賢者が何百年と研究を重ね創り上げた水薬。
1週間以内で綺麗に傷口の処理がされた欠損を繋ぎ合わせる事が出来る。
欠損部位を無くした状態で1週間以上経った場合は再生薬と蘇生薬の合成品を飲み、想像を絶する痛みに耐え、リハビリをしなければならない。
城と町を繋ぐ跳ね橋を渡ると、そこは見事な町並みであった。
昨日もチラッと見たけれど、近くで見るとますます異世界に来たんだなぁと実感させる。
石造りの舗装された町並みに、家、そこに垂れ下がる看板。
そして食べ物のおいしそうな匂いが立ち込めていて、少しお腹が減ったように感じた。
「これからどうします?」
「まずは武器とか防具が売ってる店に行きたいな、これだけの金があるのなら良い装備とか買えるだろうし」
盾しか持っていない俺はまず武器が必要だ。
得物が無ければ魔物とかと戦えないし、あいつらに追いつくのだって難しいだろう。
何せ、あいつ等は成長する武器を持っているのだ。
それなら少しでもスタートダッシュせねばあっという間にぶっちぎられてしまう。
「じゃあ私が知ってる良い店に案内しますね」
「お願いできる?」
「ええ」
マインはスキップするような歩調で俺に武器屋を紹介してくれる。
城を出て10分くらい歩いた頃だろうか、一際大きな剣の看板を掲げた店の前でマインは足を止めた。
「ここがオススメの店ですよ」
「おお……」
店の扉から店内をのぞき見ると壁に武器が掛けられていて、まさしく武器屋といった面持ちだ。
他にも鎧とか冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。
これは期待できるな。
「いらっしゃい」
店に入ると店主に元気良く話しかけられる。筋骨隆々の、まさしく絵に描いた武器屋の店主って感じの人がカウンターに立っている。これでぶよぶよの脂肪の塊みたいな店主だったらそれはそれで嫌だったから良い。
「なかなか良いモノが揃っているな…」
「お、お客さん初めてだね。当店に入るたぁ目の付け所が違うね」
「ええ、彼女に紹介されて」
そう言って俺はマインを指差すと、マインは手を上げて軽く手を振る。
「ありがとうよお嬢ちゃん」
「いえいえ~この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」
そう、今の俺の服装は異世界の服なのだ。
ともすればお上りにしか見えないか、もしくは変な奴だ。
「親父さんも分かるでしょ?」
「となるとアンタは勇者様か! へー!」
まじまじと親父さんは俺を凝視する。
「あんまり頼りにはなりそうに無いな……」
「…はっきり言いますねぇ。これでも戦場帰還者なんですよね」
「おっそうなのかいなら期待しとくぜ盾のあんちゃん」
言っちゃ何だけど、確かに頼りなくは見えるだろう。だから強くなるわけだし。毎日のトレーニングも欠かしていないし。
「良いものを装備しなきゃ舐められるぜ」
「でしょうね……」
ははは……表裏ない気持ちのよさそうな人だ。
「噂だとハズレって聞いてたが大穴みたいだな」
どうして俺の噂の伝達は早いのだろうか。
まあ、いい。気にしたら負けだ。
「盾の勇者である岩谷錵寅と申します。今後も厄介になるかもしれないのでよろしくお願いしますね」
念を押して親父に自己紹介だ。
「カインねえ。まあお得意様になってくれるなら良い話だ。よろしく!」
まったく、元気な店主だ。
「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」
マインが色目をしながら親父さんに尋ねる。
「そうだなぁ……予算はどのくらいだ?」
「そうねぇ……」
マインが俺を値踏みするように見る。
「銀貨280枚の範囲かしら」
所持銀貨900枚の中で280枚……宿代とか仲間を雇い入れる代金を算出すると相場なのかな。
「お? それくらいとなると、この辺りか」
親父さんはカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本、持って来る。
「あんちゃん。得意な武器はあるかい?」
「この世界に来てからこの盾以外を持っていないからなんとも言えないな。」
「となると初心者でも扱いやすい剣辺りがオススメだね」
親父さんは数本の剣をカウンターに並べた。
「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメかな」
「ブラッドクリーン?」
「血糊で切れ味が落ちないコーティングが掛かってるのよ」
「へぇ……」
そういえば俺の世界の刃物は何度も肉を切っていると切れ味が落ちるって聞いた覚えがある。
つまり切れ味が落ちない剣って訳か。
中々の業物みたいだ。
「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだよ」
これは使用している鉱石による硬度か?
鉄のカテゴリー武器って感じか。
「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨280枚だとこの辺りだ」
「叩いてみて良いか?」
「ああ、いいぞ」
ポケットから前世の母の遺品である指輪を取り出し、指輪の森鉱石を磨いた宝石で叩いた。
並べられた剣は全て均一に鍛えられていた。
予想より高品質であり驚いた。
「結構良い剣だな」
徐に剣の柄を握り締める。
音的に分かってはいたが、意外と重量がある。
持ってる盾が軽すぎて不安だったがこれぐらいの重さが初心者向けなら大丈夫だな。
この武器で出会う魔物と戦うのかぁ……。
バチン!
