敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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「「過去が殺しに来た」」

 

 

「なんだ…クソガキ、夜更かしか?」

「そっちこそ」

「悪りぃな、夜更かしは医師の特権だよ」

 

 第四スラム。褪せた灰色の髪を持つ青年ことハイバラは、愛想皆無の目を青く幼い瞳に向ける。

 彼はため息を吐いて、青い目の子どもに言った。

 

「さっさと寝ろ。背ェ伸びなくなるぞチビ…あっぶねェな!? いきなり人様の脛蹴ろうとすんじゃねェ!」

「身長の話はせんそーだろうが…!」

 

 金髪を揺らしながら、幼い子どもは怒る。

 彼にとって背丈は禁句らしい。

 ハイバラはすんでのところで回避した自身の脛を撫でながら、大きなため息を吐いた。

 彼は逃げるように空を見上げる。

 夜明け前の夜空は暗澹を想起させる。自身の行いは割れ、今や捕縛されたも同然だ。

 

「ったく暴力的だな……兄貴になんだろ? すぐ足なり手なり出したりすんなよ? 予定日通りになりゃ、もうじき生まれんだから」

「なんか悪いの食べた?」

「オイコラどういう意味だテメェ」

「だって俺がそんな話するといっつも〝じゃあ俺には向いてねェよ〟とかいうじゃん」

「………本当に向いてないからだな、それは」

 

 …彼が今、幼子と会えているのは幼児への配慮のためだ。

 

 彼は自身の行いを理解している。

 2年もの間このスラムを人質として機能させ、ここにいた筈の青年に犯罪の片棒を担がせた。

 決して「仕方ない」とは思っていない、良心の呵責もない。そういったものは「どうでもいい」と切り捨ててきたし、信頼も信用も不要だと思っている。

 かつて、それが最も必要な職を志した筈でも。

 

「………ねぇ、ちゃんと産まれられるかな? 産まれた時にお母さんが死んだりとか、しないよね…?」

「なんだ、不安かよ」

「不安に決まってるよ…病院と違って、足りないものも多いでしょ?」

「悪りぃこと考えてっから眠れなくなんだよ」

 

 妊婦が出産時に死亡するケースは確かに存在する。大量出血や血圧上昇を理由とした脳出血。羊水の血液流入による羊水塞栓症と、その原因も少なくはない。

 だから医師の手が必要だし、病院という設備がある。

 

 医学生であった男は、まだそれを覚えていた。

 頭を過ぎる数々の誓約と知識。苦しくも、しかし一度も「辞めたい」とは思わなかった勉学の日々。

 最早過ぎ去り、価値を失った過去だ。

 だが、自分は確かにあの赤い十字架に───、

 

「…───いや。今更、か」

 

 それを掲げる施設に対して、自身が属し、そして加担している組織は一体何をしでかしたか忘れわけじゃない。

 本当に今更な思考だ。くだらない。

 彼はそう思考を打ち切り、やはりため息を吐く。

 

 ハイバラは幼子に手を伸ばそうとして、やめた。

 彼はこの場を去るつもりだが、孤児院の中に戻るつもりはないのか、子どもに背を向ける。

 朝の空に似た目を見ないようにしながら。

 

 「さっさと寝ろ、…そ…あー……クソガキ」

 

 ただ、何かを言いかけて。

 

 

 院から少し離れた所。ハイバラは監視の目であった一人の女性、つまりはヒヒガネ・クサビに向けて声を投げた。

 

「終わったぞ…お節介で時間割いてくれてドーモ…オイなんだその苦虫バイキングみてェな面。何それ、どんな感情?」

「………あんた結構めんどくせー男ってやつ?」

「うっせ」

 

 クサビに向けてハイバラはぶっきらぼうに返す。

 彼以外の『連絡役』は捕縛された。

 通信機は未だ生きている、ここからラメントの動きを知ることも、ある程度弄ることも可能だ。

 

 ただ彼は考える。

 

 今も昔も自身にとって都合が良くなるように動いてきた。信用も何もいらない、ただ外で呼吸が出来ればいいし、それが叶わないかもしれないとわかった今では待遇がマシになる方を選んでる。

 

「………クソッタレ」

 

 …その筈なのに、自身は何を拾った?

