敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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異例話-かくて灰被りは壇上へ上がった

 

 ───目が覚めたら、豪奢な天井があった。

 

「…は?」

 

 次に、体を巡る激痛。思わず顔を顰めるが、そこでオレは自分の肉体と感覚がまだある事を理解する。

 …そんで少しだけ思い出した。

 最後に見た、救助隊らしき奴らが狼狽える様と、オレを取り押さえる時の必死な顔。

 …なるほど、想定外。まさか命を拾うとは。

 儲けものだと思う。わざわざ好き好んで死に行くバカのつもりはねェけど、生きていたのは予想外の幸運だ。

 

「……しっかし…何処だぁ、ここ?」

 

 どう見ても病院とは程遠い風景だが、ともかく脳のリハビリ、自身の名前と歳を思い出す。

 名前はハイバラ、年は…18か19?いや20か?まぁ3つのうちのどれかだろう。

 とにかく、自己認識に支障はない。

 

 辺りを見渡す。病院とは程遠い部屋。辺りは外国の美術形式が使われた調度品。壁と床はそれに相応しい拵えがされている…今オレが座ってる寝台にしたってそうだ。

 明らかにそこらのものとは質が違うベッド、ここが金持ちの家か何かだというのは、想像に難くなかった。

 

 再度、周りを見る。

 時刻は恐らく深夜だろうか。

 大窓からは肥えた月、紺碧色の空がある。

 気遣いなのか、そうしないと眠れない奴が家主なのか、部屋の中はオレンジ色の間接照明がついていた。

 

 部屋の端には飴色のロッキングチェアと、その上に毛布の塊みたいなものが鎮座している。

 寝台の側には小机が一つ、その上には日記らしきもの。オレは先ず日記らしきものを手に取る。

 

 手掛かりを求めて、適当なページを開いた。

 

 ─『本日の経過。彼の治癒力は異様に高いものでした。捲れ上がる寸前だった皮膚は、一晩で元に戻っていると同時に、赤い葉のようなものが消失しました。

 何らかの能力が付与されていたのか、それとも彼自身が皆さんの言うように進化者だったのか…とにかく、危険域から脱して本当に良かった』─

 

 秒で閉じて小机に叩きつけるように置いた。

 

「…くっっっだらねェ」

 

 本当に良かったじゃねェんだわ。

 この日記の持ち手はオレの素性や、しでかしたことを知ってもそう言えんのだろうか?

 などと我ながら、らしくもないことを考える。

 アホらしい、そんなセンチメンタルなやつだったか?

 オレは命を拾った、それで充分なはずだろう。

 

 …まぁ、こんなクソ野郎が生き延びたんだ。

 スラムの奴らも恐らくは無事だろう。

 ちゃんとした兄貴が帰って来たんだし、だってのに誰か一人でも助かりませんでしたじゃ承知しねェ。

 

「……あん?」

 

 ごそごそと、何かが動く音がする。

 オレは咄嗟に音のする方を見た。視線は、部屋の端にある飴色の椅子に向けられる。

 ロッキングチェアに置かれていた毛布の塊、それがうごうごと不気味に蠢き出していた。

 ついで、毛布の塊から声がする。

 

「お、おはようございます!」

「うぉおおおおおおシャベッタアァアアア!?!?」 

 

 なんっだ、この怪物モサモサ毛布!?

 オレは驚きの余り、ベッドの上で飛び退全身が内側からクッソ痛い!? びっくりしたり激痛が走ったり脳が忙しいなクソッタレ!! 不貞寝してェよクソっ!

 

 そう思っていると、ばさりと毛布の塊が落ちる。

 温かな布から、一人の少女が現れた。

 純粋そうな顔立ちの少女。長い黒髪。襟付きシャツに、青い石のループタイ、そして黒一色のスカートからは、今にも折れそうな程細い足がタイツに覆われている。

 彼女は意識を取り戻したオレにズイズイと迫りながら、矢継ぎ早に提案する。

 

「意識が戻って本当に良かったです…! お体に痛いところや、何かおかしな所はありませんか?

 あっ、お腹空いてませんか?

 お粥でしたら時間はかかりますけど、用意できます!

 お体に不快感はありませんか? 体を拭くくらいなら大丈夫だと思いますけど…」

「待てェ!ちょっと待てェ!! 善意に溺れる!」

「あうっ」

 

 迫る額を指で抑える。何だよこいつ!?

