敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
「ブラスの野郎人質いんだろ!?つかここがそうだろ!?イカれてんのかあいつは!!」
『俺がその台詞を一番言いてえ…とにかく、マジで地下の奴らだったら面倒なことになる。とにかく刺激はすんな、こっちで色々確認する!じゃあな!』
「…っ切りやがった…!」
…オレことハイバラは、人質の監視という役割を与えられたテロリストの一人である。名前はねぇ。役職もねぇ。ただボス直属の部下なのが、僅かなマウントポイント。
冷たい風。時計の音。重たいため息。止んだ談笑の声。耳が拾う情報が減り、再度ため息を吐く。
俺は通信機をしまって、床に敷いたエアマットに寝転ぶ…劣化していて空気はあんま入っていないが。
割り当てられた部屋は簡素だが、貧民からすればかなり上等。不法投棄様々と言うべきか、机と寝床がありやがる。元いたところと比べれば、最高の環境だ。
「…クソが…仕事増やしやがって…」
ここ第四スラム殆どの住民が、ある幹部への人質だ。
幹部の名はブラス・リッター。基本的には大人しく先輩方には敬語。有する部下は皆子ども。
しかし雑務は自身が率先して行うため、部下として機能していないだとかどうとか。どうでもいいが。
…そのくせ女遊びが激しいやつだし、イカれてやがる。なんだろうな、ナイフでいきってたら隣の奴が実銃取り出して来たみたいな、そんな感覚に近い。
「…ああクソッ…寝れねェ、薬の整理でもするか…」
スラムに入り込むのは簡単だった。元々は医学生だったから、医療に関する知識は人並みよりはあった。オレは貧民街に住む奴らにとっちゃ喉からが手が出る程に欲しい人材という価値がまだ残ってやがってた。
そこから丸2年。そん中で治療やら何やらをしてやれば自ずと信頼を得ることが出来る。ボロい商売みたいなもんだ、診てやる程度で気心が許されるんだから。
…ぶっちゃけた話、
───ただ想定外な所がある。
ブラスの野郎もそうだが。それ以外にもある。
まず何つうか、ここの飯は美味い。ラメントのとこと出るもんはあんま変わらねぇけど、なんか美味く感じる。本当に向こうの飯が不味いだけかもしれねぇけど。
それはまだ良い、戻るのが憂鬱なだけだ。飯がうまいのは大事だが。
問題は次。変なガキに付き纏われた。名前はソウっていう。スラムに来たばかりの俺に、やれ案内だの紹介だの余計な世話を執拗にしてきやがる。目障りでうざったいことこの上ない。声でけえしうるせえし。
付き纏われるもんだから組織に連絡いれんのも一苦労だ。今じゃド深夜に寝る時間削って通話する始末。おかげでクソ眠いことこの上ねェ。
…話を聞くに、兄代わりだったブラスがここを(オレらのせいで)出て、寂しそうにしていた時に、歳の近いオレが来たということらしい。歳が近けりゃオレじゃなくても良いってことじゃねぇかクソガキ。
そんなことを考えながら、部屋にある薬棚をガタガタと漁る。棚といってもそんな上等なやつじゃない。空っぽのボロいカラーボックスに、薬が雑に置かれてるだけだ。
「…消毒用アルコール足りるか? 予定日も近いし、少し金こっちに回して貰わねェと…布は周りから巻き上げれば何とかなる…お湯には困らねェしなぁ…」
……人質として機能する以上、わかっちゃいたがこのスラムに進化者を利用する奴はいないらしい。
力を使ったら、その分の助けが来る。
…利用して、利用されるってのが常だと思っていたもんだから、信じられねぇって感想だ。
ただ、理解できないというわけでもない。
元々の性質もある程度必須だろうが…。
それでも少しの余裕と、ある程度の逼迫。共通の目的と、相互支援の体制。貧困に喘ぐ中で幾らかの方向性を与えれば、毒が薬になることもあるだろう。
石塊が磨かれて、芸術となるように。
ただ人によっては、それを許せなさそうだが。
オレは苦しんだのに何でなんだーって。あほらし。
「…しっかし、まだ話してんのか…」
大雑把に薬の整理が終わる。眠気はない。
マーサの部屋の方から声が朧げに聞こえた…ちょうど良い、さっきは驚いて途中で退散しちまったが、正直面白いと思ってんのも半分本音だ。そりゃ、組織を運営する側からしたら頭の痛い話だろうが、他所から見りゃ修羅場や痴情のもつれほど愉快なもんはねェ。
ラジオがわりに聞かせてもらうとしよう。
さてさて耳を澄ませて───「掴んで離さない、繋ぎ止めないと」「絶対に何処でも迎えに行きます」……わぁお。首っ丈なグラヴィティ。声の明るさからして自覚あんまねェなこれ。
しっかし、意外だ。大人しいって評判なくせに、あんな重たい地下の女と何かしらの親密な関係があるとは。あいつ、やり手だったりする?いつか刺されんじゃねェ?
