敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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夏は忙しいでございますわよ
でも頑張る、話を早く動かしたい…!



あの二人は字面が完全に事案なんだよな

 

 

 トリイオオジ・ハイバラ。

 彼の職歴は奇妙なものだと言える。学生からテロリスト、そして用心棒。テロリストを職業に含んで良いかは疑問が残るが、こうも二転三転する者も珍しいと言えよう。

 そのきっかけは、大きなものでもない。

 

 

 時間はほんの少し遡る。

 

 

 第四スラム大火災から数日後。彼が一命を取り留め、恩人である少女、シャラと同衾した後の話だ。

 六区にある屋敷の2階、シャラをリビングに座らせたまま、ハイバラと屋敷の管理人である自称『使用人』はこれからの話をしていた。

 

「あの子、凄い面倒な立場でさ」

「父親から殺さず生かさず状態の庶子以上に面倒臭ェ立場があんのかよ、アイツは不幸の坩堝か何か?」

「キレッキレ過ぎるでしょ、メスナイフの擬人化?」

「錆びてるから心配すんな。

 んで、番犬ってのはどういう意味だ」

 

 状況は少しばかり複雑だ。

 重傷だったハイバラは、同六区にあるハラエド病院に移されたが、医者の誰もが治療を渋った。

 そんな中で院長が庶子を隠している屋敷に押し込むことを決定。治療出来ずに死ねばそれでよし、暴れても被害は『軽微』で済むだろうという、そんな杜撰な対処。

 予想に反し、庶子ことシャラの治療でハイバラは生還。更に今の彼には暴れる意思もなく、ただ何も起こさず暮らしている。

 更に言えば、屋敷の管理を任されている『使用人』が、ハイバラを雇おうとしていた。

 

「まぁ本当は貴方じゃなくて、第四スラムの『お人好しくん』を頼りたかったんですけどねー★

 正直不安なところがあるし、今からでも揺さぶって来ちゃおうかな───おっと?」

 

 しかし、その空気は決して和やかではない。

 赤い髪と瞳の『使用人』は、契約相手の褪せた灰色の髪を持つ男に首を掴まれている。

 その発端が彼女の発言なのは間違いない。

 ハイバラは首を掴んだまま言った。

 

「スラムの奴等に手ェ出してみろ。どんな理由があろうが、シャラが泣き喚こうが、オレが死のうが、その瞬間にオマエの顔をコンクリ使って高速で擦りおろす」

 

 それは明確な線引きで、ハイバラという人間の変化の現れだった。以前の彼なら先ずしない行動と脅しだった。

 これは彼の本音。仮に『使用人』が冗談だと先の発言を撤回したとしても、彼は自らの言葉を取り下げることはない。

 

「ぶ、くっ、かかっ」

 

 だから、女は破顔する。

 耐えきれないと言わんばかりの笑い声は、限界を迎えた風船のように弾けた。

 

「うっひはははははは!! ばっかじゃねぇの!? ばあっかじゃねぇのぉー!? バカだバカ、すっげぇバカがここにいるよぉ!! あんたの面の皮は月刊誌の増刊号かよ、あたしのお腹が捩れちゃうでしょーがよぉ!!!」

 

 涙を滲ませながら、赤い髪を揺らして笑う。

 

「盛大に騙してたやつがすっげぇこと言ってる!! やっばいお腹痛いってぇ!詐欺師の善人面超面白ぇえ!!」

「そっちが素か? 愉快な中身してんじゃねェか」

 

 一方的な嘲笑と罵倒。

 それに反応することなく、言い返すこともなく、怒ることもなく、ハイバラは淡々としている。

 『使用人』の発言に何もおかしい事はないと、彼は心中で受け入れていたからだ。

 

「好きなだけ笑えよ。言い返す気はねェ」

「澄ました顔マジやべぇ!ああもう死んじゃう、笑い死んじゃうわこのままだと!」

 

