※悪役令嬢ものでも追放ものでも婚約破棄ものでもありませんし主人公は女の子に生まれ変わった男の子です。
◆気がついたら公爵令嬢に転生していて王子との結婚を1年後に控えていた僕。男と結婚なんてどうしても嫌だけど拒否できる立場じゃない。なら悪役令嬢になって追放されればいいって前世の知識にあるしやってみよう!ということで結婚相手の身代わりとして王子に押し付ける聖女ちゃんも探し出して準備万端……だったんだけど、シースルー女神さまからの神託で魔王の元に向かったらまさか結婚する予定だった王子が……。いやまぁ、男と結婚しないならいいけどなんか違う……。
◆長編として作ったものを2万字の短編にしてみました。TS百合もの。女の子たちとくっつくハッピーエンドです。主人公は多感なお年ごろの男の子な中身なので女の子の裸に敏感で女の子の機微に鈍感です。
◆本作は別の形で投稿したものを短編用に加工しています。他投稿サイト様でも投稿しています。

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女の子に生まれ変わった僕が悪役令嬢な追放を企んで失敗して勇者になったけど、まぁいいかってお話

僕、婚約破棄っていうのをされたい。

 

すっごくされたい。

 

だって男だもん。

体は女の子だけど。

 

だから今朝ふと思い出した婚約破棄って言うのに唐突に憧れたんだ。

 

でも婚約破棄ってどうやるんだっけ?

僕、そういうのに詳しくないから難しそうだなぁ。

 

「お嬢様、間もなくご到着です」

 

確か昔って基本的に親同士どころか家同士で結婚するもので、婚約ってのは「こいつらは結婚するからてめえたちにはやんねえ!」っていう宣言だよね?

 

それを覆すって言うのはそれ以上のメリットが両方の家にあるか、それ以上のデメリット回避のためだったりする政略的な何かだよね?

 

どっちかだけに都合が良かったりしたら戦争だよね?

中世とか婚約破棄ってそう言う価値観だよね?

 

まぁ腐ったお偉いさんとか政治的な横やりで変わったりもするけど基本的にはそういうものだよね?

 

「あー、どうしよーですわー」

 

ちくしょう、心は男なのに体が女の子だからわがままお嬢さまって感じのだらしない声でもかわいいなちくしょう。

 

とにかく、この婚約嫌がってるのも破棄してメリットあるのも、調べた限りじゃこの世界で僕だけっぽいから身動き取れない。

 

だって僕、男だもん。

 

間違えた、中身が男だもん。

男と結婚なんて絶対やだよ?

 

でも体は少女漫画テイストの女の子だから他の人からはうらやましがられる結婚っていうね。

 

金髪碧眼でなんか髪の毛ぶわってなっててドレス着させられてる貴族のご令嬢な今世の僕。

 

生まれ変わっちゃったものはしょうがない。

 

確か前世の授業で「ふーん」って聞き流してた、まだ魔物の脅威が厳しかった時代の絶対王政な世界なのもしょうがない。

 

公爵っていう身分なお貴族さまなのも……すっごくめんどくさくてうざったいけどまだしょうがないしむしろ幸せな方なんだって思う。

 

でも今世の僕……女の子だもんなぁ……。

 

僕って言う「わたくし」は公爵令嬢で第一令嬢な長女、男子は弟がひとりって状況らしい。

 

つまり僕は高値で取引される宝石だ。

 

せめて兄が数人居ての末っ子とかならまだしもさぁ……今世の両親にはもっとがんばっておいてほしかった。

 

でもまだお母さんに至っては20代だししょうがないか。

僕が産まれたのってお父さんたちが結婚してすぐだって言うしな。

 

でも悲しいことに第一王子と同世代で正室として格が合うのが僕くらいだから結婚も物心着く前に決められてたんだよちくしょう。

 

もちろん近世までの価値観だからたくさんの元気な子供を有無って言う宝を産む必要が

「おげぇぇぇぇぇ!!」

「お嬢様ぁぁぁ!!」

 

メイドさんがとっさに出してくれたゲロ袋にご令嬢らしからぬことしちゃう。

 

いつものことで慣れてるから服に着かないようにバッチリのタイミングでお口の前に用意されてるゲロ袋、じゃないおゲロ袋ですわ。

 

だってしょうがないじゃん、子供できるってことはえろえろなことするんだから

「えろえろえろえろ――っ!」

「次のです」

「あ、どうもえろえろえろえろー」

 

ふぅ。

 

メイドさんが紅茶を飲ませてくれてぱたぱたと換気とぱふぱふ替えの香水をしてくれてるから僕はぐてってなりながらひと安心。

 

あ、レモネードありがとー。

 

え?

 

ゲロインなのに宝石だって?

 

だって男とすること考えたらえろえろなことを

「えろえろえろえろー」

「今日は多めですね」

「お嬢様もお忙しいですから……」

 

ふぅ……僕がするんじゃなくってされるって想像することになるでしょ?

 

そうするとこうやってゲロっちゃうでしょ?

 

つまり僕はまだ心が男ってことで安心できるんだ。

 

つまり僕が嫁ぐときが寿命ってこと。

想像するだけでこうなるんだから実際になったらそのまま死ぬでしょ。

 

僕が男にってのは受け入れられない。

 

僕はヘテロなんだ。

ホモじゃない。

 

侍らせる方なんだ。

侍らせられたくはない。

 

入れる方なんだ。

入れられたくはない。

 

僕も王子みたいに貴族の男に生まれて女の子を何人かときゃっきゃうふふする人生過ごしたかった。

 

「あ――……」

「お嬢様……」

 

まぁちょっとやな思いするだけで死ねるんだからある意味幸せかな?

 

たぶん入れられた瞬間にショック死だろうしな、このレベルの拒否反応じゃ。

 

一瞬ならまぁ……覚悟はできるよね。

 

アイツにされるって考えるだけで胃の中が空っぽになるんだ、僕の男としての魂が女の子な体の本能を圧倒的に上回ってるからこそショック死を期待できるんだ。

 

まーこの時代ってばとにかく人の命が儚いし?

 

相当大変だったらしく、人類が魔物の脅威を押し返し始めたタイミングの記録がほとんど残ってないからいつどーやって安全になり始めたのかも分からない始末だし?

 

前世の授業で習った年号だってかなり安定してきてからだもんなぁ。

 

一応、記憶が戻る前の僕が覚えてないながらも公爵令嬢の身分使って現代知識でチートしてたからうちの国周辺はなんとかなってるけど多分ムリだし?

 

うん。

 

昔ってば魔法の素養があれば男女関係なく戦場に放り出される時代だし……そう遠くない内に魔物相手に戦場で派手に散るか、結構近い内に人間相手に寝床で散るかのどっちかだ。

 

これで中身が女の子だったらさっさと王子を誘惑して結婚しちゃえば後方に下がって、まぁそこそこの暮らしはできるんだろうけど……悲しいかな僕は男だ。

 

……そんな僕。

 

なんでか公爵令嬢に生まれ変わっちゃった僕は結婚式の初夜って言うタイムリミットに一直線だ。

 

 

 

「ああわが愛しきフィアンセ……ああ……」

 

「うざっ」

とはさすがに返せないから苦笑いをしながら待つしかない王子の出迎えという名の独壇場。

 

男がAh…とか喘がないでよ気持ち悪い。

 

あー、うん。

 

毛穴が全部開いちゃいそうなセリフってシンデレラ症候群な女の子なら好きそうだよねぇ……僕は男だからチキン肌になるだけだけど。

 

でも肩とか胸部装甲の上とか顔とか太ももとかのは上手に隠せる程度には慣れてるお出迎え。

 

王城。

 

記憶にある……過去世ってのでテーマパーク的なお城を覚えてるけど、それより何倍もおっきいお城。

 

ここに来る度にこうして最悪のお出迎えだ。

 

くそったれ。

 

「貴女は今日も世界で1番……」

 

鳥肌立つセリフは脳みそ素通りさせる。

どうせいつもおんなじこと言ってるだけだし。

 

……ねぇ、誰か代わって?

