紗和アベンジ   作:TORIA

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⑮過去が追いかけてくる

 

 始原の精霊、崇宮澪は誕生して以来己が身の危険を感じたことは一度も無かった。

 ただ省みると客観的に見て常に安全だったかはまた別だ。

 

 誕生した直後、文字通り完全に無知な状態でウェストコットたちに捕まっていたら恐らく破滅していただろう。

 自分を保護したのが真士ではなく悪意のある何がしかだったら、果たして澪は今こうしていられるかは激しく疑問である。

 だが何より真士が殺された直後、澪が深い絶望に囚われていた時、この時ほど危うかったときは恐らくない。

 

 

 激しい怒りと憎悪、後悔と怨嗟

 

 

 当時はそれを指す言葉は無かったが今なら言える。

 

 あの時澪は反転しかかっていたのだ。

 当然、そんなことも知らないただただ泣き続けるしかできなかった澪がそれを防げるわけもなく、そのまま行けば最初にして最悪の反転精霊が誕生していたはずで、それは世界の滅亡と同義であっただろう。

 

 そうならなかったのはただの偶然。

 悲嘆にくれ、絶望に打ちのめされ、真士を思い嘆き続ける澪の前に突如現れた葡萄色の少女。

 

 澪は理解した。

 この娘は自分の中の昏いもの全てをはき出して産まれてきたものだと。

 

 直後、澪は反射的にその少女を拘束した。

 本能が告げている。

 この悪意の塊たる存在はただひたすら危険だと。

 他に選択肢などない、即座に滅ぼさなかったのは無意識の慈悲だったのかもしれない。

 

 こうして澪は自分の中の悪しき感情を霊力とともに捨てることでこの危機を乗り越えた。

 それは澪にとっても苦い記憶であり、他にどうしようもないやるせない負の歴史。

 

 崇宮澪は自分の半身とも娘とも言うべき存在を切り捨てて己が生存を選択したのだ。

 

 とは言え、それも30年前のことである。

 澪の罪を知る者はもはや誰もいない―――ただ一人を除いて。

 

 既にその娘がどこにいるかはもはやわからない、というより見つけられない。

 恐らく彼女の天使によるものだろう、本来であれば始原の精霊である自分は他の天使を無力化できるにもかかわらず。

 

 それはきっと幸運なことだろう。

 もし彼女に会ったら澪は決断と断罪を迫られるのだから。

 何より澪は罪を犯しすぎた。

 自分の山の様な罪に一つ加わったところで何一つ止める気もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 琴里にとって士道をこの戦いに巻き込むことは葛藤を伴うものだが、それでもここ最近程後悔に苛まれることは無かった。

 精霊が危険な存在などと言うことは言うまでも無いし、士道がそんなことで止まるわけもない。

 

 それでも今回の相手は恐らく、一度士道を殺そうとした狂三、しかもアルテミシアが漏らした情報が確かなら反転していると言う。

 その危険な相手に今度は誘拐される―――殺されたとは考えない、考えたくない―――と言う信じがたい失態。

 はっきり言って司令官失格と言われる類の落ち度、本気で辞職すら考えた。

 だが今は無理だ、士道を見つけ奪還するまでそんな弱気で無責任なことはできない。

 そんな琴里の焦燥とは裏腹に、士道がいなくなってはや一週間、いかなる士道や狂三の消息についての情報も掴めていなかった。

 

 琴里のみならず精霊たち全てが段々とギスギスし余裕がなくなっていく中、折紙から琴里に意外な連絡があった。

 曰く、士道と一緒に失踪したニクキューの首輪についているGPSが一瞬だけ反応したと。

 場所は治安の悪そうな場所にある老朽化した建物の一室。

 その近くでその場に似つかわしくない派手な格好の美少女がみられたことがあると言う噂についての折紙からの報告は、琴里を初め精霊たちにとって光明そのものとなった。

 

 すぐに折紙や十香、真那や六喰といった志願者がその場所に向かい強行突入を行ったが、その隠れ家であるひっそりとした路地裏のマンションは当然のように無人だった。

 

 折紙たちによれば部屋の中にはほとんど重要そうなものはなく、ただネコのおもちゃやキャットフードが置いてあるだけ。

 

