結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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新年一発目!
今年も頑張っていきましょう!


第二十七話:球子のお姫様

 

「あー!恥ずかしいから聞こえないフリしてたのに!すぐ真横で褒め殺したり王子様とか言われたり、どんな拷問だーっ!」

 

 暴れ出してしまった球子を俺と若葉で羽交い締めにして止める。

 

「落ち着くんだ!」

 

「こういう時は一旦深呼吸だ、タマっち!」

 

 二人に押さえつけられてようやく静まる球子。

 

「それで、どう思ってるのかな?」

 

 その内容にすっかり興味津々になった友奈が尋ねる。

 

「友奈、お前もか!?」

 

 言いつつ満更でもなさそうなのはその場の誰から見ても明らかで、つまりただの照れ隠しなのだ。球子は俺と若葉を振り払って、杏を抱きしめる。

 

「あんずはこーんなにかわいいんだ!タマが守ってやらなきゃって思うだろ?」

 

 そう、日常なんてこんな物で良い。

 バーテックスとの戦いが無ければ勇者達も普通の中学生だ。何の変哲もない、語るまでもない日々がそこにあるだけ……世間の人々が思うような神聖な存在なんかじゃないし、痛みも、喜びも同等に感じる子供がただ"力"を持っただけなのだ。

 

 しかし、それでも"力"を持ってしまった以上は戦わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、四国は再び樹海の光に包まれる。

 端末のマップに表示されたバーテックスの数はざっと二百体弱といった所で、前回よりもかなり多い。丸亀の城郭から装備を整えた勇者達が侵攻してくるバーテックスを眺める。

 

「ん?あいつは……」

 

 その中に奇妙な物体をキリトは見つけた。

 人の胴からしただけを残したような造形をしたそいつは、他のバーテックスとは比べ物にならない速度で樹海を疾走し、神樹へと一直線に突進してきていた。樹海の植物性の組織や建物の名残なども軽々と飛び越えて走る様は何とも身軽である。しかし、何というのだろうか……

 

「え、キモ!?」

 

「変態さんだーっ!?」

 

 言葉に形容出来ないくねくねとした独特の動き方は、何とも形容しがたい気持ち悪さがある。

 余りのキモさに、あの友奈ですら顔を引き攣らせている始末だ。

 

「あれは、食えんな」

 

「乃木さん、また上里さんに怒られるわよ……」

 

 真っ当なものからズレたものまで、三者三様な反応を見せる勇者たち。そんな中で球子が意味深な笑みを浮かべ、くつくつと微笑をこぼしていた。

 

「どうしたの?タマっち先輩」

 

 杏が聞くと、

 

「今日は秘密兵器を持って来たのだ。タマだけに、うどんタマだぁああ!」

 

 取り出されたのは『最高級!打ち立て!』と書かれた袋入りのうどん玉。

 

「え……何でうどん玉?」

 

 キリトは本気で意味が分からず眉をひそめた。

 

「大社の人が言うには、バーテックスには知性があるんだろ?そしてあの、人の下半身みたいな……奴は人間に近いのかもしれないっ!」

 

「そっか!だったら、うどんに反応して隙が出来るかも!」

 

「その通りだ。友奈!この最高級讃岐うどんを前にして、人なら冷静でいられるはずがない!文字通りくらえぇぇえええ!!」

 

 袋ごとぶん投げられたうどん玉は、狙い違わずバーテックスの進行方向の正面に着地した。

 

「幾ら何でも……」

 

 期待の眼差しを向ける球子と友奈に、他の面々も興味ありげな視線を向けている。

 しかし、二足歩行のバーテックスはうどんには目もくれず通り過ぎて行った。キリトを除く勇者たちの間に衝撃が走る。

 

「うどんに……何の反応も示さない、だと……?」

 

 目を見開いて騒然とする若葉の肩に手を置く。

 

「その、何だ?どんまい若葉。後であのうどん回収して皆で食おうな」

 

 こちらがそんな茶番を打っている間にも、二足歩行のバーテックスは凄まじい速度で神樹へと向かって疾走している。

 

