只今、悪役令嬢攻略中です。なお、最近ではツッコミ役にシフトチェンジの兆しあり。……たまに見せるデレが最高です。 作:花河相
『おーほっほっほ!まだ理解していないの?わたくしと庶民のあなたとでは住む世界が違うの。せっかく教えて差し上げたのにまだ理解なさってないの?』
悪役令嬢とはつねに主人公を上から目線で接する存在である。
『あら?ごめんあそばせ。田舎くさいと思ったらあなたでしたの?気が付きませんでしたわ』
悪役令嬢は何かと理由をつけて主人公に絡み続ける存在である。
『わたくし、何も悪いことをしておりませんわ。わたくしはこの国を思ってやっただけのこと。それのどこがいけませんの?……殿下、そのような庶民に惚れてしまうとは……なんともお可哀想』
悪役令嬢とは……最後まで気高く、己の信念を曲げない……プライドの高い……孤高の存在である。
『殿下、愛しておりましたわ。どうか、そこにいる庶民と末長くお幸せに……わたくしはあなたの幸せを心より願っておりますわ』
だが、ほとんどの人が知らない。悪役令嬢は相手を想う一途な気持ちがあるということを。
僕はそんなバッドエンドしかない悪役令嬢という存在をかっこいいと思う。
決してユーザーからは評価されることのない嫌われ者。
主人公を際立たせるための当て馬的存在。
都合の良い扱いをされて物語が終われば捨てられる存在。
だが、僕はそんな悪役令嬢の大ファンであった。
僕が乙女ゲームをしたきっかけは些細なことであった。
当時高校生だった僕は歳の離れた妹に誘われて一緒にプレイをした。
それがきっかけだった。
「……まじ最高。カッコよすぎだろ」
「ね!言ったでしょ!お兄ちゃんも好きになると思ったわ!」
「ああ。特に物語の最後、断罪イベントだな。毎回見ていてよかった。セリフが毎回違うんだもん」
「でしょでしょ!お兄ちゃん誰のルートが好きだった?」
「どれも捨て難いが……やっぱり第三王子アレンルートだなぁ。……あの最後まで己を曲げないあの気高さ……いやぁ、カッコよかった」
「……え?なんの話してるの?」
「悪役令嬢アンネローゼの姿はまじ尊敬するわ」
「え?」
「え?」
「お兄ちゃん……頭大丈夫?」
……妹の冷めた自然と純粋に出た言葉が心にぐさっとくるも、妹とプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に感じたのは尊敬だろう。
縦ロールの入った長い金髪の髪に目つきが鋭い青い目。赤色の派手なドレスを好んできて、だが、その可憐な容姿はその派手なドレスも自分を引き立てるための一部にしてしまう。
悪役には花があるという言葉はまさにアンネローゼのことを示すのだろうと思うと僕は思う。
僕は妹とゲームをした後、どうにか救済ルートを探したが、見つからなかった。
どのルートも最終的に追放、又は田舎の貧乏男爵家に嫁いで終わるという。
唯一救われたのは逆ハーレムルートだけであった。
僕はいろんな攻略対象たちのルートをこなして何か別手段がないかと模索したが、存在しない。
だが、プレイをするたびにアンネローゼの存在が物語においていかに大切な存在であるか……アンネローゼがいたから他のキャラの存在が際立っていったとしても過言ではないと……シナリオを周回するたびに思い知らされていった。
アンネローゼなしにシナリオは成り立たない。
だから、こそ惜しいと思った。
こんな素晴らしいキャラを攻略出来ないのかと。
幸せになるルートくらい用意してもいいんじゃないかって。
主人公と悪役令嬢が和解する友情ルートくらい用意したったいいんじゃないかって。
「……そんなことを思っていたけど、まさか本当にチャンスに恵まれるなんてなぁ」
そう思っていた時期はあった。
思い続け、二次小説を書いてしまうくらいリスペクトしていたが……チャンスが来るなんて思わなかった。
簡潔に言おう。
僕は……転生というものをしたらしい。
「セシル=ハーヴェスト?」
自分の記憶を頼りに鏡を見ながら確認するとそこには幼いながらも将来美形を約束された容姿。
僕はおそらく……物語に登場しないモブキャラかな?