「それでもここに誰か―――白く長い髪の恐らく女がいたのは間違いない。あと机の上の埃の後からパソコンが撤収された形跡がある……急いで撤収したからパソコンのケーブルが残ったまま。ポットのお湯もまだ熱い。ここの住人がいなくなったのは、ほぼ間違いなく私たちの突入直前」

「それなのに誰とも出くわさなかった、まるでドアから出ずに消えたかのように……何とか周辺の監視カメラの映像を見れないかしら?」

 

 それからマンション周辺の監視カメラをラタトスクの力で調査したものの、それらには何も重要な物は映っていなかった。

 恐らくドアをくくらずとも移動できる能力を持つ―――それこそ狂三の影を移動する力の様に―――相手、わざわざ玄関を通ってくれるかどうか。

 

 不毛な作業になりつつある映像の確認の最中、席を外していた折紙が戻ってくると手にした何かを疲労困憊の琴里に渡した。

 

「……何かしら? USB?」

「隣のビルの三階の監視カメラ。どうやら後ろ暗いことをしていたらしい」

「何でそれを……まあ、いいわ。あなたにそれを聞いても仕方ないでしょうし」

 

 半グレ集団の営業活動による集金を蓄えた金庫、そしてそれを秘かに見張るために隠れるように設置された監視カメラ。

 そのレンズの先には偶然件の部屋の窓があった。

 どうしてそれに気が付いたのか、どうやって手に入れたのかなど気になる点は山ほどあったが今はただ頼りになる白い精霊に感謝し、映像を見る―――そしてそれこそがお目当ての物だった。

 

「これが反転した狂三か……まさか本当にあの狂三が反転するとはね、令音」

「しかし反転しても冷静なようだ。明らかに理性に則って行動している……流石狂三、と言うべきかもしれないね」

「そのせいで誰もかれも散々な目にあってるわけだから困ったものだわ」

 

 このビデオ映像を確保できたのはただの偶然だ。

 あの部屋の住人もまさか隣の建物にいる精霊を映像に収めようとしたわけではないだろう。

 故に彼女も気が付けなかった。

 映像の中では夜間に窓を開け放ち、空に向かって飛びあがる白い狂三の姿があった。

 

「二、三か月前にはもう反転していた……しかし彼女『たち』は一体何なのかしら? 精霊なのは間違いないのでしょうけれど一体何が目的なのか……未だ脅迫も無いけれど反転しても理性があるのなら是非説明して欲しいものだわ」

「……たち?」

 

 令音が訝し気に返す。

 何度見ても映像には反転したと思われる狂三が映るのみ。

 

「何言ってるのよ、令音。ほら奥の方にもう一人いるじゃないの」

 

 琴里が何もない空間を指さす。

 何度見ても無人、冗談としか考えられない。

 しかし令音はとてつもなく嫌な予感に襲われる。

 見えない死神がそこにいる、そんな悪寒。

 だから、声に感情が乗るのを押さえながら琴里に問う。

 

「……琴里。君には彼女が何に見える?」

「何? そうね暗いからわかりにくいけど全体的に派手、というか奇抜な格好ね。ミドルのシャギーに小さいカクテルハット。さしずめ劇の役者、手品師、娼婦かしら。手足に包帯と手枷が付いてるし、罪人でもイメージしてるのかも。てか、この娘も顔とスタイル良いわね。まあ、ほぼ間違いなく精霊になるんでしょう。どんな能力があるのやら……令音?」

 

 途中から琴里の羨望交じりの感想は聞こえていなかった。

 

 過去が憎悪に歪んだ笑みを浮かべて令音の、ひいては澪の一番大切なものを奪いに復讐しに来るという紛うことなき悪夢の具現化。

 もはや間違いようがなく、状況は最悪な方向に向かいつつある。

 

 

 琴里から見る令音の表情はいつも通りの眠たげな表情。

 しかし長い付き合いから来る経験が告げている。

 

 令音が緊張している、と。

 

「令音……? もしかしてこの娘知ってるの?」

「……まさか、私には彼女が誰か分からないな」

「そう……」

 

 そう返事が返ってきたのを信じることにした、信じたかった。

 令音が自分に嘘をついているなどとは思いたくなかったし、同時にそうだとして彼女がこういう反応をするからには恐らくそれ以上聞き出せないだろうとも。

 

 フラクシナスのブリッジに沈黙が下りてくる。

 重苦しい雰囲気は事態の打開が未だ不可能である以上の波乱を誰にも想起させる。

 