「いやぁ、地下の女に手ェ出すとか本当クソ度胸」
「いやいや、案外気の迷いかもしれないよ?」
「はっ、どうだか。人なんてもんは一度タガが外れりゃどうしようもない部分が…うん?」
よし、ちょっと待て。
今の声、昼間に挨拶しに来たやつだったぞ。
俺が咄嗟に振り返ると、すごく良い笑顔をした、片目に包帯を巻いた黒髪の凛々しい顔した女がそこにいた…おっかしいな、何も音しなかったよな?
…何で此処にいんの?つかいつから?
ドッと、馬鹿みたいに冷や汗が出る。
そんな狼狽を見て、女はにっこりと笑ってがっしりと右手でオレの手首を掴んだ。力の加減からして「余計なことをすればへし折る」と暗に告げているのは確実だ。
大声を出しそうになる喉が狭まった。
それを確認した女は、左手をオレの顔近くに待機させながら、やんわりとした言葉で挨拶を。
「こんにちはぁお兄さん」
「…あー…その、おやす」
女が自分の耳元にある何かを押したのか、かちりと音が聞こえた。その次には、くぐもった音声が聞こえてくる。
…どう頑張ってもオレの声だ。
『ブラスの野郎人質いるんだろ!?つか此処が───』
「いやー元気そうな通話だったねぇ!」
やっべえやらかしたあああ!? 初歩的な間抜けにも程がある!! 寝不足が祟ったのかクソが!! そんでもってこの女達はマジで地下のヤクザなのかやっぱ!?
バレてんなこれ!人質取った確定的な証拠取られちゃってんねェ!!おいおい始末書どころじゃねェよ粛清もんだよ何やってんだオレェ!!
「オイ自白剤食わねぇか」
「うおおおおおお!?待て待て待て待て!!!!アイムドクター!!アイムドクター!?」
「それとこれとは話が別だっつーの!」
「がっはぁ!?」
すごく鋭い鳩尾への一発!?
やべ、拘束された…!身動き取れね…!
「いやぁ時代はデジタルだって言うけど、なんだかんだアナログもいいよね。マーサさんと会話するから張り込んでみて、なんて言うからやってみたらドンピシャだもん。うんうん、あたしは有望な人材をゲットできた」
二人してオレをガンガン疑ってた訳ね!?
クソッ、やらかした。弁明のしようがない。これは一体どうしたもんか…どうせ捕まるならあと半月ほどまって欲しいが…そう言っても、頷いてはくれねェだろう。
「…クソッ…何が目的だよ…」
「連絡経路の断絶、外にも何人か待機してるでしょ。時間の問題だよ、でも探すと時間かかりそうだから吐いてもらって良い?」
「探すのが面倒って訳かアナログ派さんが…」
「否定しないんだね」
「やっべミスった」
大声、出せない。
逃走経路、無い。
拘束からの脱出、無理。
詰みだなこりゃ、どうするよ?