こんな容姿、名前のキャラ見たことないし。
立ち位置はハーヴェスト王国第二王子、攻略対象にいる第三王子の一つ上か。
乙女ゲーム「ときめくシンデレラ〜恋する乙女と4人の貴公子〜」において全てのルートを攻略したが……名前も出てこない。
第二王子は他国に留学しているという設定があった気がするが。
……まぁ、気にしたってしょうがないか。
転生しちゃったものはしょうがないし。
今は転生できたことを喜ぶべきだろう。
調べた限り、アンネローゼは誰とも婚約をしていなかったはず。
アンネローゼの苗字ってリンデンソワール公爵家だったな。
僕の立場もあるし、国王である父上に相談したら婚約できるかなぁ?
でも、婚約って政略になるだろうし、家同士の事情も気にしなきゃいけないし……どうしたものかなぁ。
と、思って婚約は難しいかもと思っていたものの。
王宮で出歩いていたら、たまたま父親の公務の付き添いで来ていたアンネローゼと居合わせてしまった。
時間があるから少し話をしたら盛り上がってしまい。
「ーーだから、その分からず屋の使用人に教えて差し上げたのですわ。あなたはお茶一つ入れられないのかって」
「それは大変だったね」
「やはり、そうですわよね。わたくし間違っいませんわよね?」
今僕は11歳、アンネローゼは10歳。
今は新入りの使用人がお茶を入れる作法がおかしいと指摘した時の話をしている。
話を聞いていて、彼女は正しい発言をしているのだが、上から目線な言い回しで誤解を招き周りから良い印象はないようだ。
近くで控えている赤髪のメイドの女性もアンネローゼの言動にビクビクしている。
もしかして今話しているのは彼女のことだろうか?
「だから、言って差し上げたのですわ。次同じことをしたらお父様に頼んでクビにしてやると」
アンネローゼの話を聞いてふと、再び赤髪のメイドに視線を向けると……顔を青くしていた。
あ、間違いないな。
まだ、アンネローゼは幼い。
自分の言葉の重みを理解していないのかもしれない。
「確かにその使用人が悪いね」
「そうなんです!このことを一度お父様にお話しだのですが、もう一度チャンスを与えてやってほしいと言われたのです。……理解にできませんわ」
彼女はまっすぐすぎる性格ゆえに間違ったことは間違っているとはっきりいうタイプ……融通が効かないらしい。
なら、今僕がすべきは彼女が良い方向に解釈してもらえるように促す。
「僕の意見だけど……いいかな?」
「……どうぞ」
アンネローゼは少し不機嫌になるが、黙って聞いてくれるらしいので、意見する。
立場は僕の方が上になる。
仕方なく、聞いてあげよう……みたいに思われているのかも知らないな。
「君にとって使用人って……どういう存在かな?」
「……どういう存在かと聞かれましても。……屋敷の掃除……雑用をする人……ですわね」
「そうだね。いつも屋敷の掃除や君の身の回りの世話をしてくれている」
「……何がおっしゃいたいんですの?」
「使用人とは君が住んでいる屋敷を維持する、公爵閣下が仕事をするために働いてくれている。いわば陰で公爵家を支えてくれている重要な人たちと僕は思うんだ」
「変わった考えをしておりますね。そんなの誰にも言われたことないですわ」
「そうかな?」
少しは共感してくれたようだ。
「使用人たちが、身の回りのことをしてくれるから自分のすべきことに集中できているということを君のお父上はそれをわかって欲しかったのかもね」
「……」
アンネローゼは俯いて黙り込んでしまった。
少し言いすぎたか?でも、これは僕が転生してから思ったことだ。
広すぎる屋敷の維持大変であったから。
多分それをわかって欲しくてアンネローゼ父はそんなことを言ったのではと。
「……素晴らしいお考えですわ」
「……え?」
