敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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ガバと情けは人の為ならず…いやガバは違うか

 

 ───宵闇の中で、一人の少年が走る。

 

 だが、その音は無い。いくら靴を鳴らそうと、衣服をはためかせようと、風を切ろうと、その少年から音が発されることは決して無い。

 口元を隠すハイネックの上着。茶色い髪、青い瞳。

 この特徴に唯一合致する彼───ジャックは、夜の町をひたすらに走っている。

 

 彼はブラス・リッターの部下、と言うよりは庇護下にある子どもだ。年齢は12とひどく幼い。

 ブラスの指示と尽力があってか、彼はいまだにテロ行為など倫理にもとるようなことに手を染めていない。

 今回の病院襲撃、隔離場襲撃においても、彼をはじめとするブラスの部下である子ども達は参戦しなかった。

 

 そんな彼が、今こうして町を駆けている。

 結論から言うと、これは彼の独断である。

 

 彼の足は1区のビルの上を、飛び石のように走る。

 時刻が夜ということもあるが、襲撃のこともあってか、人通りは不気味なほど少ない。その中でも、彼は総合病院の方角に走る。

 

「………死んで、ないよね」

 

 不安の声を一つ、勝手に動いた理由を吐く。

 その言葉への返答もまた子どもの声だった。少しやさぐれたような女の子の声である。

 しかし、そこにあるのは声のみで姿はない。

 

『不安で動いたっつったら、怒られそう』

「…それはまぁ、うん…あとで皆であやまろ」

『あやまったら兄ィ許してくれっかな?』

「ゲンコツは覚悟しておこっか……そっちは大丈夫? さっきからずっと目、共有してるけど」

 

 声への返答は〝問題ねぇよ〟と素っ気ないもの。慣れたことなのか、ジャックは安心したように頷く。

 少年は絶えずビルの上を飛ぶ。目標に向けて一直線、素直さに溢れた動きだ。

 

 子ども()の目は、まっすぐ前のみ。

 恩人の無事を見るためだけに、彼等は無茶をした。

 そして未熟さゆえの過ちも。

 

 

「…あれは…子ども、か…?」

 

 

 

 

   ◆

 

 

 鎌と波紋がぶつかる時、同時に歌へ込められた思いも伝わる。というか、恐らくはそうなるようにアマネが歌っている。これはまぁ別に良いんだ、予想内。

 …問題は伝わってくる思いだ。

 つい、大鎌から手を離しそうになってしまう。

 

 だってほら、斬り合ってる中で『頼って欲しい』とか『力になりたい』とか『一緒にいられたら』とか敵意とは程遠い感情向けられたら、しかもダイレクトに頭の中にインされたらやり辛いことこの上ない!!!

 

「頭の中どうなってんだあんた!?」

「キミが大半占めてるけど文句ある!?!?」

 

 説得力で固まった上擦り声をありがとう効果覿面ですよこの野郎!! 声を鎌でいなすのも割と限界だよ、つか身体能力の差も出力でねじ伏せるっておかしいだろ!?

 作中じゃブラス()にパッシブのデバフが大量にあったから辛うじて互角だっただろうが!

 

 …というか、まずい。割と時間は稼げてるけど、そろそろ人の集まる音が聞こえていた。

 フードを目深に被り直す。可能なら、煙幕を張って退却したいところだけど…!

 

「逃がしてはくれなさそうだよな…」

 

 きっと身の上を話さないと、彼女は止まらない。というか、今のアマネはそのためだけに歌ってる。

 …独占してる感じgアホなこと考えてんじゃねぇ、どうにかして、今は退却しないと───歌声が途切れた?

