敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
診断話-シガーキスとか考えただろお前
「うし、ブラス。診断結果といこうか…。
どした、なんか上の空じゃねぇか貴様?」
「……ああ、いや少し」
「ま、色恋沙汰なら退院後にやりな。あ、今の『やりな』はダブルミーニングじゃないぞ?」
「オイなんで今刺しに来た?」
ごぼぉ、と診察室で血を吐く。貰ったガーゼで血を拭いながら、俺は自分の担当医を見る。
臨時施設の時と同じ医者だ。
伸び放題の髪に無精髭の彼が今日、着用しているTシャツには達筆で『根絶』と書かれていた。
…どこで売ってるんだろう、この物騒なシャツ。
ともかく、入院2日目。
俺は再度肺の検査をして、その結果を聞いている。
無精髭の医者は、やっぱり伸び放題の髪をボールペンでもっさもっさとかきながら眠そうに言った。
「率直に言おう───肺炎寸前だ」
医者の言葉に頭がフリーズする。
はいえんすんぜん。全く予定外の病気、というか自覚症状皆無だったんですけど…。
発熱も咳もない。呼吸したって違和感ゼロだ。なのに肺炎ってどういうことですかねぇ!?
「このままだとそうなる、ってことだよ。
貴様の肺がざぁこざぁこって感じでねぇ、免疫系統があんまり仕事してないんだよ」
「わかりやすいけど何ですかその語彙」
「昨日部下がオフィスに同人誌忘れてったから、それ読んだのよ。いや、凄えよアレ。お手軽に雑かつ簡単な状況説明出来る語彙が手に入る」
「セカンド・オピニオンして良いですかね?」
患者に同人誌読んだって言う医者初めて見た。あまりにも嬉しくない初体験すぎる。
恩人ではあるけどゲンナリする。
とか思ってたら、医者から一本のタバコのようなものを手渡された。
「これは?」
「数種の臓物、薬草、鉱物…まぁとにかく生薬を調合して紙で巻いた薬だ、それを吸入して肺を調律してくれ」
「タバコみたいな薬ですね」
「効き目は随一と保証する。ま、とにかく一本吸いな…あ、もうものすごく吸えよ、肺パンパンになるまで、で、思いっきりむせろ」
次に手渡されたのはジッポライター。
懐かしい。火を起こしたい時、一度だけ捨てられていた物を使った記憶がある。奇跡的に一回だけ使えたし、おかげで暖を取れて子ども達の凍死を防げた。
そんな思い出を振り返りつつ、薬に火をつける。煙はタバコのように揺らめくが、不快な匂いはない。
むしろ、線香にも似た匂いだ。
不思議な薬もあるものだ、作中じゃあ飲み薬や塗り薬が殆どだったなと思いつつ、煙を深く吸う。
話された通り、思い切りむせた。
すると口から煙が吐き出されて…いや煙あっか!?つーか鉄臭!?何これ!?
「なんっ、げほっ、ごほっ!?」
「弱り切った組織とかだ」
「えほっ、出して大丈夫なんですかそれ!?」
「吸った煙が再生を促すからへーきへーき」
なんかすごい薬をもらってしまっている気がする…治療費は働いて返せとは言われたが、これ払える金額?
…いや待て、肺炎寸前? 不味くないか?
「…キスしちゃった人がいるんすけど」
「フジワラだな、まぁ以前の検査も今回の検査も問題はねぇから恐らく大事ないだろ。
不安なら、口腔接触前に互いに一本ずつ吸いな」
「…ハィ」
…杞憂だったけど、やっぱり何か色々と把握されてそうだ。いやまぁそうですよね!検査くらいしますよね!事情とか筒抜けでしょうね!?