「殿下は上に立つものとしての素晴らしいお考えを持っておりますわ!」
「そ……そうかな?」
少し興奮気味のアンネローゼかわいい……いや、立場的に上から目線で言われるのは少しまずいかもだけど、気にしない。
「わたくしも殿下のようになりたいですわね。……どうすれば良いでしょうか?」
「ええっと……そうだなぁ」
急にアドバイス求められても困る。
僕は少し考えたから話す。
「まずはその……クビにするって言った使用人と良好な関係を結ぶことから始めたらどうかな?」
「なぜですの?」
「ほら……やっぱり、そういうのは小さいことの積み重ねだから。一つのことからコツコツと……みたいな感じかな?挨拶をしてみるとか……どうだろうか?」
何を言っているのだろう。
自分でもどうすれば良いかわからなくなっていた。
「……なるほど。参考になりますわ。ありがとうございます殿下。早速試してみますわね」
そう言って、アンネローゼはご機嫌のまま立ち去ってしまった。
この時、アンネローゼの後ろに控えていたメイドさんの顔色は少しマシになっていた。
これは後日談だが、僕と会った後のアンネローゼの使用人への態度は変わったという。
もちろん良い方向へと。
この一件がきっかけだったのだろう。
アンネローゼと僕はリンデンソワール公爵閣下と国王である父上の意向で政略結婚という形で婚約することになったのだった。
それから五年が経過した。
僕は16歳、アンネローゼは15歳になった。
婚約してから茶会を繰り返し、親睦を深めていった。
結果、アンネローゼの元々の気高い性格良さはそのままだが、少し性格は丸くなった。
今日は貴族学院の入学式だ。
僕はアンネローゼより一つ年上なため、一年早く入学した。
貴族学院は全寮制のため、手紙でやりとりはしていたものの、会うのは実質一年ぶりくらいだ。
僕は彼女といち早く会いたいため、入学式の準備をいち早く終わらせ、門の前で待機をしていた。
立場が下のものからくるので男爵位の人から体育館に向かう。
僕は立場上目立ってしまうので、物陰に隠れて待機をしていると。
「お、……きたかな」
学院の門の前に豪華な作りのリンデンソワール公爵家の紋章のある馬車が到着した。
馬車の扉が開き、赤髪の女性がエスコートして、待ちに待った貴族学院の制服を着た彼女が降りてくる。
赤髪の女性、名をマーサと言う。
今は侍女の立場にいる。
僕とアンネローゼが初めて会った日以降、アンネローゼはマーサによく指導をしたとのことだ。
お茶の淹れ方を教え始めたらマーサは飲み込みが早く優秀であった。
アンネローゼもマーサを気に入り、一階の使用人であったマーサは侍女になるという出世をしたようだ。
今では気のおける存在らしい。
……あれ?どうしたのだろうか?アンネローゼの元気がないように見えるが。
とりあえず、僕はなるべく気配を消してアンネローゼに近づく。
「ロゼ、久しぶりだね」
「ひゃあああ!って、セシル様!」
お、いい反応だ。
5年の付き合いになるが、アンネローゼは反応が面白い。
だから、たまにこういう悪戯をしたくなる。
ちなみにロゼというのは僕が彼女を呼ぶ愛称である。
「どうしたんだい?そんなに声をあげて」
「誰のせいです!誰の!……せっかく……」
アンネローゼは話す後半から声が小さくなっていき、聞こえない
「ごめん、なに?」
「なんでもございません!……それよりセシル様はなぜこんなところにおられるのでしょう?……入学式の準備で忙しいため、会う約束は式の後にとなっておりましたが?……生徒会としてのお仕事を全うできないなんて王族として恥ずべきことでは?」
まぁ、確かにその疑問は仕方ないな。
でも、しょうがないじゃないか。
「ロゼをエスコートするためにここにいるんだけど?……おかしいかな」
