敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
風邪と過敏性腸症候群で遅れました
気温差と夜更かしは気をつけましょう(一敗)
水路の中をバイクが走る。
時折道案内をしながら、後ろを警戒しつつ故郷への道を辿る。今の所、追手の気配は無い。
俺は安堵の息を吐く。一先ずは、ラメントから離れることが出来た。このまま子ども達に汚れ仕事をさせる事だけは、絶対に避けたかった。
あとはこのまま家族達と合流。そこまで行ければ、一先ずは安心出来る。その後のことは色々考えてはあるが…状況次第だろうか。
戦うにしたって、皆の安全確保が先だ。
「…ありがとうございます、助かりました」
「皆がこんな風になれたら良いんですけどねぇ」
ケラケラとクロカゲさんが笑う…さっき聞いたが、どうにも本名とコードネームに違いがほぼないらしい。なので、普通にさん付けで呼ぶことにした。
…コードネームの意味なくねぇか?
そう思ってるとクロカゲさんが言う。
「というか、ブラスさんはそろそろサイドカーに乗り直したらどうなんですか…?」
「いや、子ども達のスペース狭くなるし…」
「だからって異国の拷問みたいに手前の体をサイドカーに縛り付けるのはもうギャグの絵面なんですよ」
そこまで言う?と思いつつ、緩みそうな鎖をしっかりと縛り直す…大鎌に加わった新たなパーツだ。
さっきはハイだったから正直言ってこの鎖をどんな風に扱ってたとか、自覚も感覚も全くないのに記憶はある、こわい。
でもこうなった原因はわかっている。
極めてシンプルに、能力の『成長』だ。
ちなみにこれは覚醒とはまた別になる。これはどちらかというと、スキルツリーの解放みたいな感じ。
…それで使いづらくなる、なんてことは無い。
むしろ初めて使う筈なのに、滅茶苦茶使いやすいから気持ち悪いというのが作中での評価だった。
その気持ちが今はすごくよくわかる。
知らないはずのものが、何年も使ってきたみたいな感じで使えてしまうのだから。
体が覚えてるのに、心当たりがない。
これ程怖いものはない。本当に。
…あれ、胃がキリキリしてきた。
「さて、まだ時間はありそうですか?」
「ありますけど…」
「ならいくつか話をば。ああ、敬語は取り払ってください。その方が私が楽なので」
どうしたものか、そんな具合で唸る。
子ども達が彼に視線を注ぐが、肝心の彼はそれすら気にならないほどに悩んでいるようだった。
少しの沈黙、その後に彼は言う。
「言い方は悪いですが、対策局は貴方の故郷に何らかの手を打ったそうです。本来なら、貴方にその旨を告げた後、流す情報を決めたいとのことでした」
「…滅茶苦茶ヤバくない?」
「滅茶苦茶ヤバいです」
いやそんな真顔で断言されてもなぁ!?
当初の任務と全く違うムーブしてるじゃん、っつーか俺は俺でなんでピンポイントに対応されてんだよ!?
うんダメだな心当たりが多過ぎるな!
…情報の取引でも考えていたのか?
家族の無事がより一層気になって来た、いや進化者の秘匿以外は特に悪事とかしてないとは思うからやり過ごせば大丈夫だとは思うんだけど…!
「しかしまぁ、なんというか私はその場の勢いで凄いことやっちゃってますね、いやぁ我ながらおもしれー男」
「どんなメンタル構造してるノ?」
「けっこう大胆だー」
「ははは、でも状況的には仕方ないと見てますよ。完全に勢いってわけでもありません」
クロカゲさんがおんぶ抱っこしてる2人の子ども、ハルキとヨウが順番に言う。
彼は笑いながら返すが、顔は真っ青だった。
…やぶれかぶれになってないか不安だ。
「勝手な現場判断なのはその通り。でも副局長は、貴方を介して何かをしたいって感じでしたし。
けど貴方には人質がいて、尚且つ子どもを抱えている。十中八九、裏切ってもらうか何かの取引ではないかなと、まぁ自信ないんですけどね」
とんでもない行動力してんなこの人。
アクティブの化身か何か?
