視界が眩むような痛みの中で、それでも剣を振り、走り続けた。
止まるな。止まるな。と、叫び続けた。
きっと、そうして負けずに踏み出し続けたから、助ける事が出来たんだ。無我夢中で突き出した一手が、確かな手ごたえと共に凶撃を払いのけたのがその証明だ。背後には、どれだけ痛めつけられても、決して折れなかった本物の勇者が居る。
代償を恐れ、これまで本気で戦えなかった俺とは大違い。
そんな彼女達を見ていると、俺まで勇気を貰えるような気がした。
ーー覚悟は決めた。もう迷わない。
思い出が消えるのは、今でも怖い。
だけど、どれだけ辛くても、泣いても、これは俺の選択だ。後悔だけは、絶対にしない。
「来いーー」
起句を叫んだ。
「エリュシデータ、ダークリパルサー!」
✾『昇花』✾
意識の奥底、魂に刻まれた異界の英雄の記憶。混じり合った『キリト』の人格と共鳴し、完全な力を取り戻していく。
光に包まれた数秒の後、変化した勇者装束と二刀があらわになる。黒いロングコートは、装束というよりは剣士の戦闘着といった方が好ましく、手にする二刀の名は、黒の剣士の愛剣である『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』だ。
「第二ラウンドだ」
ズパァンと音を立てて、地を蹴る。
かすむほどの速度で疾走し、風すらも追い越す神風が樹海を一閃した。当然、バーテックスもその尾で接近するキリトを迎え撃つが剣士は低い声音で言う。
「遅いッ!」
迫る尾針は掠るだけで命取りな毒を持つ。
しかし、キリトはこれを最低限の動作で、それこそ一ミリでも違えば針が薄皮一枚を切るほどに絶妙な動作で躱す。それも、疾走の速度を緩めることなく、だ。バーテックスは何度も尾をキリトに向けて放つが、それらを全て顔色一つ変えずに淡々と捌く様はーー正に神業と言っていい。
▽二刀流5連撃技▽
シャインサーキュラー
切り札の使用によって解禁される数々の上位派生スキル。その中でも最も汎用性の高い技を放つ。
本来なら、刺突から振り下ろしの追撃を放つダブルサーキュラーの派生技であるこの技は、そこに追撃の三連撃を描く。
「ハァッ!」
剣技一つがまるで一個の芸術と見紛うほどに、洗練された業。
精度、威力、速度ともに切り札使用前とは比較にならない冴えを持ち、その鋭さはサソリ型バーテックスの固い外皮に明確な
「行けるっ」
手応え。
それはキリトは求めて止まなかった勝利への明確な道標だ。つまりは、これが正解であるという勝負への確信。相手が異形であれ、人間であれ、戦いとは一種の問答だ。攻める側は常にその手が通じるのか問い続け、受ける側は攻め手に対する採点者なのだ。
通じればまさにそれが、この戦いを動かすカギとなる。
「逃がすかぁ!」
ダメージを受けたことで一旦距離を取ろうとしたバーテックスに追撃する。
▽二刀流8連撃技▽
ナイトメアレイン
高速で追い、樹海の幹を蹴って跳躍したキリトは瞬く間にバーテックスの顔と思われる部位を捉える。
そこにワインレッドの八連撃を見舞い、続けてスキルコネクトで〈バーチカル・スクエア〉へと繋げる。合計十二連撃の斬撃が今度はバーテックスの外皮を破壊し、そこから飛び出た通常個体は無視して、巨体の破壊を続ける。
「まだだ……」
剣を振り上げる。
だが、キリトはその剣を振り下ろすことなく、即座にその場から飛び退いた。すると、キリトが元居た場所にはバーテックスの尾針が通過していた。
完全に背後からの攻撃であったにも関わらず、キリトはそれすらも回避してのけた。傍から見れば、背中に目でも付いていると錯覚するような離れ業だが、キリトは自身の持ちうる全ての感覚を駆使して、完璧な集中状態に入っている。
切り札の力で鋭敏化した感覚は、僅かな音の微動にまで反応し、あらゆる奇襲を避ける。卓越したセンスと、技術、経験があって初めて為せる技だ。
▽二刀流15連撃技▽
イクスタキオン・ユニベーション
「まだ、杏と球子が受けた痛みは……!」
十五の流星が巨体上部の液体を詰め込んだような球状の部位を切り裂く。
「こんなものじゃない!」
▽二刀流2連撃技▽
エンドリボルバー
阻止しようと飛んできた通常個体を歯牙にもかけないとばかりに、広範囲技で一掃する。
これほどスキルを連続発動させれば、相当な負担が体にのしかかる。にも関わらず、止まる事を許さない。今目の前に居る敵を打ち倒すまで、剣士の加速は終わらない。
