敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
被災者用施設。いくつかの『仮設住宅』から成立する『避難街』である此処は、複数の建築系大学の建築のモデルテストも兼ねている。
そのため、下手なプレハブ小屋より上等な家々が立ち並ぶ。ただ、やはり被災時用のものであるが故、その全ては往々にして無機質で機能的だ。裕福さとは程遠い。
コンクリートブロックを積み上げたような住宅。
四角が連なるそれは、手早く作り上げることを目的としたのだろうか。せめてもの遊び心としてか、ほんの少し現代アート的な姿だった。
そこに住まうのは、ブラス・リッターの部下であった8人の子ども達と幾らかの元スラム住民。
大人達は出払っているのか、リビングに該当する部屋には子ども達しかいなかった。
彼らは思い思いのことをしている。
単にのんびり日差しを浴びたり、様々な本を読んだり、ここぞとばかりに勉学に勤しんだりと色々だ。
心地よい沈黙、穏やかな静謐。
その中で、赤髪の少女、アイシャが神妙に言った。
「───ブラスの兄ィが、アマネに取られっぱなしです」
そしてズビシィ!と、チラシやコピーミスした紙、古ぼけた教科書と向き合っている二人の少年へ、指を突きつけながら言う。
「良いのか!このままで良いのか!!
特にそこの二人の男児ども!」
「うるさいヨ、ゴリラ・女児・ゴリラ」
「ごがるあああああああっ!!」
「ッギャアアアアア!?」
艶やかな長髪の少年───ハルキに、ゴリラ呼ばわりされたアイシャは、ものの数秒で飛びかかった。
馬乗りで髪をもみくちゃにされながらも、何とか脱出しようとハルキはもがいている。
その様が見えていないらしい、茶髪に青い目を持つ少年ことジャックは、悩むように顎へ手をやりながら唸った。
「僕は別にあの人が幸せなら…それで」
「そーそー、女っ気なさ過ぎたし丁度よくなイ?」
「かーっ!これだから激重共は!!かーっ!」
「別に良いじゃン、今まで付きっきりだったんだしサ」
「…あの人は、もっと自分のことで沢山笑わないと」
ハルキとジャックの言葉に、アイシャは床をゴロゴロと転がって大声で騒ぎ立て始める。
「わーかーってーるーけーどー!!」
「勉強教えてくれる日には会えるわけだし…別にずっと会えないわけじゃないでしょ?」
「でーもーさーびーしーいー!!!」
そこは否定できないのか、ジャックもハルキも黙った。
それが子ども達の総意ではあった。
確かに恩師、兄代わり、家族…彼等にとってブラスの立ち位置は個々人によるが、ともかくとして彼の幸福は嬉しいものであり、それは変わらないものだ。
が、それはそれとして寂しい。
火災の一件から数日が経過した。ブラスも今や退院して、日雇いのアルバイトや対策局への協力や話し合いが続いている。今この場に大人がいないのもその一環だ。
いつまでも施設を使い続けるわけにもいかない。使用者の『内約』としても、今後という視点で見ても。
その影響で、子ども達は以前のようにブラスと毎日会えなくなった。そもそも最近はアマネや家族らに時間を割くこともあって、関わる時間は明確に減った。
もちろん、そこに不平等さはないと理解している。
が、なんと言ったってやはり寂しいものは寂しい。
なので『取られた』と思っても不思議ではない。
「あんたもそう思うだろソウくんよぉ!!」
「いっ!? 俺!?」
そんな半ば八つ当たりじみた感情を、最も強く発露させていたのはアイシャであった。
その矛先は無差別に向けられている。
今回不幸にも選ばれたのは元々スラムの住民であり、ブラスとハイバラの両方を兄のように慕っていた金髪碧眼の幼い少年、ソウである。
「いや、取られるっていうか…俺は二年会えなかったから、顔を無事に見れただけで嬉しいっていうか」
「あたしは薄汚れている…ッ!」
「メンタルの起伏激しっ」
一転して落ち込むように床へめり込む少女。
ソウはそれを目の当たりにして少し引いた。
