敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
エンコ詰ってなんか特産品みたいな響きだよね
病院襲撃を終えて、7日ほど後。
拠点としている、とある廃ビルの中のことだ。
色々と状況整理や、成果の確認。怪我人の治療やら報告やらで忙しい中、俺はボスに呼ばれていた。
一対一の顔合わせだ。おそらく、病院襲撃前にやらかしたことを報告されたのだろう。
…うん、まぁ、そうだな。全然関係ないけどキュリアの髪を後で少し切っておこう、頭頂部あたりを円形に。
そんなことを思いながら、ボスのいる部屋へ入る。
───少し、いやかなり面食らった。
「…皆さん、お揃いですか」
「まぁ、話題が話題だからな?」
幹部が全員揃っている。思わず、右手をフリーにした。
しかし周りを見渡すと、殆どの幹部達は集められた理由がわかっていない様子だ。
俺は大人しく、顎で示された席に座る。
会議室の跡でも利用したのか、都合全員分の席を設けられた部屋で、どういうわけかボスのアイザックが、幹部全員の方を向いて頭を下げた。
「ここで一つ、お前達に謝罪する」
…謝罪? 何か謝罪するようなことは、
「俺はブラス・リッターに対して人質を取っている。あいつと俺の間には契約があり、俺が人質に手を出さない限り、組織のために働いてもらうって話だった。
俺がこれを反故にした場合、ブラスはその大鎌を以てこの組織にいるものを鏖殺する。子どもは除いてな。
このことを黙っていては、お前達への不義理だと思ってな。この場を借りて打ち明けた」
───は?
「…冗談では、ないようですね」
「…なるほどなぁ?」
幹部は軒並み驚いている。いや、何より俺が一番驚いている。なぜ開示した?いや、違う。理由とか考えている場合じゃない。
…今この瞬間から、子ども達も人質になったようなものと考えておこう。さて、どうしたものか、余裕が無くなってきたな…。
…幹部達が一斉に俺の方を見る。
目の色は様々だ。驚愕、納得、疑念。三者三様の反応が俺に向く。だがそんな顔をされても困る。この状況を一番問い質したいのはこちらだ。
俺は動揺のまま、ボスに向けて言う。
「あー…、何だっていきなり暴露したんです?」
「キュリアからの報告で少し思うところがあったんでな。端的に言うとお前を警戒している。監視の目は多い方がいい、違うか?」
「不利益をもたらすかもって?」
「今回の作戦での働きは、結果で言えば利益だ。退却にも貢献したし、おかげで目当てのデータも手に入った。
…俺はと言えばまんまと最強に足止めされた結果、当初の予定とは異なり僅かばかりの戦力しか迎えられなかった、だから成果に関しては言及しない」
じゃあ、何を聞きたいか。そうもったいぶりながら、アイザックは口を開こうとするが───その前に、壮年の男であるディランが口を挟んだ。
「待て、その契約が確かなら、既にブラスは代償を支払うべき行いをしているのではないか?」
「おっどうした童貞。疑問があるなら言ってみろ」
「いきなり敵意のギア上げたなこいつ…」
ボスが呆れたように言う。
だってもう取り繕う必要もないだろう。そっちが先に暴露したんだ。この先に俺の幹部としての立場はもちろん、構成員としての立場もほぼ無いようなものだ。
そうともなれば、畏まる方が阿呆らしい。童貞呼ばわりに面食らうディランを見ながらそう思う。
…どんな組織にも過激派はいる。
キュリアもそうだが、ディランもその一人だ。
作中においては極めて排外的な男である彼は、進化者以外の存在や、非協力者を許さないという病的なまでの思想に取り憑かれていた。悪いことに、それを改めてくれるような存在や出来事がないまま、壮年に至る。
…いや、普通はこうなるのかもしれない。
「…組織のために働く。そういう契約だったな? だとしたら、お前がやっていることは何だ? 戦力となる子どもらを抑え込み、挙句の果てにはトラブルで組織を揺らしている」
「進化者が権利をもつための組織なんだろ? 子どもを戦力になんてしてみろ、その時点で更に権利から遠ざかる。
トラブルに関しては本当に申し訳ないと思ってます…」
隙あらば噛み付いてくるなこいつ…誰も信用してないから当然と言えば当然だが。
とは言え、萎縮はしない。思い通りにもならないし、怯えて下手に出れば間違いなく付け込まれる。
あくまで契約、脅迫ではない。
加えて、契約と言えど引き下がり過ぎれば必ず上に立たれる。
それだけは避けたいところだ。いやというか本当にどうしよう、笑えねぇ状況だ。
「ま、一理あることだ。そのことに関しては一旦横に流そう。俺が責めてえというか、心の底から理解出来ねぇと思ったところがあってな」
眉間を揉みながら、アイザックが言う。
心当たりはあるにはあるが、まさかあんなことでそんなダメージを負ったりするのだろうか。
だとしたらその真っ当さをもっと他の事に向けて欲しい。
「皆の前提は揃ったところで、キュリアからの報告を俺は今ここで改めて反芻する…『俺、父親になるかもしれない発言』をしたそうだな…この前からイカれてんのかお前はぁ!!!!どんな新手の妨害工作!?!?」
