紗和アベンジ   作:TORIA

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⑪分岐点と交差点

 

「という訳で、まさかの大失敗に終わりました! いやー、あんな流れは流石に予想できないですよー!」

「……ちょっと、割とシャレにならない事態ではありませんこと? 紗和さんは本気でDEM、と言うかウェストコットと手を組んで始原の精霊と戦うおつもりで?」

「このままだとそうなりますね。ただ、流石に全幅どころか欠片も信用していないので、適当な所で切り捨てて壊滅させるつもりみたいですが」

「勝ち目の問題もありますが、それ以前にあの女がどこにいるかもわからないのでしょう? 長期間あの男を紗和さんの近くでのさばらせるのは余りにも危険すぎますわ。どうにかできませんの?」

「それはわたしもそう思いますが、如何せん紗和さん今完全に怒れる女王様状態で、下手に介入できないんですよね。せめて何かのきっかけで落ち着いてくれれば良いのですが、下手に手を出すと藪蛇ですよ藪蛇」

「そう都合良くはいきませんわ……わたくしがきっかけのことで巻き込むのはとてつもなく心苦しいですが、ここまで状況が悪化してしまっては是非もありません。こうなったらこと士道さんに紗和さんと接触していただくしかないかもしれませんわ」

「……あのー、そのことなんですが……」

「……まさか士道さんのことで何か悪い知らせがおありで!?」

「はい、悪い知らせと、超悪い知らせならましな方から話した方が良いかなーなんて思っちゃいまして。さっすがわたしってば気配り―! ……イエス、ハイマム、スミマセン。良くないことばっかりでテンション上げないと話す気も起きないんです、ですから銃口をば、その……えーっと、話を続けます―――紗和さん、恐らく彼を狙っています。こう、人質誘拐的な意味で」

 

 

 

 

 

 

 イギリスでおいしい物を食べたいのなら中華か朝食を三回食べろ、などとはよく言ったものだ。

 確かに日本と比べたら微妙だとは思う。

 全体的に大味だ。

 とは言え他に食べれる物が無いわけではない。

 今の時代お金を払えばある程度は何でもあるし、それにイギリスで有名な物もある。

 

「一度アフターヌーンティーを本場でいただきたかったんですよね。まさかこんな機会になるとは思っていませんでしたが」

「ほう、あなたならいかにも似合いそう、と言うより慣れ親しんでいると勝手に思っていたのだけれど……ところでこのスコーン、味がしないな」

「蓮さん、スコーンはそのまま食べるのではなく、クロテッドクリームやクリームチーズ、ジャム、蜂蜜をつけて食べると良いですよ」

「成程、香ばしいが乾燥したスコーンとクリームやジャムはよく合うね。この紅茶も随分スモーキーで独特な風味だ」

「キーマンは中国の紅茶ですから、今まで飲んだ紅茶とは大分風味が変わります。これはこれで良い香りだと思いますが、次は別のお茶をお願いしましょうか」

 

 紗和と蓮は泊まっていたホテルでアフターヌーンティーを体験することにした。

 本来なら悪目立ちするだろうが、心配はしていない。

 皮肉なことにあれだけの騒動があったにも関わらず、否、あったからこそ、もはやDEMに襲われることを心配する必要はもうない。

 

 もっとも、紗和は響の姿で来ているのでそこまで人目を惹くことはないだろう。

 蓮はいつもの格好で冬のロンドンを出歩くと狂気の沙汰なので恰好は相応の物を見繕う。

 黒いチェスターコートの下に濃いグレーの冬ワンピースと言ういつもとは真逆の落ち着いた装いだが、これはこれで蓮に良く似合っている―――ワンピースを選んだのは蓮だったが何か思い入れがあるのだろうか、妙にしげしげと見ていたのが印象に残っている。

 

 ケーキスタンドに乗ったサンドイッチやスコーン、ケーキが乗った光景は紗和にとっても馴染みがないもので少し楽しいと思ってしまう。

 