 モヤつく思考と胸元を叩きながら、彼は悪態を吐いて、正体のわからない吐き気のようなものを誤魔化した。

 

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

「ぅげぇっー…っ、こひゅーっ…」

「けはっ、がはっ…!」

 

 アマネとブラスは血を吐く。心に重大な刺し傷を負ったのである。二人は地面に膝をつき、なんとか立ち上がろうとしている。立ち直りが早いのはアマネの方であり、彼女は膝を震わせながらも立つ寸前だ。

 

 だがブラスの方は深刻だった。

 彼は立とうとしても崩れ、手を地面に付いて体を起こそうとしてもガクガクと震えるばかりであり、呻き声にも似た何かを喉から鳴らす始末であった。

 

 図らずも約2名の死体を出してしまった、妖艶な雰囲気を放つ長髪の少年は目を白黒とさせている。

 彼は手をわたわたとさせながら言った。

 

「え、あの、これ、俺のせイ…?」

「どう見てもあんたのせいだろ!」

「いきなりワンナイト突っ込んじゃ駄目でしょ!?」

「「どうしうちー」」

 

 冷や汗を出して慌てるハルキに、アイシャとジャックが突っ込み、イェンとヨウが揶揄うように囃し立てる。

 なおこの際、子ども達に自分達の私情というか痴情が割れていると知ったブラスは「コ゜ッ」と異音を喉から発し、白目を剥いて動かなくなった。2回目の死である。

 口からは魂的な青白い何かが出ていた。

 その魂的な何かも血を吐いていた、何だこの光景。

 

「死なないでよ、おにーサマ!?お願いだよ何でもするかラァ!!まさか本当にお相手だと思わなかったんだっテ、というか死因それで良いノ!?」

「末代の恥的な?」

「私達がいるから末代じゃ…」

「いやぁ血ぃ繋がってないし、教え子の方が…」

「勝手に末代にしないで!!蘇生急いで蘇生!!」

 

 末代トークをジャックの叫びが終わらせる。

 ゆっさゆっさと肉体を揺らされ、血を吐いたブラスの魂はゆっくりと元に戻ろうとしていた。

 その間にアマネは何とか立ち直ったらしい。

 彼女は虫の息といった有様であり、子ども達の中で、女の子が揃って彼女の背を優しく叩いている。

 

 そんな光景の中へ、とある二人が加わる。

 

「おっまたせー、わぁ大家族番組みたいな光景」

「オイ何だこれ、この世の地獄か?」

 

 黒い髪と凛々しい顔のクサビ。傷んだ灰色の髪を持ち、目つきの悪いハイバラであった。

 クサビの方は変装を解いたのか、片目を覆う包帯はなく、素顔を晒している。

 

「……とりあえず───現状整理だね」

 

 

 

 しばしの休息と蘇生。

 それが終われば、ブラスもアマネも何とか持ち直した。

 その後、ハイバラはドラム缶と幾つかの可燃材を持ってきてその場で焚き火を作る。ブラス、アマネ、クサビ、ハイバラはその焚き火を囲むように座った。

 ブラスが連れてきた子ども達は揃って彼の隣や後ろに座ったり寄りかかったりしている。

 

「…いや、近くない?」

「……だって死に体だったし…」

「「なんとなくー」」

「罪悪感でス…」

 

 呆れたようにブラスは笑って「目が届く所で遊ぶなり寝るなりしてきな」と子ども達を払った。

 子ども達は「大人の話だ!」「子どもだからってはい解散かー!」と抗議を飛ばすが、なんだかんだ大人しくその場から離れた。聞き分けは良いらしい。

 なおこの際、ワンナイトを知られたのだと改めて自覚したブラスが膝を震わせて土下座のような体勢になって何も喋らなくなった。

 あとアマネも流れ弾で崩れた。

 

「ボールペンで首を掻っ切る間も無く二人死んでる…」

「…こいつワンナイト向いてねェだろ…」

 

