紗和アベンジ   作:TORIA

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⑨魔術師狩り

 

 エレン・メイザースは空を駆ける。

 CR-ユニットは大分損傷を受け、連戦に次ぐ連戦で疲労はもはや気持ちだけでは隠せないほどだが、それでも逸る気持ちを押さえてDEM本社へ最速で向かう。

 

 こんなはずではと言う焦りと、こうなったかと言う納得。

 どちらも今の状況の危険性を如実に指し示す。

 

(黒幕がいるとして、一体どこから、どうやって……いや)

 

 ここ最近の一件普通に見えるトラブルがもし仕組まれた異常だったとしたら―――

 

 そもそも【ゾディアック】攻撃部隊編成の段階で何かがおかしかった。

 隊員が集まらず、資材の搬入は遅れ、戦闘艦は機械的な異常に見舞われる。

 

 それらの原因は、交通事故の巻き添えだったり、変電所の火災による停電だったり、部品の経年劣化だったりと取り立てて不思議なことは無かったが、気が付けば想定よりも一週間以上遅れての第一次攻撃となった。

 

 そのミサイルなどを主軸にした最初の攻撃も、なぜか徹底的にラタトスクの妨害に会い、有効な攻撃はほとんどなかった―――向こうは【ゾディアック】の所在どころか存在すら知らなかったらしいにもかかわらず。

 

 やむを得ず第二次攻撃と言う形で宇宙空間に浮かぶ【ゾディアック】へ直接攻撃が行われることとなったが、ここでもトラブルが発生した。

 宇宙に向かう戦闘艦が大気圏離脱の最中に原因不明の爆発、周囲に大量の破片をばらまき、大規模な爆発、炎上が発生すると言う惨禍をもたらした。

 これにより隠蔽と周囲の修復、並びに失われた人材、物資の補完などでさらに時間を浪費することになった。

 

 しかも無為に時間と資源を使っただけではなかった。

 このころから、参加していた人員の中に、攻撃の延期を求める者が現れた。

 最初はただの提案、しかしすぐにそれは強訴に近いものになった。

 複数人に囲まれる、エレンのデスクに脅迫状めいた停止を訴える手紙が置かれるなど凶行はエスカレートする一方であった。

 

 無論、エレンがその程度にどうこうする訳もなく、暴力をもってわからせようとしたが、簡単に押し黙っていた普段と異なり奇妙なほど抵抗は大きかった。

 

 結局ウェストコットが出てきて降格と懲罰会議、恩賞や栄転など飴と鞭をちらつかすことで何とかしたが、結局二次攻撃は遅れに遅れてしまい、それら全てが今思い出しても腹が立つ。

 

 ―――だが本当の問題はここからだったのだ。

 

 二次攻撃の際アイクは地上に残った、地上に残った面々が信用できなかったからだ。

 エレンやアルテミシア、宇宙に上がったのは少数だが強力で比較的信頼がおける集団であり、短期決戦を目論みゾディアックに向かった―――はずだった。

 

 ようやっと【ゾディアック】のもとにたどり着き、攻撃をかけようとするや否や先に【ゾディアック】がポータルから先制攻撃を行い、少なからぬ損害が出た。

 エレンたちは驚いたものの、元々そのために来たこともあり、【ゾディアック】まで急ぎ距離を詰め反撃に出ようとした―――しようとしたのだ。

 

 【ゾディアック】を視界に捉えいよいよ攻撃をかけようとしやエレンたちが直面したのは、背後の退路を隠れていたフラクシナス含むラタトスク側の多数の艦隊に絶たれ、【ゾディアック】とラタトスク艦隊に挟撃されるという破滅的な戦況だった。

 

 宇宙の果て、援軍など期待も出来ない遠隔地でDEM部隊は文字通り殲滅された。

 エレンは洗脳されたアルテミシアの殿とゲーティアを捨て石にすることで、辛うじて地球まで帰還できたがそこでさらなる、そして最悪の凶報を受ける。

 

 

 DEM本社での反乱―――エレンたちに対するクーデターである。

 

 

 ウェストコットには連絡がつかない、【ゾディアック】と交戦している間から通信が来なくなっていた。

 何とか地上に降りたエレンはDEMの、正確には反乱側の攻撃に迎えられた。

 