 

女の子ってこういう優男好きでしょ?

今なら時期王妃って言うプレミア付きだよ?

 

しかも、僕も女なのに背が高い方だけどこいつはさらにでかいよ?

 

多分2メートル超えてる。

 

でけぇ。

 

とにかく背が高くって筋肉がなくってひょろくって二枚目ってやつで……まぁ女物の漫画とかに出て来そうな金髪碧眼……ってのは今世の僕も性別は反対だけどおんなじか。

 

まぁイケメンだよね。

ねじ切れれば良いのに。

 

ナニとは言わないけど。

 

ついでにねじ切れたらソレちょうだい?

 

僕も次生まれ変わるときはこいつみたいなイケメンで背の高い男がいいなって。

 

「姫……ああ……」

「嫌ですわぁ王子。 ワタクシの身分は王家のものではございませんのよおほほ」

 

ですわ、ですのよ、ですわよ、ですの。

 

「ほんっとーにこんなしゃべり方するんだー」って話し方を家庭教師のおばさんから叩き込まれた僕。

 

「ほんっとーにこんなしゃべり方で良いの?」って思うけど良いらしい。

っていうか他のお嬢様方とかご婦人様方とかもおんなじだしね。

 

みんなして「おほほ」とかマジで言ってる。

 

マジ受けるんだけどーおほほ。

 

中世貴族ってすげぇ。

 

「ほう。 今日のドレスは南の方の流行りの意匠が織り込まれて……」

 

あ、こら、さりげなくおっぱい触って来んなコイツ。

腕組むついでにパイタッチとか破廉恥すぎない?

 

さぶいぼがぶわってなるけど器用にそこだけ引っ込める技を習得した僕は笑顔で「ですわ!」なんて気がつかないフリするしかないけどさ。

 

だって婚約してるし相手は身分が上の男だし……。

 

ここで「セクハラですわよ!!」とか言って背負い投げしたら一族もろともギロチンでしょ……?

 

だから僕は今日も我慢する。

 

コイツと結婚して初夜を迎えなきゃ行けない人生の墓場っていう絶望を想像しないようにして。

 

あ、吐きそう……。

 

でもお腹にぐっと力を入れて根性で抑えた僕えらい。

 

 

 

「あ〝ぁぁー疲れましたのー」

「お嬢様、はしたないですよ」

 

ぼふりとベッドに飛び込んだ僕の背中から馴染みのメイドさんの声が降ってくる。

 

だってしょうがないじゃん……?

 

あれからずーっと王子と王様と王妃さまとその他大勢から「姫! 姫!」って。

 

僕、女の子じゃないんで……アイドルとか憧れてないんでそういうのはちょっと……。

どっちかって言うとそう言うのを推したい方だったりするわけで……ねぇ?

 

そう思いたいけど僕ってばこの世界じゃあ公爵令嬢なわけで、この時代の女ってことは子供を産むのが当たり前なわけで。

 

ぐへへなおじさんに無理やりえっちなことされて子供わんさかになってないだけ相当マシな部類だからそこだけは感謝しなきゃならないちくしょうな世界だ。

 

……仮に男なのに女としてやられるとして。

 

「おっさんと美男子、どっちがマシ?」って聞かれたらしぶしぶ「こっち……」って指差すレベルだけど嫌なものは嫌だ。

 

くそったれ!

 

「shitですわ!」

「お嬢様、存在しない言葉にしても意味は伝わってしまいますよ?」

「damn itですわ!」

「お嬢様……」

 

ここが現代の言葉も文字も通じないくらいの昔ってのだけが救いだよ。

 

現代の言葉でならいくら声に出しても怒られないからね。

まぁニュアンスは伝わっちゃうし人目があるとではできないけど。

 

でもそのせいで僕は男と結婚しなきゃ行けないんだけどね。

自分の人生は自分で決めるっていうきらきらした世界はここじゃない。

 

「女として生まれて男と結婚したくないですぅ」「できたら女と結婚したいですぅ」なーんてのは遙か彼方の夢物語。

 

だってまだ魔族との融和とかそんな時代じゃないから子供産んでも産んでも足りない時代だし。

 

最近流行りの遊戯盤みたいに魔王が人類に対して「どうしよっかなー、良いものくれるんなら手加減してやるんだけどなー」「弱い順に四天王を送ってやろう」「魔王城に近づくにつれて強くなる配置にしてやろう」「宝箱をいいところに置いておいてやろう」みたいな世界が優しいくらいっていう意味で。

 

どんだけかって言うと後世で飽きるほどする戦争ってのがこの時代はまるでないレベルでやばいの。

 

現地人視点になってみると絶望感が結構ヤバい。

ほんっとぎりぎりでなんとか押し返せてるって程度にヤバい。

 

「これほんとに魔族押し返せるの……? その前に人類滅びちゃわない……?」ってレベルでヤバい。

 

……これ、もしかして僕、過去によく似た世界に転生とかしてない?

 

だってさ、この時期……幅が何百年もあるけどこの時代に魔王倒して帝国作り上げた初代皇帝とか欠片も気配ないんだけど……?

 

勇者からの魔王退治からの王様からお姫さまと国をもらって帝国築いた初代様、っていう僕たち男の理想みたいな人のさぁ。

 

いつ出て来るんだろうね。

まぁ何百年だから会えない確率の方が高いか。

 

でも居てくれなかったら人類終わるなこれ。

 

「………………やばいですわ」

「お嬢様、そろそろお召し物を」

 

英雄が居ない世界とかどう考えてもお先真っ暗。

 

やばいですわ!

 

まぁそんなのはどうだっていい。

いや良くはないけど僕的には二の次なんだ。

 

僕にとっての破滅、死とは結婚。

 

男、つまりはアイツと結婚してえろいことされるってことで

「おろろろー」

「お嬢様、コルセットを脱がないから……」

 

む、そう言えばそうだった。

 

僕はベッドからのそりと起き上がると、手際よくささっと用意された袋の中に吐きながら何人かのメイドさんたちにしゅるしゅるって脱がされていく。

 

偉い人って自分じゃ動かないんだよね。

っていうか動けない。

 

1個1個にみんなのお仕事が割り振られてる。

 

みんなはそれで生きているんだ、僕が自分でやっちゃうと女の子ひとりが路頭に迷うんだ。

 

でもこの時代って単純労働で生きて行けるんだから素敵だよね……。

 

しょうがないから身の上を嘆いた僕がせめてもの慰めに選んだ、僕の好みの女の子たちに身の回りをお世話されるって言う幸福をかみしめよう……体が女の子だからお手つきできないけど。

 

でも思い込もう……これはハーレムなんだ……ハーレムなんですわ……。

 

でも生えてないからぜんぜん嬉しく……あ、かわいこちゃんたちにかいがいしくお世話されるの嬉しいですとっても。

 

「今夜のお召し物です」

「わぁ……素敵……」

「お嬢様……お美しい」

 

えろえろっと吐き終わった僕はネグリジェっていうえろい服を着させられてる。

 

……うん。

 

王子との夜のためにいろいろ用意してるもんね。

 

知ってた。

裸に剥かれるのにも慣れてるし、知ってた。

 

「お加減はいかがですか? お嬢様」

 

えろいですわ♡

 

……うん、目の保養にはなる。

 

鏡……すっごく高いらしいし僕の知ってる鏡とは作り方すら違うらしいね……に映っているのは長いふわふわな金髪で青い目の女の子。

 

背は多分前世の僕よりずっと高くって顔つきがすっごく整ってて……語彙の少ない僕じゃ上手く表現できないけど「ザ・美少女」。

 

いやぁ男なんておっぱいにしか複雑な形容詞使えないもんだし……?