 中々の量だが全く心配はしていない。

 元々ゆっくり賞味するのがマナーであり、何より―――

 

「蓮さん、そのお皿に取った分全部食べるのですか?」

「何か? 自分はただ食べたいものを取っただけだよ」

 

 蓮は表情を変えず、しかしどこか毅然とそう言う。

 

 以前からそうではないかと思っていたが、蓮は随分と健啖だ。

 とは言え食べ方が汚いと言うこともなく、ただ手を止めず淡々と食べ続ける。

 サンドイッチだけでもオーソドックスなキュウカンバーサンドやローストビーフ、チーズホットサンドにタンドリーチキン、パストラミにBLT、ローストターキー、ツナ、シイラを使ったマヒマヒに至るまでメニューにあるものを全て平らげていた。

 

 食べるのが好きと言うのも勿論だろうが、意外と好奇心が強いのだろう。

 普段それほど周囲に関心があるでもなさそうに振舞うが、元々理知的なこともあって興味のあることに対してはかなり乗り気なご様子で、その落差を見ているだけでも面白い。

 

 ―――それだけに蓮に対する始原の精霊の仕打ちに紗和は憤る。

 隣界で多くの準精霊を蹂躙しつくした山打紗和は他人の悪事のことをとやかく言えるような人間ではないが、それでも母が娘の全てを踏みにじると言う仕打ちは無条件の怒りが湧き上がってくる。

 

 実のところ、これまで紗和は始原の精霊に対してどのような感情を持つべきか判然としなかった。

 一人の人間としては当然、紗和を陥れた相手として、怒り、憎み、断罪すべきと思うはずだ。

 だがその一方、蓮から聞いた崇宮澪の話と実際の彼女の片鱗はそうさせることを阻んだ。

 

 ―――もしかしたら始原の精霊とは地球意思のような存在で、紗和にセフィラを埋め込んだのも、紗和程度では理解できない何か高邁な目的があったのかもしれない―――

 

 紗和は本気でそんなことすら考えていたのだ、勿論敵意を無くしたわけではないが。

 

 だが、もはやそんな下らない迷いは消えた。

 

 相手は途方もなく強大で狡猾、そして邪悪な存在、だがそれだけだ。

 虐げるために子を為す様な母など生かして置くことはできない。

 

 紗和は感謝すらしていた。

 

 かの怨敵が自分の様な悪党でも心の底から正義感を以て怒ることができる、どうしようもない悪人であったことに。

 

「それで話があるのだろう? あなたとの付き合いがそれほどある訳でもないが、それでも話が長くなる時にお茶と茶菓子がいつもより良くなるのはすでに理解したよ……先ほどから随分怖い顔をしているね。自分に向けられたものでないとは思うけれど、女王様にしては随分ゲストに対する気配りができていなくて、逆に安心するよ―――あなたでも失敗することがあるのだね」

 

 ―――呆れた様な、どこか嬉しそうな、少しだけ親し気な皮肉が聞こえる。

 

 どうやら思ったより紗和はまだ見ぬ敵のことに気を取られていたらしい。

 返事をする前に手にしたカップに口をつけ、濃厚な香りを楽しむ。

 

 湯気が体内を満たす間に、十分に考えがまとまった紗和はカップから口を離す。

 

「大したことではありませんよ。蓮さん、あなたはわたしの為によく働いてくれました。良い仕事をしたわたしの家臣にどんな見返りを与えるべきか、考えていたのです」

 

 蓮の眼に好奇の色が入る。

 面白い物でも見たかのように目が紗和を伺うように動き、形の良い口元がほんの少し楽し気に歪み―――

 

「こう見えて自分は食にはうるさいよ?」

「知っています」

 

 閑話休題

 

「わたしは思うのですよ。ねぇ蓮さん、あなたはご自分の母上から正当な取り分を頂くべきでしょう―――例えばそう、セフィラなんてどうでしょうか」

 

 蓮の表情が一瞬にして強ばる。

 予想した反応、それでも覚悟していた紗和は話を続けた。

 