「…あー…出産控えた患者がいるんだ。向こうに連れてくってんなら、半月ほど待ってくれねェか…?」
「ここの人達を人質にしておきながら?」
「ひっははは!弁解のしようがねぇ!」
外道も外道、クソ外道だ。
オレはただ閉じ込められたくない。箱の中で一生を終えたく無い。必要最低限の欲望がそれだけ。
思想も何もかもどうでもいい。
外で生きていられんなら何処でも良い、だからデカい力を持ってるあいつに付くことを選んでいた。
…拠り所があるなら何処でも良い。
「ぶっちゃけ単なる命乞いだよ。オレは今、自分のために患者を使ってるし、今いる巣だって切り捨てる。捕まるのは嫌だ、裁かれたくもねェ。オレはただ外で息がしたい」
高尚さも一貫性もない。
その場その場を取り繕ってるだけだ。
泥の中で、目を瞑る羽目でも生きていたい。
女は至極疑わしそうな目でオレを見る。
「そんな人と取引すると思う?」
「思っちゃいねェ、でも信頼なんて要らねェだろ。要るのはオレが何をするか、そして何をしないかだ」
「…ソウって子にもそんなこと言うの?」
「てめェ結構つまんねェこと言うな」
◆
───第四スラム屋外某所。
エリヤと、私をそう呼ぶ人は故郷にはもういない。
爆ぜる火種を見ながら、私はそう考えている。
ドラム缶に枝やら何やら。
それを燃やして、篝火とする。
何度もやったこと、何度も見た光だ。
夜更かしは不安な人の常だ。夜風の冷たさと、闇夜の恐怖。それを慰めるために、私の力は使われた。
それは、ここでも変わらない。
だがそれでも、ここの光景は信じ難いものだ。
「いやぁ、あんたが来て助かったよ!夜風は嫌いじゃないが、その日暮らしの俺たちじゃ風邪も命取りやからなぁ!」
「オイ、ハイバラがいるだろおっさん」
「俺はあいつ好かん、感謝はしてるが」
「あはは…皆さん、仲がよろしいんですね…」
私は要望通り、第四スラムに来ていた。
信じ難い光景とは、その人の常識という名の生涯で培ってきた時間と、累積した経験を覆すもの。
被差別者と差別者が、素性を隠さず共に肩を並べて同じ火で暖をとる光景を見たことなどあるだろうか?
進化者と非能力者が、お互いに出来ないこと、出来ることを分担する群体など見たことがあるだろうか?
…少なくとも、私はない。
私は屋外で夜空の下にいる。火を灯すドラム缶を中心に、スラムの住人が幾つか座ったり寝転んだり。彼らは今し方、働き先から戻って来たらしい。日給制で金払いも良いとのことで、熱心に稼いできたとのことだ。
髭を生やした男性と、垂れ目の少年。
前者はスラムにいて長く、後者は短いらしい。
私はここについて尋ねた。内容は何でもよかった。
変遷、人柄、事変、とにかく此処という場所について知りたかった。
「なんだそんなことでええんか? 火ぃつけて貰ったのに釣り合わんやろ」
「私は此処に来て間もないので…」
「ほいじゃがここのことっつってもなぁ…」
髭を生やした男性は語る。
最初は単なる「生きたい者達の集まり」であり、ある日に拾った子どもが、あまりにも無惨な姿をしていて、それを契機に変わろうとしたこと。
子どもに色々なことを教わり、子どもに色々なことを教えて来たこと。いつしか人が増えて、苦しくも1日を安定して過ごせるようになったこと。
…その子どもは進化者だったこと。
私はそこまで聞いて、男性に一つ問うた。
「…その子どもは、今も此処に?」
「うんにゃ、2年前に此処を出たよ。やらなくちゃいけないことがあるっつってな…絶対戻ってくるっつったし、あんま心配はしてねぇよ」
「なるほど───そうですか、子どもの名は?」
「ブラスだ!苗字は俺が嫌いだから教えん!」
「へ?」
唐突な妙な拘り。私が呆気に取られていると、今まで黙って聞いていた垂れ目の少年が男性の頭を引っ叩く。
そして呆れたような声でこう言った。
「アホなこと言ってんなおっさん!