 

ただ女らしいだけじゃなくってしっかり筋肉ついてる高身長ってところがポイント。

 

健康的なエロスって良いよね。

 

残念ながらおっぱいはちっちゃいけどちっちゃい……って言っても体格に対してだから多分Cカップくらいはあるんだし「元気な赤ちゃんをいっぱい産めるわね!」って今世のお母さんに

「えろえろえろえろー」

「お嬢様……お労しい……」

 

ふぅ。

 

吐くものもないから胃液だけで臭くないのが救いだなぁ。

 

て言うか僕の排泄物ってクサくないんだ。

不思議だよね。

 

むしろ良い匂いとか言ったら変態っぽいけど事実だからしょうがない。

 

ついでに何故か漫画みたいに綺麗な虹色の液体になってるし……女の子って本当にそうだったんだね。

 

美少女の出すモノはなんでもご褒美ってのは本当だったらしい。

 

このことを少なくとも前世で覚えてる限り知らなかったから、僕は前世で女の子と良い関係になる前に死んじゃったんだって分かる。

 

あぁもったいない。

 

生えてたものを使わないで死ぬなんて男としてこれ以上ないくらいに悲しすぎる死に方だ。

 

今、ここに生えていないからこそそう思う。

 

「……有り難う。 わたくし、もう寝ますわ」

 

でも体力って言うか精神力を使い果たしちゃったからそうそうにベッドに潜り込む。

 

天蓋ってやつがついてるやつに。

 

「…………………………………………」

 

灯りが消されて静かになった部屋。

 

その中で僕は決心する。

 

「……やっぱりアレしましょうですわ」

 

アレとはつまり婚約破棄。

 

婚約破棄って言葉で思い出した前世から引っ張り出した知識。

 

そこにはこうあった。

 

なんかすんごく悪いことして王子から断罪されれば婚約破棄して追放してくれるって。

 

具体的にどういうのだったのかはあんまり興味なかったから覚えてないけど多分そんな感じだよね、悪役令嬢結婚破棄断罪追放って。

 

違う?

 

まぁ細かいこと気にしない気にしない。

 

僕は目的である断罪からの追放してもらえたら良いんだから細かいことはその場でなんとかすれば良いよね?

 

だって悪いことって簡単でしょ?

良いことして褒められるよりもずっと楽なはずだ。

 

「よしっ、ですわっ」

 

決めた。

 

僕、悪役令嬢になって婚約破棄されて断罪されて追放される。

 

タイムリミットは1年後くらいの結婚式の夜。

 

その1年のあいだでとことん悪いことして上手に追放されるんだ!

 

 

 

悪いことって具体的に何したらいいのかさっぱりだけど今世の僕は完璧だ。

 

綺麗なブロンドに宝石みたいな青い目に下着で盛れる程度のほどほどのおっぱい、あとなんでもすぐ覚えて思いつく頭と魔力っての使う才能が飛び抜けてるんだって。

 

ほんと、これで男……そうでなくても庶民とかで結婚しなくて良い身分なら良かったのにね。

 

まぁ今さら嘆いてもしょうがない。

モノがひっこぬけておっぱいがついちゃったのは変わらないしな。

 

むしろ僕自身がかわいいから鏡の前に立つだけで幸せだし。

 

「姫様!」

「あら聖女様、ご機嫌よう」

 

今日もかわいい僕って言うのをかみしめていたら廊下の先から走ってくる声。

 

灰色の髪の毛に人懐っこい顔、あとおっぱいな子。

妹にするならこういう子って感じのわんこ系な子。

 

あー、今世のお父さんとお母さん量産してくれないかなー。

 

「あ、この子聖女枠だわ」って悟ったから公爵令嬢兼次期王妃な身分を利用して神託もらって聖女ってことにしてあげた子だから聖女ちゃん。

 

「姫様、今日もお美しいです!」

「聖女様こそいつも素敵ですわ」

 

特にお貴族さまなお嬢様方ではまず見られないアクティブさのおかげで揺れる素敵なものが。

 

「姫様からまた……はぅぅ」

 

灰色の髪の毛って言ったけど、つまりは銀髪ってわけで……なんか魔力的な問題で蔑まれてるのもまた悪役令嬢ものの聖女っぽいよね。

 

あとおっぱいおっきいし?

すっごく性格いい子だし?

 

懐いてくれてるし?

おっぱいだし?

 

おっぱいは大事。

 

男なんておっぱいの前にはなんにもできないか弱い存在なんだ。

 

「ひ……姫様ぁ……」

 

この子も多分に漏れずなんかいじめられてたから助けたせいかやたら好感度が高いらしい僕。

 

まぁ次期王妃が「これは銀色ですわ」って言えば「これは灰色ではなく銀色です!!」ってなるし「この方はわたくしのお気にですわ」って言えばみんなの態度が180度変わるのが絶対王政の習わしだよね。

 

前世的に庶民出の僕はそういうの嫌いだけど、僕がひとこと言っていじめがなくなるならそれで良いよね。

 

ついでに懐かれたし。

 

「姫様っ!」

「あらー♡」

 

飛び込んできてぎゅうっと抱きしめてきて……背の高い僕との身長差的に僕のおっぱいに聖女ちゃんの顔がうずまって僕のおなかに聖女ちゃんのおっぱいが押し付けられる完成形。

 

おっぱい女の子ってスキンシップ激しいよねおっぱい。

 

うんうん、良いよねぇ良いよねぇ。

 

無駄に身分高いもんだからみんな距離取っちゃっててほんと、こうして直接体が触れるのってこの子かアイツくらいだし。

 

「ああ姫。 今日もお美しい」

「あら王子、居ましたの……」

 

なんとかトーンを下げないように気をつけるけど僕の気分はがた落ちだ。

 

せっかく嬉し恥ずかしだったのに横やりだもんな。

ふぁさって髪の毛やってる王子がぬぼって突っ立ってる。

 

「……これは王子様。 お早う御座います」

「……これは聖女。 健勝そうでなにより」

 

あれ?

 

なんか2人とも急に声のトーン下がってない?

 

そんなに寒いかな、この廊下。

あ、なんかぞくってした。

 

最近こういうの良くあるけどなんでだろうね。

 

王子は薄ら笑いを引っ込めて聖女ちゃんは真顔になってじっと見つめ合っている。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

真剣なまなざしで見つめ合う男女。

 

……良い感じだな!

 

2人ともお互いをかなり意識している様子。

だって僕が随分苦労して引き合わせたもんな。

 

聖女ちゃんは平民出身で王子は王族。

 

中世な世界観じゃそもそも勝手に声かけちゃいけないレベルの身分差だ。

 

でもそこは僕だからいろいろやって「僕たちの歳の子供は身分差なく接しなきゃいけませんー」的な風潮にしたし、あと聖女ちゃんは女神さまの寵愛受ける聖女枠になったから実質的に聖職者で特権階級だし?

 

だから僕は王子に聖女ちゃんをくっつけたらいいわけだ。

 

簡単だね。

 

聖女ちゃんもいじめられっ子の平民から国の第一王子と結婚とかシンデレラなことが起きたらきっと嬉しいはず。

 

だって女の子らしい女の子だし。

僕みたいなエセおほほじゃないもん。

 

楽勝楽勝。

 

「…………王子様? 先日は姫様と素敵な舞踏会をなされたそうで……夜更けまでご一緒で。 とても羨ましいです」

「…………聖女こそ、学園では私の姫と離れることなく。 少々近すぎるとは思うが……姫自身が望んでいるから大目に見ているのを忘れるな」

 

「いやですよぅ王子様ぁ。 『おともだち』なら当たり前じゃないですかぁ、ねぇ姫様?」

「え? あ、そうですわね、大切なお友だちですわね?」

 

「その前に姫は私の婚約者なのだが……」

「あっはい、そうですわね」

 

うんうん、まだ2人とも意識し合って間もないから恥ずかしいんだな。

 

聖女ちゃんもはにかむようにしてるし王子だって真剣なまなざしを向けてるし。

 

これは婚約破棄間近だな!