「ヤバい!悲しむ前にあいつを止めるぞ!」

 

 後ろにはバーテックスの大群、前方には二足歩行の進化体。すっかり緊張感が解けてしまっていたが、状況はあまり良いとは言えない。

 前衛の若葉、友奈、千景が押し寄せる大群の方へ、二足歩行のバーテックスにはうどん玉の件で逆上した球子が突貫していった。それに付随して杏が援護に回る。

 

「うどんの仇ィ!」

 

「援護するよ!」

 

 球子の放った旋刃盤や杏の狙撃を二足歩行のバーテックスは軽々と躱すと、遠距離攻撃手段を持つ杏へと狙いを定める。

 二足歩行から繰り出される鋭い飛び蹴りが一直線に杏へと牙をむく。

 

「あんずに触れるなっ!」

 

 そこへ間一髪で球子が割って入り、旋刃盤を楯として防ぐことに成功する。しかし、それだけでは飛び蹴りの威力を殺しきれず二人一緒に吹っ飛ぶ。樹海の幹に叩き付けられた二人、その中でも攻撃を直に受けた球子は肩を脱臼してしまっていた。

 

「タマっち先輩、肩が!なんで……」

 

 「こんな無茶を」と言おうとして、それは肩を押さえて顔をしかめる球子が遮った。

 

「いいんだよ。タマが自分で守りたいから、しただけだ……」

 

 球子は幼い頃からガサツな子だと言われてきた。

 活発で、喧嘩っ早くて、男の子にだって負けたことがないくらい。

 

 毎日外で喧嘩や危ない遊びをして帰ってきては、両親に心配されてきた。母は困った様に自分に言うのだ。『何でもっとこの子は女の子らしくしないの……』と。正直、球子にはその言葉の意味がよく分からなかった。言わんとする事は理解できる。恐らく、球子がもっと女の子らしければ母はこんな顔をしないのだろう。

 

 しかし、球子は球子だ。

 元来の気質を変えることは難しい。結局は根っから土居球子という少女は、根っから『土居球子』としての自分を否定できない。だからこそ、勇者の力に目覚めた時、自分にピッタリだと思った。

 

 武器を持ち、己の意思と力で化物と戦う勇者。

 いいじゃないか。そういう生き方が許されるなら願ってもない事だ。

 

 球子は臆する事なく戦った。

 バーテックスを殺した。

 

 そして、その目覚めから時を経たずして神社で襲われている彼女(・・)と出会った。この少女が伊予島杏だった。杏は自分と同じように力に目覚めた勇者で、その手には武器が握られていた。しかし、手足や全身は敵を前にして震え、怯えた表情でただ縮こまっていた。

 体だって小柄な球子と比較しても細くて、繊細で、こんな少女が戦えるのかと不安に思った。

 

 バーテックスとの戦闘で傷ついた球子を労り、絆創膏を懐から当たり前のように取り出した事も、柔らかな話し方も、言葉遣いも……

 球子は『女の子らしい』とはこの事を言うのだろうな。と得心した。

 

 自分とは違う。他人を思いやる事の出来る優しい少女。

 戦うのなんて全く向いていない。ならば、この子を守らなければと強く思った。

 

「無理、しないで……」

 

 目の前で杏は泣いていた。

 

「大丈夫だっての。あんな変態二足歩行なんかに、タマが負ける訳ないだろ?」

 

 痛みに耐えて強気に言う。

 球子がバーテックスの姿を探すと、その巨体はすぐ近くまで迫っていた。二足歩行のバーテックスは二人に復帰の暇を与えない。追撃の蹴りを放とうと勢いを付ける。

 

「ちくしょう!」

 

 吐き捨てて、球子が杏の前に出て楯を構えた。

 しかし、バーテックスが自慢の足を繰り出す事はなかった。

 

▽二刀流2連撃技▽

ダブルサーキュラー

 

 貫通力の高い二段突きがバーテックスの巨体を捉え、攻撃を阻止した。

 

