敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
空から降ってきたエリヤを迎え撃つ。
隕石みたいな落下だった。炎が俺を押し潰そうとする。俺は鎌を咄嗟に突き出した。
あの野郎の周りには赤い剣が四つ程浮いていて、それが全部炎で出来ていると間近で見て分かった。
俺の知らない能力だが、狼狽えている暇はない。
鎌と炎剣の押し合いが続く。馬鹿みたいに熱い。
だぁ炎を至近距離に近づけるなっつーか人がいるところを焼くんじゃねぇよクソッ!
「ずぇあっ!!」
「───ッ!?」
空から降ってきた放火魔を押し返す。腕から嫌な音が聞こえたけど知ったことではない。というか気にしていられない。予想が正しければ、間違いなくエリヤは『覚醒』している。しかもマイナス方面に。
能力が次の段階に行くには、正負問わずに精神的な引き金が必要だ。何かに絶望するか、もう一度と再起するか。
加えて能力が『副次的な力』を得る必要がある。精神的な爆発だけじゃ不足だからなのではないかだとか、そんな考察データは作中にも転がっている。
エリヤは前者はともかく後者を持っていなかった。
だから初の『祈りに足る進化』がよりにもよってエリヤなのは、本当に予想外だ。暴走じゃなくて『次の段階』に至るとか、どんな手段使ったんだこいつ…!?
───いや、思考は後だ。
鎌を回すように投擲して首を刈りに行く。鎖を手繰り、その軌道を不規則に。能力の推察も大事だが、短期で決着をつけなければ不利になるのは明らかに俺の方…!
「何故、何故、ここにいる…!何故!」
「…このままじゃマズイな…!」
何故と叫びながらエリヤが4本の炎剣を走らせた。
引火しそうなものが多い。
空から火がゆっくり降り出してきている。
早い所こいつをどうにかしないと、ないし避難が終わるまで時間を稼がないといけない。
予定を変更、首を切りに飛ばした鎌を以て4本の炎を両断へ。ともかく、一度邪魔な炎を殺して───!?
「切っても、その場で治っ…!?」
「見たくないものばかりだ…!」
鎌で切っても炎剣が霧散しない。
切断された炎が消えそうになる直前で再び燃え盛り、剣となって再び俺を目掛けて走ってくる。
切っても死なない炎とか聞いたことが無い。
これ切った側から『蘇ってる』のかよ七面倒くせえな! つかこんな大仰な能力まで行ったんならわざわざ此処狙う必要ねぇだろタイマンで来やがれクソが!!
「見たくないんなら何でここに来た!?燃やす必要もないし回れ右して帰ればお終いだろうが…!
前ッ前から思ってたけど!こいつらが巻き込まれる理由がどこにあるんだよ!どいつもこいつも!!」
「不幸に理由が必要ですか!?前兆もなく全てを失うことなんて腐るほどあるでしょう!?」
「答えになってねぇんだよ!!体と一緒に頭もトびやがって!」
身を捩りながら剣を躱す。
かと思えばエリヤはその右手に炎を固めて一本の槍を作り出し、俺の心臓目掛けて突き出した。
槍の穂先と鎌の鋒がぶつかる。
…燃え移ることはない、よしガードには使える。
というか、もう本当に知らない能力だ。
…エリヤが元々持っていたのは
大気にも印を刻めるし、印と印を結んで陣形張ってその内部にあるものを燃やしたりとか、炎の線で結界作ったりとか、トリッキーな戦い方をしていた。
それが今や武器作ってフィジカルバトルだ。加えて印の一つも使わずに炎を馬鹿みたいな量で操ってくる。
姿だって、随分と変わり果てた。
赤い髪は今のエリヤの感情と同調してるのか、炎みたいに揺らいでいて、青い瞳も爛々と光っている。
───だが、一番目を引くのは喉に突き刺さった釘だ。血が出ないし、何よりエリヤが普通に喋る時点でただの釘じゃない。アナーキストが打ち込んだ釘だろうか。