 

「おふたりが仲良さそうで、わたくしとても嬉しいですわ!」

 

思わず両手を顔の近くで合わせるって言う三角メガネの家庭教師から仕込まれたあざとい動作が出るけど気にしない。

 

どうせ僕がやったって誰もなんとも思わないでしょ。

 

「………………姫様がおっしゃるのでしたら」

「………………姫がそれを望むのでしたら」

 

そうして1歩ずつ歩み寄ってこしょこしょ話を始めるふたり。

 

顔赤くしてなに話してるんだろーなー、良いなー聞きたいなー。

 

恋人になるにはまだちょーっと時間かかりそうだけど……1年後の結婚式までに僕がフェードアウトするくらいになればいいなって思う。

 

どうぞお幸せにー。

 

僕は追放先でスローライフでもしてるね。

 

そもそも僕前世じゃあ家でゆっくり過ごすタイプだったから王族も公族もやだし、田舎暮らしとかしたいもん。

 

疲れた現代人が田舎に行って気楽に農作業とかして暮らしたいっての、よーく分かるよ……前世も多分高校生で現世でも高校生な年齢なのにね。

 

……そう言えば初代皇帝が学園っての正式に採用したらしいんだけどいつの話なんだろ?

 

聖女ちゃんと知り合うためわざわざ貴族とか平民とかの有志で学園っぽいの運営してるけど規模は全然小さいし……うーん。

 

 

 

「実はこの世界はもうすぐ滅ぶのです」

「知ってましたわ」

 

僕はすっごい立場な上にすっごく魔法っての使えるから何かとクエストに駆り出される。

 

まぁ王子と一緒に居るのが嫌で積極的に引き受けてるだけなんだけども。

 

そんなわけで王様からのクエストで来た先の神聖な泉から出て来たのは女神さまらしき存在。

 

なんで女神さまって分かるのかって?

 

水属性なのかな、青い髪の毛とシースルーな布的なお召し物がすけすけで大変にお美しくございますですことからこの御方は本物の女神さまということですわよ!

 

ついでに皇帝が好き過ぎるってエピソードばっかりないたずら女神さまって現代でも絵本で有名だしな。

 

まぁこんなにすけすけでぽちっとしてるシースルーなのは時代的なものなんだろうね、きっと。

 

けどそっかー、世界滅んじゃうかー。

やっぱここ初代さま居ない世界なのかー。

 

「魔王討伐を、私の直系の子孫たる貴女に頼みたいのです」

「おろ? 王家でなく? あ、別に良いですわ?」

 

たぶん正統性と年齢的にぴったりな王子、今ここに居ないけど良いの?

 

何日か待ってもらえばモノホン引きずってくるけど?

 

まぁ公爵だし王族の血濃いから女神的には大差ないのかもね。

ほら、神様とかっておおざっぱってのがテンプレだし。

 

「改めて話しますと……」

 

きれーなボディラインを眺めながら聞くには、やっぱり人類は滅びるらしい。

 

それも1年後くらいにってのを未来視で見たんだと。

 

すげぇ。

 

まぁ女神さまだしそのくらいできるか。

 

…………つまり僕、戦場で散れるっぽいな。

王子の手じゃなく魔物の手で死ねるらしい。

 

でもやっぱりできるなら生きたいよね。

 

あと僕ならまだしもこの世界の親とか友だちとか知り合いいっぱい居るしな。

 

「ですので貴女が魔王を倒してください」

「それは別に良いのですけれど……その魔王は宣戦布告も勝利宣言もしてこないのですわ?」

 

「アレは意志を持たぬ存在。 魔を統べる機構のようなモノ」

 

あーはいはい、世界の意志的なヤツですね。

遊戯盤のシナリオで定番のやつ。

 

僕ああいうの好き。

 

「それは貴女にしかできないとても困難なこと……引き受けてくださるのでしたら勝利の暁に願いを叶えましょう」

 

「え? 今何でも叶えてくださるとおっしゃいまして!?」

 

「?」

 

やっべ、つい神話の存在な女神さまに対して馴れ馴れし過ぎた……だって話し方がめっちゃカジュアルなんだもん……痴女もといシースルーなんだもん……かわいい女の子なんだもん……。

 

「もちろん。 魔力の主導権が私に移れば大概の事象は可能です」

「マジですの!?」

「マジ……ああ、本当ですよ」

 

女神さまってこの程度は気にしないらしい。

さすがは今でも主神な女神さま。

 

でもなんかノリで「なんでも!?」って聞いたら「なんでも」って言った!

 

言ったよね女神さま!

 

あ、仰りましたですわ女神さまが!!

 

「よっしゃですわ!!!」

 

ってことは脳筋で魔王倒しに行けば王子と結婚しなくて良いんだね!!

 

そうですわね!!

 

やばい、すっごく嬉しいんだけど……?

 

前世を思い出すまでは王子と結婚するって考えるだけでげろげろだったし、思い出したら思いだしたでより絶望しか見えなかった僕だけど、ここに来て運命の女神がほほえんでくれた。

 

「?」

 

ほら、ここにモノホンの女神さまがいてお美しい鎖骨とおっぱい見せてくれてるもん。

 

いやぁ……これは本当に良いものだ。

 

え?

僕自身も女じゃないかって?

 

それはそれ、これはこれ。

いくらでも別腹なのが良いものなんだ。

 

「……貴女は……いえ、今は良いでしょう……」

 

なんかジト目になるあたり僕の視線にちょいおこみたいだけど隠したりしないとっても良い人、あ、いや、女神さま。

 

そうだよね、良いよね。

 

今は同性なんだし細かいことは気にしない気にしないナイスおっぱい。

 

怒られたら「女性としておうらやましいと思っていたのですわ?」って返せるし。

そういう意味じゃ性別が女の子って言うのお得。

 

それにさ、一応僕なりに前世の記憶と今世の立場と今世の体に備わってたすんごい魔法の才能使って人類を少しは良い感じにしてるんだもん。

 

このまま運良く会えた女神さまの言うとおりにしてサクッと魔王倒しちゃえば王子と、男と結婚せずに済む……!!

 

魔王討伐っていう功績と女神さまからの直接なご神託があれば、さすがに結婚は取り消しだろう。

 

そんでいくら中世でも追放された腫れ物になれば男とくっつく必要はない。

 

この体を楽しむ生活も良し、素質ありそうな適当な女の子を見つけるも良しだ。

 

やばい、わくわくしてきた。

 

たぶん前世思い出してから初めてだこれ。

 

「やりますわー!!」

「魂と肉体が……珍しくはないですが…………」

 

人類の守護者的なポジションの女神さまもほほえんでくれている。

 

僕に風が吹いてきてる。

これはもう乗るしかないよね!

