結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第三十四話:三位一体

 戦闘開始から三時間。

 それぞれが交代と休憩を繰り返しながら、前線の陣形を維持し、勇者たちは無傷でバーテックスの侵攻を防いでいた。しかし、ここで戦況は新たな局面へと突入する。戦線が押し切れないと見るやバーテックスが一箇所に集まり始めたのだ。

 

「注意してください!進化体を形成し始めました!」

 

 杏の呼びかけ緊張感が高まる。

 数十、数百ものバーテックスが融合し、巨大な蛇型を形成するに至る。蛇型のバーテックスはその体を縦横無尽にしならせて、まず最も近い位置にいる若葉に襲いかかった。

 

 だが、凶悪な進化体の脅威を前にしても若葉は冷静だった。刀に手を添え、呼吸を整えると目前に迫った蛇型の突進を最小限の動きで避ける。

 

「ッ!」

 

 同時に、疾風とも呼べる早業が繰り出された。

 鞘から一閃された刃は一筆の残像を残して、蛇型を真っ二つに両断する。その技の冴えに勇者の面々が息を呑む。しかし、その中で若葉、キリト、千景はまだこの進化体が死んでいないのを理解していた。

 

「やはり、そう簡単には行かないか」

 

 真っ二つにされたはずの蛇型は即座に分かれた体を再融合。その際に形状も若干変化して、頭の部分だけがカマキリのような両腕を持った人型のようになる。蛇の胴体に人の上半身を持ったいびつなキメラが再度若葉に突進し、今度は両腕のカマで切りかかった。

 

「ぐっ!?」

 

 蛇の体から繰り出される高速の接近からの振り下ろしを紙一重で受け止める若葉。しかし、バーテックスにはもう片方の鋭いカマが残っており、間髪入れずに追撃してくる。その場に釘付けにされ回避行動が取れない若葉だったが、そのカマは彼女の肢体を切り裂く事はなかった。

 

「させるかッ!」

 

▽二刀流防御技▽

クロスブロック

 

 カマが若葉を捉える寸前で、見慣れた黒衣が割って入る。閃いた二刀がバーテックスの攻撃を受け止め、これによって蛇人型のバーテックスが一瞬の硬直を見せた。

 

「今だ!」

 

 キリトの叫びと同時に、その後方から華奢なシルエットが躍り出る。

 蛇人型のバーテックスを肩口から抉るようにして、斜めに大鎌が振り降ろされた。長い髪を靡かせて現れたのは、動きが止まるタイミングを虎視眈々と狙っていた千景だった。千景の一撃でダメージを負った蛇人型のバーテックスが仰け反った。

 

「二人共、助かった」

 

「どういたしまして。それにしても、間一髪だったな」

 

 キリトの言葉通り、あと少し到着が遅ければ若葉は致命傷を負っていただろう。

 

「奴を倒すには、あのカマが厄介ね……」

 

 千景の視線が向く先には、今まさに攻撃のダメージが復帰せんとする蛇人型のバーテックスが居た。両腕のカマに縦横無尽に動く巨体。素早く捉えずらい上に、変則的なルートから繰り出される斬撃は非常に厄介だ。

 

「さっきみたいに……三人のうち二人があのカマを受け止めて、残り一人が攻撃するしかないだろうな」

 

「更にそれを、再生を許さないほど絶え間なく。か」

 

 どちらにしろ、この進化体を無視することは出来ない。

 すでに蛇人型のバーテックスはその巨体をシュルシュルと滑らせて、若葉達へと向かってきていた。

 

「どうやら、考えている暇はないようね……」

 

 静かに千景は言う。

 

「ーーみたいだな」

 

 それを見てキリトと若葉も再度武器を構える。

 周囲を縦横無尽に動き回っていた蛇人型が、不意に千景へと接近した。振り降ろされたカマに対して、千景は目を細めクルリと遠心力を乗せた大鎌を振り出す。ガギンと鋼と鋼の衝突する音が鳴って、火花を散らしたカマと大葉刈。

 その衝突音と、跳躍した若葉が刀を振り下ろしたのはほぼ同時だった。

 紙一重で若葉の刀を防いだ蛇人型に、今度はイエローの閃光が閃く。

 

▽二刀流2連撃技▽

エンドリボルバー

 

 阿吽の呼吸。

 この三人の場合は、互いの技量を完全に信用しているからこそここまで大胆にーー迷いなく連携を繋げる事ができる。

 

「このまま押し切るぞ!」

 

「ああっ!」

 