 今だにひぃひぃと笑う『使用人』に対して「さっさと話せ」とハイバラは続きを促す。

 彼女は促されたままに話を進めた。

 けれど本題から入るのではない。彼女が先ず初めに問うたのは、この世界においての根幹だった。

 

「んじゃ一個質問、進化者研究の第一人者は?正式名称で答えよ、更にその後の事情も述べてねぇ」

「オモガネ・ミコトだろ。ソイツの自死と遺言をきっかけに、進化者研究は一時途絶。

 その後は特異対策局やらが研究を引き受けてる」

「はいせいかーい、さっすが元医学生」

 

 何だって今更そんなことを聞くのか。

 ハイバラの思考は必然的に回る。彼の頭の中に材料はあった、総合病院襲撃、組織が求めていたデータ、ハラエド病院、庶子であるシャラ、その他にもあった要素の数々。

 それは一つの推測を呼び込んだ。

 

 この与太じみた予想が、その通りだとすれば。

 

 あまりにも最悪じゃねェか、とハイバラは頬を引き攣らせる。同時に『使用人』の正気を疑った。

 そしてそれは、そのまま彼女への警戒に繋がる。

 

「オイ、まさか…」

「やーん!予想しちゃった? アナタが鋭すぎてワタシ、無いはずのモノが勃っちゃいそう☆」

「次ふざけたこと言ったらブチ殺すぞババア」

「ウェイトウェイト!? 椅子を下ろして!? あんたの能力だと椅子でも洒落にならないからね!?」

 

 男は舌打ちをしながら、木造の椅子を置いた。

 それを見てから『使用人』は語る。

 

「あんたの予想通り。ハラエドの院長と、オモガネ博士は同じ研究室にいた。まぁハラエドの奴は当時下っ端だったらしいし、大した事は知らないと思うけどねぇ。

 ともかくその研究室の『結果』は総合病院にあるとされていて、裏側の皆はそれを求めて潰し合ってた…いや、あんたなら知ってるか」

「まぁな。進化者の中の別格、アイザックの乱入で潰し合いは意味を無くした。古巣の奴等が手に入れたデータは、クソ野郎どもが喉から手が出る程欲しい『ボーナスアイテム』だった」

 

 進化者に対する、更なる強化の手掛かり。

 それを欲しがる『裏側の者』は少なくない。進化者を『使う』者達か、或いは進化者の組織そのものか。

 潰し合いになるのは当然の話。

 そんな争いの意味を、あっさりと無にしたのがアイザック・グローリー、ひいては彼が率いるラメントだった。

 彼はあっさりと目的のものを手にし、自身以外の全てを敗北者に貶めた。

 

「でも、アイザックが『勝利者』で話は終わらない。あの子が抱える事情はずっと前から変わらない。

 理不尽は誰にも解決してもらえない。

 何も頼りは総合病院だけじゃない。というか、本丸じゃなくて別口を狙う奴の方が多いかな。

 …下っ端とはいえ、関係者に愛人や庶子がいると分かった奴らの中には、そいつらが『何か』を握ってるんじゃ? そう予想する奴もいてね」

 

 当然と言えば当然の話。同じ研究をしていた者や、その関係者が目を付けられるのはおかしな話ではない。

 だから『使用人』の口から出た言葉は最悪だった。

 ハイバラは心からそう思ったのだ。

 

「だから藁にもすがるクソ野郎が、シャラを狙ってる。最近じゃどういうワケか、ラメントが地下に潜った以上、抑え込まれてた奴等も動き出し始めたし…その内、あの子スケープゴートとかにされそうでさ」

 

 当人は何も知らないけどね、と戯ける赤い瞳。

 ハイバラは息を呑んだ。同じように戯けることは出来なかった。そりゃ御愁傷サマと、簡単に笑えなかった。

 『使用人』はそんな彼に手を差し伸べる。

 

 〝ねぇ、トリイオオジ・ハイバラくん?〟

 