 犯人の正体も依然不明、その意図も不明、所在も不明、当然解決策も不明。

 それにあたる味方の意志も統一できなくなりつつある。

 精霊たちも表面上冷静さを保てているが、それがいつまでも続かないのは明白だ。

 

 そしてここに来ての令音の奇妙で不穏な反応。

 指揮官たる琴里にとってもはやどうしていいかわからず投げ出したくなるほどのストレス―――それこそ犯人と交渉して兄が助かるなら他の何を犠牲にしても良いとすら思えるほど。

 

「まずは一歩前進ね。少なくとも犯人らしき相手がようやく見つかったのだから。この二人の画像をあらゆる映像媒体から検索してちょうだい……この際手段は問わないわ。このツケは、彼女たちと士道に背負ってもらいましょう」

 

 そんな惰弱な考えを否定する様に琴里は息巻く。

 勿論空威張りではあるが、フラクシナスのクルーも精霊たちも、何より士道もそんな琴里を頼りにしているのだ。

 情けないところなど見せられる訳がない。

 

 それでも士道が帰ってきたら思いっきり白い方で甘えてやろう、そう考えるくらいは良いだろうなどと思う琴里は五里霧中の現状に必死に抗わんとしていた。

 

 令音はそんな琴里の現状を察し友人として気の毒に思いながら、それでも今の現状と問題解決の方法をその人間離れした頭脳をフル活用して考える。

 

 だからだろうか。

 

 そもそもこの二人は何故士道を誘拐したのか

 なぜ彼女たちに現状これ程動きが無いのか

 DEMとの関係はどうなっているのか

 

 二人も、そしてそれ以外の誰もそう言う根本的な考察を考えるのに至らなかった、あるいは考えても結論も対処もできなかった。

 

 とは言え仕方がないだろう。

 いかに今の狂三が理性的に見える反転精霊とは言え、無関係の相手に狡猾に悪意をぶつけれる相手だなど琴里も知るすべもない。

 目の前の狂三はかつて自分が騙した『友人』ではなく、その際ついでの様に破滅させた名前も録に知らない少女だなどとは令音ですら考えが及ばない。

 そしてそんな悪意の精霊たちにとって現状はただ時間稼ぎでしかなく、仮にそれに考え付いたとしても対処が極めて困難な罠であり―――

 

 

 故に誰一人気が付かないうちに、精霊たちに残された時間は刻一刻と無くなりつつあった。

 

 

 

 

 

「紗和さん! ご無事でしたの!?」

「全く焦りましたよ。まあ、万が一のことは考えていつでも緊急避難できるように心構えはしていましたが」

「まあ、まあ。わたくしたちが作った拠点はまだいくつかありますから。ところでコロンさんはどちらに?」

「筺の中に一度戻ってもらいました。あの子も彼に会いたかったでしょう」

「士道さんに……お会いしましたの?」

「まさか。コロンなら廊下に放したら鉄格子をくぐっていきましたよ。あの檻に近づけば霊力を吸われてわたしもただの年齢相応の小娘です。それにあちらの狂三さんも今わたしに会いたいわけではないでしょう」

 

 緋衣響を名乗る白く儚い少女、紗和がそう言って穏やかに微笑む。

 持ってきた様々な荷物を床に置きながらそう言う。

 自分の友人の普段と異なるこの顔にも大分慣れたが、これはこれで魅力的だなどと思う分身体の狂三。

 

「考えてもみればあそこの部屋にばかり長居しすぎました。元々狂三さんのお部屋だったのですから、その線でラタトスクに発見される可能性は十分ありました。要反省ですね」

「それで……こちらに戻ってきたのは……」

「ええ、もう仕込みは十分でしょう。そろそろです」

「……具体的に何をなさるおつもりで?」

「あなたが知るのはもうすぐ終わる、という事だけで十分です」

 

 いつもと変わらない落ち着いた優しげな声で微笑みながらそう言う。

 

 他でもない最終決戦を開始すると。

 

(『令嬢』は問題なくあちらを管理している。【蠍の弾】も概ね順調に仕込み終わりました。逃げ出した魔術師たちの所在も把握、決行時に問題がないような措置は十分。五河さんも問題なし。後何かがあるとすれば……)

 