「ナイスガッツ!タマっち!」

 

 前衛から漏れた敵を一掃してから、球子達の援護に来たキリト。

 不意打ちとは言え渾身のソードスキルによってバーテックスの巨体の一部に損傷が生じる。

 

「コイツは俺が何とかする!二人は下がっていてくれ!」

 

 言い放って、キリトは二足歩行のバーテックスに喰らいつく。しかし、幾ら勇者の中で最も素早いキリトと言えど今回の進化体を捉えるのは簡単な事じゃない。

 初撃は不意打ちだったから当てる事が出来たが、そこからはキリトでも食い止めるのがやっとと言った様子だった。

 

「大した事ない!タマはまだ戦える!」

 

 球子の言葉にキリトは一言「分かった」とだけ言って頷く。

 キリトとバーテックスの攻防はお互いにヒットアンドアウェイの膠着状態。ソードスキルを交えたキリトの神速の剣技を持ってしても尚、バーテックスには掠り傷を与えるのみで、決定打には至らない。対してキリトの方も、持ち前の身のこなしと反応速度でバーテックスの攻撃を全て回避していた。

 そんな中、二足歩行のバーテックスがそれまでとは違う動きを見せる。

 

「何をして?」

 

 バーテックスの行動に眉をひそめたキリト。そんな中で杏はバーテックスの行動の意図に逸早く気付く。

 

「あの進化体、神樹様の方に向かってる!」

 

「何だって!?ちっ、させるか!」

 

 キリトはすぐさまバーテックスを追いかける。

 だが、一度距離を離された事で中々剣の間合いまで接近する事が出来ない。

 

「だったら、タマの出番だな。あんずはここで待ってろ」

 

「え……」

 

「あんな奴、すぐに倒してきてやるから!」

 

 そう言うと、球子は杏を置いてバーテックスを追いかける。

 激しい動きをする度に肩に鈍痛が走るが、動けない程じゃない。

 

「キリト、あいつはタマが倒す!」

 

 球子はキリトに言うと、旋刃盤を放つタイミングを見計らう。

 幾ら素早く手数を増やそうとしても、闇雲に攻撃した所で全て避けられる。

 

「タマっち先輩、旋刃盤を力一杯投げて!」

 

 そこに置いてきたはずの杏の声がかかった。

 見れば球子のすぐ後ろに杏がついてきていたのだ。

 

「大丈夫、タマっち先輩の武器。当たるから!」

 

 まるで元来の杏からは想像も出来ないくらい確信めいた力強い言葉に、球子は何も言わず杏に従い旋刃盤を放った。それに合わせて、杏が光矢をバーテックスに向けて射る。

 この二人の攻撃もバーテックスは難無く躱したが、杏が狙ったのはバーテックス本体ではなかった。

 

 その矢が外れた先に捉えたのは、球子の操る旋刃盤のワイヤー。その数ミリ程度の細い糸を、杏は熟練のスナイパーかのような正確さで狙ったのだ。

 

 ワイヤーに矢が当たった事で旋刃盤の軌道は変わり、再びバーテックスへと向かって行く。

 

「旋刃盤を楯状にッ!」

 

「分かった!」

 

 楯状に変化した事で攻撃面積の増した旋刃盤が遂にバーテックスに命中した。決定打とは行かないが、それでもバーテックスの動きを止めるには十分なダメージでその一瞬の隙をずっと求めていた。

 

「あんず、でかした!」

 

「うん……私も、守られるだけじゃないから!」

 

 動きを止めた時点で、すでに勝敗は決していた。体勢を立て直そうとするバーテックスに今度は光の剣戟が襲う。

 

「逃がすか!」

 

▽二刀流8連撃技▽

ナイトメアレイン

 

 赤黒い八つの閃光が、バーテックスを樹海に釘付けにする。

 

「よし、一気に決めるぞ!」

 

「うん!」

 

 そこに球子と杏の連撃が炸裂し、二足歩行の進化体バーテックスは塵と消えた。

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