敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
廃ビルの中、冷たい空気を吸う。
冷たい長椅子に座りながら、頭を回す。
死なば諸共、今の幹部なら問題ない。
しかしアイザックがいるので出来ない可能性が大有り。マジで邪魔だなあの野郎。クソギミックか?
また、手ぇ出した責任が取れなくなるため最悪の選択である。今のところは保留。どうにもならない時はやる。
工作による妨害、滅茶苦茶無理。
幹部からの目が厳しいし、バレたら一発アウト。いやらしい手を打たれたもんである。
ため息を吐いた途端に、不安が押し寄せてくる。
うわはは、思考放棄してぇけどここで考えるのやめたらダメだ、無理くりにでも頭を回す。
カスみたいなコンディションで満足な案は出ない。百も承知だが、そうも言ってられない。
ああクソっ、鎌ぶん回して終わりに出来ねぇかな。
無理だろうな、出来たら苦労しねぇよ。
「…ブラス…お時間、よろしい…ですか」
よろしくねぇよ、よろしいって言うけど。
「何の用? アナーキスト」
ダークスーツを身に纏った女。彼女は無政府主義者を意味する名前を持つけれど、これは偽名。
本当の名前はイザベルだったか。苗字は呼ばれなかった。多分、捨てたんだろう。そういうやつも珍しくはない。ディランも苗字を捨てた奴だったし。
彼女は俺の隣に座っては話を始める。
「貴方の子供達と話してみました…ああ、手を出してはいませんので…安心してください」
「…誤解呼びそうだから、別の言い方頼む」
「じゃあ…貴方のウチの子?」
「それはもっと駄目だろう…」
心臓に悪い言い方だ、本当に勘弁してくれ。シンプルに部下の子ども達で良いだろう。
揶揄われてるのかと思って、彼女の顔を見る。
あ、駄目だこれ。わかっちゃいたけど素面だ。何かおかしい所ありました? みたいな顔してやがる。
「…何を話したって?」
「貴方がしたことについて…です」
「ああ、そう…うん?」
疲れ切ったようなため息。子ども達に振り回されたのか、それとも威嚇でもされたのか。
いや待って、待ってくれ。
聞き捨てならない文言が聞こえたぞ今。
俺がしたことについてって何?
…ワンナイトやらかしたことバラされたりした?
「…冷や汗流しすぎ…です…。
貴方がやらかしたことは言ってない…です」
「あんばばばっばばばんっばば」
「落ち着いてください…言語野が死んでます」
落ち着けないよぉ…! バレてもあの子達は引きこそすれど、見限ったりとかしないであろうけれども、その優しさがかえって辛いやつなんだよ!!
そんでもってこういうやらかしって、軽めの「あっ…」とか「うわ」で済ませられる方がダメージデカい!!
叱られたり、笑い飛ばされた方がまだ良い!
「…なんというか、本当に不向きなんですね」
「誠実な行動をとるのに?」
「卑屈に沈みすぎ…です…」
哀れみの目が向けられる。卑屈にもなるわ、というか思考の勢いやら言動やらなんやらで誤魔化してるがアイザックに負けて以来割と卑屈だぞ俺は。
…ああ、これが捻れて性癖が狂ったのかもしれない。
下の緩さも狂ってんな、消えてしまいたい。
「…そうじゃなくて、貴方が彼らにしたことを、です…勉強、本当に教えてあげてたんですね」
「簡単な読み書きと、簡単な四則計算だけな」
「…………どうして、そんなことを?」
どうしてって、そんなん言われても。
「一億五千人…いや、もっと多いか」
「…何の数字ですか」
「学校に行けてない子どもの総数、世界規模かこの国だったかは忘れたけど…昔に何処ぞのボランティア団体の活動で耳にした数字だよ」
途方ない程、大きな数字だ。良くなりそうもない。俺がいたスラムのように、到底一人ではどうにもならない課題。
最悪なことに課題が分厚いし硬い。
それを砕くには圧倒的な力か、シンプルに人手か、あるいはまた別の積み重ねが求めてくるもんだから頭が痛い。
少なくとも、俺はそう思っている。
「これ聞いてさ、俺のやってること無駄だと思った?」
「……正直、いえ、それを聞く前から」
「俺もそう思う」
こちとら18かつスラム育ちだ。確かに前世ってやつはあるけど、それはそれ。これはこれだ。
俺は20にも満たない貧民層の誰か。
でもそんな奴にも、数年前には野心があった。
荒唐無稽な計画があったりした。今にも思い出すと恥ずかしさが全身を駆け巡る阿呆まっしぐら。
「でも馬鹿はいたんだ。学校に行けなくても、数字と読み書きは教えられる。そうすりゃ、教えることが出来る人が増える。上手く行けば、それがねずみ算みたいに増えて、さらに良くなれば学校みたいなもんも作れるかもしれない。そんな風に、馬鹿は考えてた。
今や人質取られて、テロやって、間違い犯して…我ながら昔と比べてえらいことになったな…」
もちろん、上手くいく訳ないんだけどね。
我ながらどうかしてたと思う、ハイだったな。
今はもうとっくに諦めた夢だ。
そんなに悲観的でもないけど。「無茶だな、これ何で気づかなかった?阿呆なのか?」ってなっただけだし。
「でも、何人かの暮らしが良くなったのは確かだった。日給ごまかされにくくなったし、稀にだけど計算系の仕事にも顔を出せるようになった。
悪くはならない。だから、今もやってる」
まぁ俺の現状は着実に悪くなってきてるんだけどね!