……ともかく、今更になって情報を飲み込めた。
副局長からの指示と来たか。なんで俺がピンポイントで選ばれたとかその理由はちょっと考えたくないからその思考は一旦置いておこう、冷静に処理出来る自信がない。
問題は、副局長の中で指示をしたのが誰かってこと。
俺はダメ元で聞いてみる。
「……副局長の名前は?」
「流石に言えませんよ…向こうからコンタクトを取りたいって言われたら、まぁその時に」
「ですよねー…っと、そろそろか」
「……うげ、もうですか」
目的地…第四スラムが近づいてきた。とは言っても、水路から出たら少し歩かないといけないのだけど。
この帰郷に、大きな感慨はない。
むしろ、不安の方が多い。皆に変わりはないか。誰か体調を崩していやしないか。
……どんな顔をして会えばいいのだろうか?
「けほ、こほ」
喉が少しひりついて咳が出る。
不安由来の反応だろう。俺は気管支のあたりを何度かトントンと叩いて呼吸を落ち着かせる。
そうこうしているうちに、目的地に着いた。
地下水路の出口の一つ、とはいってもマンホールのようなものだ。梯子を登ればそれで到着、少し歩けば帰郷は達成だ。
実感がない。今でも夢じゃないか疑ってる。
だってこうなるとは思ってなかったんだ。子ども達が自分達から動こうとしたことも、現場判断で命令をおじゃんにした人との出会いも予想外だったから。
…俺のこれまでに予想外が多過ぎない?
そんなことを思いながら、子ども達を先に行かせる。長くない時間とは言え、ずっと地下にいたんだ。外の空気を吸いたい筈だろう。
俺はそう言って、皆に順番を渡す。
子どもらはおずおずと俺の先を行った…皆クロカゲさんにきっちりお礼を言っていた。全部終わったら何かご褒美的なものでもあげたい。飴でも喜んでくれるだろうか。
…俺は何故かすげぇ複雑そうな顔で見られたけどね? 先に行かなくて良いのかって? 良いんだよ俺は最後で。
「…で、えーと…」
でも、一つだけ弔いを。
それはここまで我々を運んでくれた救済の二輪車であり、その担い手がいたく気に入っているであろう駆動車であり、風を切る爆速の機械である。
ここから外に通ずる道に坂はない。
虚しくも垂直に梯子が備え付けられている。
つまりは此処から出れねぇのである。
ここでそれとは今生の別れとなるだろう。
俺は目を閉じて、胸に手を当てこの別れを悼む。
慰め程度のことだとしても、彼がここまで俺たちを運んでくれたのは確かなことであり、返し尽くせぬ恩がある。
…だが、俺よりもクロカゲさんにこそバイクへの哀悼の気持ちが大きいだろう。
俺と彼は梯子を見て「あっ」と同じ声を漏らし、これまで以上に深く項垂れてしまったのだから。
「あの、だいぶ愉快なこと考えてません!?」
「罪悪感が一周回ると思考ってはっちゃけるよね」
「よ、要カウンセリング者…」
慄くように言われた。
受けてる暇がねぇのです、やることが多いのです。自分から増やしてるからだろって?
…おかしいな、何か吐きそうになってきた。
「まぁ、私は此処で上司と通信をします。
現状報告やら何やらしときたいですから」
「…俺達が野放しになるんだけど」
「貴方そこまで狡賢くないでしょう。悪口に聞こえると思いますけど、貴方凄いバカだから」
「その言い方で罵倒使う人初めて見た…」
でも本当に悪口ではないのだろう。
いやにしたってど直球過ぎる…。
「だって貴方、自分の余裕とか時間とか、あっさり切り売りするタイプでしょう? そんな印象です」
「そこまでやばくないと思うんだけどなぁ」
俺だって自分の命は当然、時間も惜しい。というか割と酒に逃げたりしてたし、そこまで切羽詰まってるつもりはな───いやその結果しでかしたな、滅茶苦茶切羽詰まってるわ。
…でもあっさりと切り売りはしてないと思う。
やりたいからというか、やらないと気が済まないというか、やっておかないと死にたくなるだろうなぁとか考えてしまうだけであって。
「…なんか凄い顔してますけど、とにかく気をつけてくださいよ? いつかその内、そんな貴方の『全部』を奪おうとする人とか、切り売りされた『全部』になろうとする人とか現れかねませんから。
ぶっちゃけ重たい人を引き寄せますよ、そのままだと」
ケラケラと笑って彼は言った。
引き寄せるどころじゃねえんだよ押し倒し返しちまってんだよこっちは…とは言い返せない。
なので誤魔化すように俺は言う。
「…重たい人かぁ、まだ会ったことないよ」
「あっもうだめそうですねこれは。ま、破れ鍋に綴じ蓋を期待しておきましょう」
───なんでぇ?