しかし、それも一瞬のこと。彼は間を待たず、流れるように憂うような顔になる。
「…兄貴が無事なのは本当に良かったけど、皆が知り合った経緯とかは教えてくれないんだよな。
そこが寂しいのは、うん、すげぇ寂しい」
「刮目しなゴリラ、これが出来た弟ダ」
「やめろぉ!これ以上惨めにすんじゃねぇ!」
うごおおおおおお!! とゲームのボスキャラさながらの断末魔を上げながら転げ回るアイシャ。
何とも愉快な絵面ではある。彼等が本来なら、こんなことすら満足に出来ない子ども達であった過去を持っているとは夢にも思えない。
転がってどこかへ行くアイシャをよそに、ハルキはソウに気遣うように言った。
「…皆が知る権利があるようニ、あの人にも話さない権利があるからネ。ま、話したくなったら話すと思うヨ?」
「そうかなぁ? 兄貴ってなんつーか肝心なところははぐらかすっていうかさ…ハイバラのこと聞いても『今は連絡待ってくれ』ってだけだし。
会わせたかったんだけどなぁ、絶対に仲良くなれるって思ってたからさぁ…」
「あー…まぁ、うン」
残念そうに言うソウ。彼に限らず、スラムの人々は『本当の事』を知らない。
他ならぬブラスが開示を拒否しているのだ。
当然、そうともなれば認識にも差が生まれる。
ある程度の事情を知っている側からすれば、ソウの正気を疑うような発言も、子ども達は『知らないなら仕方ないな』と納得して流す。
それを見ながら、ジャックの足元まで転がってきたアイシャが囁くような声で言った。
「…言わなくていいの?」
「……あの人が言わないって言ったから」
「無事ならそれで良い、か。
なんかムカつく、いやクソムカつくー!! 兄ィの頑張りとか苦労とかちょっとは知れってのー!!」
「無茶言わないの…少し分かるけどさ」
負担をかけたくないと、
大きな差異にもならない為、彼の願った『スラム住民に事の経緯を開示しない事』は受理され、それは今もなお守られている。
…何人かは薄々と察してはいるのだろう、心苦しそうな顔が今なお拭えない者もいる。
ただ、ジャックに限らず子ども達には不満があった。
〝皆の為に体を張る人は誰に助けて貰えるのか?〟
可能であれば、叶うのであれば、自分達がそれになりたかった。助けてもらったから、助けたかった。そんな恩返しをして、優しい循環を作り上げたかった。
でも、そうはならなかった。今こうして、まともな暮らしを享受しているとなお思う。
「…届かないんだよね、あの人の所に。隣にいても高さとかが違うって思い知らされるや」
「凄い方法で引き摺り落とした人はいるけど」
「それ絶対に本人達には言っちゃダメだよ、死ぬよ」
というかあれは引き摺り落としたというか、死なば諸共みたいに二人して滑落したようなものではなかろうか。
男性としてジャックはそんな風に思う。
口にはしないまま、彼は話題を変えた。下手な擁護やら訂正でもしようものなら女性特有の怒りに触れそうだと直感したからだった。
「イェンちゃん、ヨウは?」
「ヨウは最近クロカゲさんにお熱」
「あの敬語ぶっ飛び男に!?」
「アイシャ、しつれー」
◆
午前中は諸々の話し合い。午後はアルバイト。今日の一日の予定としてはそんな所。そんでもって今は午後。
スーツを脱いで、スキニーとシャツを着る。
その上にはアルバイトの制服である、ジーンズ生地のエプロンを羽織って、手には軍手。
「ブラス、品出しお願い出来る?」
「わっかりました!」
野菜の苗木が入ったコンテナを持って走ったり、商品棚に花束を新しく追加したりする。
その他にもやる事は多い。
お菓子の消費期限のチェック。陳列の見直し。小物のラインナップの変更。植物への水やり。床の掃除に窓拭き。
鼻歌交じりにそれぞれをこなしていく。
今俺が働いているのは、日雇いアルバイトを探している時、クサビさんから「忙しいみたいだから何日か手伝ってやってくんない?」と紹介された店。
花屋「フルール」…うん、滅茶苦茶知っている店だ。親密度を上げるアイテムなどを購入出来る場所だ。
花屋なのに商品の幅が広すぎる?
