「えぇ、似合っていますよ!ここで一枚」

 

 ひなたは何処からか取り出したカメラで写真を撮った。

 流石に撮られるのは恥ずかしく、照れくさそうに頬をかくと更にもう一枚撮られた。まあ、ひなたが楽しそうなので止めはしないが……

 

 気を取り直して、最後の二つ。そのうち一つのラッピングを取ると、その正体にキリトは息を吐いた。

 

「こ、これは……!」

 

 幻想的な世界観の胸躍るパッケージ。それはキリトが発売を楽しみにしながらも今週から始まった先行発売の抽選をパス出来なかった新作のMMORPGだった。

 

「ち、チカっち!これ、俺が欲しかったやつ、何で!?」

 

 キリトが欲しかったタイトルをピンポイントに贈って来ている事、更にそこそこの倍率だった抽選をパスする必要が合ったことなど踏まえて、もはや贈り主は聞かずとも分かる。

 

「桐ヶ谷さん……このゲーム凄く楽しみにしてたのに、三回分の抽選を全部外したって嘆いてたでしょ?……私も実はダメ元で抽選してて、そしたら運良く当たったから……」

 

「でも、チカっちもこれ楽しみにしてたんじゃ……」

 

「私コンシューマー派だし……当然、後から自分の分も買うけど……先行者特典(スタートダッシュ)はあなたに譲ってあげるわ」

 

「チカっち……いや、千景様!」

 

「ちょっ!?大袈裟よ……」

 

 リアルに泣けそうである。

 MMORPGにおけるリリース開始数週間は大きなアドバンテージであり、それを知らない千景ではない。廃人ゲーマー『Cシャドウ』として誇りを持っている千景が、その先行者の権利をプレゼントしてくれるというのだ。嬉しくない訳がない。

 

 崇め奉る勢いのキリトを何とか千景が制止し、ようやく最後のプレゼント開封に移った。

 

「これで最後か」

 

 順番的にも若葉からのプレゼントだろうか。形状的にゲームソフトとも少し違い、どちらかと言えば本のような感じだ。重さと大きさ的に考えられるのは手帳とかだろうか?

 考えを巡らせながらキリトは開封し、黒い表紙に『DIARY』と書かれた手帳を見て、それが日記帳だと思い至った瞬間に目を見開いた。

 

「皆の贈り物に比べればつまらない物かも知れない。だが、私なりにキリトの事を思って選んだつもりだ。その、受け取ってくれると嬉しい……」

 

 いつになくソワソワしている若葉に、カメラを連射するひなた。恐らく若葉はあの事(切り札の代償)について知らない。なのに、直感でこれを選んだのなら感がいいなんてもんじゃない。

 

「……つまらなくなんて無いよ。本当に、凄く嬉しい」

 

「っ、そうか!それなら、良かった」

 

 ずっと怖かった。

 記憶を繋ぎとめる為に日記を書くという選択肢を取るという事は、最初から失う前提で戦いに臨むという事になる。それはキリトにとって突発的に失うよりも耐えがたく、辛い事だった。

 

 しかし、これから戦いが激化すれば、間違いなく切り札を使わなければならないタイミングは訪れる。

 大切な思い出が消えていく恐怖を背負いながら戦う。それ自体はキリト自身が選んだ道だが、例えそうだとしても一人で抱え込むには残酷すぎる現実。何かに残す事も怖くて出来なかったキリトにとって、この日記帳は仲間からの救いの手のように思えた。

 

「本当に、最高の誕生日だよ……」

 

 既にこの時点で凝ったプレゼントの数々に圧倒される。向こうの世界でもそうだったが、やはり誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいものだ。例えそれが、既に欠片も思い出せない誕生記念日だとしても……

 幼少期の記憶を丸ごと切り札の代償で失っているのに、親の顔も思い出せないキリトは誕生日を祝われる資格は無いと考えていた。しかし、例え憧憬を失ってもここに『桐ヶ谷和葉』として生きている限り、この世に産まれた証は残る。この体で感じた事、命の記憶は魂に刻まれている。その証拠に、今こんなにも心が温かい。

 

 だから、この思い出も精一杯大切にしていこう。例え忘れても、ずっと……




また本編がんばるぞー
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