敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
一番見られたくない人に、
ハイテンションで奇行してる所を見られた。
俺は今絶賛うじうじタイムだ。
シーツにくるまってる姿は芋虫に見えるだろう。何も見たくないし受け止めたくない。俺は白い布地の中で目を閉じますどうか暴かないでくださいさようなら。
もう会うことはないでしょう撤収してください。
あっやめてください、優しくしないでぇ!
シーツ越しに頭を撫でないでぇ!?
うごごご、と唸り声すらあげてしまう。ホラー作品で呻く悪霊の気持ちが今はわかる。未練というか後悔って振り切ると喉から鳴き声しか出なくなるんだねちくしょう…。
「…ころしてくれ…いきてられねぇ…」と呻くと、アマネから優しい声で言われる。
「大丈夫だよ、ブラス。出ておいでよ、別にさっきので引いたりしないって!!ボクだってハイなときは色々やらかし…たり…とか…だれかころしてください…」
アマネが俺の横で死んだ。澱んだ空気を纏いながらシーツにくるまってベッドに落ちる。彼女の言葉が流れ弾って俺も死んだ。嫌だけど嫌じゃない事件でしたね…。
そんなこんなでベッドの上でシーツに丸まった死体二つ出来上がってしまったのである。
それを見ていたクロカゲさんはやや引いた声色で言いつつ、俺達を包む布を引っぺがして蘇生する。
「二人とも揃って自己嫌悪で心中しないでください。どんなところでお揃いにしてるんですか、大文豪だってもう少しマシな理由で死にますよ。絵面は面白いですけど」
「おいやめろ何か色々と敵に回しそうだ!!」
発言がかなり際どいなこの人!?
バイクの件といいクソ度胸すぎねぇかなぁ!?
「偉人に口はねぇんですよ、ぺっ」
「クロカゲさん一回話題変えましょう!!」
アマネも冷や汗混じりで話題を止めた。
言葉のチキンレースとか峠攻めとかそのうちやりそうだったから、かなりホッとしている…いや違うな、これ俺を揶揄って遊んでるだけだな!?
だって本人がケラケラ笑っていやがる!
…彼なりに緊張をほぐしてくれたのだろうか、そんなことを思いつつ、俺は改めてベッドに座り直す。
アマネも改めてベッドの側に立った…まだハイネックのインナーを着ているようだ。
「…二人とも何だってこんな時間に?」
「キミが色々話し合いとか終わったって、クサビ主任から聞いて。あと、今日の午後からちょっと長めの連休だから、そのまま来ちゃった」
「短期間で動き過ぎたのでその分お休みだそうです。私も密偵明けということでお休みをいただきました」
クロカゲさんが言うには、先の火災の事後処理がようやく終わりを迎えつつあるらしい。
彼にとって今回が一番しんどかったようだ。
鎮火や救助活動での進化者の協力。
これが幸か不幸か広まっていて、総合病院・隔離場襲撃の事件があったことも重なり、世間は大騒ぎ。
やれ危険だ、いやしかし、と議論沸騰。
湧いて出た自称専門家やミーハーな奴等が何よりも面倒だと、苦い顔で愚痴をこぼしていた。
その事もあり、上層部は奔走中。
時折専用の会議室から「ざまぁみろ自称市民の味方ども」だの「大物ほどクズ化するこの世のバグ」だの割とスレッスレの言葉が聞こえてくるとのことだった。
…サブとメインクエ幾つかが頭をよぎる。
進化者と非能力者の対立。
これは確かに存在している事だし、その解決というか緩和のために色々なことがされている。
ただ、やっぱりどっちにもクソ野郎はいる。
後ろ暗い大物は進化者をヒットマンとして雇ったりもしていた。対立構造を煽って金を動かそうとするカスも存在していた。もちろん揃って捕縛対象だ。
そんな奴に限って中々捕まらないし、尻尾も出してくれないとは局長の作中での愚痴だった…これ知った時「ズブズブじゃねぇかこの世界」と思ったのはここだけの話。
捕縛できた時の喜びはひとしおだったけど。
「まぁ、やることはまだ変わらなそうです。
街と人の安全のために、特異的事例に対処する」
クロカゲさんのそれが結論ではある。
ともかくとして、局内の進化者の扱いは変わらない。あくまで「街と人のため」に捕縛と隔離を続けている。
…それが気に入らない人もいるらしいけど。
話題が話題なだけに、空気が重苦しくなる。
「…そ、そう言えばさ!
