結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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今年最後の投稿となります


第二十六話:杏の王子様

 

 お互いを信頼し、魂の片割れずつを分かち合う存在。

 それを人は『一心同体』と呼び、正にこの言葉が一番似合う存在はあの二人だと思う。

 

 伊予島杏と土居球子。

 まるで本物の姉妹みたいにずっと一緒にいて、逆にそれぞれが一人でいる所を見る方が少ない。

 

「……タマっちと杏って、いつも一緒に居るけど本当に仲良しなんだな?」

 

 昼休みの食堂で定食を食べながら、俺は二人にそう言った。

 いきなりの発言に隣に座っていた千景が訝しむような視線を投げかけてきたが、これには知らないふりをした。特に意味もなく、単なる世間話の一環であり他意はない。

 

「タマたち、ほとんど姉妹みたいなものだしなっ!」

 

「いいね!そう言うのって何だか一心同体みたいで毎日が楽しそう!」

 

 友奈が微笑むと、球子は杏を両手を広げて抱きしめる。

 それ対して杏も顔がほころび嬉しそうにしているので、見ているこっちがお腹一杯になりそうだ。

 

「訓練でもツーマンセルのコンビネーションはタマっちと杏が一番上手いもんな。これが信頼を越えた絆ってやつか……」

 

「その通り!!というかタマたち、もう一緒に住んでもいいくらいだ」

 

「うーん……でも、もしタマっち先輩と一緒に暮らすなら、いろいろ大変そう」

 

「ふむ、その心は?」

 

 俺がそう聞くと、球子をからかうようにして杏は答えた。

 

「タマっち先輩、部屋の中に自転車とかキャンプ道具とか、よく分からないもの置いてあるんです。一緒の住むなら、まずはそれを片付けてもらわないと」

 

「あ、あれはただの自転車じゃないぞ?ロードバイクだ。錆びないよう、部屋の中に置いとくんだよ。それにキャンプ道具だって、そのうち使うから!」

 

「勇者がキャンプ目的で外泊なんて、大社が許してくれないでしょう……」

 

 千景の言う通り、勇者は遠出一つするにも常に大社に許可を取っておく必要がある。

 日帰りなら大抵は大丈夫だが外泊ともなると、なかなか許可は降りない。現状、球子の望むような山でのキャンプなどは出来ない状態なのだ。

 

「頭が堅いなチカっち?そんなのこっそりやれば……」

 

「キリト!球子を不良の道に引きずり込もうとするな!」

 

 血相変えて若葉が割って入った。

 こっちは冗談半分のつもりだったのだが、俺自身も前科があるのもあって若葉は本気だと思ったらしい。因みに本当に無許可で外泊したら、若葉にこってり絞られた後にひなたに吊るされる。あんなのは俺だってもう御免だ。

 

 と、話が脱線仕掛けた所で球子が本題に戻る。

 

「だいたい、あんずの部屋だって相当だぞ?本棚も机の上も枕元まで本だらけじゃんかよー。しかも……恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、ばっかりだ!部屋に行くたびに増えてるし……」

 

「それがいいんだよー。本に囲まれてると幸せな気分なの」

 

 サラッとお互いの部屋の状況を語る二人に千景が言う。

 

「お互いの部屋について随分と詳しいのね……」

 

「タマとあんずは部屋が隣同士だし、よく部屋に入り浸ってるからな!」

 

 どうやら、寮の部屋構成までも二人の関係が深まる要因の一つだったらしい。

 

「それなら、最近はチカっちと友奈もよく俺の部屋に来るよな」

 

「ほう、そうなのか?」

 

 俺の言葉を聞いた面々が視線を千景に向けた。

 

「そうだよ!私はぐんちゃんとキリちゃんがゲームしてるのを後ろ見てるのが殆どなんだけど、二人とも凄く楽しそうだから見てて飽きないんだー」

 

「高嶋さん、楽しくなんてないわ……あれは、そう。言うなれば互いのプライドをかけた血で血を洗う戦いよ」

 

「お前ら部屋でどんなゲームをしてんだよっ!?」

 

 目からハイライトを消した千景の只ならぬ発言によって場が騒然とする。

 

「いや、普通の対戦ゲームだよ。まあ、両方がとんでもなくムキになってるってだけで……」

 

 ネトゲ派とコンシューマー派、千景と俺は耕す畑こそ違えど同じ廃人ゲーマー。

 ひとたび対戦ゲームをモニターに映し、その前に座り、コントローラーを握れば己は瞬く間に決闘者(デュエリスト)となる。要するに白熱し過ぎた結果、双方ずっと無言で時間の限りやっているせいで傍から見れば「お前ら何してんの?」って感じの絵面になっているのだ。

 

「普段の千景さんとはかなり印象違いますね……」

 

「だろ?チカっちはこう見えて結構負けず嫌いなんだ」

 

「あなたはいい加減に黙りなさい。それに、私達の話はいいのよ……それより、今は伊予島さんと土居さんの話だったでしょ?」

 