「終わらせる。ここで!」
通常個体を殲滅しながら、一度距離を置いたキリトは再び正面に佇む巨大な化け物を睨んだ。
今度は真正面から、一切の回避行動を取る様子もなく、足に力を込め、半身を捻りながら剣を振りかぶり、タイミングを見計らう。そこにバーテックスは尾針を振り下ろす。
▽二刀流9連撃技▽
インフェルノ・レイド
死の針が迫る。その一瞬で、キリトの両手が閃く。
逡巡よりも早く、ほんのコンマ一秒程度の後、天に立ち昇る深紅の軌跡が刻まれる。その様はまるで竜のように雄々しく存在感を示す。それによって、バーテックスのメインウェポンたる尾が完全に破壊された。
紅炎の九連撃が炸裂し、完全に巨体を樹海に倒したサソリ型の上にキリトが軽やかに降り立つ。
「見たか。これが、人間の強さだ」
二刀に淡い青色の光が宿る。
▽二刀流27連撃技▽
ジ・イクリプス
「ーージ・イクリプス!」
浮遊城アインクラッドで、最高の反応速度と認められた『勇者』のみが放てる絶技。
「はあぁぁぁああーーーーー!!!」
迸る覇気と共に絶え間ない斬撃の天蓋が構築される。
襲い掛かってくる通常個体すらも巻き込む刀剣領域が、サソリ型を破壊し続ける。二十五、二十六ーー遂に最後の斜め振り下ろしを残すのみとなる。そして、サソリ型は既に原形を失っており、足元にはその残骸があるだけ……
だが、黒の剣士は渾身の気合いを込めて振り下ろした。
「うお゛ぉおッ!」
最後の一太刀が振り下ろされ、サソリ型バーテックスは完全に消滅した。
限界を越えた戦闘を終え、キリトは一つ息を吐いた。
「……何とか、なったか……」
視線を移せば、ちゃんと杏も球子も無事だ。
安堵のあまり微笑してしまうのも許してほしい。守り切った。失う物は大きいかもしれないが、それでもこれは何よりも得難い報酬であるとキリトは思う。
「……早く、残りの進化体をーー」
と、残党狩りへと歩みだそうとした瞬間、視界が揺らいだ。
違和感を感じたのも束の間、天と地が反転する。バタリとキリトは地面に倒れた。切り札も解除され、ベトリとした血が彼の体から樹海へ伝う。
ーーハハ……ちょっと、無理しすぎたかな?
もう口を動かす事も出来ない。
どうやら、体にたまったダメージは相当に大きかったらしい、アドレナリンなんてとっくに切れていたのに無茶をするからこうなる。通常個体がここぞとばかりに群がってくるのが、キリトの目にも見えた。
とうとう悪運尽きたかと諦めかけた。その時。
「やめろぉぉおお!!」
そこに、金切り声を上げながら大鎌が振り降ろされた。
キリトを食い殺さんとしていたバーテックスは一体残らず、駆け付けた千景によって屠られる。
「桐ヶ谷さん!しっかりして……!」
けれど、問いかけてもキリトの意識はとうに限界だった。
一度安心してしまえば、もはや風前の灯火は消えるのみ。必死に自身の名を呼ぶ千景に若干の申し訳なさを感じながらも、キリトは意識を闇の中へと落とした。
新型のバーテックス、便宜上『完全体』と名付けられた個体の登場によって熾烈を極めた決死の攻防戦は、勇者だけでなく現実にもかなりの被害を出した。
丸亀市内で原因不明の竜巻が突然発生し、それによって建物が倒壊、死者と重軽症者が出た。今回出てきた完全体によって、樹海が浸食されたり影響だ。キリトが意識を失った後、三十体近く残っていた進化体は"酒呑童子"を降ろした友奈によって殲滅され、今回の戦いは幕を下ろしたという。
実はこの話、今までで一番悩みました
のわゆ編に関しては原作キャラの生存が果たしてどうなのか、という所で僕自身ほんの一週間前の本プロット段階までかなり悩んでて
勿論、皆には生きていて欲しいしその為にキリト君が居るわけです
しかし、同時にのわゆはキャラの亡くなるシーンがあまりにも美しいんですよね
『散る間際の花の美しさ』を正に体現した神演出をしていらっしゃって、本当にそこが好きなんです
だからこそ、生存は無粋なんじゃないかとかれこれ半年以上葛藤し……
その末、こんな風になりました
実はここのタマっち先輩と杏の生存するか否かは相当大きなストーリー分岐になっていて、後の結城友奈の章、勇者の章にもかなり大きな影響を及ぼします
当然、生存した事によって起こる事件とかありますし、良いことばっかではないです。ここは原作の温度感に従っています
のわゆ編は今まで書いた二次創作で一番むずかしいけど
同時に一番楽しいです
このまま、悩みながらも完結に向けて進んでいこうと思います