やべぇ泣きたくなってきた。涙腺がひくつく。
諦めようとしてる自分も出てきたことに吐き気がする。
「…一応話はしたけど、何だってこんな質問?
子どもから話聞いて心変わりでもした?」
「今更変わらないと思います…変わるのも今は億劫だと感じるようになってしまいました」
…淀み切った目を向けられる。不快な方向にドロドロとした、叶うなら二度と見たくない目。
見るつもりもなかった顔を見る。
ブロンドの短い髪、青い瞳。物憂げな顔。
何を思って、彼女も神父も複雑極まって、それでいてドス黒い方向の目で俺を見るのか。怖いからやめろ。
そう思ってると、不意に言われる。
「…貴方の力を使えば解決出来る、そう思ったことは?」
「ボスが無理。運が良くても相打ち、一度負けてるし」
いきなりの質問で驚いたけど、答えは分かり切っている。いや、本当に勝てないのよね。
経験差もデカいし、勝てる見込みは薄い。
アイザックの能力、
一言で説明するなら「そら」に起こる事を操る。
雷、暴風、雨に雹と何でもござれな「未完成」の能力。
強力な力だ…何処ぞの最強は発動の前兆を察知しては中断させるとかいうわけわかんない事をやってたけど、それもやがては通じなくなる。
だが出力にムラがあるのが難点だ。
極めて不安定なそれは、星空も対象となる時がある。
空ではなく「そら」としたのはそのため。
だから突拍子も無く炎を起こす時もあるし、占星術にも届くのか予知めいた所感が偶に出力される。
ここで厄介なのが、前者はともかく後者は「副次的な力」であり、彼は「次の段階」に到達しかけていること。
作中の序盤で彼はもうこのステージにいる。
未完成のため不安定、それでいて覚醒の手前。
時間はかかりこそすれど、彼は「次」に行く。
止められる可能性は無いと見て良い。
…病院のデータを盗むことを妨害しなかったのは、これもある。病院から取ったデータが無いと「不安定であること」が極めて厄介な方向に進化しやがる可能性が高い。
あの裏ボス固いわ体力多いわ火力高いわでクソボス三拍子だ。あと単純に被害が出るスパンが短くなるから、総合的な被害はこっちの方がデカい。
…彼からしたら、ああなる方が良いのかもしれないが。
「……ちっとも澱まないんですね」
「その暇がないんだよ、どっかの誰かの傍迷惑な集団のせいで今も未来も奔走だよ畜生」
「…耳が痛い話です」
…沈黙が始まる。後ろめたさはあるのか、顔は逸らされた。でもきっと、彼女は立ち位置を変えないだろうという確信がある。神父と彼女は常に一緒。どちらかが変わっても意味がない。変わる見込みも薄い。
どうしたものか、考えることへ戻る。
憂鬱。頭が重いけれど、つい口ずさんだ鼻歌が一つ。病院で聞いた、頭が揺さぶられた音。
しっかり頭に歌が刻まれている…落ち着いてから、また聞きたいと思ってしまうのは我ながら女々しい男だと思った。
でもこう、なんだろうか。
ここ最近の俺はどうにも、人の地雷を踏む。
呪われてるんじゃねぇかなって思うくらいに。
鼻歌が良くなかったのだろうか。
ともかく、アナーキストは俺を見て言った。
口を挟む隙間がないくらい、力強く。
「今わかりました。私、貴方のことが大っ嫌いです」
「だって、あの人に似てるから。
なのに、あの人と決定的に違うから」
「私がやったことを見せつけられてるみたいで」
「だいっきらい」
───本当に勘弁して欲しい。神父もそうだが、もう頼むから嫌いだってんならさっさと離れてくれ。
なぁオイ、嫌いなら離れておしまいでいいだろう?
天を仰いで顔を手で覆うことを許して欲しい。
俺が何をしたってんだよテロ幇助したわクソッタレ。
だとしても勘弁してくれ、神父と信徒のダブルクソデカ複雑感情パンチはキャパオーバーなんだよ。
そもそも神父が爆弾みてぇな感情抱えてそうなのにプラスであんたも爆弾はもう無理だ色々と。
俺は爆弾処理班じゃねぇんだよ、というか現状見るにどっちかというと俺が爆弾作───
「……ただの自爆じゃねぇか…!」
「は?」
なんて考えてたら足音が聞こえる。
ハッとしてその方向を見ると、エリヤがいた。
…憔悴したような雰囲気、というか声だった。
「…アナーキスト。今、少しよろしいですか?」
「………問題ありません」
歯軋りのような音の後に、アナーキストが立つ。
思考がぼんやりと回り出した。
…子ども達をスラムに逃して、俺もスラムに行ければ…ああいや、ボスが邪魔になる。
というかそしたら皆を巻き込んでしまう。
バレないように逃すのも…難しいか。
出来なくはないけど、チャンスは一度切り。
どうにか煮詰めて上手く出来ないか…。
「…話は長くなりそうですか…?」
「ええ、少し先のことをね」
───二人の顔が仄暗く華やぐのを見て、「ふざけんなよ」と少し思う俺がいた。
…よくない傾向だ。憎悪で周りが見えなくなったら、碌なことがない。そう思いながら、自分の頬を一度叩く。
ため息を吐いてから、壁に寄りかかる。
「…あー…クソ、吐きそう」
酒を飲んだわけでもないのに。
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