敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
酒は飲んでも飲まれんな、マジで
首根っこを掴まれながら、宙にうく。
負けた。完膚なきまでに負けた。
死にたくねえと勝利者を睨む。
するとそいつはこう言った。
〝良い目だな。お前、俺と来い。
もっと気に入らねえ奴を殺せるぞ?〟
───あっ、転生ってやつだこれ。
そう気づいた時には、もう手遅れだった。
〝インヴォーク・エボルヴ〟
それなりに売れたRPGだ。がっつりな鬱要素やら、複雑な設定やらは前作から少しオミットされたそうだが詳しくは知らん。世界観が同じなだけで、繋がりはないとかどうとか。前作やってないからわからん。
ともかく、肝なのは此処に転生したと気づいたこと。
しかもよりにもよって『敵幹部』それも一人目のボス。つまり即行死ぬ。なんならボスに粛清されて死ぬ。
頭が真っ白になりそうだ、助けてくれ。
…とは言え、やけになっちゃいけない。
ひとまず、状況の整理といこう。
まずは世界について。この世界の人間は、二つに大別される。能力者、つまり
両者の対立と、相互の迫害。
それが強く根付いているのが現状である。
よって生まれたのが、俺が今いる(ことになっちゃった)テロ組織───『ラメント』だ。
まぁテロ組織なのでクソです。本編だと差別撤廃を掲げてるけど民間人に手ぇ出すわ、賛同しない奴は
改革すんなら真っ当な手段でやれやと思う。
「おはようございます、ブラス様」
「様はいらないよ。どしたのー?なんか報告?」
「…その、今度の襲撃の件なんですけど…」
…そんな組織の幹部の一人が、ブラス・リッター。
つまりは今の俺である。
「ん、一区中央病院を潰すって話?」
「…はい」
ブラス、つまり俺はラメントにおいて18と最年少かつ最新の幹部だ。どこぞのスラムで『家族』と何とか生きていた所を、ボスのクソゲボ野郎に負けてついて行くしか無くなった立場にある。
…ええはい、バリバリ取られています人質が。幹部と言えば聞こえはいいが、実質監視しやすい立場に抑え込まれただけである。
なんでそうなるかというと、ブラスの持つ能力が強力無比だから。これに尽きる。
「俺も納得はしてないよ。でもボスの命令だ」
「ッけど、ブラスさんの力なら下剋上も夢じゃないはずです! …あの大鎌だったら…」
「人質取られてんだよなぁ…」
「えっ」
…
ブラスが持つその力は確かに強力だが、それだけだ。武器という形のため、シンプルに戦闘経験や技術が問われる。つまりボスの方が戦い慣れてるから勝てねぇし、人質いるし、従うしかないのよね。
…待って、俺今サラッと言っちゃいけないこと言ったな?
「待ってください人質って!?」
「いや、ごめん。嘘、忘れて? 死ぬよ、君」
「………了解、です」
誤魔化しました。セーフ。
少し脅しもしとく。部下くんどうか死なないで…。
いやまぁ幹部が嫌々従ってるとか、夢にも思わないよねぇ。あとボスが同志に人質取ってるとか思わんてマジで。
…まぁボスの目的が目的だからなぁ。
まぁいい、ともかく今後の方針だ。
とりあえず大目的は〝人質の解放〟と〝死なない〟こと! 死んだら解放出来ないし、解放しないでのうのうと生きていける自信がない!
小目的は〝組織から離反〟と〝ボスをぶっ殺す〟こと!
…人質になった「家族ら」のことは本当に家族のように思ってる。ので、人質に取りやがってこの野郎という気持ちは大いにある。可能であればこれをこなしたいと思う。
原作遵守? 人命がマジで関わってるので…ノーです…身内がヤバいのでつべこべ言ってらんないのだ。
「…どーしよっかなー」
まぁ手段なんて思い浮かばんのですがね! ははは! そもそもボスが強いからどーすっか。
…人質で大きな動きも出来ないしなぁ。
いいや、取り敢えず飲みに行こう。たまたま主人公勢とエンカウントできたら苦労しない…いや、それはそれで大変か、
つまり詰みだな?