 

なんかぶつぶつ言ってるけど女の子ってそういうもんだって知ってるからどうでもいいやおっぱいおっぱい。

 

 

 

「姫ちゃん……いや、娘ちゃん! 必ず無事で帰って来るんじゃぞー!」

「あっはい。 女神さまの御神託に従い魔王を討伐して来ますわ」

 

「いつでも戻って来ていいのですからね……? 辛くなったら息子と騎士団に任せて」

「王妃様。 でしたら危なくなりましたら聖女ちゃ……様と避難致しますわ」

 

女神さまってばできる女……じゃない、できる女神さまだったらしく良い感じにご神託を王様たち主要人物の頭の中にシュートしてくれてたらしい。

 

「どーやって説明したもんかなー」って思ってたけど全部「お告げじゃ」で済んだもんなぁ。

 

やー、幸先良いなぁ。

おっと、幸先良いですわぁ。

 

「姫は私の命に代えましてもお守りする!」

「ありがとうございますわー」

 

「わっ、私も精いっぱいお守り致しますっ」

「ありがとうございますわ!」

 

その流れで良いこと言ってくれたらしく勇者パーティーは僕、王子、聖女ちゃんその他騎士団とかいろいろになったらしい。

 

王子も僕の貞操をちらつかせたら何でも言うこと聞いてくれるし、聖女ちゃんはなんか懐いてくれるから言うこと大体聞いてくれるし、その他の人たちは僕より身分下だから問題なし。

 

つまり……たった今から全ては僕の支配下だ……!

 

まぁ実際魔力ってのは特権階級ほど多いらしくって僕が飛び抜けて多くって王子もなかなか、騎士団の人たちもほとんど貴族だからまぁそこそこ。

 

詳しいことはよく知らないけど。

 

聖女ちゃんは女神さまのバフのおかげっぽいけど王子くらいに跳ね上がってるから僕たちが最適解っぽいんだよなぁ。

 

なんかできすぎてる?

 

でも初代さまが居ない以上、魔族退けるためにできることはやんなきゃね。

 

ノブレスオブリージュってやつ。

中世なのに特権階級で良い暮らししてるんだ、これくらいやんなきゃね。

 

「……聖女。 我が儘を言って姫を困らせてくれるなよ? 事あるごとに話をせがんだりして疲労を溜めさせるな」

「……まぁ。 王子様こそいつも甘えようとなされて。 せめて魔王を倒すまでは男性らしくしてくださる?」

 

「…………ほう。 随分と強気だな」

「…………ええ。 聖女、ですもの」

「…………………………………………」

「…………………………………………」

 

うんうん、息もぴったりのようでなにより。

 

ケンカしてる雰囲気だけど、実はふたりとも僕を挟んでるときしかこういう会話しないんだ。

 

犬って社会的動物だからお互いが傷つかないって分かってるときすっごく吠えてケンカするんだよね。

 

そういうこと。

 

僕が居ないときは普通に話してるっぽいし……あれだ、ラブコメの主人公とヒロインがケンカばっかりしてるってヤツ。

 

きっとそうだよね。

 

ふたりで肩くっつけながら同じお皿から食べたりしたり聖女ちゃんの服をふたりで持ってたり……さっさとくっつけ!

 

「………………姫は、私のものだ」

「………………どうでしょうか?」

 

きっと僕が居ないところではちょっとずつ「先ほどは済まない……建前上私は姫の婚約者なんだ……」「いえ……私こそ身分違いなのに……」ってなってるに違いないんだ。

 

この世界では稀少な物語ってヤツを前世からたくさん持って来てるんだから僕は詳しいんだ。

 

「こちらの方は……まるで対になるように…………………………」

 

あ、半透明になってるシースルー女神さまがじっとふたりのこと観察してる。

 

このふたりが早く恋人になってくれますようにって拝んどこ。

 

それにしてもお胸とお股がすけすけで大変よろしゅうございますわ♡

 

 

 

僕、旅とか好き。

だって男だもん。

 

楽しいものは楽しいんだ。

 

遊戯盤のシナリオみたいに1回でも負けたらデッドエンドってあたりがまた緊張感あってぞくぞくするよね。

 

これが噂に聞いたデスゲーム……!

 

「さすがの姫も不安か。 だが心配しないで欲しい。 ここには私が居る」

「あ、そうですの」

 

「私もい、居ますっ!」

「嬉しいですわ!」

 

武者震いをびびってたって勘違いされたのか王子からは鳥肌させられたけど聖女ちゃんので帳消しになった。

 

「……最近はお嬢様が楽しそう……」

「やはり今まではずっと……」

 

こんなときでもお貴族さまって人にいろいろ世話させるんだね。

お付きのメイドさんたちに汗を拭いてもらう幸せ。

 

僕、聖女ちゃん、あと王子とその他大勢のパーティーは順調に進軍中。

 

だって女神さまから魔王城っぽい遺跡までの情報とかそれまでの地図とか全部もらってるもん。

 

設定集もらえば誰だって楽々でしょ。

 

「今夜の献立は『牛っぽい魔物』ステーキがメインでございます。 まずはこちらの『貝っぽい魔物』のスープを……」

 

「美味しいですわ!」

 

「……意外と旨いな」

「見た目に寄らず……」

 

宮廷料理人さんたちのフルじゃないコースが結構美味しい。

戦いに支障が出ちゃダメってことで普段より量が控えめでお肉が多いのもポイント高い。

 

その材料が現地調達な魔物ってことに目をつぶれば。

 

まぁ人類圏の外は魔界なんだし、運んでこられる食料に限りがあるしっていうか大半が水分だしな。

 

見た目と倫理的にちょっとあれだけどいけるいける。

 

現代じゃゲテモノ料理だけどな。

 

「あら、王子様? そちらの『エビみたいな魔物』はお嫌いですの?」

「うむ……どうにも見た目が受け付けない」

 

「でしたらわたくしのこれと交換致しましょう。 半分食べてしまっていますけれどよろしいですわよね?」

「う、うむ」

 

カラーリングとスケールの問題でちょっとグロいけど実は美味しいのをありがたく頂く。

 

王子……こいつちっこいころから好き嫌い激しいし、特に肉とか好きじゃないからいつも分けてくれるんだよな。

 

この点はいいヤツだ。

 

しっかし男なのに肉嫌いとか変わってるよなぁコイツ。

 

そのくせ甘いのは好きだし。

 

甘すぎるデザートとかこっそり食べてくれるからほんといいやつ。

 

「……その手がありましたか……」

「あら聖女様。 いつも綺麗に召し上がられて素敵ですわ!」

「え、ええ、ありがとうございます……」

 

やっぱり庶民なら安さとボリューム重視の料理とかに慣れてるよね。

 

「む。 聖女、その料理にはこれを使え」

「あ、そうだったんですか……ありがとうございます」

 

「姫、次のワインはこちらが合うと思うが」

「あら、ありがとうございますわ」

 

キザったらしいくせにときどき妙なスイッチ入って世話焼きになる王子。

 

いちいち口を出してきたり見かねて手を出してきたり……おかんかお前。

 

王子だけど。

 

でもコイツ、人としてはいいヤツなんだよなぁ。

 

歯の浮くセリフも僕に対してアピるときだけで普段はまともだし、頭良いから知識チートな僕の言うことすぐに理解してくれるし、遊戯盤でもちょうど良い強さだし……本当、結婚が絡まなけりゃいいヤツなんだ。

 

ああもったいない。

 

なんかいろいろかみ合ってない気がする。

 

「ん――……?」

 

「どうしましたか?」

「いえ、なんでもありませんの」

 

僕が男だったり……あるいはコイツが女だったりのどっちかだったらまぁ良い感じに友だちになれたんじゃないかって思う。

 

実際そういうの意識してなかった10歳くらいまでのころは結構仲良くしてた記憶あるし。

 

まぁ生まれは変えられないけどさ。

2回目の生まれだけど。

 

「む――……」

「あら聖女様?」

 

「なんでもありませんっ」

 

王子に気を取られてぷいっとする聖女ちゃんがかわいいから王子のことなんてどうでもいいや。

 

なんか知らないけど懐いてくれて悪い気しないし。

 

あー、僕が男だったらなー、この子をお嫁さんにってなー。

 

でもしょうがない、僕は女として生まれて王子は男として、聖女ちゃんは女として生まれちゃったんだ。

 

僕が致命的に相性が悪い以上、次に仲の良いこのふたりにはくっついてくれたら安心できるんだけどなー。

 

「……人の機微にはもう少し気を配っては?」

「?」

 

たまーにぽつぽつ話しかけてくれる系の女神さまは今日もお美しい……ありがたやありがたや。

 

 

 

旅は順調すぎてあっという間に魔王っぽいののとこ。

 

さくっと殺って華麗に凱旋……の予定だったんだけど、さすがに脳天気すぎたみたい。

 

まーね。

 

僕ってば王子からえろえろされてころころされるの意識しないようにってやたらとポジティブシンキングしてたしね。

 

でもさぁ……。

 

「……いやいや魔王ってのが体力無限なんて聞いてないんだけどですわ!!!」

 

「姫!」

「姫様っ!」

 

吹っ飛ばされた……けど教育のたまものでパンツ見せないように転んだ僕は瓦礫の中から立ち上がる。

 

僕に乗っかってたのががらがらどすどす地面に落ちる。

 

いや、まだ余裕はあるってことなんだけど……女神さま?

