結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

93 / 119
お久しぶりです
復帰一発目は少し短め


第五十話:打ち明ける時

 

 千景を村から連れ帰った後、彼女は大社によって武器と変身アプリを剥奪され無期限の謹慎処分を受けた。

 かく言う俺も村人への中傷発言や千景の父親を殴った事に関して、厳重注意を受けた。まあ、何を言われても謝る事はしなかったが……

 

 そんなこんなで結局、解放され帰路についた時にはすでに日付が変わっていた。大社の施設から十分ほど歩いて寮に戻った頃にはスマホの時計も『1:00』と表示されていて、俺はため息をこぼした。

 

「あいつら、こんな時間まで説教しやがって……」

 

 寮のロビーに入り階段に向かいながら、誰も居ないのを良い事に恨み言をこぼす。

 

「はぁ、少しは日々訓練と戦いで疲労困憊の勇者を労わってほしいもんだよ」

 

「そうか、ならば労りついでに話すべき事もきっちり話すのは道理だな」

 

 扉の脇、完全な死角から響いた見知ったよく通る声がして立ち止まる。

 

「その声は……若葉。それにひなたまで………」

 

 今までこの場で俺の帰りを待っていたのか、待ち構えていたのは若葉とひなただった。若葉の表情から垣間見えるのは、疑念や疑問、それらだけれど怒っているといった感じではない。ただ、真実を知りたいと彼女の瞳は雄弁に語っていた。

 

「……そうだな。正直、気持ちの整理はまだ付いてないけど……俺も、これ以上は隠すべきじゃないと思うし、話すよ。全部」

 

 実際に問題として起こってしまった以上、もはやこれは内々に済ませられる次元をこえている。

 それはどっちの事なのか。俺自身の事か、千景の事か。恐らくはどっちも言える事だが、若葉達からすれば後者であるのは明白だ。

 

 ーー今は俺の事よりも、チカっちの事を優先すべきだ。

 

 別に記憶の件は千景の事がどうにかできてからでも遅くない。何も、明日記憶が全部消える訳じゃないのだから。

 

「ひなた、もしも俺が何か間違った事を言っていたら、その時は訂正してくれ」

 

「分かりました」

 

 目くばせしながら言うとひなたも表情を引き締めて頷く。

 ロビーのソファーで片方に俺、もう片方に若葉とひなたという位置で、向かいあって座る。

 

「あれは去年の十月。ちょうど、一回目の侵攻が終わった後の事だったよ――」

 

 友奈と共に千景の実家へ付いて行ったこと、そこで起こった千景の異変。そこから始まった彼女の過去を知るまでの経緯と、花本美佳から聞いた話の内容。そこから時を経て、今回の事件の概要と真相まで、長いながい話の中で、若葉は途中で怒りをにじませた表情をしながらも、多少相槌打つだけで静かに聞いてくれた。

 

 話が終わった頃には、すでに一時間が経過していた。

 

「――俺に話せるのはここまでだよ」

 

 一口、用意したコーヒーを口に含む。全て聞いた若葉は、一体何を感じているのか。俯いた表情は見えず、それは分からない。やるせなさ、悔しさ、怒り、悲しみ、多分当時の俺と同じようにそのような感情を持っているのだろう。

 中には、言葉に出すのも憚れるような行為だってあった。幼い少女には余りにも残酷で、下劣で、下種な仕打ちが現実に行われていたんだ。

 

 今回の件の詳細に関しては初耳のひなたもなおの事、深い憤りを感じているようだった。

 

「……勇者と大社を良く思わない人達が居るのは、前から知ってたよ。でも、まさかあんな風に、直接的に悪意をぶつけてくるなんて思わなかった」

 

 いや、この場合は『忘れていた』という方が正しいだろう。俺は確かに、悪意を持った集団がどういう行動に出るのか知っていた。多数の悪意は、少数の善意すらも塗りつぶして、同じ悪意に変えてしまう。それはやがて肥大化し、どんな残酷な事でもしてしまうのだ。

 千景は運が悪い事に、その只中に立たされてしまった。向こうの世界の俺のように『意図して』ではなく、完全に意図せず、被害者として……

 

「それで、千景さんは……」

 

「切れてしまったんだろうな。色々と……」

 

 それが仮に千景自身にだけ向けられた悪意なら、彼女もあそこまでは激昂しなかっただろう。でも、あいつらは彼女の聖域に触れてしまった。やってはいけない事をしてしまったんだ。

 

「……私は、そんなこと、全然知らなかった」

 

 おもむろに若葉が呟く。

 

「それは……」

 

 「仕方がない」と俺が何か言おうとすると、続けられた若葉の言葉でそれは遮られた。

 

「だが……知ろうと思えば、いつでも知れた。知る機会は、無数にあった」

 

 机の上で組み合わされた両手が、赤く血が滲むほどに強く握り締められる。

 

「なのに、私は今それを聞かされて、尚も千景に直接会う事すらままならない。肝心な時にこんな事では、偉そうにリーダーなどと胸を張れたものではないな……」

 

 声が震えるのを必死におさえながら、やるせなく垂れた頭にひなたがそっと寄り添う。

 

「仕方ないよ。俺だって、知れたのはほんと偶然だったし……あれがなかったら、俺や友奈だって今も何も知らなかった」

 

 他人の悲惨な過去を察する事は大人でも難しい。未だ精神は未成熟な少女でしかない彼女達にそれをしろ、というのはいささか残酷に思える。何しろ、人の汚い部分に自ら触れることを強要するようなものなのだから。

 

「だが、お前は知っていた。いや、知る覚悟があった。そうであるとないのとでは、天と地ほどの差がある。例え、どんな理由があろうと、だ」

 