「そういえば件の蓮さん、でしたかしら。大丈夫ですの?」

「それに関しては本人と話し合いました。気にしていない、とのことです。あくまで自己申告ですが、そう言うからにはそう言う事にしておきましょう」

「……随分淡白ですのね」

「恋愛なんて人間関係のもつれの最たるものではないですか。わたしができることなど話を聞いてあげることくらいですよ。わたしもさほど詳しい訳でも、興味があるわけではありませんし」

 

 淡々とそういう。

 それなら何故狂三本体に士道を引き合わせたのかなどと問いただしたくはなる。

 もっとも狂三と紗和の立場が、そして今の紗和の穏やかながら拒絶を含む雰囲気がそれをするのを阻む。

 

「それにわたしと蓮さんはあくまで同盟関係です。わたしが不得意で必要も無いのに、彼女の背景に踏み込みすぎるものではないでしょう」

 

「そう……ですわね」

 

 狂三はそれだけを答える。

 紗和にとって蓮は感情移入の対象であり重要な相手ではあっても、友人ではないと言う事だろうか―――蓮がどう思っているかはさておき―――それならば今の紗和にとって狂三はどうなのだろうか。

 

 とてつもなく聞きたいがどうやっても聞けない疑問が脳裏をよぎるとある狂三分身体。

 そんな悩める彼女を尻目に紗和が服を脱ぎ始めたことで、狂三は意識を現実に戻す。

 

「少し疲れました。シャワーを浴びたら少し眠ります」

「わかりましたわ。周囲の監視はわたくしが行いますから、どうかごゆっくりとお休みくださいまし」

 

 紗和は振り返ることなく浴室に向かう。

 彼女の小さな背中に頭を下げてそういう狂三。

 

 まだ高い日を防ぐべくカーテンを閉めると、室内は程よく薄暗くなる。

 浴室から聞こえる水の音を背景に狂三はベッドを整えながら

 

「恐らくこの後ですわね……タイミング的にこれが最後かもしれませんわ」

 

 不安を紛らわす様に一人ごち、この後に起こるだろうことを考えていた。

 

 

 

 

 冬の日が落ちるのは早い。

 外は暗くなり、カーテンの隙間からうっすらと街灯の灯が滲むように差し込む。

 冬の空気は寒々しくて重いが、狂三にとってこれから起こることによる緊張が全てをかき消す。

 もし万が一紗和がこのことを知れば全てが終わる。

 そして分身体の狂三にとって手段は他になく『彼女』を頼りにするしかない。

 

 そんな狂三の前にはベッドの中で眠る紗和の姿。

 かれこれ三時間ほどになるだろうか、かなり疲れているのだろう。

 『彼女』と会うときはいつもこうだ、そして―――

 

「―――狂三さんの好物は何ですか」

「……笹の葉カステラですわ。あなたがわたくしと出会ったのは」

「第十階層【マルクト】。お久しぶりです狂三さん」

 

 ベットの上で寝間着姿の少女が体を起こす。

 寝るために結っている白い髪が美しい、儚い見た目の少女がにかっと笑う。

 その笑みは今までの瀟洒で落ち着いた淑女の笑みではなく、太陽の様な輝く生命力に富んだ笑み。

 それを見て狂三は内心ようやっと安心する。

 

 今の彼女は緋衣響だと確信できたからだ。

 

 彼女との会談はこれで五回目。

 紗和が響の姿になって眠りについた時に現れることがある彼女は狂三に今の現状やその対策を語ってくれる数少ない、というより唯一の味方。

 とは言え彼女のことを全て信用できるのかは何とも言えない。

 

「あなたはどうしてわたくしと士道さんの逢瀬のことをご存じですの……正直少し気味が悪いのですが」

「ふっふっふ。わたしはこう見えて狂三さんの事を色々知ってるんですよねー。何せわたしは狂三さんファン第ゼロ号なんですからー!」

「……はぁ、まあわたくしに好意を持っていただけているのは良くわかりましたわ。それで、そろそろ本題に入っていただいてもよろしくて?」

「はーい。それでは現状ですねー。早速ですが―――いよいよヤバいです。崩壊寸前です。このまま行くとあちら側の精霊さんたちは世界の敵にされますし、何より彼が……」

「! 紗和さんは士道さんをどうするつもりですの!?」

 

 響が語る内容は始原の精霊を打倒する手段の具体的な詳細。

 普段は紗和の意識に潜む彼女は他の誰よりも、あるいは当の本人以上に紗和に関することを知っている。

 