 ちゃっかりブラスの隣に座っているアマネを見ながら言うクサビ。ハイバラは土下座死体と化しているブラスを見ながら、呆れたような顔と声で言った。

 閑話休題。再び蘇生した二人は、吐血の跡を拭きながら肩を落としたまま呼吸を整えた。

 

「…最初にあたしから話そっか」

「すいませんよろしくお願いします…」

 

 満身創痍の人に長い話を要求する程、ヒヒガネ・クサビは鬼畜ではないらしかった。

 

「ん、まず目的はあんたの引き抜き。

 欲しいのは、戦力と情報の二つだね。アマネとの記録で『まとも側』だと推察出来たし。

 あと前に話した時、割とヒントくれたでしょ?」

「総合病院に関しては。けど、何でここのことが割れてんのかはマジで分からないんですよね、なんでぇ?」

「メンタルブレイク中に人質についてゲロってたよ」

「マジかよ………」

 

 ブラスが顔に手をやりながら天を仰ぐ。結果オーライだから良かったものの、下手をしたらと思うとゾッとする。

 色んな意味で悪寒が止まらなかった。

 続けるようにクサビが話す。

 流石に仕事柄慣れているのか、説明に澱みはなかった。調査でこの場所を割り出したことも話してから、アマネの方へと視線を移し、彼女の方を指差しながら言う。

 

「んで、この子のちょっとした提案で、今あたしの隣にいる『連絡役』を抑えられた」

 

 連絡役、その一言で空気が張り詰めた。

 咄嗟にアマネが不安そうな顔でブラスを見る。彼の顔は一転して、怒りにも似た何かに支配されていた。

 息苦しい沈黙の中、ハイバラは口を開く。

 

「…どーも、オマエの過去を人質にとってた男だよ」

「───」

 

 一瞬で、そして無音。

 ブラスの手には長柄に鎖の巻きついた大鎌が握られていて、ハイバラの首筋に大鎌の刃が当たっている。

 だがそこで止まっていた。振り抜いて首を刈ることはなく、掠めて病で苦しめることもない。

 それが意外だったのだろう。ハイバラは目を見開いて、そして何故か挑発するように言った。

 

「…どうしたよ、殺さねェの?」

いや普通に滅茶苦茶殺したいけど…

そこ嘘でも躊躇ってるとかさぁ

 

 真顔の殺意にハイバラは少し引いた。そんな資格はないだろうと分かっていながらも引いた。

 ブラスは大鎌を青い煙に戻して払う。

 そして一度長く、重たい息を吐く。怒りと殺意を必死に押し殺しているのは明白で、俯きながら顔を両掌で覆って動かなくなる。

  

 …懊悩は明らかだった。

 

 ゆっくりと、ブラスの痩せた背中が撫でられる。何か出来ることはないかと思ったアマネが、今やれたことがそれだった。

 少年は何も言わない。その手を振り払わないことが少女の行いへの返答だった。

 そうして、絞り出すように言う。

 

「…………何でここにいんだよクソが」

 

 呪詛にも似た呟きは、懇願にも近い。

 いっそ逃げ出すような奴なら良かった。この状況で人質を使って脅すような奴なら良かった。

 でもそうじゃなかった。

 どんな経緯や心変わりがあったかは知らないが、ハイバラという男は逃げずに来た。

 連れて来られたのかもしれない。

 そう思いたかったのに、嫌々来てる風を装ってもくれない。やり場のない気持ちが湧き上がる。

 

 …見かねるように、灰色の男はわざとらしく言う。

 

「……うるせェな、つかアレだな? ワンナイトしたくせに案外意気地なしだな。それとも、案外オマエにとって此処はそんなに重要じゃぁ───がっ!?」

 

 ハイバラの顔面に拳が突き刺さった。

 鼻柱を折る勢いだったのか、ハイバラは鼻元を押さえながら悶えるように膝を折っている。

 ブラスは拳についた鼻血を振り払いながら言った。

 

「…今はそれどころじゃないから、後にしてくれ。

 ………この2年、ここで何してた」

「…医者の真似事…ここにいる奴らは全員無事だ」

「……マジでクソ、ばか、カス」

 

 子どものような罵倒と震えた声。色んなものを必死に抑え込んでいるのは明白で、痛ましい有様だった。

 アマネもクサビも、何も言えなかった。

 

 ブラスは俯いたまま、不意にアマネの手を取る。そしてそのまま、自分の背中にぽんと置いた。

 それを見て彼以外の3人が「え」と声を漏らす。

 そこで彼は自身の行動に気づき、顔を真っ赤にして慌てて首を横に振った。

 

「…ん? あっいや、や、違う!!」

「何がだよコノヤロー」

「(無言の拍手)」

「ぅあ…えっと、…さすろっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 ああもう死にたっ、死にたあっ!

