敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
『…助かった、ありがとう』
襲撃の夜、申し訳なさそうな顔で、自分を責めずにいられないって顔で子ども達はお礼を言われた。
子ども達は、嬉しくもあった。
だけど同時に、悲しくもあった。
ブラス・リッターの言う通り、彼らは子どもだ。
だから、少年に守られている。戦うことも、殺すことも、彼らは一度だってしたことがない。
或いは、その回数はもう増えない。
守られているのだと、理解している。
…子ども達は、同じように並ぶことが出来ない。いつだって少年の背中にいて、少年が傷ついたりしても、やはり子どもらは背中にいるだけだ。
間違ってることへ一緒に立ち向かうことは出来ず、肩を預けてもらうことも出来ない。
それがひどく、本当に、悔しいのだと。
子どもらは、気づいた。
「ブラスの兄ィが人じ───…!!」
「小さい声でって言ったでしょ」
茶髪に青い目を持つ少年、ジャックは手をかざして、大声を周りに聞こえないようにする。
赤い髪の少女は、声に音がなくなったことに気づいていないのか、今なお音のない怒号をあげ続けていた。
「本当なノ?」
「…うん、間違いなくボスの声だった」
「いやそっちじゃない方」
「それは知らないよ!!」
「顔赤いなァ、ウブだなァ」
カラカラと笑う長髪の少年。どこか妖艶な雰囲気を放つ彼は、窓辺に座りながら足をフラフラと揺らしている。
彼が細い指を大気に滑らせると、朧げに光る文字が静かに浮かび上がっていく。
『でもどうする? あの人に恩があるのは確かだけど、おれ達に出来ることあるかな?』
「決まってんだろ、あたし達であいつら全員べこべこにへこむまでぶん殴る!!」
「脳筋ゴリラは黙っててくんなイ?」
「ごがるるるぁあ!!!!!」
「ぎゃああああああアッ!?」
ゴリラ呼ばわりされた赤い髪の少女が、唸り声と共に妖艶な少年へ飛び掛かる。いつものことなのか、周りの子ども達は止めたりしないまま会議を続けた。
「情報が多すぎるよ、つまりブラスさんがワンナイトして人質取られたから今やばい?」
「そりゃマフィア式のお見合いだね」
「ワンナイトと人質の問題は別、OK?
ジャック、倒錯した情報持ってこないでよ。みんな混乱しちゃってるよ見事に」
「僕が一番混乱したいんだけど…」
ジャックが掴んだ情報は、組織内の子ども達に共有された。ブラスは人質を取られた状態であり、だから組織で活動を行っていると。
あとワンナイトラブしたらしい。
子ども達の中で女子はぼそっと「うわっ」と言ったのでブラスはそのうち本当にボールペンで自分の喉を掻っ切るかもしれない。
話はそれながらも、子ども達の中でリーダー格ははっきりと決まっているのか、ジャックが流れを正せば会話も自然に元に戻っていく。
もちろん子ども達の下地に「ブラスについて」という共通の話題があることも理由になるが。
「…みんな、さ。もし、もしも、あの人がいなかったら、どうなってたと思う?」
ぽつり、とジャックが言う。
子ども達は、一斉に押し黙った。ある者は首を捻り、ある者は目を伏せ、ある者はため息を吐く。
最初に言葉を発したのは、長髪の少年だった。
「身体使って取り入る、なんてこと繰り返してたと思ウ。ほら、おれの能力って殺しに不向きだシ」
「あたしは多分、途中でぶっ壊れてる。喧嘩は好きだけど、殺しはやだよ。耐えられない」
「「自分で考えないで殺しまくりー」」
「野垂れ死に」
「利用されてこの世からおさらば」
誰一人とて、明るい結末を話さない。彼等にとって、ラメントへの信頼値はゼロに等しい。
口々に「殺すか壊すばっかだし」「何も教えてくんないしな!」と愚痴をこぼす。
「僕は…」
「ああ、ジャックはいいヨ。一番キレたナイフだったじゃン、絶対やばいことやってタ」
「「わかるー」」
「いやそれはそうだけど…いや、うんまぁ…」
本人にとっては触れられたくない所だったのか、それとも持ち出されたら黙るしかないのか。
復讐一辺倒時代の自分を思い出したせいか、至極気まずそうな顔をする。
ジャックはそれでも、しどろもどろになりつつも言葉を続けた。