言及されないでサラッと流されるのはありがたいけど、それに対して勝手にダメージを喰らう俺がいた。
我ながら面倒臭いやつが過ぎる。
そんなふうに思ってると、医者はいきなりショーケースを取り出してきた。ティッシュボックスほどの大きさのそれは、中に今も吸っているタバコの色違いがいくつか入っている。
医者はこつこつ、とケースを叩きながら言った。
「いろいろフレーバーあるけど、どうする?」
「そんな歯磨き粉みたいな…」
「わりかしクレーム多いんだよ…苦いだとか針が痛いとかシンプルに臭いとか飲みづらいとか」
…作中で回復アイテムに『爽やかなミントの匂い』だの『少し乳酸菌飲料に近い味』だの匂い・味の言及が多かったのってそれが理由…?
…医者って大変なんだなぁと思いつつ、俺はショーケースの中にある薬を見た。
色とりどりだ、デザインにも拘っているのだろう。
鮮やかな緑色のメンソール、爽やかな橙色のオレンジ、落ち着いた青のラムネ、深い紫のグレープ、虹色のミックス、そして黒いポン酢───ポン酢?
突拍子もないラインナップに驚いて、再度黒いタバコのような薬を見る。
しかし、ショーケースの中にあるそれは、どう見ても薄い一枚の写真であり、更に言うとモザイクアート並みにガッビガビの画像だった。
「オイこれ画像処理が適当すぎるだろ!? 何処からどう切り取ってもガビ画像じゃねぇか!!
というか雑なんだよボケと前振りが!
そもそも何で診断受けてんのに医者と漫才みたいなやり取りしてるんだよ俺は!?」
「全部ツッコム辺りクソ真面目だな…コンビ組む?」
「やかましいわ!」
医者はカラカラと笑いながら「で、どーするよ? ポン酢マジで作ってやっても良いぞ?」と言ってきた。
俺はほぼ考えないまま、目についた色を選ぶ。
…指が示したのは鮮やかな緑、メンソールだ。
「…………………メンソールで」
「チッ無難な味に逃げたなチキンが」
「何で俺は罵倒されてるの…?」
「割と自信あるんだけどなぁ、ご当地フレーバー」
発想が狂気すぎる。
シンプルにこの人疲れてんじゃねぇかな。
そんな思考を最後に、今日の俺の診断は終わった。あとは部屋に戻って安静にするだけになる。
お礼を言って病室を後にする。
…まだ院内から出ることはできない。家族達と部下だった子ども達に電話しようか悩むところだ。
皆は皆で、まだ整理する時間が欲しいだろうし。
「…………いや、まだ早いってぇの…」
ふと、緑色の髪と赤い頬が頭によぎる。
確かに言うべき、いや言いたい言葉があるけれど、直近のゴタゴタがまだ多い。
……それが終わってからだ。
「あー…ほんと、気ぃ抜きすぎだバカ」
自分にそう言ってから、昼に差し掛かる青空を見ながら廊下を歩く。いくら心労が大幅に無くなったからと言って、羽目を外し過ぎている。
少し寝て、心を落ち着かせないと…。
◆
ブラスが退室した後のことだ。
髪と髭を伸び放題にした医者は、携帯電話を耳に当てながら、眠そうな声で誰かと話している。
「ああ、受け応え、認識能力共に問題無し。思ったよりも退院早くなるかもな? というか、入院中に話しても問題無さそうだ。あん? 精神的に見てどうか? バカ言うな専門外だぞ? 所感でいいなら言うが」
どかり、と医者が椅子に座りながら言う。
「…単なる子どもだよ、大家族の長男くんだ。
ただ、───ありふれた輝きを持っている」
一つ大きなあくびを吐きながら、彼は懐からラジオを取り出し、周波数を適当に転がしていく。
『ハラエド病院の愛人騒動、あったでしょう? あれで院全体の傾きが医療行為にも及ぶのではないかと不安の声もありましてねぇ』『続いてのニュースです。過日の六区大火災における「進化者」による救助・消火活動について、特異対策局は』『朝からフレッシュ!ビーンズ・バーガー!』『昨夜、地下の方から異音がするとの通報が』
医者はそれを音楽がわりに聞きながら、言った。
「ま、先ずは『特別扱い』と『平穏』慣れからだな」
もしかしたらあと一話(ハイバラァ!の行方)挟んでから3章かも? 本編に入れるか少し悩み中。
次の章は平和かもしれない
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