「…ま、取り敢えず飲も。ジャックくん、今日はもうお休みしていいよ。俺は今から大人の時間だからね」
「…───…はい…」
俯く部下のジャックくん。齢12のガチ子どもである。独り身の彼が同志と分かるや否や掻っ攫って殺しとかさせるもんだから、いやもうほんと腐った組織だなって。
もちろん見過ごせないので保護した…俺の部下にはそんな子たちが多い。託児所だなんて揶揄されるが、はらわたが煮え繰り返りますわよ。
◆
苛立ちと憂鬱さを胸にやってまいりました、歓楽街。俺は顔割れしてないので割と動けちゃうのです。
まぁ本編まだ始まってないから、殆どの奴がそうなんだけどね。
…で、少し困ったことが起きた。
いや少しどころじゃない、かなり。
今俺がいる大衆酒場『ハニービー』は、安酒が浴びるほど飲めるということで毎日賑わってる(この世界は18から酒が飲める法律だ)。
ので、見知らぬ他人との相席が珍しくない。
問題なのは、今日の相席相手が見知らぬ人じゃなかったこと。向こうは俺のことを知らないが、俺は彼女をずっと前から知っていた。
「もう疲れちゃったなー…ボク死ぬのかなぁー…」
…〝インヴォーク・エボルヴ〟の主人公は、男女選択制だ。どうやら、この世界では彼女の方がそれらしい。
フジワラ・アマネ。世にも珍しい『後天性の進化者』である彼女は、もう既に正義側の組織───『特異対策局』に所属していた。
政府が設立したその組織は、俺達のような能力を悪用する者達を捕縛するためのもの。
毒を以て毒を制すということだ。
そして毒は薬にもなる。
…この世界は確かに、進化者と非能力者の対立がある。
それを利用する者がいれば、当然是正しようとする者もいるのだ。
ああ、ほんと。いやになって来る。
「随分とやさぐれてるね、間違っても死なないでよ? この店が潰れたら困るんだ」
「ああいや! その仕事がちょっとハードで!」
「あ、そういう? てっきり希死念慮真っ只中かと」
我ながら白々しい対応…この具合を見るに、今頃は現場で周りとうまく反りが合わない時期なのだろう。
本編開始時、主人公は後天性の進化者ということで周りの職員…特に生来の進化者から奇異の目で見られたり、「俺達の受けた差別知らねえだろ」「気に入らねえ」といった態度を取られたりしていたのだ。
「まぁ職場がクソなんてのは、珍しくないかもねぇー…。ウチも上司が人の話聞かねえし、やってる事と言ってる事違うし…」
「ボクの所は、上司は良い人なんだけど、周りの人達がどうにも…ボク、なんか目につくらしくて」
「野郎が多いの?」
「いや、半々?ぐらいかな? まぁ、ちょっと色々あって…なんというか、浮いてるというか、ボクだけ無事っていうか…」
で、こいつかなりのお人好しで馬鹿だから気に病むのだ。「自分は現実を知らずに、のうのうと生きていた」と後ろめたさを感じてしまうようなやつ。
…そこが気に入っていたりもする。だからまぁ、その、なんだ、俺は少し舞い上がっていたのだ。
「ま、なんつーか…お互い大変だね」
「…そうだなぁ」
「ねぇ、好きな食べ物は?」
「へ? 唐揚げとカプレーゼ…」
「よぉし! おっさぁーん! 唐揚げの大皿とカプレーゼひとつずつ! お代は俺持ちで!」
『あいよ!』
「うぇええ!? そんな、悪いよ!!」
「気にしないでよ。苦労仲間のよしみってことで!」
なんで財布の紐が緩んでた。
というかサポートというか、助けというか、少しばかりはその苦労を癒やしたいと思ったのだ。
あわよくばと考えていたが…自分が抱え込んでる問題に巻き込むのも、正直言って気が引けた。
彼女は元々しがない一般人だ。いらない苦労や苦痛を、増やして欲しくはない。
俺の問題は、俺でなんとかしよう。
そう思いながら、酒で憂鬱をぼやかす。
…「家族達」に人質の自覚は無い。彼ら彼女らは、今頃畑仕事を終えて眠っている時間だろうか? 不幸中の幸いと言えば幸いだ。あの人たちは、本当にいい人だから、きっとこれを知ったら気に病む。
ああ、でも───
「…一目、会いたいや」
「……家族?」
「ん、そんなとこ…皆良い人でさ」
死なせたく無い、生きて欲しい。そう思ってる。ぼやけた頭でも、それは確かで絶対だ。
…ああ、クソ、何やってんだろうな俺。
酒飲んで逃げてる場合じゃなかろうに。
「…ま、俺の話はいいよ。そっちは今のうちに愚痴っときな。今ならおつまみ無料だ。なんならハンカチも貸すよ」
「……手慣れてるね、実は遊び人?」
「遊ぶ余裕ないんだよなぁ…今こうして飲んでるだけでも自己嫌悪が半端じゃない」
「ボクよりキミの方が愚痴が必要じゃない!?」
ははは、愚痴る権利もねぇのです。
酩酊を得ようと酒を追加で喉に通す。頭が少しふらついたけど、心というのは厄介で、自己嫌悪が酔いを無理やり補正しようとする。
…元から酒が強いのもあるのか?