「…あの人は、僕らに読み書きとか計算とか、それ以外のこととか、教えてくれたから」
「勉強なんて無縁だと思ったのにな」
「お人よしというか、本当にお兄ちゃんだよね」
「「学校に行けた感じしたー」」
そこまで話して、一同は押し黙る。
その沈黙を破るのは、やはりジャックだ。
「あの人は、綺麗な手でいて欲しいって僕に言った。
でも、なんか、こう、違うって感じが最近ある。
あの人にずっと身体張ってもらって、それで綺麗なままって、なんか、すっごい悔しい…!」
上手く言語化できないことに苛立ち、手をわさわさと動かしながら絞り出すように彼は言う。
だけど、込められた感情は分かり易い。
庇護下にいることは百も承知で、それでも、もう見過ごせないだとか悔しいだとか、そんな気持ちが沸々と湧き上がっていく。
「んなもん皆同じだっつーの!」
「あの人頑固って言うか馬鹿って言うか、甘え下手なんだよね…甘えられた時間、あんまり無かったのかナ」
「おお…さすが地下スラム出身…」
ずっと守って貰って、何もしないのは癪だ。
苦しい立場の人に、ずっとそうして貰ってる。
そう気づいてしまうと、もうあっという間だ。
段々と、そんな自分が許せなくなる。
そもそも、助けられたんだから、助けたってバチは当たらないはずだし、怒られたってもう構わない。
「人質ってどこにいるんだろうね?」
「第四スラムでしょ、そこ出身だって。
拠点のどっかにいる感じはしなかったし」
「あの人そこに運んじゃうとか、おれ達がそこの人達を逃してみるとか…うーん…どれも難しそう…」
「そもそも此処を出れるかどうか…」
そう思って子ども達が声を顰めて話す中、その裏側で白衣が翻った。
「───…さて、どうするか」
◆
ラメント仮拠点、とある廃ビル地下室。
元は倉庫か避難所だったのか、数ある個室の中の一つは、リーダーであるアイザックの部屋だ。
その中に、エリヤとアイザックはいた。
「面倒MAXだな、ブラ…あー…悪い、エリヤ」
アイザックがそうぼやきながら、一枚のタブレットを眺める。彼は家具に拘りが無いのか、部屋には機材と机とクローゼットのみがあった。
倉庫がわりにも使っているのか、粗雑に積まれた医薬品や装備がそこら中に転がっている。
「…前々から思っていたのですが、リーダーなのですし、もっと良い部屋にしては如何ですか?」
「バッカお前、どうせ根無草だぞ!? わざわざ特別にする意味がわかんねぇし、華美は好きじゃない」
蛇のような瞳で、カラカラと笑う。
だが、「そもそも」と言った次の瞬間には真顔だ。
「外側を綺麗にしても意味ないだろ?」
「…ええ、まったく、その通りです」
「腐ったリンゴより、不出来なリンゴってな」
目を閉じて、神父然とした青年は頷く。
アイザックはタブレットを机に置き、椅子から降りたかと思えば、エリヤと向き合うように机の上に座る。
そのまま足を使い、転がっていた椅子をエリヤの方へ転がした。座れ、ということらしい。
青年が座るのと同時に、アイザックは口を開いた。
「んで、六区───いや、違うな。
第四スラムに行きたい、だっけか?」
「……お見通しですか」
「そりゃな」
エリヤは微かに驚きを見せる。
「否定されると思っていました」
「だってお前、助けるつもりゼロだろ? 行くのは単なる興味、好奇心ってところか。
いやお前のことだ、もっと綺麗な考えかもしれない。でもまぁ、うん、そうだな」
くぁ、とあくびを一つ。アイザックの目元には薄らと隈があり、寝不足が伺える。
彼はそのまま目元を擦って「やっぱあいつの言う通りだ」とぼやいてはくつくつと笑って、一つ伸びをする。
ごきぼき、と凝った身体から音が鳴った。
とん、と細い体が机から降りる。
そしてアイザックの手がエリヤの肩に置かれる。
「なぁエリヤ、一つ忠告しておく。
これは親切心でもなんでもない、単なる所感だ。
だから、聞き逃してかまわない」
気遣うような声色とは程遠い。コピーされた文字列を、そのまま音として出力したかのような声。
分かりきったことを言うかのように、アイザックは淡々とエリヤに告げた。
「お前、あそこに行けば更に堕ちるぞ」
ピシリ、と張り詰めたような沈黙が訪れる。