 魔術師、バンダースナッチ、はては空中艦まで持ち出してきた叛徒だが、エレンは軽く、あるいはどうにかそれらをいなしてロンドンのDEM本社へ急ぐ。

 

 エレンが降下したのは地中海だったので大陸上を無断飛行することになったが、どうやら大陸側は反乱側の手に落ちたらしい。

 一度も補給を受けられず、代わりにもらえたのは投降勧告と武装解除要求、そして攻撃のみ。

 

 最後に補給を受けたのは宇宙だったが、相次ぐ戦闘により流石に限界が近い。

 ―――本社はどれだけの敵が結集しているのだろうか、怯懦な気持ちを振り払うべくようやっとたどり着いたドーバー海峡の先を睨む。

 

 CR-ユニットのおかげで気温の影響をさほど受けていないが、心労と疲労はすでに倒れそうなほどエレンを蝕んでいた。

 海上はもう日が落ちつつある。

 そしてようやっと、DEMの落日を象徴するかのような寒々しい冬のイングランドの景色がエレンの目に入ってくる。

 

 不思議と攻撃は受けなかった。

 若干の安堵と罠を疑う気持ちで揺れながらも、エレンは本社ビルへとただ駆け続ける。

 

 日が落ち完全な闇を街灯が切りさく冬景色。

 

 今年は大雪になりそうだ、そんな場違いな心配をするエレンの眼前についにDEM本社ビルが飛び込む。

 

 ここまで一度も妨害を受けなかったこと―――普段であれば魔術師が飛び込んできたら無事では済まない―――ことを除けばいつもと何ら変わりないようにも見える。

 

「! ……アイク!」

 

 だがその中の些細な、決して無視できない異常―――ウェストコットの部屋、CEOオフィスの窓が割れているのを見て取ったエレンは迷うことなく、そこから中に入った。

 

 大きな会議室ほどもある部屋の中は乱取りにでもあったかのように荒らされていた。

 書類が散乱し、壊れたイスが引き倒され、ガラスの破片が飛び散っている。

 

「ガラスが内側に飛び散っているからには外から攻撃を受けたというわけですか……」

「いかにも。混乱して注意散漫になっているようだったので、私が外から押し入り、今のご時世に冗談じみた邪悪なコングロマリットの経営者、その首級を上げに来たとも」

 

 エレンが入ってきたばかりの割れた窓、そこから楽し気な声がかかる。

 慌てて振り返ったエレンは乱入者を見定めようとし、そして驚愕した。

 

 夜闇の中、浮き上がる様な白一色の女がいる。

 軍服のような形を崩し、スカートを取り付けたおおよそ実戦に向かなそうな衣装。

 頭部には時計のような飾りのついた帽子をかぶり、両サイドから不揃いな長い髪を出す。

 ロングブーツでピンヒールというおおよそ歩くのに適さない見た目だけの靴。

 

 おおよそ戦場には似つかわない軍人のカリカチュア、しかしエレンは一瞬たりとてその女から目を逸らすことができなかった。

 

「成程……今回の騒動はあなたが一枚噛んでいましたか【ナイトメア】。その姿、よもや反転しているとはさすがに思いませんでしたが……その中途半端な姿、中々醜悪でお似合いですよ」

「……まあ君ごときの誤解を解くのに労力を割く気も無いし、私の装いについては思うとこがないでもないが……ゆっくりしていて良いのかね? ここの元社長殿が今どうしているかなど、その程度も思いが至らないのだろうかと老婆心ながら心配だ」

「ご安心を。世界最強の魔術師があなたを打ち負かし拷問して、セフィラをえぐり取ったらすぐにでも探しに行きますよ」

「……問題だったのはおつむかそれとも自信過剰な性根の方か。いずれにせよ、すぐにわかるだろう。精々私の戦闘訓練の練習台として励むとよい」

 

 レーザーブレードを構え自信満々に―――それがいくらかは虚勢だとしても―――【ナイトメア】反転体に死を宣告するエレン。

 それを受けた反転体は呆れたように、かぶりを振り剣を虚空から引き抜く。

 

 

 刹那、廃墟同然の一室に剣閃が走り、轟音が響いた。

 

 