 何だっていきなり、そう思ってアマネの方を改めて見ると、彼女はかくん、とゆっくり膝から崩れ落ちる。

 

 …何だっていきなり、じゃない。そうだ。彼女は元から「そう」じゃない。いきなり全力全開で力を使えば、疲れ切るのは不思議じゃないんだ。

 ……確かに思わぬ幸運と言えば、その通りだ。

 今なら、俺も退避できる。問題はない筈だ。このまま、この場を後にして良い筈だ。

 

「───ッ…あ、れ…?」

 

 ………でもそれは、声を掠れさせて、困惑と焦りを顔に出して、喉に手を置いて必死に声を出そうとしてる少女にむけて、背中を向けられればの話。

 

「ああもう!! 馬鹿だろ、俺は!!」

 

 逃げそうになる足を、止めた。

 家族、部下、民間人、アマネ。いったい、いくつ抱え込めば満足するんだお前は、そう自問する。

 しかし俺は〝仕方ねーだろ拾いたくなっちゃったんだから〟と開き直るように答えた。

 なんと最低なカスだ、死んでしまえ。

 半端者だと言われたら頷くしかない。デカい手があるわけでもないのに、何を必死に、幾つ掴もうともがいているのだろう。

 

 …目を閉じて全部忘れて寝たい。

 何も考えずに、何の不安も感じないでいたい。

 嫌な想定も、選択に命が乗っかる事から逃げたい。

 そう思わない、と言ったら嘘になる。

 だが選んだのは俺なのだから、寝ていい理由はない。そうすると決めたので、逃げてはいられない。

 というか幾ら何でもそんなことしたらカスどころじゃない、カス通り越してゲボカスだ。

 勝手に荷物増やして勝手に休むなクソボケ。

 

「……逃げるかと思ったのに」

「……俺もだよ! …けど」

 

 苦く微笑む顔を見る。ああ、そうだ。去るにしたって、逃げるんじゃなくて「この場を後にする」の方が良い。

 …きっと、彼女は逃げても理解してくれるし、そもそもそのことで責めるほど、理不尽な性格でもない。

 だけど、駄目なんだ。

 

 きっと今ここで、これ幸いにと言わんばかりにこの場から逃げれば、俺の目は濁ってしまう。

 駄目なんだ。そんな汚い俺の目じゃ、スラムの皆にも、部下にしている子ども達にも、何より目の前の少女にも、自分の顔を向けられない。

 …本当に、くだらなくて、しょうもない拘り。

 だけどこれを手放したら、

 

「…自分が終わるって思ったから」

「……そっか」

 

 だから、ちゃんとおさらばの言葉を。

 それを口にしないと、そう思ったけど。

 横合いから、一本の、先を潰した黒塗りの杭が飛んできた。そろそろだとは思っていたが、思いの外早い。

 脇腹を狙うそれは、咄嗟に身を捻ってかわす。

 

 大鎌を構え直し、戦闘意思の表明として突きつける。でもそれは、アマネに対してではない。中に残っていたラメントがそれなりに抵抗したのか、ようやくの到着だ。

 殴ることと、潰すことを目的とした変態武装。大掛かりな射出機構を伴った籠手。がっしりとした体格をした中年の男…つまりは、E班の纏め役であるイサカ主任。

 

「…お早い到着」

「遅いくらいだよ、フードくん」

 

 …後ろにも何人かいるな。

 さっさと煙幕を使って逃げてしまおう。

 そう思って、懐に手を入れる。

 

 それと全く同時に、筋肉の質量塊が突進して来る。わかっちゃいたけど速すぎる。その場でしゃがみながら、鎌の刃先で籠手を掠めた。今は切るより、掠める方が良い。

 目論見通り、がしゃんと籠手から嫌な音。位置的に動作補助の機構がバグったか。

 驚く主任に俺は真剣に言う。

 

「絶対にそのままパンチ打つなよ、その腕がホラー映画も真っ青モンのスプラッタになる。フリじゃないからな」

「優しいね。君は私らを嫌っていないのかい?」

「寧ろ頼りにしたい…ああでも、…うん、あんたに対する申し訳なさはあるにはあるかな…」

 

 何のことかと首を傾げるイサカ主任。

 多分、分からない方が幸せだと思います。

 いや、そのうち知ることになるとは思うけど…いやもう、ホントすいませんとしか言えない。

 

 …ともかく、とりあえず今は退避だ。懐の煙幕を投げて煙を出す。何人かは狼狽えてるけど、人数も多いし、正直逃げ切れるかは大分賭け…なんか煙の量多くないか!?