 ソウのやつといい、どうしてこう、オレの周りは初対面なのにグイグイくる奴ばっかなのだろうか。

 正直言って、やりにくいことこの上ない。

 

「……名前と経緯、何が何だかわからねェ…」

「あ…す、すみません…」

 

 指摘された少女は、意気消沈する。

 そして申し訳なさそうに眉を八の字にして、とさりとベッドの上に膝を下ろした。

 警戒心のカケラもねェのかこのバカ。

 オレは距離を取るように座る位置をずらす。

 そして少女は、控えめに自分の名前を言う。さっきまでとは打って変わった態度だ。

 

「…えっと、私はシャラと申します。この屋敷の管理のようなことをしているんです」

「屋敷の管理ねェ、一人でか?」

 

 幾ら何でも怪しいが過ぎる。

 見たところ、年齢はオレほどじゃない。見積もってもせいぜい16歳辺りだろうか。

 18以下でもこの国じゃ職によっては働ける。

 にしたって家屋の管理は聞いたことがない。せいぜい働けても、喫茶店とかストア店員が限界だ。

 

「あ、ええと…たまに来てくれる使用人さんと一緒にやってます…流石にこの広さは、一人だと難しく…」

「…だってのにわざわざ怪我人を運び込んだワケだ」

「うぐっ」

「ちゃんと言え。オマエには命を救われたし、そもそも今更何があっても人様に手ェ出す気はねェよ」

 

 

 

 

    ◆

 

 

 

 

 その後、シャラから経緯を教わった。

 

 ここは六区のとある屋敷であるらしい。

 規模も広さもそれなりであり、異国の美術形式一色のこれは、ハラエド病院の院長が趣味として購入し、腐らせていたもの。

 本来なら住人は管理者、つまり「使用人」のみ。

 だが、今となってはその院長が「邪魔だから」と庶子(シャラ)を住まわせ、世間から隠している。

 …それが親心だと思いたかったんだがなぁ。

 シャラの体の細さやら、その後のことやらから見るに、その線は消えたと見るしかない。

 

 オレは本来ならハラエド病院で治療される筈だったらしい。先の火災で重傷を負って、素性を把握された上で被災地の近隣にあった病院に輸送された。

 治療の許可は降りていた。

 だから、その判断に問題は無かった。

 

 当然、ことはそう上手く運ばない。

 ある者は治療を渋った。

 それが許可された行いだとしても、完治した後にそのハイバラが暴れることを恐れた。

 ある者は『助けられなかった』ことにしようとした。

 治療した場合、それが明るみに出た時のバッシングを恐れたからであり、死んだ方がダメージも少なく、あわよくば美談にできると考えを巡らせた。

 …それが「使用人」とやらの情報らしい。

 

 結果として院長の指示によって、オレはシャラの暮らす屋敷に押し込まれた。

 周りもそれに異を唱えなかった。彼女には立場も力もない。助けられなかったら、彼女のせいにするか適当な話にすればいい。もしオレが暴れても、犠牲は少ない。

 そんな杜撰な結果だった。

 

 …うん、まぁ、色々言いたいことはある。

 だがそれよりも、ショックの方が大きい。オレは項垂れながら落胆を口にした。

 

「…はは…マジかぁ………実子にこんな仕打ちをする奴に昔は憧れて頑張ってたとか信じたくねェなー!」

「…父を、ご存じなんですか?」

「…こんなでも元医学生でな、ハラエド先生は著書を揃えるぐらいには尊敬してる…いやしてた…、そんだけ」

 

 スラムの火災で先達に誓いを立てた後にこれだよ。

 ある意味、報いと言えば報いかも知れねェけど。

 

 …昔憧れていた医者が愛人こさえてガキ出来て、更に加えてそいつを冷遇しているクソ野郎だと判明した。

 そんでもってオレはそいつ、シャラに救われた。

 捨てた夢の原点の一つが音を立てて崩れて行くのを感じる。はっきり言ってなんかもう最悪だった。

 いくら諦めた夢でも死体撃ちは酷くねェかな?

