結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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お久しぶりです
投稿再開です
あとがきに色々書いてます


第三十三話:丸亀城の決戦

 

「まもなく、総攻撃が起こります。四国に侵攻してくるバーテックスの数は前回よりも遥かに多い……」

 

 緊急での勇者の招集。そして、大社からひなたが帰ってきたひなたから告げられたのは、そんな内容だった。

 

 この言葉に、その場に居た誰もが戦慄する。

 当然だ。前回ですら困窮を極めた程の激戦だったのに、次回はそれを遥かに上回るという。一つ大きな問題を解決したばかりの勇者達にとって、この神託は余りにも重い。しかし、どれだけ嘆いた所でバーテックスが待ってくれる訳じゃない。若葉達に残された選択肢は一つ、絶対的な殲滅のみだ。

 

 キリトはその報告に表情を硬くしつつも、他の皆を見やった。

 

 幸いにも、勇者達の闘志は衰える所かむしろより強くなっている。

 各々が事態を重く受け止めつつも、やれる事をやって、生きて帰ろうという希望的な思考は大切だ。それを全員が共通して持っているのなら、今回の総攻撃を切り抜けるのも決して不可能な事じゃない。

 

 

 

 

 

 決戦の日は程なくして訪れた。

 瀬戸大橋の向こうから押し寄せる波のようなバーテックスの大群。以前までは専用アプリのマップに映る反応から数を測っていたが、今回は反応が多過ぎてそれが不可能な程の規模だった。

 

「比喩ではなく、『無数』という事だな……」

 

 『前回よりも遥かに多い』。これがどの程度の度合いを表すのかは分からなかったが、厳しい戦いになるのは覚悟していた。しかし、いざこうして目前に迫った脅威に、若葉は緊張に顔を強張らせた。

 

「……ちょっと失礼」

 

 ぐいっと若葉の前に出たキリトがその頬を両方からつまむ。

 

「おい、にゃにをしゅるのだ!?」

 

 抗議の声を上げた若葉にキリトは頬をつまんでいた手を離して、飄々として言った。

 

「いやぁ、戦う前にリーダーへの激励をと思いまして」

 

「余計なお世話だ!ふざけている場合じゃないんだぞ?」

 

 軽薄な所作に青筋を浮かべる若葉に、キリトはなおも余裕な様子で言うのだ。

 

「ふざけてないさ。緊張感を持つのは良いことだけど、戦う前からそんなじゃ持たないぞ?」

 

 その言葉に若葉はハッとする。

 今までにない危機を前に、無意識のうちに肩に力が入っていた事に。もう同じ失敗はするまいと思ってはいても、また仲間を危険に晒してしまうんじゃないかという恐怖。それらは無用な力みを生み、剣の鋭さを鈍らせる。

 楽観的になるのは論外だが、適度なリラックスは柔軟な動きをする上で必要な事だ。

 

「大丈夫、俺達なら勝てるよ」

 

 肩に手を添えて言うキリトに、それまで強張っていた体から余分な力が抜けていくのを感じた。

 

「勝つためにも……桐ヶ谷さんの手綱はしっかり握っとかないとね?」

 

「おいチカっち、人を暴れ馬みたいに言わないでもらおうか」

 

 空気が自然と軽いものになって、勇者たちの間にはもう悲壮的な雰囲気など何処にもない。

 

「そうだ!皆であれやろうよ!」

 

「アレ?」

 

 友奈の提案に球子が首を傾げる。

 

「みんなで肩組んで丸くなって『行くぞー!!』ってやる奴!」

 

「円陣ですね。そういえば、勇者になる前の学校では、球技大会なんかでやってるチームがありました」

 

「いいね。まさに『勇者一丸』って感じで気合いが入るしな!」

 

 五人で円陣を作り、残りは千景だけになる。未だこういったノリに慣れていない彼女が視線を彷徨わせていると、キリトと友奈が手を差し伸べた。

 

「ほら、チカっちも」

 

「こっちこっち!」

 

「……うん」

 

 戸惑った様子の千景は、けれど確かにその手を取る。二人に挟まれるようにして肩を組んだ。そして、リーダーの若葉が声を上げた。

 

「四国以外にも人類が生き残っている可能性ーー希望は見つかった。希望がある以上、私たちは負けるわけにはいかない。この戦いも、必ず四国を守り抜くぞ!ファイトーー」

 

「「「「「オーッ!」」」」」

 

 掛け声と同時に開戦の合図がなる。

 今回の総攻撃に際して、勇者全体の指揮を執るのは杏だ。彼女が今回の戦闘で考えた作戦は、陣形(フォーメーション)を組んでバーテックスを迎え撃つ事だった。丸亀城を正面として、西と東に一人ずつ、合計三人の勇者を配置。その後方に杏が立ち、一人を休憩にあてる。一定期間ごとに陣形をローテーションする箏で、消耗を最低限に保ち、確実にバーテックスの数を減らしていくのだ。