 戦闘において敵から放たれた攻撃を狙って回避するというのは基本的にない。

 振り下ろされた凶器、直進する拳などはすべて同様に手にした武器や己の手で払いのけるかあるいは装甲で受ける。

 受け流しといっても手にした武器で相手の武器に対し行うもので、全くの完全回避ではない。

 まして飛び道具となれば言うまでもない。

 するべきなのは敵に狙いを定めさせないこと、攻撃させにくい立ち回りであって、自分めがけて飛んでくる攻撃を躱す訓練など世界のどこでもやらないだろう。

 それは魔術師の空中戦でも全く変わらない。

 

 しかるに

 

「っくぅ……! ちょこまかと! いい加減にし、あぐぅ!?」

 

 エレン・メイザースはその貴重な第一例と交戦中であった。

 

 超音速の斬撃戦はもつれあい、そのまま元来た窓から両者とも飛び出し、空中戦へと移行

 ―――そして最強の魔術師エレンは圧倒的に押されていた。

 

 斬撃に斬撃で返そうとする―――躱され、突きを食らう。

 拳銃の射撃を潰すべく随意領域を張りつつ突撃する―――軽く上を飛び越えつつ肩口を切り付けられる。

 剣を構えつつの突進を一旦躱し、横から攻撃しようとする―――避けた先に合わせる様に射撃が飛んでくる。

 

 まるで先読みしているかのように行動を潰してくる。

 

 【ナイトメア】のカタログスペックは頭に入っているが、精霊の中では身体能力は決して高くない。

 これまでの【プリンセス】【デビル】など他の精霊の例を鑑みるに、反転してもスペックそのものは封印前と大きく変わらないことから【ナイトメア】反転体もフィジカルで畳みかければ勝算がある、はずだった。

 

 攻撃が当たらない。

 レーザーブレード〈カレドヴルフ〉の斬撃をことごとく躱しつつサーベルで反撃してくる。

 レーザーキャノンを構え打とうとするエレンに、クイックドロウで銃弾を浴びせかけエネルギーチャージ中のキャノンを破壊する。

 

 最初は疲労のせいかと思った。

 次はそういう能力を使用しているのかと考えた。

 次第に明らかになった答えは簡単、この反転精霊は元からとてつもなく動きが速い。

 

 爆風を随意領域でいなし、受けた傷を回復しながら、エレンは相手の戦闘力を考察する。

 

 驚異的な機動力

 

 膂力や装甲は反転前とあまり変わっていないだろう、素早さだけが異常に跳ね上がっている。

 恐らく推進力自体はCR-ユニットのあるエレンが圧倒的に勝るはずだ。

 それでもエレンはこの反転精霊を全く捕捉できない。

 

(【ナイトメア】の能力に加速があるのは報告に上がっていましたが、これは常時そのくらいの状態を維持している……!)

 

 一瞬でも気を逸らせば視界の外に姿をくらませ、死角から攻撃を加えてくる。

 かといって正面から切り結んでも勝算は薄い。

 

「さあさあさあ、耐えて見せろ」

「くっ、調子に乗って……!」

 

 反転精霊がサーベルを向けて突撃してくる。

 背中を見せれば即座に終わる相手、エレンも覚悟を決め、レーザーブレードを構える。

 

 一直線に迫る神速の刺突

 

 レーザーブレードを構えながら眼前に随意領域を展開する準備をするエレンに襲い来る白刃は

 ―――急に軌道を変え無防備な右脇腹をそぐかのように抉る。

 思わず上がりそうになる悲鳴と、反射的に飛びのきそうになる本能を意志の力で抑え込み、正面の敵を睨みつける。

 

 その判断と努力はすぐに報われる。

 エレンの顔前に迫る白い拳銃の黒い銃口、そこから放たれる猛烈な射撃を紙一重の差で随意領域を展開し防ぐことができた。

 

 顔の前で影の弾丸が停止するのを見たエレンは少しだけ余裕ができ、相手に出来た隙に反撃しようとして―――

 

「ぐがっ……?!」

 

 自分の顎を襲うすさまじい衝撃とそれによって本社ビルに叩きつけられたことで無為になる。

 

 飛びそうになる意識を憎悪でつなぎ止め、全身を襲う痛みを必死でこらえる。

 脳内で地震が起こったような揺れをどうにか耐える。

 幸いなことに何故か追撃は来ない。

 随意領域でめり込んだ体を動かし、口元の地を拭い、ぐるぐる揺らめく視界の中、眼前の白い銃剣士に目を向ける。

 

