*参考資料は、当時発売中の書籍とゲームから。
なお、それなりに独自解釈を含んでいます。なにせ資料が圧倒的に足らなかった時期なので……。
所々で光蟲が飛び交う幻想的とも言える夜景が広がっている。
西シュレイド王国よりはるか南方に位置するオルラド村。その田園風景である。
近くには肥沃な密林地帯が広がり、そこで採取される希少な鉱物や、その地に生息するモンスターから狩猟して得られた素材によって作られる加工品を主な交易品としていることで成り立っている。
村の人口は約三百人程度の小規模なものであるが、その中でも狩りを主な生業としている住民は全体の約四割にも上るという、ある意味『狩人の村』とも言えた。
そんなオルラド村にも、当然定期的な通商団体―――キャラバンは訪れる。
一言でキャラバンと言っても、大陸全土を渡り歩いている団体もあれば、西シュレイド王国を主体にして小規模な通商を行なっている団体もあり、オルラド村に訪れるキャラバンはその中でも、中央の王国を通るように東から南一帯を股にかける、規模としては中規模の団体だった。
それも、副団長はヒト族とは弱肉強食の間柄にあたる敵――モンスターを狩るのを生業とする"ハンター"の中でも、一流と呼んでも差し支えないような腕前を誇る人物である。
―――そのキャラバンが全滅したという情報が入ったのは、深夜に入ってすぐのことだった。
その知らせを聞いた時、さすがのオルラド村の村長も、内心信じられなかったのに無理はなかった。
そもそも、中規模のキャラバンならば、盗賊からの護衛として傭兵だけでなく、モンスター対策にハンターを雇っているのが当然であるし、でなければ到底通商など行えず危険な地域を回ることなど夢のまた夢である。
当然、訪れるはずだったそのキャラバンも、普段からかなり腕の立つハンターを雇っていた。そして何より、副団長が前述のような凄腕であり、なおかつ、かつてオルラド村の村長自身と共に、王国中に吟遊詩人の口を通してその名前を轟かせたほどの男だった。
それにもかかわらず、その商隊が全滅に追い込まれたというのは、一体何があったというのか。
そこまで冷静に事実を捉えてから、ようやく村長は『彼』がこの世から去ったのだと思い知り、それと同時に胸が苦しくなると、言いようの無い哀愁に駆られたのだった。
その知らせを届けに来たメッセンジャーは、村としては、いつも通りの平和な一日を終え、ようやくその日の終わりが訪れたときだった。
突如として村の入り口である、アプケロスやその他の大型草食モンスターの骨髄や骨を使って作り出した蓋門――存在としてはバリケードに近い――がうるさく連続的に叩かれ、次いでその外から今にも喉が枯れ果ててしまいそうなかすれ声で、「門を……開けてください!」という叫び声が聞こえてきた。そこに偶然、すぐ近くを通りかかった村人が気づいたのが事の始まりである。
すぐさまそのことは村長の耳に入り、村の男数十人による迅速な開門の末に現れたのは、一週間も歩き通してようやく、人の存在する場所にたどり着いた青年――いや、むしろ少年と表現したほうがいいだろう――と、その背に負ぶさっている痩せこけた少女だった。この二人こそが、キャラバン全滅の報をもたらしたメッセンジャーである。
手作りの担架に乗せられて真っ先に村長の家に運ばれた少年と少女は、村長の家で振舞われた食事を、まるで暴風雨のような恐ろしい勢いであっという間に平らげてしまい、少女の方はそのまま眠りについてしまった。
そして今。
薄暗い村長の自室の中で、そのベッドに眠る少女を優しげな目で見下ろしながら、村長が少年に事情を聞きだしているところである。
「番の双角竜《ディアブロス》と砂竜《ガレオス》の群れに襲われキャラバンは全滅、荷物もだめと……生き残ったのは、おぬしとその妹の少女だけか?」
「はい……どうやら、互いの縄張りが重なって、その取り合いをしているところに運悪く侵入してしまったようでした」
「……ふむ。早々に退治せねばまずいな。明日にでも討伐隊を編成しよう。少年、この長い道のりご苦労だった。何より、よくぞ生きてくれた。今日はゆっくりと休むといい。さらに詳しい話はその後でもよかろう」
「申し訳ございません」
ボロ切れのようなマントと、長い旅によって着古された衣服を纏った少年は、恭しく頭を下げて礼を述べた。
本来なら、端正な顔立ちで村の娘達に相当騒がれてもおかしくない容姿のはずなのだが、長かった放浪に近い旅の所為か、頬はこけ、体は痩せ細り、今にも枯れて息絶えてしまいそうな印象を持ってしまう。
―――しかし、青年の、怖いほどにまで透き通った、ディープブラッド(深紅)の瞳だけは、死んでいなかった。
遺伝の影響なのか、それともなんらかの病気なのかはわからないが、まるで鷹を思わせる鋭い目の中に存在する、血のように紅い瞳には、いまだ生きる目的を失っていない戦士――いや、狩猟者《ハンター》としての意思がはっきりと現れている。
その隣のベッドでは、かなり衰弱してはいるものの、少年よりはずっと健康的な色合いで、ぐっすりと安心した顔で少女が眠っていた。少年がこの長い砂漠での放浪の中、命をかけて守り続けてきた存在である。
その想いからか、少年の瞳は無言ながらも、後日の討伐隊に自分も加えてほしいと語っていた。
しかし、村長はその意志にわざと気づかない振りをして、穏やかに口を開いた。
「とにかく、今日は村の者が案内した家でゆっくり休むといい。この妹さんも、一緒でよろしいかな?」
「なんとお礼を申したら……すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
「はっはっは。まだ若いのにずいぶんと堅苦しいな、少年。もっと楽にするといい」
「いえ、オルラド村の村長様に対して無礼な口は慎めと、つねづね両親に注意されてきました。両親から教えてもらった、唯一の教えです――――どうか、守らせてください」
「……君の名前を聞かせてはくれまいか?」
人の良い皺の深い顔に、さらに深い皺を加えて、村長はやや重苦しげに尋ねた。
目の前の少年の言葉遣いに、どことなく懐かしいような知っているようなものを感じたからであるが、案外、その直感は間違っていなかった。
「ベルホーン通商団体副団長、ガルナンサ・リーメイビが長男、イヴァリーズ・リーメイビ。そして、そこで寝ている妹がその長女にして僕―――いえ、私の唯一無二の大切な家族。
妹の、アイリーズ・リーメイビです」
少年はその灼瞳に、まるで、研磨鉱石の中でも最上位に希少で硬いとされるカブレライト鉱石の如き強さを秘めて、隣で眠る妹の手をそっと握り締めた。
その力強い言葉と姿勢に、オルラド村の長は、目の前に古い戦友の若く、雄雄しい姿を見たような気がした。