 

あなたの攻略情報、よく見たら魔王のとこ「ここから先はあなたたちで確かめてみてね!」とか絶対僕の記憶から再現したあの攻略本そのままだよね!?

 

おちゃめなのはかわいいしちょっとやり過ぎなのもシースルーだから許すけどさすがにこれシャレになってないって!?

 

「……まずいですわ」

 

転生チートとか頭に浮かぶ今世の体のおかげで苦もなく来たのにいざ魔王と戦ってみたらどんだけレベル高いのよって感じ。

 

……これ、全滅ありえるんじゃ?

 

いやまあ僕的にはそこの王子にえっちなことされるショックで死ぬよりかはずっとマシなんだけどさぁ……あ、いや、聖女ちゃん死んじゃうし良くないか。

 

「……やはり使うしかないか? しかし……」

 

王子が遠くでなんかぶつぶつ言ってるけどんなのどうでもいい。

 

メイン火力とタンクは僕で補助がふたり+後方の騎士団の人たちって言う実にアンバランスなパーティー。

 

実際格下相手なら僕が楽々だったし女神さまのあんちょこのおかげで初見の情報もなかったから最短ルートで来た。

 

実際女神さまの言ってた滅亡までまだ何ヶ月も残ってるしな。

 

回避できるって未来の僕は知ってるけど、それでもゆっくりお湯に浸かっても居られない野宿な生活は短いに越したことはないしってほぼ一直線。

 

けど……魔法も体力も魔王相手には全然足りない気がする。

僕はまだしも2人を始めとしたみんなが全然着いて行けてないもん。

 

……これ、間に合わなさそうならあんちょこ使うとしても、少なくとも序盤は先頭慣れしてない王子と聖女ちゃんとその他の人たちのレベリングした方が良かったんじゃ……?

 

もしかして僕やっちゃった……?

 

そう思うくらいやばい。

 

しかもこういうときに限って倒さなきゃ出られない系のダンジョンだしさぁ……まぁ魔王城だしね……。

 

「……姫!」

 

ようやく落ち着いたのか王子が声を珍しく張り上げる。

 

「おふたりは下がっていてくださいまし。 奴の攻撃は、一撃でもおふたりにとっての致命傷ですわ。 わたくしでしたら戦場で慣れておりますから」

「………………………………」

 

女神さまのバフもあって圧倒的に僕が強いんだけど、このふたりも居なかったら困る程度には強いし回復魔法とかがんがんかけてもらえるのはありがたいんだ。

 

だからふたりが大怪我をする前にどうにかしたいんだけど……。

 

「姫。 ――後のことは任せます」

「は?」

 

いけね、素が出ちゃった。

は? ですわ?

 

「聖女。 手筈通りに頼む……いや、頼みます」

「…………はい、王子様」

「へ?」

 

ふたりが進展してるのは嬉しい限りなんだけどちょっと待ってちょっと待って……なんか王子の体からおかしい量の魔力溢れてるんだけど?

 

え?

 

あいつそこまで才能あったっけ?

 

「姫なら絶対に反対するので聖女だけに相談していたのです。 王家に伝わる、必殺の魔法を」

「いえ、ちょっと話聞いてくださいですわ!?」

 

やばいやばいやばい。

 

どう考えてもこれってそういう会話だよね!?

 

僕前世でたくさん物語知ってるから分かっちゃうんだけど!?

 

そういうの使うのにはまだ早すぎるって!

見切り早すぎるって!!

 

早すぎる男は嫌われるんだぞ!?

 

それにほら、魔王ってばまだ第2形態とかになってないし!

 

「――魔王に接触するまでは耐えてみせます。 だから王子様」

「聖女。 有り難い……貴女に姫を」

 

もんのすごい魔力を放ちながら突進を始める王子。

 

待ってふたりとも、話聞いて!

 

「ま、待ってくださいまし! わたくしがっ!」

 

「――姫」

 

優男の珍しく真剣な顔が僕を見すえる。

 

「貴女の居ない世界を見るよりはという……一生に一回だけの、私の我が儘です」

 

「あ……」

 

コイツのこんな表情初めてだからどうしていいか分かんなくって動けない。

 

そんな一瞬のスキがダメだった。

 

「姫様……王子様と、約束したんです。 ごめんなさい」

 

「あ、ちょっ!?」

 

王子に「もー、クサいセリフなんて良いからそれやめて?」って言おうとしたら聖女ちゃんがバリア張っちゃって邪魔できない僕。

 

……待って。

 

待ってって。

 

確かにお前にえっちなことされるの吐くほど嫌だけど友人としては好きだし死んで欲しいわけじゃないんだ。

 

どうにかして撤退して女神さまにお願いすればなんとかなるかもしれないんだ。

 

だからお願い。

 

「――魔王。 貴様は私と共に――」

「……王子――――――――っ!!」

 

でも、僕は分かっちゃった。

 

王子が魔王にたどり着くと体じゅうにみなぎらせた……奴の体を構成している魔力を全部使って――アイツの気配。

 

今世で多分いちばん気にしてたはずのそれが――今、初めて消えたんだ。

 

「……聖女様と仲良くなって断罪してくだされば……それで良かったのですわ……」

 

 

 

「魔王討伐の任、ご苦労だったな……姫ちゃん」

「長旅は疲れたでしょう……少し休んで」

 

「………………………………王様、王妃様」

 

頭を垂れた僕は……隣に運ばれてきた棺に目を向ける。

 

「……わたくし、あなた方の大切なご子息を……」

 

……みんなが生きていてもお前だけ死んじゃったら意味ないじゃん。

 

僕にえっちなことしたい一心でがんばってたのに……それじゃ意味ないじゃん。

 

「この戦いが終わったらなんでもしてあげるから」って何回も言うこと聞かせてたのに……男として大損じゃん。

 

馬鹿じゃん。

大馬鹿じゃん。

 

――あの後、魔王っぽいのは消えて魔物も統率を失った。

 

でもきっと初代さまが活躍する時代には復活するんだろうなぁとか思う。

 

帰る途中の夢に出てきた女神さまは「あとは地道にぷちぷちすれば大丈夫ですよ?」とかのんきなこと言ってたから当分は大丈夫なんだろう。

 

……でも、僕にとっては。

 

「姫様……」

 

聖女ちゃんの声も、今ばかりは素通りする。

 

……王子……この世界でちっちゃいころから幼なじみだったお前は、大切な友達だったんだよ……。

 

もちろん頭では分かってる。

 

あのときは逃げられない状況で、僕が魔王倒せなかったかも……いや、僕があいつとおんなじことしなきゃ倒せなかったんだろうって。

 

ぼんやりした頭で聞くには、王家には自己犠牲魔法ってのがあるらしい。

 

んで王子はそれを習得してたんだって。

 

「いやそんなの大事な大事な第一王子が使うなよ」って思ったけど、王子は僕を犠牲にするくらいならって言ってたらしくって王様たちも止められなかったらしい。

 