「…冗談はともかくとして、貴方は少々自分を他のことに使いすぎる。少しは自分の欲に沿ってやりたいことをやっても良いのでは?」
「やりたいことねぇ」
…子ども達が向かった方を見る。
いや皆してまだ行ってなかったんかい。早く行きなさいよ、外の空気だぞ地下のカビ臭さとはおさらばだぞ!? 何を遠慮してんだか、良いって言ってんのになぁ。
おかしくなって笑ってしまう。
自分の欲に沿うべきなのは、それこそ彼らの方だ。子ども達はもっと笑うべきだし、この世には楽しいことがあって、生き甲斐が転がってることを知るべきだ。
幼い頃から悲痛な思いをする必要はない。
そういうのはもっと歳食ってからだ。
「…なら、きっとこれが俺のやりたいことなんだと思う。出来るからとかじゃなくてさ、やったら笑ってくれて、明日も生きようってなってくれたら、俺は多分それだけで良いんだ」
「筋金入りときましたか、手に負えませんねこりゃ」
肩をすくめて男が苦く笑う。
そんな顔をしないでもらいたい。仕方ないだろう。今残っている、いや残せた部分がそれなんだ。
大して頑張れてねえし、テロの手助けしたし、酒に逃げたし、一夜の過ちもしたし、病院襲ったしで、今にも泥ん中に頭のてっぺんまで沈み込みそうだけど。
だから、泥の中でも出来ることはしたつもりだ。
道連れなんて悪趣味なものはいらない。
…そんなの、ただの傍迷惑だ。
「…うん、わかりました。なら、後始末もきっちり自分でするように。助けるんなら最後まできっちりと。死に逃げとか無しですよ?」
「俺だって死にたくないって!」
そんな高潔でも偉大でもない。
命一つの人間一人だ。
そう言おうとしたけど、手で制された。
「…私も貴方をここまで運んだ以上、処分覚悟で色々と上に掛け合うつもりです。
私はずっと捨てて生きてきた。
成長の機会、考える頭、諸々と。
だから、あの日からずっと拾おうとして、何を拾えば良いかわからないままでしたが───本日の出会いと、僅かな時間の関係を、先ずは拾おうと思っています」
クロカゲさんは、寂しそうに笑う。俺はその過去も知らないし、彼にどんな葛藤があったとかもわからない。
でも、これはもう情とかの問題じゃないんだってことはわかる。
…過去の自分との決闘なんだ。
「どうか生きてまた。
その時、私達は友人になりましょう」
「良いのかよ、対策局員」
「業務時間外の私に聞いてください」
…それが俺とクロカゲさんの会話の終わり。
俺たちはひとしきり笑って、ヘッタクソで、中々うまくいかないハイタッチを何とかやって、それで別れた。
この先会えるかどうかはわからない。
でも、良い出会いだった。
会えてよかった。
俺は歩きながらそう思って、子ども達の下に向かう。皆して、何か言いたそうな顔をしてる。俺も言いたいことがたくさんあるけど、今はそれどころじゃない。
全部終わってからだ、そういうのは。
「先行って良いって言ったでしょー? ほーら、梯子登る登る! 外の空気を吸いに行くぞー!」
「………はぃ」
◆
最初はきっと、単に優しくされたから。
弱り目に祟り目で、何もしなくても涙が出そうな時に、優しくされてあっという間だ。
我ながらチョロすぎると思う。
でも、それくらい周りが嫌になっていた。
周りから見られる目は一転して、心無い言葉は今もまだ耳に残ってしまうほど聞いた。
…全部に期待しない方がいいって思いかけた。
そこで優しくされたから、もう駄目だったんだ。
でもその人も、沢山抱え込んでた。
今にも壊れそうで、限界で、なのに背負って歩く人。
自分からどんどん荷物を増やして、その重さに倒れそうになっても大丈夫って首を横に振る。
そんな人でも優しく出来るって分かった。
だからなんだ。周りにまだ期待していいんだって、まだ頑張れるって、こんな人を支えられたらって思えたのは。