なるほど、確かに俺にも愚痴が必要そうだ。
でも口はきっとつぐんだままだろう。クズで結局何もしてない奴は、口を開くべきではない。
「良いんだよ、俺のことは。逃避ばっかの人より、今も頑張ってそうな人の方が愚痴る権利がある」
「…なにそれ、ムカつく。おじいさぁーん! スピリッツレモン大!この人に!」
『あいよ!』
「えっ」
ちょっと待って? バカ強い酒頼まれたよ?
「キミに何があったとか知らないけど、弱音を吐きたいって思うほど追い詰められてるくせに強がらないでよ。
それで壊れたり、折れたりしたら…きっとキミの家族が一番悲しむし、キミの頑張りも無駄になる」
「俺は頑張ってなんか…」
「いいや!頑張ってるね! 少なくとも、頑張ってない人は折れたりしないし、愚痴も溜めない!!
覚悟しろこの野郎、何が何でも愚痴って貰うぞ…! まぁ幸い? お酒も強いみたいだし!」
ああくそ! 目の前で飲みすぎたか!? というか割と言葉が効いてる、この場にとどまろうとしてる自分が疎ましい! 死んでしまえ自分!!
あっちょっと待った、興奮したせいで酒の回りが良くなっ───や、ば、あたまが、ふわついて…なみ、だ、が…
「───は?」
それで目が覚めたら、知らない天井があった。
鼻にやたらと爽やかな香りが来る。
なぜか痛む体を起こし、周りを見渡───待って俺今裸じゃないですかねこれ?
どくん、と強い鼓動をスイッチに冷や汗。
慌てて周りと自分を見渡す。
…鎖骨の噛み跡。床に脱ぎ捨てられた二着のスーツ。あたりに散らばる下着。ゴミ箱に押し込まれたゴムの箱。
だめだ、パニクった頭でも答えを出せるほど、証拠が揃い踏みしてやがる。いや待って欲しい、嘘だろ、というか駄目だろ、信じられねぇ、蛆虫にも程があるぞ、俺。
「───……まじ?」
主人公とワンナイトラブとか過激派に殺される二次創作じゃん笑うしかねえ。
というか俺まだ勃つのか…いやそうじゃなくて! そうじゃなくてだ! これ洒落にならないマジで洒落にならない!! クソ蛆虫にも程がある! 前後不覚のクソじゃねぇか!!
「……ヤバくないか?」
もう取り返しがつかない。いや、マジで取り返しがつかない。酒の勢いだからでさっぱりさよならできるか?
いや無理だよ相手からそうしたいと言われないと無理! 不義理がすぎる!
「…ん、…ぁ…」
───そして肝どころか全身が冷えた。アマネが目を覚ましたのだ。彼女は眠たげな目を擦りながら時計を見て……こちらを見た。
「……おはよう、ぶらす」
「……お、おはようございます」
「………あー…ボク達、昨日」
「…いや、その…まぁ、うん…多分ね…
…本当に申し訳ございません…!」
頭下げて済む問題じゃ無いよね! でも頭下げる以外の選択肢がないんだよ!! というかなんで会ったばっかの女の人の首にキスマつけてんだ俺は! 馬鹿なのか!? バカ通り越して畜生だぞ!!
「あー…はっはー…本当にシちゃったんだ…ボクら…あー…ごめん、一回耳塞いで? 割ときつめに」
「へ? あ、はい」
言われた通り、耳を塞ぐ。
すると彼女は再び布団に潜り、枕に顔を押し付けた。
「だぁぁぁあぁあああああああああ!!!!!ボクのばかぁああああああああ!!!!!」
そしてとんでもない声量の大絶叫をぶっ放す。
…本当に申し訳ございません。
命なんかでは償いようがないです。はい。
クソ、二度と酒は飲まねえ。真面目に肝臓ぶっこぬいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えてると、アマネはゆっくり起きた。
彼女はどこか吹っ切れた顔をしていて、少し不安だ。変な吹っ切れ方をしていないか心配である。
絶妙に気まずい沈黙。声を掛けるのも憚られる。胃がキリキリと痛む中で、口火を切ってくれたのは向こうだった。
「……ねぇ、その、どうする?」
「……どうするも何も、俺は責任取るしかないっすよね…まぁその、…そちらの意向通りに…沙汰を下してください…」
「そっかー、じゃあ結婚だねー」
「わかりま───ってはぁあああああ!? はぁ!? なんで!?正気なのかあんた!?前後不覚で手ぇ出した男だぞ!?」
「今ここでボクの言葉から逃げたらプラスで責任も取らない男が付加されるけど」
「ぐはぁっ!?」
まぁ冗談はさておき、と言う。
言われた側からしたら冗談にはならねぇのだが。
「とりあえず、お互いまたゆっくり話し合おう。万が一とかあり得るかもしれないから!」
「それはそう、本当にそう」
───ということで、俺達は連絡先を交換した。
…酒はマジで飲まれたらアカンな…。
短め番外編
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