 もう息してない死体をミキサーにかけられてんだけど、死体を死なせるみたいな所業だよクソ。

 

「……………あぁー…クソ鬱」

「その、…ご、ごめんなさい…!」

「あ?」

「わ、私のせいですよね…! 私がいなかったら、あの人に幻滅とか、しなかったはずで…!」

 

 シャラが、必死な顔で謝罪する。

 体は寒さに当てられたように震えて、顔色は真っ青で、瞳孔は開いたままだった。

 トラウマを刺激されたような反応だ。喉から戸惑いながらも、ごめんなさいとはっきり口にする。

 自身の存在は謝罪しなければならないものだ。

 そんな思考が染みついたような一連の動作。

 

 

 あぁ、もう決定的にダメだ。終わりだ。

 細かい経緯なんざ他所様の家庭事情だし、知る筈も由もねェけど、ガキにこんなことさせた時点で『合格』だ。

 こいつの親は、オレと同じクソ野郎だ。

 

 

 ため息を一つ吐くと、シャラが震えた。

 …それだけで、どんな扱いをされたのか想像に難くない。世間にバレたくもないし、愛したくもないし、膝を揃えて話すのも面倒だから『生かす』だけ。

 余計な意思は芽生える前に『折った』のだろう。

 だからその謝罪は見当違いも甚だしい。オマエの謝罪はいらない、オマエのそれは意味がない。

 だってそこに非がないんだから、成立のしようがない。

 

「オマエが謝ってどうにかなる問題じゃねェだろうが。つーかその態度だと、オレは命の恩人サマを罵倒しなきゃならねェことになんだけど?」

「……恩人なんかじゃ、ないです」

 

 ベッドの上で座ったまま、シャラは自分の膝に置いていた自分の手を握りしめる。

 何というか、そこで「やっとか」と思った。

 やっとコイツと会えた気がした。奇妙な実感だけど、とにかくここで初めてシャラと話せた気がした。

 

「助けたのは……単なる意趣返しです。

 私は、あの人が不都合だと救わなかった誰かを救ってやりましたと、そんな顔をしたいだけ。

 …そんな大それたものでもないかも知れません」

 

 幻滅しましたか、などとシャラは宣う。

 …誰がそこまで晒せっつったよ。

 

「バカか、バカなのかオマエ」

「いたっ!?」

 

 額を指で軽く弾いてオレは返す。

 この女はバカだ。大バカだ。そんな事をわざわざ口にする必要なんてねェのに、正直に打ち明けた。

 そも、オレは命を救われた側だって前提がある。

 だってのに、それを忘れて「何という偽善者だ」と非難するカスに成り下がるつもりは無い。

 というか、そんな資格も無い。俺はそれすら下回る小悪党なんだし。

 

 この女は自分のことを罪人だと思っている。

 だから後ろめたさ、罪悪感に際限がない。何も悪いことなんてしてねェのに、ただ生まれただけなのに。

 オレはそれが何故か、どうにも気に入らない。

 

 だからオレはオマエに言うんだ。

 分かってる。初対面だし、オレは悪人だ。ここまで入れ込んで良い理由はないし、こんな言葉を吐く資格も無い。

 何を言っても空虚極まった世迷言でしか無い。

 分かっていても、止まらなかった。

 

「本当のクソ野郎は、そんな顔しねェ」

 

 月明かりが目にうるせェ。

 暗闇に慣れた目と合わされば、澄んだ悲痛を宿した青い目が、オレを見ていると理解する。

 オレは似合わねェ、と心から思う。

 

「クソ野郎になりたかったら、そのバカ正直な告解も罪悪感も捨てて、ヘラヘラ騙し続けて信頼を掠め取るぐらいの事はしやがれ。少なくとも、オレはそうした。

 けどそうしなかったのがオマエだ。

 理由がどうあれ、知らなかったとしても、こんなカスの命を捨てなかったし、その時点でオマエはクソ野郎としてド落第なんだよ」

 

 その青い目が、今にも壊れそうなのが癪に障る。似たような目に付き纏われたからかもしれない。あのクソガキは、ちゃんと兄貴と笑えてるだろうか。今はそれを柄にもなく祈ってる。

 そして同時に、似たような目と向き合って思う。碧と青、似たような色をしているが結局は同じだ。その目はきっと、馬鹿馬鹿しい程の笑顔でいるべきだと。

 

「幻滅する理由も否定する理由もねェ。

 オマエの善行をオマエが否定するな。誰が何を言おうが喚こうが、オマエは命を救うって凄ェことをやったんだ!

 だからオレみたいなクズが気休めでも言ってやる!