ずっと暗かった心が、もう一度だけ晴れた。
でもその後は、お互いが知る通り。
ボクは日の光を独占したいと思う側の人間であり、そのくせにその眼にいつまでも輝いてほしい、そして助けになれたらという欲望を抱えていた。
…正直言って、ボクの心は今もぐちゃぐちゃだ。
まとまってくれない感情ばかり。
ただ屈託なく笑って欲しくて。
倒れそうな体を支えたくて。
壊れそうな音以外の音にしたくて。
いろんな顔が見たくて。
過去も未来も知りたくて。
何より───キミをいっぱいにしたい。
ボクの全部が惜しくないって思う。
我ながらとても気持ち悪くて、独りよがりで、酷い有様で、振り返るだけで顔が熱くなる。こんなの絶対人に話せないけれど、キミに暴かれたいとも思ってる。
あーあ、ボクってこんなだったっけ。
そんな風に思いながら、深夜の空を見る。
真っ暗な空に、幾つかの瞬く星が綺麗だった。
「…まだ眠くないや」
マーサさんと話した後『連絡役』の拘束に成功した。クサビさんは「その後のことは慣れてるあたしがやるから」と言って、ボクに早く休むように言ってくれた。
レオネさんは仮眠中。ユカタンさんは仮眠を終えてクサビさんと協力中。ボクもきっと休むべきなのに。
眠れないのは、きっと今の気持ちが複雑だから。
ボクはここでブラスの過去を少なからず知った。知ることが出来た。今の彼のことは何となくわかる。
色んなことをしてきたんだと思うんだ。
良いことも、悪いことも。
それをどうにか選んできたんだ。
でもその選択に「そうだったんだ」と自分を認めなければ───いったい、誰が認めてあげられるのだろう。
「あぁもうキミのことばっかだ!」
何度も彼の姿が頭の中で繰り返す。青白い髪はほんの少し長い。綺麗な色だ、瓶覗きなんて色に近い。目つきは少し鋭くて、たまに柔らかくなる。体は線が細かった。
お酒を飲んでる時は、ぼんやりしていた。
思えば、楽しそうに笑ってる顔は…一度見たけど、その、うん、ちょっとヘキの話になるから除くとして…。
…もっと、くだらなくて、ささいなことで、小さなことで、彼が喜べるものはないだろうか。
…マーサさんは〝偉大じゃなくていい〟って言っていた。元気以上に望むことはないと。
能力を持っていても〝結局は心臓一つのバカ息子だ〟と当たり前のように笑ってた。
…ボクの心も少し楽になったっけ。
でも、そうだ。
ブラスだって、きっと普通で、
だから、当たり前のことで笑える筈だ。
彼が笑えていたら、何でもいいや。
───なんて、ボクは考えていた。
聞こえてくる足音には気づかないままだった。
気配なんて分かるはずもなかった。
ボクが気づいたのは、声があったから。
でもそれは、確かに彼の声だった。
「人材がピンポイントすぎるだろ…!」
困惑というかツッコミの声だったけど。
頭を抱えてしゃがみ込む青白い髪の人。顔がこう…困惑と嬉しそうな感じでぐちゃぐちゃになってる。苦笑いみたいな、引き攣った笑顔みたいな、そんな感じ。
ボクはと言えば、驚いて立ち止まったまま。
でも、口をなんとか動かしてこう言った。
「…えと、…だ、駄目だったかな…?」
「逆!ありがたくって泣けてきた!!さっきから地獄に仏が多すぎんだよ何だこれ!?話通じない奴がいたらどうしようかと…!」
大きく安堵のため息で、ヘナヘナしてる。
ボクは何だかおかしくなって笑ってしまった。
すると、彼の背中に隠れていたのか、何人かの子どもと思われる声が聞こえてく───
「あっもしかしてワンナイトのお相手とカ?」
「ぅゔぉ゛え゛ッ!?」
「ぐごはぁっ!?」
───思わぬ流れ弾にボクとブラスは揃って吐血した。
「兄ィと知らない人が死んだ!?」
「この人でなし!!!!!」
短め番外編
-
学パロ世界線
-
ひたすらキスだけのブラスとアマネ
-
彼氏持ち女性陣トーク
-
野郎どもの猥談