 また、切り札は消耗が激しいために最後の手段とした。

 

「正面の丸亀城には私が立つ」

 

 陣形構成の際に、いの一番にそう名乗り出たのは若葉だった。

 

「正面はバーテックスの群れの中心だから、一番大変だよ……いいの?」

 

 友奈の問いに若葉は首肯する。

 

「だからこそ、私がやらなければならいんだ」

 

「なぜ?……より多くのバーテックスを倒したいから?」

 

 すっと目を細めた千景の問いに若葉は薄く口角を上げ、なおも毅然として答えた。

 

「違う。リーダーとしての責務ーー何より、四国の人々を守るためだ」

 

 それを聞いた千景は、ならばこれ以上言う事はないと微笑した。それに、作戦上も戦力として大きい若葉が最初に正面に立つ方がリスクが低い。こうして決定した初手の陣形は、正面に若葉、東に友奈、西に球子。千景を一時待機とした構成となった。

 

 それぞれが素早く配置に付き、丸亀城には既に若葉の姿があった。

 

「さながら、ここは『乃木丸』と言った所か……絶対に抜かせん」

 

 気合十分。

 若葉は纏わりつくトラウマ、怨念、それらが纏わりつく"あの"感覚を感じながら。けれど、前方から響いた声に顔を上げた。

 

「若葉!」

 

「……キリト」

 

 目を向けた先に居るのは、二刀を携えた黒衣の剣士。丸亀城よりも更に()、陣形の先端部分で待機する今作戦におけるジョーカー。

 

「ステイクール。ドーンと行こう!」

 

 誰が死ぬかもしれない。地獄の戦場が待っているかもしれないのに、普段通りな様子のキリトが、若葉は少し羨ましかった。

 それは、これ以上の地獄を見てきた経験故か、或いは強さの故の自信か。もしくは、その両方かも知れない。けれど、今はその背中が何よりも頼もしい。

 

「ああ、お前も油断するなよ!」

 

 飄々としたキリトに習って、若葉もそんな返答をかえした。

 

「……上等」

 

 陣形のどれにも属さない場所。丸亀城の更に正面で佇む黒衣は口角を上げる。

 

 それぞれが固定の陣形を構築する中、キリトが杏から受けた指令は意外なものだった。

 

『キリトさんは遊撃手として、自由に戦ってください。主な役目は各陣のバックアップですが、それ以外の局面においてはーー私達の事は気にせず、好きなように暴れてやってください』

 

 杏は敢えて、キリトを陣形に固定する道は選ばなかった。むしろ、出した指示は若葉が失敗する原因となった立ち回りそのもの。しかし、杏の出したこの指示は的を射ている。キリトはこれまで、若葉と同じように単一でバーテックスの群れに飛び込み、戦っていた。勿論、仲間が危なくなった時には中衛まで下がる事もあれど、基本的には以前までの若葉とそう変わらない。

 では、杏はなぜそんな指示を出したのか。その理由は、キリトの戦い方にある。

 指揮する上では、個々の能力を詳細に把握するのも非常に重要だ。勇者それぞれに違った良さ、強さがある様に、キリトの強さは『単一での完結性』であると杏は考えたのだ。

 

 索敵、カバー、リスク管理。アドリブ力と言ってもいい。剣の技量に限らず、あらゆる小技を習得しているキリトは個人で戦い抜く能力が勇者の中でも最も高い。その為、連携の練度においては元からそれを主体として訓練している杏や球子、友奈や千景には敵わない。

 

 ならば、それを最も有効的に活かすことが勝利のカギとなる。

 だからこそ杏は与えたのだ。ーー他の一切を気にする必要のない。己のみで戦い抜く事を許された。この状況をーー

 

「……片手剣、単発技」

 

 間近まで迫ったバーテックスが大口を開けて襲い来る。そんな化け物を、キリトは冷えた目線で貫く。後方に振りかぶった刀身に淡い光が宿る。

 

▽片手剣単発技▽

バーチカル

 

 感覚から自己と敵以外の全てを消し去り、最上の状態から放たれる一閃。バーテックスはキリトのすぐ傍を通り過ぎて、数秒後に真っ二つに両断された。

 一体目、そこからなだれ込むようなバーテックスの追撃も跳躍して回避すると、手近な個体からスパスパと撃破していく。自身の判断で主体的に動く事を許されているため、突出しすぎない限りは杏も特に指示を出さない。

 

「正面六、東が三、西が一……やっぱり、集中すべきは正面か」

 

 キリトは陣形近くを疾走しながら、常に正面の丸亀城をカバーする方向で動く。

 特に若葉が打ち漏らした分を仕留め、他の陣や後方に流れないようにしている。

 

「タマっち先輩!地面スレスレの下方から来る一群があります、旋刃盤なら届く距離です!」

 

