神樹館――主に大赦が運営する教育施設で、教師、生徒も共に大赦に関係者が多い。
お役目を担う勇者の三人が通う学校としては、確かにしっくり来る。そんな神樹館の校舎に今俺は居た。――事の始まりは、今朝の園子の提案だった。
『気になるなら来てみる~?わたし達の学校――』
俺は既に高校生の範囲の勉学を粗方納めてあるし、この世界で新たに学校に通う必要もない。
それもあって夕方の訓練までは特にやる事がなかった。魅力的な提案で俺としては願ったりだったけど、問題は部外者である俺の立ち入りを学校側が許すかだった。――結果的に言えば、安芸の計らいで俺の神樹館への立ち入りは許可されたのである。
今は一限目の授業中で、園子達は真面目に勉強中だ。
俺は見ての通り、神樹館の校舎を一通り見て回っている。入校証を首から下げているので、職員とすれ違っても客人として互いに会釈する程度で済ませる。大赦の関連施設と聞いていたので、もっと宗教チックな場所なのかと思っていた。しかし際立つのは各教室にある神樹様を祀る祭壇くらいで、それ以外は案外普通の学校だ。
そんな感じで、校舎の中を適当に歩き回っていると気が付けばそれなりに時間が経っていた。
「そろそろ一時間目が終わる頃か」
こうして歩いているだけって言うのも良いけど、折角だし三人の様子でも見に行こう。
俺が三人の居る教室に着いたのと、授業終了のチャイムが鳴ったのは殆ど同時だった。意気揚々と教室から出ていく者、友達と喋り始める者、皆それぞれの過ごし方をしている。そんな中で、目的の人物を見つけるまでにそう時間は掛からなかった。
向こうも俺の存在に気が付いたのか、園子がこっちに向かって手を振っていた。
「キリトさーん!」
その声によって生徒達の視線がこちらに向く。元々、明らかに年長の俺に対して向けられていた好奇の目が更に強まる。それを出来るだけ考えないようにしながら、俺は教室に入って彼女達の傍まで赴いた。
「おはようございます、キリトさん!園子からは聞いてたけど、本当に神樹館に来てたんですね!」
「おはよう、銀。それに須美も、どうせなら三人の様子を見ておこうと思ってな。ちゃんと真面目に勉強してるか?」
聞くと、須美が挨拶を返してから言った。
「どこかの誰かさんは寝てましたけどね」
「え?」
「へぇ、そんな人いたんだ~」
「いや、どう考えても園子の事だろ……」
銀と須美は呆れまじりな様子で園子を見ている。まあ、何となく予想はしていたけど……
「そのっちは相変わらずだな。でも、流石に授業中に居眠りは感心しないぞ?」
説教とも言えないような注意だが、園子は少しだけしょんぼりとして頷いた。俺も、ソードアート・オンラインにダイブする以前の暗黒時代には授業中に居眠りした事など数え切れない程あったので、あまり人の事を言えないのは秘密だ。
「はーい」
「よろしい。学校の方は粗方見終えたから、ここからの授業は俺も見学させてもらうよ」
元は暇つぶしの一環として訪れたのだ。安芸からは自分の受け持つクラスに限り、授業を見学するのもオッケーだとのお達しだった。どうせなら、ここからは彼女達の様子を見て夕方の訓練を待つ事にしよう。
そうしている間にも、短い休み時間はあっという間に終わり、チャイムが鳴るよりも少し早く安芸が入ってきた事で全員が着席し始める。俺は改めて、安芸に見学する旨を伝えてから後ろに席を置いて座った。
教えている内容も特段驚くような部分はない。小学六年生の内容そのままといった感じで、俺は見て回りながらも時には助言などをしていると時間はあっという間に過ぎて昼食の時間になる。
俺は自然な流れで三人と一緒に昼食をたべて、そこからはまた色んな話をした。
最近の話題とか、お役目の事とか、園子の家での暮らしとか、まあ色々だ。銀に弟が居る事だったり、須美が大の和風文化好きだったりと少し話すだけで意外な一面がいくつも分かった。
□
そんな感じで時間は瞬く間に過ぎて、時刻は午後の『16:30』を迎えた。
神樹館の近くにある大赦の訓練用施設に場所を移して、俺達四人は集まっていた。
「改めてまして、今日から三人の特別顧問になった桐ヶ谷です」
