敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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もう逃げられないゾ♡

 

 1区総合病院襲撃から、1週間と少し。

 世間は当然ながら荒れた。

 進化者達による、医療機関と隔離場への襲撃。これは、元からあった進化者全体への危険視をさらに強め、隔離という措置を疑問視する声も少なからず上がっている。

 隔離だけでは安心できない。進化者を匿う者に厳罰を与えるべきでは。彼等が自由になったらと思うと怖い。

 そんな声はひっきりなしだ。

 

 また、対策局へのバッシングは苛烈なものとなった。原因としては、隔離場からの脱走者の存在だ。

 今回襲撃された第四隔離場は、進化者の中でも危険な者らが隔離されており、そんな者らが少数とは言え、世間に放たれることを許してしまった。

 マスコミや市民からの非難は免れなかった。

 

 そんな中でも、彼等の業務は通常通り。

 いや寧ろ平時よりも多忙ですらあった。

 

 

 

 

 書類。書類、そしてまた書類。白紙とインク文字の海。書式は一定、パターン化した丁寧語。

 朝方に書いたものが、赤字と一緒に戻ってくる。ありえない誤字。やばい脱字。しっちゃかめっちゃかな文体。

 ともかく、そういった紙が散らばる。

 

 それが今のフジワラ・アマネのデスクだ。

 本来なら仕事を溜め込む性格ではない彼女だが、今ばかりは例外だ。彼女は先の事件の収束後、時間を見つけては自身の能力を更に高めるための鍛錬に従事している。

 …その結果、見事に書類が山となった。

 

「ボクの報告書、要求量多くなぁい!?」

「仕方ない。アマネが戦ったの、幹部ってわかったから。どんまい、ファイト、がんばれ」

「そんなこと言ったらハルニレくんもじゃんか!!」

「堅物は気絶してたし、そこまで戦えてなかったし」

 

 アマネの慟哭に、ミナヅキが励ます。その一環で、ハルニレに流れ弾が当たる。

 槍玉に挙げられた彼はぎぎぎ、と首を動かして2人の方を向く。

 

「…………なんだ」

「ペア置いて独断専行したのに」

「ミ、ミナヅキちゃん、その辺りで…」

「アマネ、もっと怒れ。下手したら孤立して死んでた。というか堅物は死んでないのが不思議。

 1人で突っ走って気絶とか、マンボウか?」

 

 ぎりぃ!と清々しい程に隠さない歯軋りの音。自身の至らなさを指摘され、気分を害したのは明白だ。

 しかし、自覚はあるのかハルニレは無言のままだ。

 

 何も言い返せないからか、彼はそっぽを向く。小さな勝利を掴んだ故かミナヅキはガッツポーズを取る。

 今日も2人の仲は悪いらしい。そんないつも通りに、アマネは慣れたと言わんばかりに苦笑した。

 

「…そう言えば、相手と進展どう?」

「うぇっ、いきなりだね!?」

「忙しいままだと自然消滅、よくある」

「絶妙にありそうなこと言ってくるなぁ…」

 

 話題が変わる。アマネにとって優先度の高いものなのだろう。彼女は書類作成の手を止める。

 …というよりかは、ミナヅキの言う〝自然消滅〟が心に引っ掛かったのかもしれない。

 アマネは自前の緑髪を弄る。そのまま、少し物憂げな顔をしたかと思えば、少し照れくさそうに笑った。

 

「進展はまぁ、あったにはあったよ」

「どんな?」

「…首っ丈だなぁって、気づいちゃった。

 話した後にだけどね」

 

 言ってて恥ずかしくなったのか、彼女は頬を赤らめながら自身のデスクに突っ伏す。

 しかし変なスイッチが入ったのか、それとも溜め込んでいた不満の発散か、堰を切ったように喋り出すアマネの口は止まらない。

 

「…苦しそうなのに何も言ってくれないし。ちょっとは重荷を分けて欲しいっていうか、預けて欲しいっていうか。人のことは勝手に支えておいて自分は支えさせないとかちょっと身勝手すぎるよ、ばか。

 逃げると思ってたのに逃げなかったし。普通あそこで留まるとか思わないじゃん。そこまでするのに自分のこと全く話さないし、どうせまた〝俺のことは後でいい〟とか考えたり、自分のこと責めたりとかしてるんだろうなあのばか。キミを優先したい人だっていることに気付いてるのかな、少しはボクに寄りかかって欲しいんだけど…」

「アマネ、アマネ、お腹いっぱい」

 

 怒涛の惚気にも近い文句の吐露。話をねだった側が「おえっぷ」となる程の粘度と糖度である。

 アマネは顔を赤くしたまま、拗ねた幼子のような顔をする。頼ってもらえない、話してもらえないことがよほど気に入らなかったらしい。

 頭の中は、良くも悪くもそればかりだ。

 

「捕まえて首輪とかしちゃえば? ギチギチ」

「チョーカー? あれ贈るの重いって聞いたことあるんだけど…いや、もう重いとか言ってる場合でもないか…」

「…冗談だったのに」

 

 調子を崩そうと出した冗談を真剣に検討されて、ミナヅキは若干引いた。何というか、遠慮がなくなったなとすら感じている。

 それは彼女の持つ思いの強さ故かもしれない、そう考えつつも聞いた限りの推測をこぼす。

 

「…でも、そんなに抱え込む人なら、なに言っても預けてくれなそう。大丈夫か?」

「それはそう! 本当にそう!!」

「おわ」

 