 現在進行形で顔を両手で覆ったままです、あんなやり取りの後なのに思っクソやらかしたよ馬鹿なんじゃないの本当に馬鹿なんじゃないの。

 

 ……以前頭ん中に「あなたの為になりたいです」をぶち込んでくれた人に背中を優しくさすってもらってます。落ち着いてる自分がいます。というか気付いたら強請るように彼女の手を自分の背中に置いてました。どうすれば良いですか助けて母さん(マーサ)

 責任取れ?ははははいや全くその通りです…。

 

 …結局、今も背中を撫でてもらっている。

  その間にも話は進んでいた。

 

 先ず、今回のバックアップを担当していた局員と通信機越しに連絡をとることができた。分かってはいたが、やっぱり気振りカプ厨…じゃねぇやレオネ・サンダーズと、

 

『───えー、大体の事情は分かった。そんでその上で言わせろ、なんで起こさなかった班長!!』

『はいはい、レオネは放っといて本題入るよー』

 

 対策局側で苗字がないことを理由に散々な考察をされていたユカタンだった…ファンがキレかけるほど「裏切り説」が出回ったのは記憶に鮮明だ。まぁ真っ白どころか泥から引っ張り上げられた側だったけど。

 …ユカタンの方には一部始終見られてたらしい。カメラに記録バッチリ残ってるってよ頼むから誰か殺してくんねぇかなあんな行動をとった俺のことを。

 

「殺してくれ…殺してくれよ…」

「ブラス、大丈夫。大丈夫だよ〜…?」

「アガッ゜」

 

 アマネに背中を撫でられて情緒が乱高下だ。

 嬉しいと死にたいは両立するんですね助けて。

 ありがとうございますと落ち着きながらも自己嫌悪が逐一自己ベストを更新してくるので誰か浮ついた俺の脳をマントルまで沈めてほしい。とにかくおたすけ。

 

「わーカオス、いつもらしくなってきた」

「研修先よりうるせェ…」

 

 こういう空気で楽しげにするのがクサビだ。

 そしてハイバラァ頼むから見ないでくれ。俺の心が音を立てて変な何かに生まれ変わりそうになる。

 そんなメンタルぶれっぶれの中で俺は自身の経緯やら何やらを話していった。

 

『クリフ副局長の命を受けてたクロカゲが現場判断で、あんたと子ども達を第四スラムまで輸送した。追撃とか人質への攻撃とかまぁ当然あるだろうな』

「面倒くさいね、逃走とか避難とかしないでここで迎え撃っちゃわない? だってムカつくじゃん。もう介入出来るでしょというかさせよう!大捕物だー!」

「…そのことなんだが…」

「あア、言い忘れてタ! 追手なら多分だけどしばらくは来ないヨ? 地下のヤクザに目ェつけられるようにちょろっと仕込みましたかラ!」

「おや子どもくん。具体的には?」

「黒手袋を下手人さんの横に飛ばしタ、今ごろヤクザ達とドンパチ大騒ぎじゃなイ?」

「おいちょっと待てェ!何だこのクッソ恐ろしいガキ!?つかさっきから通信通じなかった原因それかよ!」

「ああ、言いかけたのそれか」

 

 …話がどんどん進んでいく。

 というかハルキくん? サラッとエッグい手ぇ使ってるね? 記憶があってるなら地下ヤクザに黒手袋の意味は『挑発』だ。

 地下勢力にキュリアが「かかってこいや」したようなものだ。俺達の方にヤクザが来てないところを見るに、矛先は完全に向こう側へ向いたのだろう。

 …色々言いたいことがある。

 助かりはしたけど、下手したら当人に矛先が向く。

 