 標的にされる前に千景は話を切る。

 

「でしたら、杏さんと球子さんはどうしてそんなに仲がいいんでしょう?」

 

 ひなたがそう言うのも、勇者が招集された時点で杏と球子は既に数年来の親友のように仲が良かった。それもあって、かれこれ三年の付き合いになる若葉達も二人がここまで仲がいい理由は知らない。

 

「そうですね……」

 

 杏は隣に座る球子を一瞥する。

 

「今はそんなでもないんですけど、昔は私、すごく体が弱かったんですよ。入院した事も何度もあって……」

 

 それは、バーテックスがこの世界に現れるよりも前の事だ。

 当時小学三年生だった杏は、その年は輪をかけて体調を崩しやすかったのもあり学校に通う事も殆ど出来ず、出席日数不足で原級留置になってしまった。

 皆が問題なく進級する中、自分一人が同じ学年に取り残される。

 一個下の歳の子達に囲まれたクラスで、杏は異端だった。

 だからといって、虐めを受けたとかそういった訳ではなく、担任も同級生も分け隔てなく接しようとしてくれた。しかし、そこにはいつだって無意識の気遣いがあった。

 どれだけ優しくされようと、杏にとってこの気遣いとは酷く寂しいものだった。表面上は問題なく見せようとしても、同情や憐憫の中で杏は思ったように溶け込むことは出来なかった。いつも当たり障りなく返事をして、何もない時は本の世界にのめり込む。そんな事が続くと、孤独に過ごす時間は増す一方だった。

 

 この寂しさと付随する悲しさは杏の心に少しずつ痛みとなって累積し、いつしか彼女は自身を救い出す救世主を求めるようになった。

 

 そんな時、三年前の大災害。バーテックス侵攻が起きた。

 愛媛県北西部の海と山に囲まれた地域出身の杏は、連日続く地震や突風による津波への警戒から、両親と一緒に内陸への避難を開始していた。バーテックスが空から降ってきたのは、避難先へ移動する時の事だ。突如とした異形の怪物の出現に、その場は阿鼻叫喚の嵐となり、その過程で両親とはぐれてしまった杏は一つの小さな神社に辿り着いた。

 

 この時、杏は初めて『勇者』に覚醒したのだ。

 奉納されていた(おおゆみ)を手にした杏は、本能的にこの武器がバーテックスを倒せる事を理解していた。

 

 しかし、彼女は戦えなかった。

 

 初陣の時と同じように、恐怖に支配された杏は手足一つ動かせなかった。キリト、若葉、友奈の精神性が稀なだけで戦う力を得たからと言ってすぐに戦える人間の方が少ない。

 

「この時、震えて動けない私を助けてくれたのがタマっち先輩だったんです」

 

 人より何倍も大きな化物を切り裂き、颯爽と現れた球子の姿は待ち望んだおとぎ話の王子様みたいで、杏の心がこの出来事が一体どれだけ救われたのかなんて幾ら言葉にしたって足らない。

 

 これは伊予島杏という少女が、土居球子への想いを強めるには十分すぎる出来事だった。

 

「タマっち先輩はすぐ近くの神社で勇者の力に目覚めて、巫女の人に言われて私を助けに来てくれたらしくて――」

 

「うぅ……いい話ですね……」

 

 まだ話の途中だというのに、ひなたはあまりの感動に涙を浮かべていた。

 

「え、ちょ、ひなたさん!?泣くほどの話じゃないですよ!?」

 

「いや、確かに俺も少しウルっと来たよ。そうか、球子は杏にとっての正に王子様だった訳だな?」

 

 語る杏の愛おしそうな表情を見れば分かる。彼女にとって、球子との出会いとはそれだけ重要な出来事だったのだ。それこそ、その先の人生を丸ごと変革し得るほどに……

 運命の出会い、と言ってもいい。記憶の中とは言え、その感覚(・・・・)を知っている俺は杏の気持ちが痛いくらいに分かった。

 

「はい。私にはない強さと凛々しさを持ち合わせた人で……学年だとかクラスだとか、そういうものに左右されない絆を与えてくれる人です」

 

 杏は球子の話をする時、どんな時よりも優しい表情をする。元来から淑やかで柔らかな印象が、更にフワフワと包み込むような感触になり、それは彼女が球子を誇りに思い、慕い、誰よりも大切に思っている証拠だ。

 

「と、杏はこんな風に思っているみたいだけど……ずっと知らんふりをしているタマっちはどう思っているんだ?」

 

 ぎくりと肩を震わせた球子は、その問いにわーと声を上げた。




2023年も終わりという事でここでお礼を言っておきます
今年の3月15日から開始した『結城友奈は勇者である-黒の章-』も現時点で丁度70話を迎え
当時の僕からしたら考えられない程に多くの人に読んでいただいています

来年はゆゆゆ10周年も控えているという事で、本格的に今作は来年中の完結を見据えて走っていく所存です

まだ長い旅になるでしょうが、どうか応援してくれると励みになります!
それでは『よいお年を』
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