「紗和さんは……それを本当に行うつもりですの?」

「マジもマジ、大マジです。紗和さんはあの性格ですからね。しかも今は敵が自分の仇兼蓮さんの仇で完全に迷いがなくなっています。とは言えこのままだと上手くいって誰も彼もが破滅して終了、という感じになるでしょうか……紗和さんも含めて」

「それで……そう言うからには当然わたくしにして欲しいことがあるのでしょう?」

「さっすが狂三さん! 略してさす狂! 話が速くて助かります。ええ、勿論です。端的に言うとわたしが天使を取り返してくるんでそれを持って何とかしてください!」

 

さらりととんでもないことを言う。

 

「……できますの?」

「ふっふっふ、やらいでかー! こう見えて紗和さんが奪ったザフキエルを取り返すのはこれで二回目です。幸いわたしは普段紗和さんの意識の中に潜んでるんで、紗和さんが奪ってから大事に保管してるザフキエルについては良くわかりますから問題はないです。ただ―――」

「―――それを行うと紗和さんへの宣戦布告と同義である、ということですわね?」

 

 そうなりますね、と軽く返す響。

 無論簡単に決断できることではないし問題は他にもある。

 

「わたくしはあくまで分身体にすぎませんわ。セフィラは未だ囚われのわたくしの中。例え天使だけがあっても霊力不足になるのは必定ですわ……響さんは本体に接触できませんの?」

「あーわたしこのなりですけど、魔王は使えないんですよねー。無理に使おうとするとほぼ確実に紗和さん覚醒してしまうんです、はい。元々パワーバランスが違いすぎます。あちらがサメならこっちはイワシ、みたいな? 」

 

 雑魚ですよ雑魚―、と明るく笑いながらの自虐。

 どうやら腹をくくるしか無いようだ。

 死ぬ覚悟はともかく、最後にもう一度士道に会いたかったなぁと散漫になりかける狂三は、響の「それに」と話が続くこと表情に出さずに慌てて意識を向ける。

 

「わたしが信じると決めたのはこの狂三さんです。いやーどうやって【蠍の弾】から自由になってるのかと思ったらまさかそもそも撃たれてなくて、事件の日にあの人のことを考えて物思いになってたら、紗和さん配下の狂三さんたちが勝手に『これから起こすことに思い悩んでいる自分たちの仲間』と勘違いして助かるとか。何かよくわからないけどさっすが狂三さん、悪運強くて愛情深いたたたた!!」

 

 全力で頬をつねる。

 恐らく緊張をほぐす意味もあったのだろうが、それはそれとて制裁だ……決して恥ずかしいからではない。

 何となく癪になった狂三はふと気になった疑問を響に聞いてみることにした。

 

「全く……よくわからないのは響さん、あなたも一緒ではありませんの。そもそも何故あなたはこんなことをしていますの? あなたはどう見てもこの世界に愛着も未練も無いのは良くわかりますわ。わたくしは確かにあなたと旅をした時崎狂三に一番近いのでしょうが、それでも同じ個体ではないのは重々承知しているでしょうに」

 

 赤くなった頬を涙目で押さえながら「そうですねー」と返答を考える響。

 軽い少女だが軽薄では全くなく、とっつきやすいが入り込むのは難しい。

 そんな印象の白い少女が何とか答えるのか興味はあった。

 

 良く考えなくても狂三が彼女について知っていることは酷く限られている。

 そもそも何故紗和と融合しているのか、紗和とどういう関係だったのかすら知らない。

 分かっているのは彼女が何故か狂三―――というより自分のみだろうか―――に酷く好意的だと言う事だけ。

 

「まあ、いくつかありますが……やっぱり一番は復讐、でしょうか」

「……復讐、ですの?」

 

 余りにもありきたりな、しかし目の前の少女には似つかわない回答。

 いくつか疑問が頭をよぎるが

 

「そう復讐です。強敵と書いてともと呼ぶ、残忍で狡猾、頭が固くて重いにも程がある、白い白い女王様へのささやかな復讐」

 

 一番の疑問はあっさりこたえられる。

 

 相変わらずの輝く太陽のような元気で陽気な笑顔、しかしそれを見た狂三は何故か全く異なるはずの、紗和の柔和で落ち着いた笑みが想起された。

 

 

 

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