 ガタン! と椅子を揺らして勢いよく立つ。周りからの目も、彼女は今となっては気にならないものらしい。

 一途なのか、余程強く助けたいと思ったのか。

 彼女は強く意志の籠った瞳を持ちながら、しかし不敵に笑って宣言する。

 

「今のままだと絶対に助けてって言わないからね、ボクの方から何度だって迎えに行ってやるんだ」

 

 再会を祈られた歌い手は吹っ切れた。遠慮、躊躇といった縛鎖は既に取り払われた。

 きっと彼女は何度でも、何度でも彼のために歌い、そして手を伸ばしに行くのだろう。

 

 彼だからこそ、彼女は自身の心を歌で晒す。

 そこに恐れの一つも込めず、喉を開いて歌を紡ぐ。

 再会した時、彼は一体どんな顔をするのか───それを目の当たりにするのは、さほど遠くないのかもしれない。

 

 

 

 

 

    ◆

 

 

 

 

 重ねて言うが、特異対策局の組織構造には厚みがある。階級は大雑把に分けて、局長、副局長、支部長、局員。

 年々増加傾向にある進化者達を鑑み、組織の効率化のためにこの構造を改革すべきではないかと声が上がっているが、それはまた別の話。

 

 …いや、別の話と断定するのは少し違う。

 今ヒヒガネ・クサビを始めとする幾人かの主任と話している男が、その組織の改革を呼びかけている当人だからだ。

 彼は対策局の副局長が1人であり、進化者達によるチームであるE班設立提案者の1人。

 彼の名をクリフ・サンダーズ。座右の銘は「仕事を押し付ける奴は上司であろうとぶち殺せ」である。

 

「お前らも知っての通り、先の襲撃で鎮圧した何人かの構成員から、主犯組織の全貌がある程度割れた。

 幾人かの幹部の能力についてもな。

 それを鑑みてだ。今回フジワラ二等局員が幹部の1人である〝大鎌の男〟を抑え続けられたのは、目覚ましい活躍と言っていい…戦功手当の会議何時からだっけな…」

 

 スーツ越しでも分かる筋肉質な巨躯。金色の顎髭に、逆立った髪。見れば萎縮してしまいそうな存在だが、彼の座る席の付近には胃薬が転がっている。

 加えて、彼と相対する主任達も緊張感ゼロ。

 舐められているんだか、慕われているんだかよくわからない上役の1人であった。

 彼は渡された資料を眺めながら口を開く。

 

「…ま、ともかく。オレとしては、このままイサカの元で育成をやってもらいたいんだが…ヒヒガネとクサナギはそれを却下したいと…クサナギお前は病院襲撃に関係ないだろう!! 何故ここにいる!?」

「あ、E班設立意見提案者としてです」

「……それ言われたら…何も言えんな…」

 

 おっさんはあからさまにしょんぼりした。

 それに流されず、クサビは淡々と言う。

 

「イサカ主任から報告は受けてると思いますが、他班員から彼女への扱いはぞんざいの一言です。

 育成をするにしたって環境が雑すぎます」

「…イサカ、そんな酷いのか?」

「何度も注意してんだけどねぇ…どうにも」

 

 イサカの言葉に、クリフは天を仰ぐ。

 するとクサナギが彼の隣に歩み寄り、頭を掴んでゆっくりとクサビの方向に修正した。

 …ついでに転がっていた胃薬を隣に置いた。

 その上、ミネラルウォーターの入ったボトルと、おかゆのレトルトパックまで。

 

「…クサナギ、なんだこれ」

「差し入れです」

「……そうかぁ…」

 

 そんなやりとりも気にせず、クサビは話を続けた。

 

「今回の一件でのハルニレ・アガタの独断専行は無視できません。加えて、彼に同行したフジワラ・アマネへの、他班員や職員からの軽視や態度もまた然りです。

 正直なところ、イサカ主任の管理能力を超えてしまっているのが現状だと判断しています」

「やー…言い返す言葉もないね…」

 

 ここでクリフは「うん?なんかこいつら話がテキパキと進みすぎじゃない?」と今更ながらに違和感を持つ。

 疲労を溜めた頭脳がやっと警鐘を鳴らしたのだ。

 しかしもう遅い、そう感じたと同時に彼は「本題は?」と聞いてしまったのだ。

 

「───フジワラ・アマネを我が班に参加させ、それに伴って我々をE2班とさせていただきたい。

 非能力者と進化者の共同チームってことで」

「…本音は?」

「元一般人にして良い待遇じゃないでしょ、怠慢してる場合じゃないよゴリさん。あと私情が少し」

「誰がゴリさんだ誰が」

 

 クリフはため息を吐いてから、胃薬を飲んだ。

 

「特異対策局の長期目標を見るに、この班の設立を却下する理由はないと思います」

「クサナギ、断るとは言っとらんだろう…打診はする。まぁ、イサカの反応を見るに通る意見だ。安心しろ。

 だがな、オレの嫌な予感はまだ続いてる。これを見ろ、クサビがこの前送って来た許可願いだ」

 

 クリフの手には、数枚の書類がある。彼はそれをバサバサと鳴らしながら詰めよるようにクサビに言う。

 

「なぜこのクソ忙しい時にスラム域の調査を?」

「……ジャックポットって好きですか?」

「誰がこのクソ忙しい時にギャンブル系の話をしろと言った!?頭痛の種が既に実りまくってるんだぞ!?」

「無駄足か、幹部を味方に出来るのどっちか…」

「マスコミ対応やら情報整理やら警備見直しやらしてる時にとんでもないのを持ってくるな…検討するけども…」

 

 ───上役達は今日も胃薬を手放せなかった。

 

 

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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