なんでも若い王族にしか使えないものだとか、習得できたのがアイツだけだったとか言ってる気がするけど良く入って来ない。

 

「だからって……」

 

……あそこで判断を間違えていたら、僕たちどころか人類そのものが魔物にやられてた。

 

それは理解してるんだ。

 

魔王、僕の攻撃でぴんぴんしてたから勝てなかったかもって、分かってるんだ。

 

「転生者」

「……女神さま」

 

知らない内に泣いてたらしくって部屋にひとりになってたらしい僕の前に女神さま。

 

さすがの僕でも今世の幼なじみな男友だちが僕のために犠牲になったって思ったらここまで泣くんだなーってぼんやり思う。

 

……今はシースルーなその服にも欲情できないほどに落ち込んでるらしい僕。

 

そうだよな。

 

親友と彼女、どっちを失った方がダメージでかいかって言ったら……どっちも死ぬほどショックだけど男的には多分親友だもんな。

 

「少し精神が落ち着きましたね」

「……はい」

 

「願いは決めましたか?」

 

「……………………願い」

 

「ええ。 魔王討伐の暁には何でもひとつ、世界をねじ曲げてでも叶えると。 約束は守ります。 どんな願いでも叶えましょう」

「………………………………」

 

僕が欲しかったそれは、もう意味がない。

 

だって僕は王子の気持ちを聖女ちゃんに押し付けたくって、ついでができるんなら僕に対しての恋愛的な気持ちでの好きを無くして欲しかっただけなんだ。

 

でも、肝心のヤツが死んじゃってるから……。

 

ん?

 

「…………今、なんでもって」

「以前にお伝えしましたよ?」

 

こてんと首をかしげる女神さま。

 

「魔王がりそーすを吸い取っていましたから。 今なら月のひとつやふたつを落とすくらい楽勝ですよ? 月を使った流れ星なんて素敵じゃないです?」

「いやいやんなことしなくていいですの」

 

――女神の言う「何でも」って。

 

「……人を、生き返らせるというのは」

「魂がやり直していなければ可能です」

「……………………………………っ!」

 

それを聞いて僕はようやく……魔王を倒せた実感が湧いた。

 

 

 

僕の願いは「王子の蘇生」。

 

王子は死んでまだ数日。

聞くに魂はまだうろうろしてるらしい。

 

なら、それに決まりだ。

 

「それでよろしいのですか? 貴女は以前」

 

女神さまに、僕と王子の結婚について愚痴ったことがある。

 

「はい。 でも、良いんです……良いんですわ。 そんなことより……死んじゃった友だちが生き返るなら、わたくしは……僕は」

 

前世じゃあ平和な時代の一般市民として、今世じゃあ温室育ちにも程がある人生だった。

 

もっとも今世では魔物との戦いの日々だったから、目の前で兵士の人が魔物にぱくりんちょされるのも見てきた。

 

だから、その人たちを……って願わないのは不公平って分かってる。

 

でも。

 

こういうときくらいはわがまま、言っても良いよね。

 

「――分かりました」

 

いつの間にか抱きしめてくれていたらしい女神さまの柔らかいのが目元から離れる。

 

下着付けてないってやっぱ良いなー巫女さん全員の制服にしよっかなーとか馬鹿なこと考えてたってどこか冷静に考えつつ。

 

「王子を蘇らせましょう。 ――ただし」

「……ただし?」

 

「人は、必ずしも魂と肉体の親和性が高いわけではありません」

「………………………………えっと?」

 

「貴女のように……いえ、貴方のように見た目と中身が著しく乖離していることがあるのです」

「おっふ」

 

うん……まぁそうだよね。

 

主観的に高校生男子な僕と時期王妃な公爵令嬢、それもとびっきりの美少女は著しい乖離ってのがあるよね……。

 

三角メガネな家庭教師さんから叩き込まれた礼儀作法でカムフラージュしてるけど、素はやっぱりこれだもん。

 

「見た目と態度で隠せてしまう本来というのはあるのです。 貴女の、貴方の好色なところとか」

「それはついては面目ございませんわぁ」

 

うん、さすがにこの場面でおっぱいはないって僕も思った。

 

でも男なんだからしょうがないんですわぁ……心には生えているからどうしても求めてしまうのですわぁ……。

 

「ですので再構成の際にどうなるのか。 私にも分かりません。 できる限りのことはしますけど。 それでも?」

「アイツが生き返るなら……なんでも良いんですわ」

 

「なんでも、ですね?」

 

ふと口調が明るくなったから見上げてみたらすっごく嬉しそうな女神さま。

 

「はい。 …………え?」

 

「言質は取りましたからね?」

「え? ちょ、女神さま!?」

 

なんか女神さま超不穏なんだけど?

 

すっごくにやけてる女神さま超かわいいけどなんか超不穏!

 

「こんなことになっているだなんて……まぁ、そうですよね。 貴方がそうなのですから、貴方と運命づけられている王子も……」

 

「何ですか!? 先に教えて」

 

「ダメです♪」

「かわいく言わないでくださいぃぃぃ!」

 

僕は思いだした。

 

神様って基本的に自己中心的で享楽的で……いたずら好きなんだって。

 

 

 

「姫ちゃん! 女神様からの神託が!」

「姫様! 聖女になった時みたいに……」

 

「あー、はいはい。 わたくしのところへもですわぁ――……」

 

ちょうど良すぎるタイミングで王子の安置されてる場所に集まってきた王妃様たちと聖女ちゃん、あと付き人の人たち。

 

……女神さま、あなた、いや、あんた一体何思いついたんですか……。

 

「! 王子の棺が!」

 

「あーはいはい、光ってますわねー」

「……姫様? どうしてやさぐれているのですか?」

 

いつもみたいに駆け寄ってきておっぱいくっつけてくれる聖女ちゃんが見上げてくるけどさっきのでそれどころじゃない僕。

 

「気のせいですわー気が動転しているのですわー」

 

もーどーにでもなーれ☆

 

よく考えたら王子が復活したら多分嬉しさのあまりすぐ結婚式とかなりかねなくって、つまり僕の命はそこのろうそくよりか弱いんだ。

 

あ、そのろうそく、棺から出てきた風でふっと消えた。

 

「………………………………」

 

がたりと音を立てた棺にみんなが群がる。

 

「……転生者」

「女神さま」

 

半透明になってる女神さまが現れたけど、これたぶん僕にしか見えてないやつだよね?

 

「やっぱり別の願いにしとけば良かったですわ……スキを見て脱出を」

 

「――そうでもないかもしれませんよ?」

「へ?」

 

「王子! 良く無事で! 儂も心配して……!? 王、子……?」

「まぁ……私の小さい頃に……!」

 

「あーあー見たくない聞きたくないですわー」

 

このままダッシュで脱兎したい本能に駆られる。

あ、そうだ、王子の無事だけ確認したら逃げよーっと。

 

「……あの、王子様……です、か?」

「ああ。 ……む? なんだか声が」

 

「……へ?」

 

みんなが驚いてる理由ってなにかなって思ってたら聖女ちゃんまで驚いてて、肝心の王子までが……いや。

 

なんか聞いたことない甲高い声、聞こえるんだけど?

 

誰か知らない人紛れ込んでる?

 

「再生に際して魂に適切な肉体に致しました。 ――貴方が王子と呼んでいる彼の、魂の性別に」

 

「は?」

 

何言ってるのこの人……あ、この女神?

 

「……姫! 無事でしたか姫!!」

「…………………………????」

 

知らない女の子の声がして反射で振り向くと……そこには女神さまと同じシースルーな格好の美少女ロリが!

 

うむうむ、ちっちゃいのもシースルーだと見栄えがするね。

 

顔つきもなんだか王妃様に似てるし……。

 

は?

 

誰?