思考を巡らせながら風のように放たれる炎を切る。こちらは切った途端に霧散した。どうやら、切って死ぬ炎と死なない炎があるらしい。
そう考えていた最中だった。
「
エリヤが力の名を唱える。
そして全ての炎を俺に向けて放った。
爆炎なんて規模じゃない。ただただ俺を殺そうとするだけの小さな規模。無数の炎が槍となり剣となり、地面から突き立ちながら群体のように迫る。
だというのに、殺意ばかりが膨大だ。
躱せない。大量の赤い武具を前にそう悟る。
ふざけんなよお前、だなんて思う。
そこまで強くなって、そこまででかい力を持って、なのにどうして結局やることが、アイザックと同じように関係ない奴を巻き込むことなんだよ。
どうして、俺一人で終わらせてくれないんだ。
そうして、鎌を横一閃に薙ぐ。
その武器たちが消えないと理解していながら。
◆
空が赤い、火が静かに降り出す。
火の雨なんてちゃんちゃらおかしいものが、リアルとなって襲いかかってくる悪夢みたいな光景。
ふと、まだ残している自分の名前に気づく。
「…この場で
大体、不吉って言うなら今のオレもそうだ。
ガキの頃に見た映画がそうだ。似合わねェことをしたやつから死んでいく。
今のオレも似合わねェことをやっている。今更ながら、生まれる命の心配なんざ虫唾が出る。守るなんてもってのほかだ、オマエはその命を守る施設を襲った組織の一員だぞ?
オレよりブラスの野郎が行くべきだろ。
「…なんだってんだか」
吐き気が強くなる。気持ち悪い感覚が止まらねェ。これの正体すら碌にわからないが、それでも足が止まらない。
能力───
…医学生からテロリストの一人ってのはなかなか生々しい経歴だなぁとか、思ってたっけか。
…院が見えた。先に降った火が落ちたのだろう。微かだが既に火が回り始めている。
一際吐きそうな気持ち悪さが強くなる。
オレは更に加速して、施設に急いだ。理由なんて気にしている暇はない。死にたくねェ、それだけでいい筈だ。
そう思いながら、施設付近で加速を緩やかに解く。
「…ッオイ無事か!」
見える人影に、俺はそう言う/
施設にいた奴らはさっさと起きて避難していたようだ。マーサ、クソガキ、患者の3人がちゃんと揃ってる。
マーサはオレとわかるなり、大声を出した。
「無事だよ!あんた何処で何してたんだい!?それに客の二人だって見当たらないし…!」
「話すと長くなる!あの二人は無事だ、今は避難急げ!とにかく瓦礫が降らなそうなところに行ってこい!あとまとまって動け!」
「だ、大丈夫…ですかね…?」
「〜〜〜っ! 大丈夫だ!何とかならァ!」
弱々しい妊婦にオレは大声で返していた──何が「大丈夫だ」だ。お前もこいつらを殺す側だった癖に面白いことを宣うものだ──思考を打ち切る。
今更過ぎる思考だ。今になって噴き出しやがって。実は罪悪感があったんですとでもブラスの前で言うつもりかよ…んなことしたらマジで殺されるだろう。
それに、幾ら何でも都合が良すぎる。
「さっさと避難を───何してんだクソガキ!?」
「だって!いなかったから!」
「バカ!気にしてる暇あんのかよ!?」
「でも!!」
「でもじゃねェ!!早く行け
早く行けよ!と叫びながら腰元に引っ付いて泣きじゃくるクソガキを引っぺがす。
…何でそんな喚くんだよ。オレはブラスの代わりみてェな、もの、じゃ───…、
ああ、今分かった。
そういうことか。
呆然とするオレに、やはりマーサの声がかかる。当たり前だ。そうなるように自分の役割を利用した。考えてみりゃ当然で、最初から破綻していた考えだ。
「…あんたは、行かないのかい?」