 それはそう。若葉の言う事は正しいし、結果的にそうなのだから否定しようもない事だ。

 とは言え、あの時の若葉にこの問題を処理できたかと言うとノーとしか答えられない。むしろ、そう思ったから話さなかったのだ。きっとそれは、彼女自身が一番よく分かっている。だからこそ悔しいし、自分の事を情けないと感じてしまうのだろう。

 しかし、それは弱さではなく、彼女だからこそ持ちうる強さだと俺は思う。

 自分の不甲斐なさを認め、心の底から悔いるのは誰にでも出来る事じゃない。誰だって失敗には言い訳をしたいし、目を背けたい。俺だってそうだ。これを一切しない人の方が異常だとすら言える。故に、これをしない『乃木若葉』こそが勇者のリーダーに相応しいのだ。

 

「本来なら、私がキリトに代わってその村人達を糾弾すべきだった。リーダーとして……何よりも、千景の仲間として……」

 

「……分かるよ、その気持ちは。悔やんでも、くやみ切れないよな」

 

 最近になって俺もその失敗を味わったから、その気持ちは痛いほどに分かる。

 

「でも、まだ全部終わったわけじゃない。千景は結果的に誰も傷つけていないし、暴走だって精霊のしわざだって事で大社との話はついた。世間の批判も……まあ、ほぼ俺の方に寄ってるし、何とかなるだろ」

 

 事件の現場は撮影されてネットにアップされたことで、俺と千景の悪評は随所に広まってしまった。しかし、千景に関しては精霊の加護による影響だという事で、落としどころ自体は作れる。誰も負傷者が出なかった事実はかなり大きい。何せ、社会が許す名分が作れるからだ。

 まあ、普通に暴言を吐いた俺は一生白い目で見られるだろうが、こればっかりは受け入れるしかない。

 

 と、軽い気持ちで考える俺とは対照的に、ひなたと若葉は今の言葉にかなりご立腹なようだった。

 

「あなたはまた、そう楽観的に語って……桐ヶ谷さん。この際だから言っておきますが……あなたのその『他人が大丈夫なら自分はいい』という考え方は、お世辞にも褒められたものじゃありませんよ?」

 

「そうだぞ、キリト。今の発言に関しては聞き捨てならん。お前がそういう腹積もりなら……後日の演説で、私も同じようにさせてもらうからな」

 

「いや待て!?軽率な発言だったのは謝るけど、そんな事しなくていいから!」

 

 これ以上事態がややこしくなるなどたまったものではないと、慌てて若葉の言葉を否定する。

 

「とにかく、明日は三人で一度チカっちに会いに行ってみよう。俺の口からだけじゃなくて、本人ともきっちり話すべきだ」

 

「そうですね。どちらにしたって、今の千景さんを一人にはしておけませんし」

 

 もう既にこの事は友奈、球子、杏にも知れ渡っているはずだ。折を見て、三人とも共有する必要がある。

 目下バーテックスの侵攻以上に考えるべき事は山積みで、頭が痛い。一体何をどうするのが正解かなんて丸っきり分からない状態で、なおもその危うさを内包したまま、俺達は未来へと進んでいくしかないのだ。

 

 

 

 

 

 そうして、一際に夜が明けて俺、若葉、ひなたは勇者を出て閑散とした丸亀城内を進む。

 訪れたのは、大社の管理する施設の一つで、そこに今千景は謹慎という形で滞在している。大社が処分を下すまでの間の繋ぎという訳だ。

 

「は?面会できない、だと?」

 

 若葉は目の前の大社幹部の人間を前にして、困惑の声を上げた。共にいる俺とひなたも不審の眼差しを向けている。

 

「はい。郡様は現在、精神に多大な異常が見られる状態であり……同じ勇者である貴女方と会わせる事には様々なリスクが伴います」

 

「だから、面会は出来ないと?ですが、巫女兼お目付け役である私まで会えないのは何故です?」

 

 ひなたの疑問も想定の範囲内だったのか、男は淡々と続ける。

 

「巫女の中でも最高位にあらせられる上里様も同様です。我々は今、我々の方法で慎重に彼女の療養を探っています」

 

 つまりは、余計な真似をするな、と。

 俺は厳しい目つきで睨みながら、努めて冷静な思考を保つ。

 

「……話にならないな。お前らがそうやって監督した所で、彼女の心の傷を癒せるとでも?思い上がりもいい加減にしろよ」

 

 ため息交じりに、語気を強めて言い放つ。

 

「お前ら、チカっちのカウンセリングの為に、親と一緒に暮らさせようとしてたみたいだな?あいつの親は……元から、娘と一緒に暮らせるような状況じゃなかったんだ。それをろくに調べもせず、的外れな救済で彼女を追い込んだのは何処のどいつだ?」

 

 千景と両親、ひいては村での立ち位置や関係性。そんな事は、大社ならすぐにでも調べられた事だ。

 その上で両親や故郷と関わらせない。行かせない。それだけで良かったのに、大社はあろう事か千景を最大の禁忌に触れさせてしまった。

 それをろくに行わず、彼女の心の傷の本質を理解しなかった奴らに任せることなど誰が出来る?答えは否、断じて否だ。

 

「そ、それは……我々も――」

 

 言い淀む大社幹部に、俺は更に語気を強めた。

 

「分からないか?お前らの監督不行き届きには、もう付き合ってられないって言ってるんだ」

 

 研ぎ澄ませた剣気をこめて凄めば、例え大の大人であろうとたじろぐ。それだけ、俺達はこれまで沢山のものを見て、感じ、乗り越えてきた。

 

「……通して、いただけますね?」

 

 ひなたが前に出て言い放つと、もはやそいつに俺達を止めることは出来ない。

 俺達は固まった大社幹部を横目に、千景に会うべく大社の施設内部へと歩を進めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。