ここの店主は「喜んで貰えそうだから!」で宝石すら破格の値段で取り寄せる剛の者なので…。
「待って待って待って働き過ぎだよ! 品出しだけで大丈夫だよ、アルバイト代超過しちゃうからね!?」
「…あっ、…すみません…」
青い髪のポニーテール、ピンクのメッシュ、若干幼い顔立ちが特徴的な店主に慌てて止められた。
この人、顔立ちも行動も『ザ・いい人』なのだが、フィジカルトップクラス疑惑があったりする…25リットルの培養土を10袋くらい重ねて持って走ってるシーンが根拠としてあまりにもデカ過ぎる。バケモンか?
…興味本位で「力強かったり?」と聞いたら「ガーデニングは力仕事だよ!」と笑顔で言われた。こっわ。
「すごく張り切るんだね…バイト初めて?」
「いや、欲しいものがあって…つい張り切っちゃったって言うか、まぁそんな感じです」
「そっか…恋人さんへのプレゼントとか?」
「まだ恋人じゃないです!!!」
「こえでか」
やっちまった、照れがあまりにもデカ過ぎる。つーか語るに落ち過ぎた、何だよまだって。自白剤飲んでもここまで酷くねえぞ普通。はっずかし!俺はっずかし!!
「告白はこれからなの?」
「告白っつーか、ケジメというか…まぁちゃんと言葉にするのは、これからの予定で…」
「僕も見に行っていいかな」
「いいわけねぇだろ何考えてんだ!?」
とんでもねぇこと言うなこの人、驚きで敬語が吹っ飛んだぞ今。店主はカラカラと笑って「冗談だよ」と言うけど、頷いてたら絶対に来てたという確信がある。
そんな風に思っていると、店主は「そろそろ休憩入っていいよ」と言ってきた。
俺はもう少し働きたかったけれど、体を壊しては元も子もないので、大人しくバックに下がることにする。
…うん、とても充実している。
ちゃんと真っ当に働けて、心配事も少なくて、命の危機なんてどでかい不安もなくて、安心があまりに多くて頭がふわふわしている。
浮ついていると言われたら、その通りだ。
───アルバイト、めちゃくちゃ楽しい!
俺はそんなことを思いながら、今ある安堵を精一杯噛み締めた。この先にあるであろう事とかは、ひとまず、今だけはどうか他所に置くことを許して欲しい。
今だけは、本当に嬉しくて仕方ないのだ。
そんな風に考えていると、カランカランとお客が来たことを知らせるベルが鳴った。
店の方から接客の音が始まる。
俺は朧げにしか聞こえないそれに意識を割くことなく、置いてある椅子に座って一息を入れた。
『すいませェん、このメモに書いてあるやつ用意してもらえますかねェ』
『はーい!少しお待ちください…はい、鉢植えのデザインは選べますけど、どうしますか?』
『……聞いてなかったな…取り敢えず無地で…』
『はい! プレゼントカードはご入用ですか?』
『……シャラへ、ってだけ書いといてくれ』
Tips:ブラスの冷蔵庫の中には飲むヨーグルトと豆腐しか入っていなかったりする。これは皆への申し訳とか、そんな理由ではなくて普通に節約が下手なせいである。お金を使うもの=食という図式が根強い結果がこれだよ。
短め番外編
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野郎どもの猥談