 【ナイトメア】反転体はほぼ直角に上げていた脚を下ろす最中、それを見たエレンは自分が顎を蹴り飛ばされたことをようやっと理解した。

 

 地面を踏みしめることもできない空中で、蹴りにどう考えても向かないピンヒールで顎を的確に蹴りうがつ―――しかし精霊にとっては容易いことだろう、ましてそれが練達した戦士ならば。

 

(手強い……)

 

 今更ながらにそれを認める。

 機動力比較なら【ベルセルク】には劣るだろう。

 白兵戦能力なら【プリンセス】に軍配が上がるだろう。

 

 だがそれらをある程度どちらも兼ね、【ナイトメア】と同等の射撃ができるこの反転精霊は、しかも戦い方が上手い。

 射撃を混ぜて近づく、切りかかる様に見せて早撃ちを仕掛ける、まさに変幻自在の攻め手。

 

 そして何より―――

 

「やるではないか。他の魔術師を名乗る連中は私と数回打ち合うことすら出来なかった……認めよう君は私の敵たりうる。世界最強と言うだけのことはあるようだ、君は」

「舐めたことを……【ナイトメア】あなたはまだ能力を使用していない癖に……!」

 

 この反転精霊はまだ本来の力、魔王の能力を使っていない。

 【ナイトメア】の天使が12の時計版に呼応した能力を持っていることはあまりにも有名だが、この反転精霊の背後の銀時計は未だ何の力も発揮していない。

 

「今の君に我がルキフグスを使う必要があえてあるだろうか? ……ああ、使いたくなるように粘ると良い。今の私は機嫌が良い、あるいはあり得るかもしれないなぁ……」

「調子に乗って……! せいぜい図に乗っていなさい、誰を相手にしているか思い知らせてあげます!」

 

 言うや否やエレンは反転体目掛けて弾丸の様に飛び掛かる。

 同時にCR-ユニットのバックパックから無数の回転するレーザーエッジが射出される。

 そして飛び出て間もなく、そのすべてが撃ち落され内部の機雷に引火、爆発する。

 

 ――そしてそれはエレンの予想通りであった。

 この反転体の射撃能力はある程度把握できた。

 このように立ち振る舞えば必ず狙いに来る。

 そして破壊の瞬間は油断ができる、そこを狙う。

 

 エレンは想定通り、随意領域を展開し爆風に耐えると同時に、自分の最後の武器であるレーザーブレードを捨てると、CR-ユニットを変形させて、砲を形成する。

 

 それは砲撃と言うよりも、巨大な槍による一撃

 

 CR-ユニット〈ペンドラゴン〉最強の武装、〈ロンゴミアント〉

 

 爆炎と黒煙を割いて巨大な光の一撃が回避不能な距離で白い反転精霊を襲う―――

 

 突然の光景に眼前の将軍の様な精霊は回避することなく瞬時に銃を構え―――

 

 ―――【天秤の弾】モズニーム―――

 

 そんな声が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 凄まじい光は一瞬で治まり、続いて圧倒時な熱と音が周囲を襲う。

 射線上に合ったDEM社社屋ビルは文字通り中ほどから消滅し、残った残骸は鉄筋が真っ赤になって泡を吹いていた、

 

 凡そあらゆる生物が存在できない死の光景、それでもエレンは油断することなく周囲を伺おうとし―――

 

 ゾクリと背中を虫が這うような感覚を背中から感じ、咄嗟に背後に随意領域を展開する。

 そしてそれだけしかできなかった。

 

「【牡牛の剣】ショール」

 

 その声と同時に、エレンの腹部から赤い何かが生える。

 

 エレンの血、それを纏うのは白いサーベル。

 随意領域とワイヤリングスーツを背中から打ち抜く超高速の刺突。

 それがエレンを襲った反転精霊の一撃だと理解するのと焼けるような痛み、口からの喀血は同時だった。

 

「驚いたよ……それほどの威力が出せるとはね。褒めてやろう、この私にルキフグスの能力を二つも使わせたのだ。誇りに思うと良い」

「この、な、に……が……だ……」

 