心配なんて微塵もしていない声で言われたそれは、エリヤの耳に余程強く響いたのだろう。
彼は咄嗟に耳へ手をやりながら、驚愕の表情でアイザックの顔を見た。
蛇のような瞳に、からかいの色はない。
ただ冷酷な程に機械的であり、それが先の発言が「本当に起こり得る何か」ではないかと錯覚してしまう。
単なる所感と言われたはずなのに、だ。
「…俺はどっちでも良い、お前が行こうが行くまいが、やることも起こることも多分そう変わらない。
予想外が起こるかもしれないが、それでもお前はあそこに行ったら碌な奴にならない。
それが嫌だってんなら行くな、そんだけ」
言うだけ言って、アイザックはタブレットを片手に持って部屋を去る。その間、エリヤは一言も話さなかった。
青年は胸元に手をやる。
しかし、手は何も掴むことはない。虚しく、空気を握りしめるだけでそこには何も無い。
彼はそれを既に自ら捨てている。
それは百も承知だったのか───虚空を握る手は、さらに強く握りしめられた。
「………それでも、知りたいんです」
何故、彼はああなのか。
そして何故、私は───
◆
異動してから、分かったことがある。
今いる班、色々と過程をすっ飛ばして動くんだって。
『見張りっぽいのはぱっと見だと無し。
まぁ分かっちゃいたけどユカタンの予想通り』
『バレてガサ入れされたら台無しだからね!こういうのはバレないようにするもんだよ!』
『潜みながら入った方がいいんでしょうか』
『いやー、カバーストーリー使って入っちゃおう。汎用版使いたいけど、警戒してオリジナルの使うよ。
ハズレなら仕方ない、切り替えてこ』
報告書とか日報とかそんな書類一切書かないで「よしやること決めたな今行くぞすぐ行くぞ1秒でも早く行くぞ」だ、異動してから書類を書いた覚えがない。
全部事後に済ませるらしい…怖いな。
自己紹介した当日にはスラム調査の大まかな流れの説明。その明後日、つまり今日には現場に到着。
ボクは今、第四スラム付近にいる。
見えるのは…スプレー缶の落書き。幾つかの露店。はしゃぎ回る子ども達。配達か何かかで走り回る青年。
幾つかのバラック、廃墟を利用した家屋。
荒廃的な風景とは裏腹に、活気がある雰囲気に、ボクは少々面食らっていた。
「───ここに、彼の…」
…白状すると、その、少しワクワクしていた。
もちろん、それが不謹慎だと理解しているし、それどころじゃないってこともわかってる。
でも、自分以外でブラスを知る人や、自分より彼を知っている人が本当にいたとしたら───ボクは、その人と長い話をしたい。
ボクの知らない、ブラスを知りたい。
同時にボクの中にあるのは「この引き抜きを成功させたい」という気持ちだ。
だって、考えないわけじゃなかった。
もし、もしも彼と一緒の時間が増えたらと、そう思ってしまった。ひどく熱に浮かされた思考だ。
『〜〜っ!〜〜っ!!』
「ごめんアマネ、一旦スラムに向ける熱っぽい目やめてもらって良い? 興奮したレオネがキモいってユカタンから苦情来てる」
「えっ、うぁあああ!?」
小声の指摘にボクはついその場にしゃがみ込む。恥ずかしくて堪らなくなって、フードを目一杯被る。
顔が酷く熱い、涙も滲んでる。
クサビ主任は「なはは」と笑って流してくれてるけど、その優しさが今は辛かった。
…切り替えよう、一つ大きな深呼吸。
レオネさん、ユカタンさんは顔が広すぎるからバックアップ。ボクと主任は可能な限り変装してスラムに侵入、情報を収集して、場合によってはその場で活動開始。
…それなりに、長い仕事になると言われた。
「切り替え完了?」
「はい、行けます」
「なら行こっか」
ボクは、それを苦もなく受け入れられた。
Tips:長髪の少年は地下スラムを根城にしていたマフィアの「所有物」だったが、そのマフィアが一夜にして潰れたため、方々を転々とした結果ラメントに拉致された。
赤髪の少女は喧嘩に明け暮れていたところをラメントに勧誘されたが加入後に「思ってたんと違う…」と途方に暮れたらしい。
短め番外編
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