 オレはオマエに命を救われてる!だからオマエがいて、存在して、生きてて良かったって言ってやる!!」

 

 そう言い切った。途中から頭に熱が上がって、言葉もうまくまとまらなかったが、それでも言った。

 何でここまで必死になってんだか。

 我ながら虫唾の走る行いだ。幾ら何でも都合が良すぎる。今更誰かのために、なんてことをすれば白の中に戻れるとでも心の何処かで思ってんのか? 気持ち悪ぃ。

 

 そう、自嘲していたところだった。

 ドン、と腹に重たい衝撃が走って、不意打ちに踏ん張ることも出来ずオレは仰向けに倒れる。

 

「オイッ!?何しやが…っなんで泣く!?」

 

 腹元にしがみつくシャラがいる。

 こいつがいきなり飛び込んで来て、オレは倒れ込む羽目になったから、抗議しようとした。

 けど出来なかった、泣いていたから。

 青い目から、ポロポロと涙を溢しまくって。

 

「すい、まっ、せん…どう、してっ…!

 かなしく、ないのに…!!」

 

 感情の決壊を、初めて見たと思う。

 シャラは転んだガキのように、大声で泣いて、泣きまくって───そこから先は、覚えていない。

 そこが目覚めたばかりのオレの限界だったから。腹にぶつかられて痛ェし、瞼も重い。

 泣き止ませないといけないのに、寝落ちした。

 

 

 

 

    ◆

 

 

 

 ───そして朝、オレは昨日の選択を後悔した。

 

 いや、別にシャラに言ったことを後悔してるワケじゃねェ。寝落ちしたことをひたすらに後悔している。

 朝起きたら「使用人」らしき、スーツ着た女がベッドで寝てるオレとシャラを見てたんだから。

 

 そこから先はもう酷かった。最悪だった。

 使用人の第一声が〝退廃的ワンナイトだー!!〟な時点でもうコイツを殺してェことこの上なかった。

 

 髪の赤い「使用人」は大爆笑。

 しかも、それで起きたシャラに向かって有る事無い事吹き込みやがり、パニクってるのを更に大爆笑してご機嫌な有様だ。生きた悪魔か何かかコイツ。

 オレは寝起き早々、シャラに「昨夜は何も無かった」と懇切丁寧に確認する羽目になっていた。クソッ顔真っ赤で呆然としたままだ、話聞いてんのかコイツ!?

 

「いいかシャラ!? 昨夜は何も無かった! ズタボロなオレが、オマエに手ェだせるワケねェだろうが!! そもそも命の恩人に手ェ出すほど終わっちゃいねェ!!」

「ぁぅ…ぁぅぅ…ッ!」

ですがシャラさんと同衾したのは事実では?

ふざけんな頭ん中どうなってんだこのクソアマ!? 何処ぞのワンナイト野郎みてェにヤるワケねェだろ!? ただ同じベッドで寝ただけだろォが!! こいつは泣き疲れて寝ただけだし、誓って手は出してねェ!!

「泣き疲れるほど抱き潰したんです?」

「オーケェ分かった今すぐブチ殺ォス!!」

「ぁぅ…ぁぅ…!」

 

 そんな喧騒の中だった。

 朝から事態を引っ掻き回した「使用人」からの言葉は。

 そいつは、悪魔と契約するかのように言う。

 オレの捨てた名前を、あっさりと告げながら。

 

「ま、とにかく…初めまして?

 『元』ラメント構成員トリイオオジ・ハイバラさん」

 

 そして一転して、憂いを帯びた目で言った。

 

「貴方、彼女の番犬になるつもりはありません?

 ワンチャンありますよ? わんちゃんだけに」

 

 

 





Tips:シャラ…ハラエド病院院長とその愛人の間に出来た庶子。現在16歳であり、父に存在が認知されたのは10歳の頃。それ以降の6年は屋敷の中で過ごす。以前も以後もあまり幸福では無かった。未就学児だが、知識は高校3年レベル。16歳/142cm/36kg

Tips:ハイバラ…一般家庭出身。元医学生だったが、進化者であることが露呈した為に失踪。以降は各組織を転々とし、最終的にラメントに落ち着いた。第四スラム火災後には「屋敷」で治療を受け、一命を取り留める。医学生時代の成績は優秀だった。18~9歳/172cm/58kg

Tips:「使用人」…「屋敷」の管理を任されていた雇われの女性。シャラには食料や教科書を渡していた。髪と目の色は赤であり、スーツをいつも身につけている。「使用人」と呼ばれているのは彼女がシャラにそう呼ぶように言った為。27歳/173cm/56kg

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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