「イッ!」
突然強い電撃を受けたかのように持っていた鉄の剣が弾かれて飛ぶ。
「お?」
親父さんとマインが不思議そうな顔で俺と剣を交互に見る。
「なんだ?」
俺は落としてしまった指先で剣を拾う。
先ほどのような変な気配は無い。
なんだったんだ?
そう思いながら持ち替えた。
バチ!
「イッテ!」
だから何なんだよと俺はいたずらかと親父を睨むが、親父は首を横に振る。
マインがするはずも無いけど、俺はマインに顔を向ける。
「突然弾かれたように見えたわよ?」
そんな馬鹿な。
ありえないと思いながら俺は自分の手の平を凝視する。
すると、視界に文字が浮かび上がってきた。
『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』
なんだコレは?
急いでヘルプを呼び出して説明文を探す。
あった!
『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘に使うことは出来ない』
なんだって!?
つまり俺は盾以外を使うことが出来ないってのか!?
盾だけで戦うなんてどんなクソゲーだよ。
「えっと、どうも俺はこの盾の所為で武器が持てないらしい」
苦笑いを浮かべつつ、俺は顔を上げる。
「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」
俺は親父に盾を持つ手を向けて見させる。
外れないのだから仕方が無い。
武器屋の親父が小声で何かを呟くと、盾に向かって小さい光の玉が飛んでいって弾けた。
「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」
「あ、分かります?」
よくスモールシールドだと理解した。
ステータス魔法にもスモールシールドと記載されていた。
(伝説武器)と言う項目が付いてるけど。
「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」
見終わった親父は目線を俺に向けてトレードマークの髭を撫でる。
「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」
「お願いします」
「銀貨250枚の範囲で武器防具を揃えさせるつもりだったが、それなら鎧だな」
盾は既に持っているわけだし、結果的にそうなるよな。
親父さんは店に展示されている鎧を何個か指差す。
「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険向きじゃねえな、精々鎖帷子が入門者向けだろう」
「…革鎧は無いか?」
「革鎧かぁ。ちょっと裏を見てくるからちょいとばかしこその鎖帷子でも見てな」
待っている間に俺はくさりかたびらに手を伸ばす。
ジャラジャラ……。
鎖で編まれた防具。
そのまんまだよな。防御は見たとおりって所か?
ん? アイコンが開いた。
くさりかたびら 防御力アップ 斬撃耐性(小)
ふむふむ、剣の項目で出てこなかったのは装備できないからだな。
「あったぞあんちゃん。その、なんだ、前に来た冒険者から買い取ったもんでボロいがまだ使えるぞ。」
「あれの値段はどれくらいなんですか?」
マインが店主に尋ねる。
「おまけして銀貨100枚だな」
「買取だと?」
「ん? そうだなぁ……新古品なら銀貨90枚で買う所だが、この革鎧はまぁ、買取不可だから」
「どうしたの?」
「盾の勇者様が成長して不必要になった場合の買取額を聞いていたのですよ」
なるほどなぁ……俺もLv1だし成長したらもっと強力な装備が着用できるだろう。
これより下の装備もあるようだけど、現状だとこれが一番効果が高いみたいだ。
「じゃあこれをください」
「まいど! ついでにマントもオマケしておくぜ!」
店主の気前のよさに俺は感謝の言葉も出なかった。銀貨100枚を渡し、革鎧を手に入れた。
「ここで着ていくかい?」
「はい」
「じゃあ、こっちだ」
更衣室に案内され、俺は渡された革鎧に着替えた。
元々着ていた服は店主がくれた袋に入れる。
「お、少しは見えるカッコになったじゃねえか」
「ありがとうございます」
褒め言葉なんだよなコレ。
「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」
「そうだな」
冒険者っぽい格好になった俺は気持ち高らかにマインと一緒に店を出るのだった。
それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。
途中、国の騎士っぽい見張りが会釈してくれたが、俺というよりマインに向かってのように感じた。
まぁ、気にするほどの方では無いか。
冒険の始まりだ。
セルリン
古代エルフ語にて小柄で黒い者の意味を持つ
皇帝が拾ってきた魔族の一種
肌は褐色で側頭部、正確には耳の上3㎝前後に2つのツノが額に向け生えている。背は種族全体的に低く最も高身長のものでさえ150を切っていた。
文明的に不可能に近い銀の細かな細工の施されたナイフなどがあり、手先が器用である。
食文化は雑食であるが、人類や魔族の肉は食べず果実や山菜などを食べていた。この事から人類種と魔族に害は無いと判断する。
ゴブリン種と違い見た目は小柄なのとツノを除けばほぼ人類種と同じ見た目である事と、1時間の言語学習にて片言ながら話せるようになったことからゴブリン種より知能は高い。
この事からゴブリン種の亜種に近いと推測。
族長の娘が皇帝のお気に入りになっていた為、帝都の第8外壁内に住居を作成、移住待ちである。