「いきなりデカい声出すなよ、というか心外だな工作じゃなくてマジの話だって」
「なおのことタチ悪ぃよなんなんだお前!!!」
うるせぇなテロリストがこんなことで狼狽えんなよぶっ殺すぞ? というかブラフがブッ刺さりすぎだろ。
変なところまともだからタチ悪いんだよなこいつ。作中でもちょっと「話せばわかるかも?」って思わせてくるの、本当に悪質な詐欺だと思った。
「言ったよな、常軌を逸した行動も言動もするなって」
「病院見て思い出しちゃったんで、つい」
「お前本当に何? おっかしいな俺ちゃんと人質取ってるよな、人質いるんだよな? 勘違いじゃないよな?」
「はい!しっかりいるからお前のことを殺せませんよ!」
「清々しいほどの殺意だなおい。というかお前のやってること見てたら人質に効果あるか怪しくなってきたんだけど、倫理観ゼロモンスターの疑惑があるんだけど」
「面白いこと言うなこの倫理感ゼロ男」
「あの、待ってください」
軽口というか、ほぼ罵り合いに発展する会話の中。一人の男が間に割って入ってくる。
神父然とした格好の青年、エリヤだ。
一体どうしたのだろう。そんなインフルエンザの時に見るようなしっちゃかめっちゃかな夢を健康時に見てしまったかのような、困惑極まった顔をしていて。
彼は俺の方を見て聞いてくる。
「貴方、人質に取られてるのに特に関係のない子ども達を守って、なのにワンナイトしたんですか…?」
「そうだけど…」
「率直に言って頭どうかしてるのでは?」
「もっと言ってやれエリヤ」
どうかしてんだよ主にボスのせいで。
…エリヤが凄い目で俺を見てくる。何それ、どういう感情の目なのそれ?地雷踏んだりとかしたっけ?
待ってくれ、記憶の限りじゃ別に刺さるような行動してないと思ったんだけどなぁ!?
しかし困惑する俺をよそに、ボスは話を進める。
「…ま、話を戻そう。人質に関しちゃ納得いかないって奴もいるだろうが、その辺りは後で詳しく話してやる。
希望者は後で俺のところに来な。
そんでもってブラス。正直なところ、ここ最近のお前の行動は、ぶっちゃけた話ほぼ妨害だ。このままじゃあ、俺も契約を守る義理がない」
───それはこちらも同じ事だ。
そもそも、家族を人質に結んだものだろう。遵守してやる義理は無い。失いたくないものがあるからこそ機能しているのであって、承諾などかけらもしたくないものだ。
脅迫に対する道連れの脅迫。
それが契約の正体だ。だから、主導権を握れると確信すれば間違いなく食い付くし、黙ることは理解していた。
俺は懐からナイフを取り出す。
周囲の幹部達は一斉に構えるが、しかしアイザックだけは座したまま踏ん反り返っている。
俺は彼に向けて、ナイフを投げ渡した。
それを見てから、俺は言う。
覚悟なんて、負けた時から決めていた。
「四肢のいずれか、或いは目のどちらか。それを以て償いとしたい。お願い出来ないか?」
途端に、辺りが静まり返る。
幹部達は再び俺を見た。当然だという目、驚きの目、畏怖する目、数多の目が俺を見る。
だが、アイザックはそのどれでもない。
やつは俺を定めるように見据えた。
いかれた男だ。八つ当たりを極めた男だ。破綻した男だ。だがこの時ばかりは、彼の目に智慧がある。
彼の沈黙は、重々しい空気を放つ。
「…四肢も目も、失えば戦う者からすれば終わりだ」
「四肢が一つ無くとも、目一つ無くとも充分。反故された時にお前らを皆殺しにするのが大変になるだけだ」
この発言に躊躇いはない。
元より賛同した覚えのない組織だ。
子どもを「使う」選択をした集まりだ。
躊躇する理由は、どこにもない。
「でもそうはならない。
だから、周りで補いながら戦える。
違うのか? アイザック・グローリー」
…
彼はその意味に相応しい表情を浮かべている。
期待通り、そう言うかのような獰猛な笑み。
「よく言った、ブラス・リッター。お前は正真正銘のイかれた野郎だ。その提案は飲む価値がある。
そうだ、そうはならない。契約は続行する。
そのための代償をお前は確かに支払う。
だが何処を奪うのかは吟味させろ、お前が支払う名誉ある生贄だ。悪戯気分で奪うのは勿体無い」
───さて、ここからどうするか。俺個人の限界を感じながらも、必死に作り笑顔を浮かべて、俺は思考に耽る。
…ひどく胃が痛むが、それよりも心の荒れ具合が進行しているのが、自分でもわかった。
「まぁ、あとで詰めたい話もあるが───そこはエリヤに任せる。思うところがあるんだろ?」
「…テロ神父に懺悔って変な気分だな」
「お前割と余裕あるだろ」
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「……駄目だ、このままじゃ」
音を立てない子どもは呟く。
彼は頭に手をやりながら俯き、重たいため息を吐く。
思考を回す、小さな頭で考える。
音を立てない子どもは立ち上がる。
彼は全てを聞いていた。
彼の能力ではそれが可能だった。
「……一回、みんなと話しあわないと…」
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