 

「申し訳ありません、蓮さん。悪いとは思いますが……聞きました」

 

 

 

 ああ、やはりあの男は出会い頭に殺しておくべきだった。

 紗和の制止など無視して精霊の腕力で潰すべきだった。

 

 今更そんなことを思う蓮だが、半ば現実逃避、紗和を説得する良い方法は思いつかない。

 ―――だから誤魔化すことにした。

 

「別にそのことで気に病んでいるわけではないさ。あなたに話さなかったのも聞かれなかっただけだ、他意はない」

「わたしにはそうは思えませんが……別にわたしに話さなかったことでとやかく言うつもりはありません。あなたが言う通りわたしが聞かなかったのですから。わたしが知りたいのはただ一つ……蓮さんはあなたの『母』を許せますか?」

 

 随分とずけずけと言ってくれる。

 こんな風に絡んでくる人ではなかったと認識していたが。

 

「自分如きが彼女の足元に及ぶわけも無し、ただしだからと言って彼女が自分にしたことを忘れたことは無い」

「では蓮さんは始原の精霊に報復と賠償を要求することに何の異議も無いという訳ですね」

「……一つ聞いて良いかな? それを聞くことであなたの行動に何か影響するのかい? 自分が彼女とどう言った関係でも関係ないだろう」

「わたしの様な者でも怒るべき相手というのは間違いなくいます。憎悪はともかく、蓮さんはもっと怒りをぶつけることを知るべきです」

「おや、随分な言いぶりだね山打紗和。ご自分の仇を無造作に殺そうとしていたあなたらしくも無い。それとも……彼女にあなた自身にされたことよりも、自分ごときに同情したのかい? 女王様も存外優しいね」

「同情と言えば同情なのでしょう。ですがそれはある意味当然です。何せ本当に怒るべきことで怒ることすらできない、とおっしゃるのですから」

 

 ―――もにょる、というのはこんな気分なのだろうか

 苛立つわけでも呆れる訳でも無く、それでも何か引っかかる。

 

「あなたはこの気まぐれで天性悪質な精霊の娘の一体何が分かると言うのか。自分はあなた自身の苦痛に対する考察の対象でも、あなたの復讐劇を正当化する道具でもない」

「わたしに関する考察も覚悟ももう済んでいます……実のところ始原の精霊にははっきり言って現実感が沸かない相手でした、まあ、だからこそ戦いを挑む気になったとも言えるのかもしれませんが」

「今は違うと?」

「今は良く理解できました。自分の娘に対すり始原の精霊、崇宮澪は存在すら許されない最低の存在です」

 

 蓮は言葉に窮する。

 

 まず第一にどう説明したものかと言うことで頭を悩ます。

 蓮は人間ではない、両親の愛の結晶でも無ければ、そもそも娘といっても母の腹から出てきた訳でも無い。

 その一方、自分が崇宮澪から派生した存在であることには違いなく、その存在に敢えて名前を付けるなら娘になるのもまた事実ではある。

 

 次に紗和がこれ程怒りを蓮に見せたこと。

 蓮が見てきた山打紗和は常に冷静沈着、それでありながら大胆不敵でまさに女王とでも言うべき者、乱れるところが想像できない。

 それがこれ程怒気を露わにしている、それも自分のことで。

 正直驚きを隠せない。

 

 そして最後に―――

 

「……あなたも大概だね、自分の為に義憤するなど。そんなことをしても意味など無かろうに」

「わたしでも心が木や石でできているわけではないのですよ。駄目なものは駄目だと言いますし、怒る時は怒ります……それで、賛成と言うことでよろしいですよね?」

 

 蓮は嬉しかった。

 今までの人生それ程色々なことがあったわけではなかった、それで勝手に生み出されて放逐された悲惨な自分の人生を誰かが怒ってくれる。

 それは蓮にとって望むべくも無かったし、考えたことすらなかった。

 

 それだけに自分の不幸を憤る誰かの存在は完全に予想外で、それが思ったことが無いほどに自分にとって慰めになったことに驚きつつも、蓮は心地良かった。

 