キミ、退院した後はどうなるの!?」
そんな空気を変えるようにアマネが言った。
正直ありがたい。ハイテンションから死体まで落とされた身としては、重たい話題は遠慮したかったのだ。
俺は午前中に受けた「取引」を思い出す。
「向こうが斡旋した一軒家で待機。外出時は素行とか見られるって。アルバイトも日雇いなら許可出た。内職以外もやれそうだし、色々探してみよっかなって」
「…生活資金出ますよね…?」
「いや、なんか申し訳ないじゃん…」
「キミさぁ…」
ドン引きの目で二人から見られる。
午前中もクリフ副局長からも同じ目で見られた。アルバイトしたいんですけど大丈夫ですかねって言ったらドン引きされたのである。
揃いも揃って心外ですよこの野郎。
別にワーカホリックってわけじゃないし…申し訳なさを感じるのも本当だが、それだけが理由じゃないし…。
「いいだろ欲しいのあるんだから、別に働かないと落ち着かないとかじゃないし…」
「えええええ!?あなたに!?欲しいもの!?」
「キミ物欲とかあったんだ…!」
「俺どんな目で見られてんの!?」
◆
「で、その欲しいものとは?
純粋に気になるんですよ、自分を過払いする人の物欲」
「なんだそのウィットに富んだ物言い」
「いやでもアマネさんも気になりますよね?」
「……正直!」
ボクの返答に「いぃ!?」とブラスが目を丸くする。
その反応がちょっとおかしくて、同時に少しほっとしてしまって、ボクは静かに笑っていた。
故郷だった場所を焼かれて、本当に死ぬかもしれない程追い詰められて、日が経つにつれて思い詰めてたりしてないか、それが不安だったから。
でも、彼の個人的な欲しいものが気になるのは本当だ。それはクロカゲさんも同じこと。
この人とはまだ知り合って日が浅いけど、ブラスっていう共通の話題があったから、仲良くなるのに時間はかからなかった。
「…いや、ちょっと…言いにくいというか…」
「ああ、年相応ですね…すいません」
「オイ分かってて言ってんだろ」
「失敬。あなたとお喋り出来るのが嬉しくてかなり調子に乗っています。いや、本当に生きていて良かったですよ」
「刺されそうこと言うなあんた…」
ブラスもかなり彼に心を許してるのだろう。
ボクより気安い感じで接してるなぁとか、面白くないなとか、少しだけ思ってしまう。これはあまりにも、あんまりな感情だから決してキミには言わないけれど。
…男同士の仲というやつだから、仕方ない。
性別特有の関係にだけは、きっと踏み込めない。
向こうがボクらの関係に踏み込めないように。
そんなどろりとした思考のボク。
自己嫌悪には事欠かないメンタルだと、少し反省している時と同じタイミングだったかな。
「さて、私はそろそろ退散しますか」
クロカゲさんは、そんな事を言った。
「もう行くのか、なんか用事?」
「まぁそれもありますが…安否が分かってたらお喋りは、いつでも出来ることですし。
ほら、今だから話したいこととか、あるでしょう?」
「〜〜〜〜ッ! あん、ったなぁ!?」
「───ッ!?」
彼はボクとブラスを見て、にんまりと笑う。
笑顔の感じが「あらやだ、うふふ」みたいで、こう、おばちゃんみたいで明らかにボクらの関係に気遣っていて、同時に「おもしろ!」と思っているやつだった。
二人して顔を赤くして俯いてしまう。
ブラスの方はつい声を荒げたけど、結局はか細い声で「…ありがと」って言った。
…少しかわいいと思ってしまう。
「いえいえー!私には何のことやらですんでー!」
あからさまな態度で即退散するクロカゲさん。間も無く廊下の方から「盗み聞きは感心しませんよこの野郎」と聞こえてきて、続けて「げぇーっ! 密偵野郎!?」とレオネさんの声が聞こえてきた。
…ボクもお礼をしっかり言わないとだ。
というか、何やってるんですか先輩…! でも駄目だ、あの人なら真顔で「見たかったから来た、反省はしてる」とか絶対言うよ…!
そんな事を考えて、少しげんなりするボク。そこに空気を変えようとか、ブラスが声をかけてくれた。
「…あんたには言っとくべきかな」
「キミの欲しいものってやつ?」
ん、と小さくブラスが頷く。
思えば、入院中からプラスは少し変わった。
何というか、捨て鉢みたいな感じというか、少し荒れた感じの口調がどことなく丸くなったような気がする。
変わったというより、戻ったのかもしれない。
多分、本当なのはこっちの方。素の彼はきっとこんな感じなのだろう。それを見られるのがかなり嬉しい。
ボクは空いている椅子を引っ張る。
彼の座るベッドの側に座って、彼の話をしっかり聞けるようにした。
ブラスは何度か僕の喉元を見る。彼のくれた刺青がある場所。本当なら声すら発せないはずなのに、今もこうして喋れるのは、この刺青によるものが大きい。
隠しているのは、単に人目を引くから。
…次第に消える、とは言われたけれど、消える気配が今も無いのが恐ろしい、ボクの喉の損傷は大きいのだろう。
そんな風に考えていた。
