結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第二十九話:守る決意

 

 空調の効いた暖かな店内は、お昼時を多少過ぎている事もあり客はそれなりといった所だった。

 そんな香川でも有名な骨付き鳥の名店『一亀』に、俺、キリトと球子は足を運んでいた。と言うのも……訓練場で隠れて杏との会話をこっそり聞いていた球子を、俺が見つけ、その後こっちから飯を食いに行こうと誘ったのが事の発端だった。

 

「何度か来てるけど、ここの骨付き鳥は本当に美味いな!どっしり深みのある『おや』も、マイルドで食べやすい『ひな』もどっちも行ける」

 

 何て舌鼓を打つ俺に、球子も満足気に胸を張った。

 

「当然だ!ここの骨付き鳥は香川でも一、二を争う旨さだからな!キリトも一口一口感謝を込めて食べタマえよ」

 

「いや、お前が作ってる訳じゃないだろ?」

 

 途轍もないデジャヴを感じる掛け合いだが、それはともかくとして球子の機嫌が持ち直したようで良かった。

 食事が好きな球子には、やはりこう言った誘いの方が良いらしい。

 

「……それで、病院で絶体安静なんじゃなかったのか?また杏に怒られるぞ」

 

 お互いに食もイイ感じに進んできた所で、本題を切り出す。

 

「う……そう、なんだけどさ。キリトなら分かるだろ!?一日中ベッドでじっとしてるなんて退屈過ぎて、タマは耐えられん!」

 

「まあ、気持ちは分からなくもないけど……それなら、杏にでも頼んで外に連れ出してもらえば良いだろ?あの子、何だかんだタマっちには甘いし頼めば聞いてくれると思うよ」

 

「そんな事、タマだって分かってる。あんずは優しいから、多分タマが言えば大体の事は聞いてくれるんだ。でも、今はダメだ」

 

「それはまた、どうして?」

 

 その心はと問えば、帰ってきたのは俺にとっても無関係とは言えない回答だった。

 

「あんずは今、こう『頑張ってる』だろ?タマはあんずに辛い思いをして欲しくないけど、同じくらいアイツの気持ちを尊重したい。あんな風にタマ達の為に必死になってるのに、邪魔なんて出来ねぇよ」

 

 「ほう」と俺は心の中で感嘆の息を吐いた。

 恐らく今の発言は先の訓練場での一件を聞いていたの原因だろうけど、それを置いても球子がそんな風に考えているとは思わなかった。彼女はいい意味で破天荒で、デリカシーなんてのがあるタイプじゃない。気を遣うよりも先に行動、それが土居球子という少女の人間性であり魅力だ。そんな球子が、訓練を頑張る杏に気を遣って距離を放しているのが意外で、それでいて嬉しかった。

 

「……何だよぉ、その目は?タマがこんな風に言ってるのはそんなにおかしいか?」

 

 いけない、顔に出ていたらしい。

 

「ごめん、そういう訳じゃないんだ。ただ、タマっちがそういう風に考えてくれているのが知れて、嬉しいって言うか……」

 

「ちぇ、うまいこと言うよなぁ」

 

 ぼやきながらも、球子は再び骨付き鳥を食べ始めた。

 それにすても、初陣の時は空回っていた球子が今や杏の事を気に掛けるだけでなく、選択肢を託せるまでに成長した。これは案外、勇者達が一つに纏まるのは早いかもしれない。

 

 昼食を食べ終わって、手持ち無沙汰になった俺と球子は適当に街を歩いていた。

 適当に喋りながら、こうして誰かと街を歩くのなんていつぶりだろうか。千景と遊ぶ時は大抵、部屋でゲームだし、出かけたとしても行き先はゲームセンターで街を歩く事なんて殆どない。

 

「タマっちは、杏とこうして町に出掛ける事ってあったりするのか?」

 

「うーん、まちまちって所だな。何か欲しい物がある時は出てくるけど、それ以外の時はどっちかの部屋で過ごす事の方が多い気がする。タマ一人の時はよくサイクリングとかしてるけどな!」

 

 アウトドアな球子はどちらかと言うと、俺や千景とは少し違った過ごし方をしているみたいだった。

 

「キリトはどうなんだよ?最近は千景や友奈と仲が良いみたいだし、やっぱり部屋で二人と遊んでるのか?」

 

「まあ、この所はそんな感じかな。と言っても、千景は基本的に一人を好むから、暇な時はこうやって適当にブラブラしてる事も多いよ?」

 

 特に殊勝な理由がある訳でもないが、強いて言うなら勇者として守るべき物を再認識する為って意味合いが大きい。戦い続けるうち、ふとした瞬間にその意義を見失いそうになるのは、どんな戦士にでも起こり得る事だ。そうなった時、こうして自分が守った物と向き合う事で見えてくる事だってある。

 

 そして、こうやって適当に歩いていると決まってあの場所に辿り着く。

 

 塩の香りがかおり始めて、小波(さざなみ)の音が聞こえる。

 

「大橋か。もうこんな所まで来てたんだな……」

 

 瀬戸内海沿岸の独特の風を受けながら、大橋の傍にある公園の芝生に寝そべる。隣を示唆すると、球子もそこに寝転がった。

 

「んー、やっぱり晴れてると気持ちいいな」

 

「あぁ、このまま眠れそうだぞぉ……」

 

 球子もすっかり表情を緩めている。

 

「不思議だよな。こうして寝転がって見上げる空はこんなにも綺麗なのに、三年前のあの日にあんな事になって……でも、今も人々は力強く生きている」

 

 目と鼻の先なあの壁の向こうには、今もなお死の世界が広がっている。

 三年前の時をそこで過ごしたからこそ、この平和の尊さを痛感する。今でも俺と一緒に避難してきた東京の人達は、数少ない外の世界の経験者として様々な方面で頑張っている。

 

「……ああして、道を歩いている親子も、何気なく仕事に向かう人も、全部タマ達が守ったものなんだよな……」

 

 球子は町で見た景色を思い出す。

 腰を据えて落ち着いて見れば、意外な所に大切な物はある。どうやら、球子もそれを見出せたようだ。

 

「そうだよ。町でも沢山声を掛けられただろ?皆、タマっち達に感謝してる。重いかも知れないけど、それだけに蔑ろに出来ない。傍にある物だけじゃなく、あんなにも多くの人達の平穏が俺達の背中に乗ってるんだからさ」

 

 この重さに押しつぶされそうになる事もある。しかし、勇者にとってはなくてはならないアイデンティティでもあるのだ。

 これを自覚できたからこそ、俺は三年もの地獄の旅路を生き抜けたのだから。

 

「そうだよな……よっし!」

 

 球子は一息に立ち上がると、柵の方まで走って瀬戸内海のその向こうの神樹の結界にまで届きそうな声で叫んだ。

 

「壊せるもんなら壊してみろ!タマ達が全部!守ってやるからなぁぁぁああっ!!」

 

 その叫びはきっと、バーテックスと、勇者の皆と、この世界の人々全てに向けた宣言だ。

 球子らしい、力強く頼もしい証明。この子はきっと、どんな事が有ろうとその命をとして大切な物を守り続けるのだろう。その言葉で俺自身の決意もより強まる。この記憶と意思、受け継いだ『強さ』にかけて俺も彼女達を守り抜こう。

 

 例え、それによって自身の一部を失う事になっても、きっとそれが俺に出来る唯一の事だから。




ここで一旦、球子&杏編は区切りとさせて頂きます
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