「全く、あなたときたら……良いだろう。元から無理筋だ、どうせ彼女からしたら自分は不詳の娘でもある……我が悪徳の母の脛を少しばかりかじらせていただくとしよう。紗和、それであなたは自分に何を望むのかな?」

「!……え、ええ。そうですねまず差し当たっては、始原の精霊についてより詳しく聞きたいですね。わたしから聞いたことだけではなく、あなたが知っていることをできるだけお願いします。後は……目下一番の課題として、そもそも始原の精霊がどこにいるか、ということなのですよね」

 

 紗和が初めて名前だけで呼ばれたことに少しだけ驚きながらも、紗和は蓮の質問に答える―――他でもない彼女の母に食らいつくための課題に関するそれらを。

 

「それに関しては自分も皆目見当がつかない。まああなたが知りたがるようなことは概ね話したと思っているけれども、まだ何か気になるのかい?」

「そのことなのですが、一つ聞きたいことがあるのですよね……これに関してはわたしもどう扱ったものか、判断に困るものが」

 

 そう言うと紗和は一枚の写真を取り出す。

 古い写真、しかし蓮はそこに写った人物は初めて会うが良く知っている。

 心臓の鼓動が速まる、それが不安か殺意か恋慕かはあえて考えない。

 

「……五河士道」

「いえ、違います」

 

 この間の『令嬢』とのやり取りが脳裏に浮かび緊張する蓮にとっては当然の回答、しかし紗和はそれがわかっていたかのように否定する。

 訝しむ蓮に、紗和は淡々と答える。

 

「以前蓮さんの話に出てきた名前の人物を調べたら意外な所で接点があったのですよね。今は無くなった高校の、30年前に行方不明になった男子生徒の写真を見つけるのはかなり手間取りましたがそのかいはあったと思います……さて、蓮さん。崇宮真士と五河士道、この二人は同一人物ですか? そうだとしたら……何故彼は30年前と同じ姿をしているのでしょうか?」

 

 こうきたか、と蓮は内心感動すらしていた。

 無論、蓮とて具体的なことは何も知らない。

 だが、思い当たる可能性など一つしかない。

 頭に手を当て、端正な顔を半分覆い、ため息交じりに漏らす回答は半ば賞賛であった。

 

「そこまで言うのなら付け加えることは何もない。あなたの想像の通りだと思うね……あの女、始原の精霊が関わっていることは間違いないだろう……それで彼をどうするつもりなのかな?」

 

 紗和は手にしたカップに口をつける。

 ここまで話ずめだったからか、すでに湯気は立たず香りも治まっているがそれでも気分は和らぐだろう。

 

 カップが唇から離れる。

 さほど時間が経ってはいないはずだが、蓮にとっては酷く苦痛な待ち時間が終わり、空のカップをソーサーに戻しながら、紗和は宣言する。

 

「事ここに至っては是非もありません。彼に協力してもらいます」

「拒絶されれば?」

 

 その答えに対しる回答は沈黙、そんな紗和の表情は酷く穏やかで、優雅な笑みで。

 それだけに分かってしまう、いつも通り手段を問わないと言うことが。

 

 蓮の脳内を様々な感情が嵐の如く、雪崩の如く襲う。

 不安、恐怖、恋慕、信頼、殺意、諦観、奮起―――

 それでも、結局蓮は士道に対する己の感情を紗和に伝えることができなかった。

 

 それは『令嬢』とのかつてのやり取りが原因であり、そして何より、それを伝えることで紗和が自分や士道の事をどう考えるかがわからなかったからであった。

 

 言い換えると紗和との関係を傷つけるのを恐れた。

 

 紗和は蓮の反応から何かしら感じはした。

 しかし、紗和の一番の関心はこの少年をどうするかに一番かかっていた。

 だからこの時の蓮の反応も、彼女が単にこれから自分がするであろう悪行について憂慮していると解釈してしまった。

 