「……まだ、見るところがある」
吐き気の正体が、やっと分かった。
ここの飯が美味いってなった理由も分かった。
「……だからオレに行けっつったのか…ブラスは」
「…? あの子がどう───」
でも呆然としていたのがダメだったな。
落ちてきた燃える瓦礫が避けられなくて、咄嗟に右腕で受け止めないといけない羽目になった。
冗談みたいな激痛が上ってくる。オレの喉は今日で一番でかい絶叫を上げた。
「っっがぁあああああああああ!?」
……走馬灯が見えた気がした。
ああ、代わりじゃない。代わりじゃなかったんだ。
代わりなら、心配なんてされねェ。
当たり前だよな、別人なんだから。
飯が美味いわけだよ、殺された夢を叶えたんだから。
ああ、気持ち悪ぃな。
「あんたっ…!」
「先行け!後から追いつく!」
「で、でも…!」
「早く行け!!お前らも此処で死にてェか非能力者!」
この先はオレ一人でいるべきだろう。
本当にどうしようもない。
もっと言うなら、こんなやりとりもするべきじゃないし、オレは黙って盾になるべきだった。
なぁ、そうだろう炎の山よ、瓦礫の山よ。
何でこんな大火事になったのか知らない。その謂れが此処の奴らにはないとは分かっている。
だからオレが焼かれる理由がよくわかる気がした。
「頭良いけど馬鹿って言われたこともあったか」
腕から不快な匂いがする。焼けた人肉ってのはこんな感じなのか。知りたくもねェ体験だよクソ。
だが、まだ動く。何かの能力が作用しているのだろう。それが良いものか、悪いものかは知らないし今はどうでも良い。
どのみち、出来ることがある。
足もまだ無事だ。
なら、こんな命でも出来ることがまだあるのだろう。
腕についた炎を無理やり消す。
稼働に問題はない、まだ使える部位だ。
「───腐ってんなぁ、オレ」
罪悪感なんてものは、きっと無い。
ただ捕まりたくないだけ。都合よくその場その場を取り繕っているだけの生き方だ。
自分が、進化者だとバレた時からそう。
一介の学生に何が出来るよ。少なくともオレが出来たことは、拠り所を求めて転々と渡って、行く先々で同じようなことをするだけ。
そうしたら今の有様だった。
…その上で、オレのやったことを振り返る。
オレがやったことは多い。
単にテロ活動の幇助だけじゃない。
ここの奴らを人質にしてたことだけじゃない。
この2年間、あいつがいるべき時間で、あいつの代わりみてえに居座って、ここの奴らを騙し続けて───のうのうと信頼されていた。
このことに、今更ながらに気づいた。
「…殺されねェ訳だよな…あいつの持ってる信頼を人質に取ってるようなもんだったわけだ…」
加速する。走り出す。償いのためじゃ無い。
きっとその筈だ。オレの思考にそれは無い。
贖いのためじゃ無い。許しを得るためじゃ無い。
きっとその筈だ。オレの経緯にそれは無い。
そうでもしないと、きっと投げ出したくなる。
ただ瓦礫から人を守るだけだ。
あのガキどもの手助けをするだけだ。
自己満足だってのは分かってる。
それでもこの身体が、かつて目指したものを覚えてる。
医学生だった頃を思い返す。
…神と先達を前に、確かにオレは誓った。
だがオレは既に誓いを幾度に渡って破り、それ故にその誓いと反対の運命を賜るだろう。
されど、今一度だけ誓うことを許されたし。
医術の神、そして全ての先達よ。
我が責務は危機を前とする生命を庇護する事。
私は自身の持ち得る命と腕、そして知を尽くし、
如何なる事情があろうと責務を忠実に果たさん。
「───救助救命には迅速な行動、だったか」
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