 実際今の白の女王の人格、『将軍』はかなり感心していた。

 先ほどの光線もさることながら、『将軍』が今行った【天秤の弾】による位置交換からの無防備な背後への【牡牛の剣】の一撃。

 本来ならこれで貫通するほどの威力があったのだが、それが魔術師の肉体をもって止められた。

 

 それは彼女にとって賞賛に値し、そしてそれだけのことでしかなかった。

 

「君は確かに世界最強の魔術師かもしれないが、実際戦闘にはあまり向いていないな。むらっけが多すぎる。次があるなら命の危険がない運動選手にでもなると良いだろう」

「ふ、ざけ・・・・・るな……」

「もう疲れただろう、ゆっくり休むと良い―――そのまま、裂けろ」

 

 優しい声でエレンを労り、そして『将軍』はサーベルを握る手に力を加え、一気に切り上げる。

 エレンは血を吐きながらもサーベルを掴もうとするが、力をこめることは最早できず成すがまま体を開かれていく。

 

 意識が遠くなり、骨を断たれ、血が噴火する様に漏れ出しそして鋼の刃が心臓に達する―――、

 

 

「―――エレン!!」

 

 絹を裂くような声が聞こえ、同時に白い死神がエレンから離れる。

 ほぼ同時にエレンと反転精霊の間に誰かが割っている。

 

「エレン大丈夫!? まだ生きてる!? なら捕まって!」

 

 満身創痍のエレンが何かする間もなく手を掴まれ、そのまま高速で離脱する。

 後から射撃が飛んでくるが随意領域に阻まれ殆ど問題なく飛翔し続ける。

 お陰で自分自身を少し治療する余裕ができたエレンはどうにか言葉を発せた。

 

「……なぜ、あなたがここにいるのです……アルテミシア」

 

 アルテミシアは宇宙で殿となって分かれて以来だ。

 それはともあれ、彼女はDEM社によって洗脳が施されている。

 洗脳は精霊に対する敵対心とDEMに対する忠誠心を刷り込むもの。

 エレンを救うためとは言え、精霊を前にDEMの危機に離脱する、というのは本来あり得ない。

 

「エレンをほっといたら死んじゃうでしょ。大怪我してるんだから、このまま一旦治療できるところまで連れていくから黙っていなよ」

「治療の必要はありません。傷はもう塞ぎましたから離しなさ、いぎっ!?」」

「腹部を刃物で貫通されたんでしょ。場所的に消化器官にダメージが入っているから、バクテリアのせいでほっといたらほぼ確実に敗血症になる。応急処置じゃなくて、早く医療用リアライザを使わないとだめだって」

 

 「この私がバクテリアごときに……」と言う発言は聞き流して、アルテミシアは今後のことで頭を悩ませる。

 DEMでクーデターが起こった以上、エレンが見つかれば水に落ちた犬としてどんな目に合うか想像に難くない。

 普通の病院では駄目だ。

 と言うより欧州ではどこでも目を付けられるだろう。

 申し訳ないがSSSの旧友を尋ねるほかないだろうが、長居すれば彼女たちにも危害が及ぶ。

 治療が終わり次第、すぐにどこかに離れる必要がある。

 

 無論、アルテミシアがエレンを積極的に助ける義理は無いが、同時に死なせるつもりもない。

 なにより【ナイトメア】が反転しDEMを影から操ろうともくろむと言う、冗談でなく世界の危機に対して、強力な魔術師は少しでも生き残っていなければならない。

 

 エレンはアルテミシアの様子を伺い、洗脳が解けていることを確信する。

 それでもエレンを助けようとするアルテミシアのお人よしぶりに呆れながらも、今回の一連の出来事と何か関係があるのだろうかと考えようとするが、すぐに疲労で意識が遠くなる。

 

 エレンが大人しくなったのを見たアルテミシアはふっと表情が緩み―――すぐに前方に最初の関門が現れたのに気が付き表情を引き締める。

 

「バンダースナッチ。少なくとも30以上か……本格的にDEMは敵になってるね。仕方ない」

 

 覚悟を決めたアルテミシアは、エレンよりは多少ましな程度の装備でさらに加速、機械人形の群れを突破することを決意する。

 

 幸いにも後ろから【ナイトメア】が追ってくることは無かった。

 

 

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