 蓮は紗和に倣い、自分もカップの中のキーマンを飲み干す。

 醒めたかけた紅茶の、しかし燻したような香りは思った以上に今の蓮の鼻につき、蓮はその匂いを外に吐き出すかのようにため息交じりに息を吐いた。

 

 

 

 

 

 上空に浮かぶ魔法の空飛ぶ戦艦、最新技術の塊のその管制室で一見場違いな二人の女性が悩ましそうに話している。

 その内の妙齢のどこか眠そうな雰囲気の女性が、小柄なしかし勝気そうな赤い少女に紅茶の入ったマグカップを渡しながら話しかける。

 

「……琴里、あれ以来イギリス本社の方でもとりたてて変化がないというのは間違いないのかい?」

「ええ。DEMで混乱、というより反乱がおこって以来、ラタトスク本部でウッドマンさんも連中の動向を注目していたのだけれども、まさかエレンがお尋ね者になっていたとはね。ウェストコットはまだCEOのままだから何があったのかは良くわからないけれど、差し当たってはこちらへの危害が減るとみて間違いないようね」

「それはこちらとしても助かるだろう……六喰もようやっと慣れてきたところだ。これで後は狂三の動向がわかれば言うことは無いのだが」

「まあ、元々一匹狼だから期待はできないけど捜索中よ。幸か不幸かDEMが機能不全状態な今なら焦る必要もないでしょう。案外向こうから出てくるかもしれないわよ。それで本題なんだけども……実はエレンが見つかったの、それも日本で」

 

 意外を通り越して本来ならあり得ない様な話。

 まさか何かの陰謀か、とも思ったがどうにも琴里の反応はそういうベクトルの深刻さでは無さそうにも感じる。

 

「ふむ……わざわざラタトスクの足元までやってきたとは。こちらに接触したのかい?」

「流石にそれはないわ。自衛隊のAST基地にいるのが諜報部が見つけたのよ」

「確かにDEMはASTとも関連があったけれど……何故ここまで?」

「エレンと一緒に元SSSのアルテミシア・アシュクロフトがいるのは確認済みよ。どうやらそっちのつながりがあったみたいね」

 

 事情は概ね理解できたが、肝心の何故かがわからない。

 となると、次に琴里がすることは恐らく―――

 

「それで……琴里はどうするつもりなのかな……?」

「勿論、接触するつもりよ。相手が相手だから簡単に、とはいかないけどDEMで何があったかを知る絶好の機会よ。幸いこっちには折紙もいるからASTの方から手を回してもらえないか、確認する予定だわ」

「ああ、確かに折紙なら軍に伝手があるだろう……シンや他の精霊たちには連絡したのかい?」

「まあ、後で家に帰ったら直接伝えるわ。今電話に出ないからもしかしたら建込中なのかもしれないし。良い機会だから久しぶりに令音もうちに来る? あの子も令音のこと気に入っているみたいだし、折角だしご飯食べに来なさいよ」

「ああ、いきなり行ってはシンが困るだろう。私は遠慮しておこう」

 

 それでもまだ勧める琴里を尻目に、令音は現状を訝しむ。

 

 何かがおかしい

 

 狂三が【ファントム】をもってしても見つけることができない。

 宇宙での戦いもまるでわざとやられるために来たかのようにDEMの艦隊は動いた。

 DEMで反乱がおこり、エレンが追放されたのに、ウェストコットは未だCEOにつき、社内で大きな人事異動が無い。

 その反乱を起こしてエレンを引きずり落したDEMの者たちもまるでそれだけで満足したかのように表に出てこない。

 

 それら全ては一つ一つはおかしなことは無い。

 未だ計画は予定通り、概ね事態は令音―――澪の掌の上、のはずだ。

 だが―――

 

〈さて……・これから何が起こるのやら〉

 

 カップを唇に当てる。

 中身を口に含む前に、香りと蒸気で鼻腔を満たし、薄ぼんやりとした不安を誤魔化すかのようにしばし村雨令音は息う。

 

 

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