リッターだよリッター!ブラス・リッター!仲間の名前だろ、ちゃんと言えよ!!」
「何処に家族を
「本人がそうしたいならそうさせとけば良いだろ!!」
…取っ組み合い、というかじゃれ合いを始める二人の男を見ながら、私はバレない程度にため息を吐いた。
そして、同時に気づきたくないものに気づく。
…自分が知りたくなかった自分のこと。
ブラス・リッター、私は貴方に苛立ちを覚えていた。私は貴方に納得出来ないでいる。私は貴方が気に入らないらしい。私は貴方に反対したいようで、私は貴方が嫌いらしい。私は貴方を叩きのめし、蹴落とし、貶めたいと考えているようなのだ。
それは貴方が目を開いていたから。私が捨てたものを持っているから。未来で絶望して曇るはずのものを持っているから。
何より、貴方が恵まれていることが気に入らない。
そう思っている恐ろしい自分がいた。
恥ずべき悪、してはならない比較。
比べたところで私が幸福になるわけではない。
だが、無いものを羨むのは当然の話だ。
だからといって、こんな思いはしたくなかった。
『私と貴方で何が違う?』
私が得たかったものは此処にある。
私が与えたかったものは此処にある。
彼らに必要だったものは此処にある。
『ここの人々、故郷の人々で何が違う?』
ブラス、貴方が恵まれた者である事実に、私はひどく心が腐っていくのを感じている。
『こんな光景を、見たくはなかった』
私と貴方は、何処も同じではなかったのだ。
───人生とは選択の連続だ。
選択肢の中、一つを選び得る。
その代償として、選ばなかったものを失う。
生きるということは、選ぶということ。
未来や過去を思い、心や理性に突き動かされ、私達は自身に取って「良いもの」を選ぼうとする。
私は、もう随分と選んできた。
何かを失い、何かを得てきた。後悔はない。慙愧はあれど、悔いたことは一度たりともない。
失ったものに対する悼みはあれど、やり直したいと、拾いたいと思ったことは決してない。
そうだ、決して後悔などしなかった。
だというのに、彼を知ってそれが裏返っていく。
〝兄ィ、ここわかんねぇ!〟
〝おい昨日教えたばっかだぞ!? 教え方が悪いのかな…どーすっかなー…そうだ! ジャックと一緒に解いてみよっか〟
何故だ。
〝殺しもだ、汚いことは絶対にさせない〟
〝やっぱりオマエとは反りが合わねぇな〟
何故だ。
〝もう拾った、あとは守るだけだ〟
何故。
〝何か方法がある筈だ…何か…!〟
貴様は選ばない。妥協しない。手を広げ続ける。未来のことも考えずに、過去のことなんて厭わずに、ただ無節操に得意げに拾おうとする。
だって、どうせ失うはずなのに。
いつかは何かを奪われる立場なのに。
だのに失うつもりはないと言わんばかりに、取りこぼさないと言わんばかりに、選ばないことを続けている。
このスラムの光景が、その集積なのか?
私も選ぶ必要はなかったとでも!?
何故だ、大事なものが数多くあって、しかし、何かを選ばなければならないのなら、皆がきっと選ぶはずだ。だってそうじゃないと、最後には全てなくなってしまうから。
何もかも、そう思えば、その重さに耐えきれない。弱みとしてつけ込まれて、利用し尽くされてしまう。
そもそも、自身の手から零れ落ちる!
そうならないために選んで行くんじゃないのか!皆もきっと私と同じように切り捨てるはずだ!
───そこまで心に溜めた泥を表層化させて、私は今更ながらに鼓膜を叩いている髭を生やした男の声に気づく。
「 お 顔色 悪 い 大 夫 !?」
…だが外からの声が遠い。
まったく満足に聞こえてはくれない。
視界が霞んでいく。
視界が闇夜に溶けていく。
だというのにドラム缶の火を克明に感じる。
パチパチと、何かが燃える音がする。
───私の意識は、ここで断絶した。
Tips:年齢と趣味とか①
ブラス・リッター 11/1生(拾われた日)
年齢:18か17歳(推定)
イメージ花:彼岸花(白)
好きな食べ物:「あったかいやつなら何でも」
趣味:真夜中の散歩(今は出来ていない)
欲しいもの:わからない…
ジャック 4/1生
年齢:12歳(推定)
イメージ花:椿
好きな食べ物:「お腹を壊さないならなんでも」
趣味:勉強、書き取り
欲しいもの:鉛筆とノート
フジワラ・アマネ 5/3
年齢:18(お酒解禁年齢)
イメージ花:ヒスイカズラ
好きな食べ物:「カプレーゼと唐揚げ!」
趣味:音楽鑑賞(でもラブソングはなんか苦手)
欲しいもの:チョーカー、新曲のCD
ヒヒガネ・クサビ 8/14生
年齢:24(対策局では若手)
イメージ花:枝垂れ桜
好きな食べ物:「すり流し豆腐、なめこの炒り煮」
趣味:バイクツーリング(最近行けてない)
欲しいもの:彼氏と会える時間
アイザック・グローリー 12/31生
年齢:忘れた(本人曰く18~21のどれかだと思う)
イメージ花:トーチジンジャー
好きな食べ物:「水は飲み物か、んじゃ氷」
趣味:立体パズル(解けなくて壊す、現在六個目)
欲しいもの:組織管理能力、或いは「次の力」
短め番外編
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