 

「姫? む? 姫、少しどころではなく身長が伸びたので? いえ、私はどのような貴女でも好いていますが」

「いえ……ええと、そのぉ」

 

すごい格好の元凶にそっと目をやるとあざといウィンクをしてくる女神さま。

 

……え?

 

「……なんと。 そういうことですか!」

 

いつの間にかシースルーさまがシースルー2さんにこしょこしょ話していたらしく、状況を飲み込めたらしい様子の平たいシースルー2さんは自信ありげに王さまたちに向き直る。

 

「なるほど……実は私は女だったようです。 女神様からの神託が、たった今降りました」

 

「は?」

 

なに言ってんのこの子。

 

て言うか平民……かどうか分かんないけど王様に口きいたらお首ちょんぱだよ?

 

「……儂の元にも神託が。 そうか、だから王子は一切の女遊びをせなんだか。 姫との初夜に粗相のないようにと勧めたのにことごとく断っていたのも……」

 

「は?」

 

王様、今なんて?

 

王子そんなのひとことも僕に言わなかったんだけど?

 

「私の元にも女神様が……そうですか。 ですから王子は体を動かすのが苦手だったのですね。 そう言えば初の子は娘だと言われていたのに息子だった覚えがあります」

 

「は?」

 

王妃様?

 

いや、たしかに王子は昔っからインドアだったけど。

 

「姫様、わ、私のところにも……その、実は私、王子様に頼まれましてこっそりお料理を教えていまして……あ、あと、王子様実は服飾がお好きで、時間のあるときに姫様の服を、と……」

 

「は?」

 

聖女ちゃんが爆弾発言。

 

え、ふたりだと仲良さそうだったのってまさか?

 

「………………………………」

 

……確かにふたりでこっそりお皿から食べたり聖女ちゃんの服見つめてたりしたけど……。

 

「姫」

「あ、はい」

 

僕より随分低いところからの声。

 

シースルー2さん。

 

この世界の男の平均身長くらいの僕よりずっとちっちゃくって聖女ちゃんよりもちっちゃくって……けど、髪の毛の色も目の色も形も雰囲気も……どことなく知ってるような感じの美少女が言う。

 

「実は私、不能だったのです」

「はぁ」

 

この子、なんちゅーことを言うんじゃい。

 

お破廉恥ですわよ!

 

「しかしそれは肉体の性別が間違っていたからだと女神に告げられました。 そうして『正常な肉体』で生き返らせるよう――貴女に頼まれたと」

 

「………………知りませんわぁ……?」

「姫……そこまでして私のことを……」

 

うん、知らない。

そんな大切なこと隠してただなんて知らない。

 

「~♪」

「……」

 

分かる。

 

楽しそうにしている女神さま……いや、女神のあの顔は愉悦というもの。

 

ほら、1人でダンスを始めましたわよ?

 

「残念ながら貴女の夫にはなれなくなりましたが……元より女性としての幸せを与えられなかった身です。 かえって良かったのかもしれません」

「そうですの」

 

……してやられた。

 

生返事をしながら「とりあえず男にえっちなことされてショック死は回避したなー」って思う。

 

「最後には転生者に神託をぷれぜんとふぉーゆー」

「……なんですの、女神さま」

 

僕の……いや、シースルー2さんもとい元王子と僕の周りをくるくると走り回るたゆんたゆんなシースルーがこの上ない楽しみを表している。

 

でも今の僕はちっとも嬉しくない。

 

「私、こんなに面白いものを見たのは何千年ぶりなんです」

「そうですの」

 

「貴女は転生してからとてもがんばりました」

「そうですの」

 

「それと今回のぼーなすと言うことでですね?」

「そうですの」

 

「せっかくですからそこの王子が持っていた生殖能力を上げましょう」

「そうで……いまなんと」

 

「つまり生やします♪」

「あの、ちょ、女神さま!?」

 

「でもいろいろと大変でしょうから夜だけ生えるようにしてあげました。 ああ、ついでに貴方は私のお気にになりましたので神託で新しい王にさせます。 そこそこ長生きしてくださいね? 大丈夫、それを使って『繋がった』人も同じくらい長生きにさせますから♪」

 

「は?」

 

えっと?

 

それじゃ僕が初代さまの地位を奪っちゃうことになるんじゃ?

 

……いや、待てよ。

 

たしか初代皇帝の妃には王女様とか聖女様とかが居たって説も。

 

……じゃあ、まさか初代皇帝って!?

 

「凱旋した勇者が囚われの姫を救い結ばれる。 貴方の居た世界で良くある話だそうですから。 あ、ついでに多分貴方に生えたのの歯止めが利かないでしょうからそこの聖女も上げます。 神託なので強制的に結婚です♪」

 

「雑ぅ!?」

 

「ちーれむ、でしたか。 貴方の記憶はとてもとても楽しいものばかりですね♪」

「人の人生をそんな軽い気持ちで弄ばないでください……ですわぁ!!!」

 

 

 

その後。

 

「数カ国をまとめた皇帝になった気分はいかがですか?」

「スローライフしたいんですけど……」

 

「ちーれむ道爆走中ですのに?」

「令和の育ちはブラック企業……国家に馴染まないのですわ」

 

王とは国家の奴隷って誰が言ったんだっけ。

王の上の皇帝になっちゃってるけど。

 

執務室に当たり前のように出入りする女神さま。

半透明でないときはさすがにシースルーはやめたらしくってちょっと残念。

 

そのまま巫女さんたちの制服にする案もボツにされたし……。

 

「ふたりの女性を好きなようにしておきながら……やっぱり貴方の魂は男性ですね。 もっともっと娶っていいのでは? あ、私も含めると3人ですね? 私がどういうカウントになるのか知りませんけど」

 

「勝手に人の思考を覗かないでくださいます? あとわたくし、じゃなくて僕、貴女とあのふたりの相手で精いっぱいで……何かあると結託されますし……」

 

「とりあえず揉みます?」

「とりあえず揉みますわ」

 

「ひと揉み1日です♪」

「揉む度に寿命が延びるとか……」

 

あー、そう言えば初代皇帝たちってものすごーく長生きだったってねー。

 

そこへ乱入してくる影がふたつ。

 

「……姫! ああ違った、貴方! ……む、女神様、ご機嫌麗しゅう」

「元王子。 貴女は今幸せですか?」

 

「はい! この悪阻も幸せなほどに!」

「………………………………」

 

すっ、と、シースルー2さんもとい元王子……もとい現皇后が現れる。

 

ロリっ子になった王子の、ちょっと大きくなってるお腹から……すっと目を背ける。

 

「………………………………」

 

背徳感が降り注ぐ。

 

僕にそんな趣味は……アリマセンノヨ?

 

「そうですか。 だ、そうですよ?」

「…………………………そうですの」

 

「あ、あのっ」

 

そこへ聖女ちゃんの声。

 

「女神様……その。 私たちの子は」

「安産間違いなしです♪」

「はわ……ありがとうございます!」

 

「……だ、そうですよ?」

「…………そうですの」

 

気のせいじゃなくおっきくなったたわわの下の膨らみから目を背ける。

 

あ、こっちは僕の趣味です。

否定はできません。

 

「覇道。 世界征服。 子沢山。 それもまたちーれむだそうですよ?」

「……ただ静かに暮らしたかっただけなのですわぁ……」

 

うん。

 

結果的に男からえろえろなことされなくってよかったさ。

 

女に生まれたのに時間限定で男になれるから良かったさ。

 

けどさ?

 

「悪役令嬢。 田舎暮らし。 スローライフ。 憧れてたのになぁ……ですわぁ……」

「素直じゃありませんねぇ。 けど」

 

シースルー女神がいたずらっぽく笑う。

 

「こんな人生も、偶には良いのではありませんか? 男の子って、こういうのが好きなのでしょう?」




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