 後方に離脱しようとする蛇人型に対して、今度はキリトと千景が仕掛ける。

 それを防御した瞬間、無防備になった蛇人型を若葉が一閃する。常に二人が仕掛けて、僅かな時間差で三人目が動く。これを徹底する事で厄介なカマを完全に封じ込める事に成功する。事前に示し合わせた訳でもなく、その場のアドリブ力だけで、敵のみにならず味方の動きにすら対応し驚異的な連続攻撃を行う三人の勇者。

 

 何度目かの攻撃で、ボロボロになった蛇人型の体が崩壊を始める。その一瞬の隙を見逃さず、三人はここに来て勝負を決めるべく同時攻撃を行う。

 

「これで…終わりだッ!!」

 

 それが決まり手となり、蛇人型の進化体バーテックスは完全に崩壊した。

 この間は約数分にも満たない程の戦闘だったが、三人の体感時間はその何倍もの長さで、流石のキリト達も息を切らせていた。

 

 ーーこのしんどい戦闘を、あと何回やればいいんだ?

 

 進化体を倒しても侵攻してくるバーテックスの数に衰えがない事に、キリトは危機感を募らせる。今の進化体との戦闘で、若葉と千景もかなり消耗してしまった。果たして、このまま前線に戻るべきか……。

 そうしている間にも、どんどんバーテックスが迫りつつある。

 

「くそ。少しは休ませろ!」

 

 吐き捨てたキリト。その時、城郭で休憩していた球子が声を上げた。

 

「よし……タマの出番だな!」

 

 立ち上がった球子は瞬く間に前線へと飛ぶ。そして、東側に居るキリト達に向かって大声で叫んだ。

 

「キリトーっ!切り札を使うぞ!」

 

「何!?待つんだ、タマっちーー」

 

「待たない!あんな凄いコンビネーション見せられて、黙ってられっか!タマにはタマの活躍をさせろ!」

 

 まるで聞く耳を持たない球子は、キリトの静止も無視して目を閉じる。神樹の概念的情報に接続して、秘められた精霊をその身に降ろす。彼女が顕現させた精霊の名はーー輪入道。切り札を使用した事で、球子の勇者装束と武器である旋刃盤が変化していく。

 

「え……?タマっち?」

 

 キリトは絶句し、呆然とその場に立ち尽くす。

 視界に映るのは、球子の身長の何倍にもなった旋刃盤だった。

 

「ちょっとタマっち先輩、それ大きすぎない!?」

 

 杏もあまりのスケールに驚愕している。

 

「それだと投げられないんじゃ……」

 

「いいや、投げる!根性で投げる!見てろよ、あ~~~ん~~~ず!!」

 

 巨大化した旋刃盤を両手で掴んで、ハンマー投げの要領で振り回しワイヤーも長さを増していく。

 

「うおぉぉりゃああぁぁぁあッ!!」

 

 叫び、渾身の叫び。

 投げられた旋刃盤はワイヤーから外れて飛んで行った。

 

「ワイヤー外れてんじゃん!アレどうするんだ!?」

 

 予想の斜め上を行く球子に、キリトが飛んで行った旋刃盤を指差す。

 

「ふぅ……大丈夫だ、これがあの武器の使い方なんだ」

 

 飛翔する旋刃盤は、ワイヤーを使わなくても球子の意のままに操れる。

 その証拠に旋刃盤は刃を高速回転させ、バーテックスの大群を切り裂く。回転する刃には炎を纏っており、まさに切っては焼き尽くし、数百を超えるバーテックスすらも物の数ではない。

 

「す、凄まじいな……」

 

「ええ……あんなのに巻き込まれたら、タダじゃ済まないでしょうね……」

 

 苦笑する若葉に困惑気味な千景。

 みるみるうちにバーテックスは減っていく。その勢いは留まるところを知らず、このまま全てを殲滅するかのように思われた。しかし、今回の総攻撃の規模は更にそれを上回るものだった。その最奥を勇者たちはすぐに知る事となる。

 

「っ!」

 

 旋刃盤を操っていた球子の体が不意にぐらりとフラついた。

 

「タマっち先輩!?」

 

 慌てて駆け寄った杏が肩を貸す。他の面々も欠相を変えてその場に集まっていた。

 

「大丈夫、ちょっとクラっときただけだ」

 

「ちょっとって……明らかにへたり込みそうだったじゃないか?やっぱり、精霊の力は負担が大きすぎる」

 

 諌めるようなキリトの言葉にも、球子は首を横に振った。

 

「そうも言ってられないみたいだぞ?前を見ろっ」

 

 球子の言葉に訝りながら視線を瀬戸内海方面に向けたキリトは、その光景に絶句した。

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