「ジャックもそうだけど、そういうのは事前に一言! 助かったけど、皆になんかあったら嫌だよ俺は!!」

「すいません…」

「でも言ったら拒否するじゃン?」

「達者な口だなコラ、うりりり」

「いひゃいひゃいひゃいいひゃい!!」

「ぅえぼぅ()も!?」

 

 みょいん、とジャックとハルキのほっぺを伸ばす…流石にマーサみたいにガチビンタは出来ない。優しいとかじゃなくて甘いのだと思う。二人揃って舌足らずの「ごめんなさい」に今は溜飲を下げる…助かったし、そこは本当にありがたいけど、どうにも正解がわからない。

 報告に来た二人を遊びに戻しながらもう一度座る。

 

「……あっ」

 

 とても情けないことに、腰が抜けた。

 多分これ立てない。どうやら、本当に心の底から安堵しきってしまったらしい。全身を脱力感が襲ってくる。

 もんのすごい重たい眠気すら這い出てきた。

 

「どうしたの?」

 

 アマネが聞いてくる。変装なのか赤混じりの緑髪だ。隠すのも馬鹿らしいので正直に言う。

 

「………腰が抜けた」

 

 焚き火を挟み、白熱する議論。

 そこから少し離れても話の流れは止まらない。俺も色々と話したい意見があるけれど、安堵がさっきから津波のように押し寄せてくる。まだ確認してないし顔を合わせてもないけれど、それでもだ。

 駄目な奴だ、見通しが甘い。

 早く復帰しないと───ふぎゅ。

 

「…少し休みなよ。キミが一番休まないと」

「いやまだ何も終わってないし…」

「もうキミだけが全部を背負わなくていいの!今は疲れた体を休めること!じゃないと潰れちゃうよ! …終わってなくたって、ひと段落って言葉があるでしょ?」

 

 …アマネに無理やり体を預けさせられた。

 彼女の肩を枕にする形で身体が倒れ込んでいる。頭があっという間にぼんやりする。落ち着く匂い。

 

 …前に支えたいとか思ったけど、逆になったなぁ。

 

 今の俺は、苦笑いを浮かべているだろう。

 まだ頑張らないとと思いながらも、少し休んでもいいだろうかと考えている俺がいた。

 喉がひりつく、鼻の奥がツンとする。

 …唇を動かそうとすると、わなわなと震えることがわかって、俺は歯を食いしばった。

 

「…大丈夫…大丈夫だから!

 ボクがいる、色んな人がいる!

 だから、少しだけでも休もう?」

 

 とびっきりの明るい声。

 どうか追い討ちをかけないでほしい。

 お礼の言葉もうまく言えなくなってしまう。

 震えた歯と口で、言葉をまともに吐けるか?

 

「…ぅ、ぁ……っ」

 

 ほら、無理だ。

 ありがとうの一つも言えやしない。

 嗚咽の声なんて、今出すもんじゃない。

 だから俺は目を閉じるんだ。

 …ちゃんと、色んな言葉を口に出せるように。

 だからそれまでは、少し甘えさせて欲しい。

 その温かさに甘えることを許して欲しい。

 その陽だまりを浴びることを見過ごして欲しい。

 

「…頑張ったね」

 

 …いろんな感情が浮かび上がっては沈んでいく。

 思い出して、生まれて、浮かび上がって、キリがない。

 というか大体、どストレートに好意を向けられてぐらつかない方が不思議なんだ。最初から印象は良かったワケだし、やらかしちまったのはそうだけど、それでも全部が台無しってわけじゃないし、ああもう思考がバグってきた休む休み!一回休む!

 

 俺は笑い声にも似たため息を溢す。

 ああもう本当に格好がつかない。

 どうにもポンコツでへっぽこだ。

 

 今は、今だけは向けられたものに甘える。少しだけ休むことになる。申し訳なさだとか、罪悪感が加速していく。それでも体は休息を取ろうと微睡みを始めていく。

 ああ、あと少しだと、俺はそう思った。

 

 

 だというのに───途端、空が真っ赤に染まった。

 

 

 

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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