「りょーかいっ!任せタマえ!」

 

「友奈さん、少し突出しすぎです!やや後ろに下がってください!」

 

「分かった!」

 

 何度も訓練し綿密な打ち合わせをしてきたとは言え、杏を指揮官に据えての戦闘は初だ。バーテックスとの戦闘はシミュレーションが出来ない事もあって、最初とは思えない程に指示と陣形は円滑に動作していた。最初はあんなにも気弱な少女だった杏が、強かに指示を出す姿にキリトは表情を緩ませる。

 その姿は、別の世界にてアインクラッド攻略組の指揮を担っていた少女にも重なるものがある。

 

 ーー杏、ずっと皆の役に立とうと頑張ってたもんな。

 

 時には図書館で関連する書物を読んだり、誰かの意見を聞いたり、この数か月の間で杏は努力に見合った成長を経た。ならば、とキリトも自身のやるべき事の為に動く。

 

「若葉、正面から第二波だ!俺も丸亀城の守護に加わる。左右に分けて迎え撃つぞ!」

 

「おう!」

 

 早くも瀬戸大橋の向こうから訪れる第二波の兆候を見たキリトは、正面の防御を固めるべく丸亀城に参入。本丸にて更に若葉と二手に分ける形で防御網を展開し、左右に敵の波を分ける作戦に出る。

 素早く本丸前にて左右に分かれたキリトと若葉は、迫りくるバーテックスを見据えて剣を構える。

 

 バーテックスの大群のおよそ七割が正面に向かって迫る中、作戦通り大群はキリトと若葉に半々ずつ分散される。

 

「せあぁぁああ″ッ!!」

 

 押し寄せる無数のバーテックスすら物ともせず、キリトと若葉は凄まじい速度でバーテックスを撃破していく。

 上位ソードスキルも含めたキリトの幾十のもの剣撃は、色々とりどりにしなやかな剣筋をバーテックスに叩き込んでいく。対して、若葉も持ち前の居合と硬く鋭い剣捌きで、バーテックスを一体たりとも打ち漏らすことなく仕留める。

 

 この間ですでに、若葉とキリトの両者の撃破数は五百を優に超えていた。

 

 ーー戦闘開始から僅か三十分。思ったよりペースが早い……

 

 予想はしていたが、今回の総攻撃はキリトの予想すらも軽く上回る程の規模だった。

 戦闘が始まってから三十分で、既にバーテックスの総数は前回のそれを超えている。それでも、後方には千景も控えている為、正面と左右の防備は完璧だ。戦況は未だ劣勢とも優勢とも取れないが、むしろこの物量差で均衡が取れているなら上出来。

 

 第二波の矢じりを潜り抜けた段階で、キリトはバーテックスを撃破しながら淡々と瀬戸大橋の向こうを俯瞰する。

 先程からジリジリと神経を逆撫でる感覚は、着実に減っていくバーテックスの数とは裏腹に大橋の向こう側でドンドン大きくなっているように思う。

 

「これは、一筋縄じゃ行きそうにないな……」

 

 このまま守り切ればこちらの勝ち。

 その楽観的な考えを即座に捨て、警戒のレベルを一段引き上げる。

 

 ーーバーテックスの量も凄まじいが、これが本気とも思えない。奴らの奥の手はなんだ?

 

 やはり、最も気掛かりなのは未だ現れる素振りを見せない進化体だ。

 これ次第で、こちらの陣形の有無にかかわらず全滅すらもあり得る。特に、この正面に集中する敵の数は異常なまでに多い。この数を捌き切っている若葉の技量には感服するが、やはり消耗は著しいのだろう。微細ではあるものの、少しずつ動きに鈍りが見え始めている。

 

「杏、若葉を――」

 

 キリトが若葉の交代を進言しようとして、けれどその声は遮られた。

 

「若葉さん、交代です!撤退してください!」

 

 まさに今、キリトの進言しようとした内容の指示が飛んできたのだ。それに驚いたような表情をしたキリトに、杏は一瞬だけ「大丈夫」と安心させるように笑って返した。それを見て、キリトは感嘆の息を吐いた。

 若葉の方も一瞬、交代を渋るような仕草をしたたものの、すぐに考えを改めて返答した。

 

「分かった。千景、交代してくれ!」

 

「任せて」

 

 千景は既に後方から、若葉達のいる本陣へと移動してきていた。若葉はすれ違いざまに軽く手を伸ばすと、千景もそれに応じてハイタッチした。

 

「ゆっくりと休んでいなさい」

 

 若葉が後方に戻り、千景はキリトの隣に歩み寄った。

 

「こっちは結構キツいぞ?チカっち」

 

 わざとらしくそう言ったキリトに、千景は不敵に笑って見せた。

 

「問題ない。……塵殺(おうさつ)してあげるわ」

 

 千景はその鋭利な大鎌をバーテックスに振るった。

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