 

「誰かの改造品だったか…ってぅおお!?」

 

 何かに引っ張られてる!? 何だこれ誰だ!? サイズ的に子どもだとは思うけど誰だ!?

 あっ駄目だ驚いてる間にどんどん引き摺られてく! 煙が濃過ぎて誰に引っ張られてるかわからない───何してんだジャックぅ!? 待機だったよね君!?

 いやでも助かったのはマジだ!

 何でここにいるとか、危ないことするなとか、言いたいことは色々あるけど助けられた手前だ。

 飲み込まないと駄目だなこれは!

 

「こんなこと言っても信じられないだろうけどさぁ!!

 また会えることを心底祈ってるよ!!」

 

 でも最後に、きっちり彼女に対してだけのお別れを。言葉はぼかしてるけど、きっと伝わると思うから。

 こんな煙の海だ、距離も遠い。

 このまま逃げ切る前に、これだけは言っておきたかった。死ぬかもしれないのは本当で、この先どうなるかはわからない。

 

 本当に、また会えることを心の底から祈ってる。

 

 

 

「…ばか」

 

 

 …背中に投げられた声が、なぜか聞こえた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 1区特異対策局、第二情報室。

 監視カメラ映像。各種資料の揃った棚。調査に必要なものが揃っているこの場には、たった3人しかいない。

 殆どの人員は、隣の第一の方にいるらしい。壁越しにでも、騒がしい報告の声が聞こえた。

 

「…やられましたね、隔離場の方は何人か脱走されたそうです。現場は大混乱とのことで」

「あたしら、カムイと交代して正解だったね」

「ですね、恐らく被害はもっと大きくなっていた」

 

 刺々しい金髪を持った女は、自身の上司であるヒヒガネ・クサビに対して敬語で話す。

 彼女の手には蘭善中央部の地図がある。

 それを手にしたまま、彼女はげんなりした顔を見せた。

 

「…で、我々はいつ帰れるんですかこれ?」

「別に家に持って帰っても良いよ?」

「…すんません、言葉選びミスりました。質問変えます。

 いつになったらこの仕事って終わりますかね?」

「我々の頑張り次第です。頑張りたまえレオネちゃん」

「ぶっ殺してえ。この上司マジぶっ殺してえ」

 

 物騒なことを言うレオネに対し、クサビはナハハと笑っている。このやりとりは慣れたものらしい。

 しかし、それを見過ごせないと言わんばかりに、モニタやパソコンと睨めっこをしていたもう1人が、ぴょんと立ち上がる…背丈は小さく、顔立ちも幼い。

 頑張っても未成年にしか見えなかった。

 

「駄目だよレオネ、上司に殺したいとか言ったら!

 心の中で留めて夢の中でぶちのめさないと!」

「だーってろ女顔どチビ」

「んなぁ!? 人が気にしてることを!!

 今度夢の中で主任と一緒に車で轢いてやる!」

「今とんでもないこと口走らなかったユカタンくん?」

 

 この3人は割とあけすけに物事を言い合うらしい。他の人が見れば耳を疑うようなワードがポンポン出てくる。

 綺麗に言えばアットホームなこの空間だが、どうやら大掛かりな仕事を始めたらしく、誰もが疲れた顔だった。

 …いや、クサビだけイキイキとした顔だ。

 

「…よし、あたしは休憩に別の資料作ってくる」

「資料? 何の?」

「んー、引き抜きプレゼン?」

「は?」

 

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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