「あんたの喉、まだ治ってないだろ? …ハイネックしか服選べないと不便だろうし、その、まぁなんだ。喉元隠せるアクセとか贈ろうかなって…チョーカーだけ、ど…」
だから、その言葉は不意打ちにも程があった。
「…〜〜〜っ!?」
心臓が一気に加速する。痛いくらいに熱い。無自覚でやっているとしたら、恐ろしいにも程がある。
だって、そのチョイスは意味が付き纏うものだ。個人的に買うならまだしも、贈り物にするなら、どうしたってそれからは逃れようがない。
こんなの、意識するなって方が無理だ。他ならぬ発言者が、顔を真っ赤にして顔を逸らせばなおのこと。
「……悪い、手ぇ握っていい?」
勘弁してよ…! 追撃しないでよ!! 今でも抱きつきたい衝動を我慢してるのに、上擦った声で甘えられたら本当に頭がどうにかなってしまう。
「ぅぁ、…うん……!」
辛うじて返事をして、ぎゅうと彼の手を握り締める。
少し骨ばって、かたくて、カサついて、傷跡もある、ちゃんとした男の子の手。
…自分の体温が上がっているのを感じる。
それはブラスがボクの手を握っているせいなのか、それともボクの手を握る彼の手が熱いからなのか。
どちらにしても、お互いに真っ赤だった。
「……ごめん。少し、うそ、混ぜた」
その中で、か細い声が言う。
「…責任を取れそうになったから、改めてって思ってたんだけどな…もう、責任とか負い目とかじゃなくてさ、かなり個人的な感情にどっぷりになっちまって」
どくん、と心臓が一際強く跳ねる。
出会いはお酒の場から。お互いに色々ボロボロで、気づけば一夜の過ちを犯してしまって、複雑な立ち位置から始まった関係。
でも、ボクはブラスを好きになってしまった。
キミを支えられたら、キミのためなら何も惜しくないと思う程に堕ち切ってしまった。
「…大事な奴ら守ってくれて、命救われて、欲しかった言葉までもらって、恩がいっぱいあるけど───それとはもう別なんだよ」
ぐい、とブラスがボクの手を引く。
体のバランスを崩したボクは、寝台に座る彼の胸元めがけて転んだ。ひどく熱い体温を浴びる。
自分の体も、きっと同じくらい熱い。
とか、思ってる場合じゃなかった。
「この関係に、言葉をつけたい」
キミの言葉に、ボクは溶かし殺される。
「あんたに離れて欲しくないから」
一言一言が、ボクの頭を多幸感でぐずぐずにして、この現実を夢なんじゃないかって疑う理性すら殺していく。
「だからチョーカーを贈るつもりだし、その時、あんたへの色々を改めて言葉にしたいって言ったら、幾ら何でも余裕無さすぎだし、責任が必要だって手前なのにアレだし、つーか気持ち悪ぃかな…?」
彼の胸に顔を埋めたままだ。
それでもぶんぶんと思い切り首を横に振る。
こんなのひどい、あんまりだ。
ここまで言ったくせに、肝心の言葉はもらえない。
あんまりにも、あんまりな「おあずけ」だ。
それが貰えるのは、キミから贈り物を貰う時だけ。
今の言葉はただの照準合わせ、事前予告でしかなくて、ボクはこれから生殺しになることが確定した。
もっと酷いのは、ボクはこれを苦と思いつつも、喜びを大きく感じていること。
我ながらちょろすぎる。キミがボクを求めている。ボクと離れたくないと言ってくれている。その事実だけで、ボクの心臓も脳も心も何もかも、簡単に幸せと想ってしまう…まだ先が控えてるというのに。
「…ドS」
「返す言葉もございません…」
「焦らし屋」
「うぐごっ」
「……ひどいなぁ、ひどいよ」
ボクは顔を上げた。狼狽えるブラスの青と白が混ざったような、青褪めた瞳がそこにある。
キミがボクへの言葉を先送りにしたのだから、ボクはキミへの行動を前借りすることにしよう。
「───んっ」
彼の唇に口付けをした。柔らかくて熱くて、でも一回だけじゃ足りない脳の痺れ。
あーあ、もっと沢山したいのに。
それもこれも、お預けにしてきたキミのせいだと内心で文句を言ってやる。
「…………はい?」
間の抜けた声を出す彼。
ボクは悪戯っぽく笑ってやった。
そして自分の人差し指で、彼の唇を「しーっ」としてやり、開けないようにしてやる。
顔が熱いし、心臓バクバクうるさいし、頭はぎゅーっとするけど、ボクはそのまま捲し立てるように言う。
「…チョーカーを選ぶ時はボクと一緒に行くこと。じゃなきゃ絶対に嫌だ。一緒にご飯食べて、好きなものとか見て、楽しむこと!」
今だけは、彼に主導権なんて握らせてやらない。少しだけ、わがままなボクを許して欲しい。
そう思いながらブラスの唇から僕の人差し指を離す。
「約束、して」
「………ありがとう」
優しいキミが、くしゃっと笑う。安心し切ったみたいなその顔が、あんまりにも愛おしくて、やっぱりボクの心臓はどくんと跳ねてしまう。どうもボクの心臓は、すっかりキミに握られてしまっているらしい。
ボクはそう思って、彼から言葉と輪をもらえる未来を待ち焦がれることを受け入れた。
流れる時間が短いとしても、それでも体感的にはきっと何よりも長い時間を過ごすことになるだろう。
短め番外編
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