既に知った中ではあるものの形式は大事だ。こうする事で、教える側である俺にも良い緊張感が持てる。
「今日は初日という事なので、前半の基礎訓練は私が、桐ヶ谷さんには後半の実戦を想定した訓練を担当してもらいます」
安芸の言葉通り、俺は三人に戦闘のいろはを指導する立場になった。本来なら、最初の基礎訓練から俺が面倒を見るという事になっているのだが、何せ今日は一回目だ。俺から見れば、三人とは一度共闘しただけでその
その為、基礎訓練を通して三人の技量を見てくれればという話になった。
さっそく基礎訓練が始まる。内容は、決まった型を反復的に熟すというもので、それぞれの武器種に応じた立ち回りなどが主だった。
「ほう、成程な……」
ある程度は分かっていたが、やはり三人の練度はかなりの物だ。
「踏み込みは十分、腰のつけ方も悪くない。一つひとつの技は既に達人級だ」
彼女らは俺が来るよりも前に、既に一体のバーテックスを倒したと聞いている。その時点で折り紙付きだが、実際に見てもそれは確かなものだった。対バーテックス戦闘に限れば、むしろ俺にも学ぶべき所があるかも知れない。
訓練が始まってから数十分、安芸の傍にある砂時計が落ち切った。
「そこまで」
安芸の一言が訓練場に響くと、三人はそれぞれ彼女の元々に集まった。
「三人共お疲れ様。それじゃあ桐ヶ谷さん、後はお願いしますね」
そう言って、安芸は一歩後ろに下がった。それに従い、俺は前に出て三人と向き合う。
「さっきの基礎訓練を通して、三人の動きは見せてもらった。その上で、俺が提示する訓練内容なんだけど……」
俺の言葉を前に、園子がうずうずとしながら言った。
「キリトさんの訓練、どんなのかな~?」
「乃木さん静かに」
須美と園子によっていつものような会話が繰り広げられ、それに苦笑を浮かべながらも俺は考えていた内容を口にした。
「三人にはこれから、一人ずつ俺と一対一で模擬戦をしてもらおうと思うんだ」
昨日の時点から色々と考えてはいた。基礎訓練の延長線上だったり、三人の連携力を上げる事も当然選択肢にはあったけど、それらを全て却下してでも俺がこれを選んだのには理由がある。
「模擬戦……ですか?」
銀は意味こそ理解しつつも、俺がそう言った理由に関してはイマイチぴんと来ていない様子だった。それを見て、俺は順を追って説明を始める。
「まあ、そう難しく考えなくていいよ。理由としては、俺が三人の実力をもっと深く知りたいって言うのと、実戦形式で教えた方が手っ取り早そうだと判断したからなんだ」
基礎訓練を見ただけじゃ正確な実力は分からない。
幾ら技が上手くても、それを実戦レベルまで昇華出来ているかどうかは、やはり模擬戦などを通して確認するしかないのだ。そもそも基礎や技の部分は安芸が恙なく教えているようだし、俺に出来る事と言えば動きの矯正や立ち回り面でのアドバイスくらいしかない。
「勿論、強制するつもりはない。三人で話し合って決めてくれ」
とは言え、これは俺個人の考えに過ぎない。いきなりこう言われても、彼女達だって戸惑うだろう。
もう少し段階を踏みたいと言うのなら、それに合わせたメニューを考える事も出来る。どちらが正解という話でもないし、全ては彼女達次第だ。
「あたしは、ちょっと興味あるかな。今までの訓練でも、模擬戦とかってやった事なかったからさ」
「わたしもやってみたいかな~。キリトさんの強さ、実際に確かめてみたいし~」
園子と銀は案外乗り気みたいだ。それを見て、須美も少し考えてから口を開いた。
「確かに、これもいい機会か……分かりました、私もやります。私だって、あなたの強さをもっと深く知りたいですから」
そうして、三人全員の了承が得られた。あまりにも乗り気じゃない様なら、事前の心配事は杞憂だったみたいで安心した。
「そう来なくっちゃな」
これから行うのは模擬戦でこそあるが、俺も気合いを入れなければならない。
さっきも言った通り、技という一点においては既に彼女達は一流だ。その上で足りない物を見極めるための模擬戦ではあるが、それで俺の方が負けるようでは形無しもいい所。小学生と思ってかかれば手痛いしっぺ返しをくらうだろう。
何せ、彼女達は勇者なのだから。
話が一生進まないゲーミング