「そう言うことを言っているのではありません!あなたには嫌味というのがわからないのですの?」
「いや、別に生徒会の人には許可もらっているし、大丈夫だけど」
「……もういいです。……初めからそう言ってくださいませ」
「悪かったよ。照れるロゼを見たくついね。手紙では書かなかったんだよ」
アンネローゼはイタズラすると必ず突っ込んでくれる。
悪役令嬢からツッコミ役の兆しが見え始めている。
僕がこんなことを思っていること関係なく、アンネローゼによる指摘は続く。
「事前の連絡するべきですわ!これだから周りから陰口を言われーー」
「お嬢様」
アンネローゼと話している途中、後ろに控えているマーサに話を遮られる。
本来なら侍女の立場のマーサがするのは失礼にあたるのだが、今は僕たち3人だけ。
アンネローゼも許してあることだ。
「何かしらマーサ。もしかして式までの時間かしら?」
「いえ……そういうわけではないのですが」
「もう……私たちだけの時は気を使わなくてよろしくてよ。それで、何が言いたいの?」
マーサはアンネローゼに許可を得る形で話し始める。
この時、口元が緩んでいた。
あ、もしかして爆弾投下してくれる流れかな?
「お嬢様、もう少し素直になられたらどうですか?お嬢様は殿下と会うのを楽しみにしておりましたし、門から会場までのエスコートをいただけないと知った時、ショックを受けられていたではありませんか?」
「ちょ!マーサ!何を言ってーー」
「馬車から降りた時も、寂しそうにしていたではありませんか?」
へぇ。こりゃいいことを聞いた。
まぁ、反応から予想出来ていたけど、
マーサ!ナイス!
「へぇ。そうなんだ。入学式の準備頑張った甲斐があったよ」
「……マーサ?」
「私もこのようなことはしたくなかったのです。ですが、殿下からの命令で仕方なかったのです」
「あなたの主人はわたくしですわよね?なぜセシル様を優先したのかしら?」
「お嬢様が意地を張って素直になられないからではないですか?」
「……え?おかしくありません?わたくしが悪いんですの?」
アンネローゼの質問に堂々と答えるマーサ。
見ていたいい主従関係だなと思う。
そう二人を見ていると、マーサが手元の時計を見て話かけてくる。
「あ、もうお時間ですよお嬢様。では、私の役目はここまでなので、失礼しますね。セシル殿下、お嬢様をよろしくお願いいたします」
すると、マーサはアンネローゼ、僕に挨拶をして、乗ってきた馬車に戻っていった。
「マーサ、お待ちなさい。お話しはまだ……」
すぐにアンネローゼは呼び止めようとするも、声をかけた時にはすでに馬車に乗り込んでいた。
ふ、せっかくマーサが気を使ってくれたんだ。
アンネローゼをエスコートしなければ。
「ロゼ……お手を」
「……よ、よろしくお願いしますわ」
僕はアンネローゼに右手を差し出し、エスコートをする。
門から入学式会場まではおおよそ50mほどだろう。
会場までの道のりは石造りの純白の道を愛しのアンネローゼと二人で歩き始める。
すると、急にアンネローゼの握られている右手にギュッと力が入るのを感じる。
気になり、様子を伺うと、ほんの少し頬を赤くしたアンネローゼが話しかけようとしていた。
僕は催促する事なくゆっくりと言葉を待つことに徹する。
「……セシル様……その……会えて嬉しいですわ」
「……そ…そうかな」
僕は嬉しさのあまりニヤケそうになるが、表面上、平然を装う。
普段、僕相手に素直に接することがないアンネローゼが素直に気持ちを伝えてくれるのは少ない。
だから、こそこう思う。
たまに見せるデレが最高です!
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