 そして彼女は、彼の名を呼んだ。

 まるで罪人の名を読み上げるような無機質さは、聞く者の心を支配することだろう。

 人は罪を自覚した時が最も脆いものだ。

 そこに付け込めば、意のままに操ることも難しくはないし、罪の意識自体、言葉を巧みに使えば『誤認』させることができる。

 何の謂れがなくとも『自分のせいだ』と思わせることは出来る───ある程度、善良な者が相手であれば。

 

「勝手にフルネーム呼びすんじゃねェ」

 

 ハイバラの思考は変わらない。

 ずっと前に定まったまま、ある程度察した時から変わらない。もっと言えば、シャラの存在を肯定したあの夜から。

 彼は怠そうな態度を隠さないままに言う。

 

「長々と話に乗ってやったが、要はアイツがクソ野郎に勝手に巻き込まれてるだけじゃねェか。違和感は幾つかあるが、今は追求しねェ。

 オマエが何言おうが企んでようが、やる事は変わらねェ。結局はシンプルな問題だ」

 

 狼のような褪せた灰色の髪が揺れる。

 その持ち主である彼は、獰猛に笑った。

 

「アイツが自分の足で立てりゃそれで良い。あの青い目は笑ってなきゃダメだ。どうだ、分かりやすくなっただろ」

「…なるほど、あんたの動機にワタシは蚊帳の外ってワケね。アギャハッ! やっばい死ぬほどムカつくー☆」

 

 

 それが、ほんの少しだけ前のことだった。

 

    ◆

 

 

 

 …台所に立つのは久々だ。

 

 どうもこの屋敷は、掃除の為か電気と水道は通っているらしい。ただ火はどうにもならねェので、カセットコンロだけは買い足した。ガスボンベなんざ久しぶりに使う。

 …こういう時は火炎系の能力者が羨ましい。

 

 ペーパーボウルに卵、牛乳、ホットケーキミックスを落として混ぜる。固まったら適当に形成して焼いて、ドーナツもどきの完成。

 よくあるパキッて割ってジャムとマーガリンが出るアレで食えば、多少は楽しめるだろう。

 冷めればこいつが昼飯代わりだ。ひと段落したし、一先ず、台所から退散するとしよう。

 

 

 オレこと、ハイバラは変わった。

 日常から現状に至るまで、そりゃもう色々と。

 先ず名前。捨てた筈のトリイオオジって苗字が帰ってきた。今更使わないけど、また手放すのも面倒だ。きっともう忘れないと思う。あるからなんだって話だけど。

 

 次に仕事。学生からテロリスト、そこから更に用心棒の真似事だ。我ながら二転三転しすぎな職歴だと思う。いやテロは職に含めちゃいけねェけど、その方が思考の整理がしやすい…護衛の対象は、命の恩人兼同居人。

 

 そして最後に、住処。

 オレは今、六区にあるらしい屋敷の居候だ。

 二階建ての外国の美術形式で建てられたもの。使っているのは二階の客室と一階のリビングだけ。

 

 …シャラはほぼリビングしか使ってないらしく、普段はソファで寝てると分かった時は少し引いた。

 他人に使わせるより先ず自分で使えと心の底から思う。オレの周りはこんな奴ばっかか?

 そんなことを考えながら、リビングに戻る。

 変わらずソファに腰掛けたままのシャラを見ながら、オレは思っていたことを言った。

 

「…オマエ、当て付けでオレ治したっつゥけど、自分のことは諦めてんのにオレのことは諦めなかったんだな」

「……そんなこと、ないですよ?」

「内も外もボロボロで、設備も何もねェのに治療に専念するのは諦めてねェと同義だろ」

 

 …シャラは間違っても健康児じゃない。

 16という年齢なのに身長145ほどの体。細さは欠食児童のそれに匹敵する。必要最低限の栄養だけとって、どうにか生きながらえているような状態だ。

 こんなことで昔読んだ論文を思い出したくなかった。

 

 彼女にとっての食事は、栄養が固まったブロックのみ。要は非常食しか食ってないような状態。

 使用人がかろうじて持って来れるものらしい。

 そりゃこうも細くなると思いつつ、オレは地図を見て近場に直売場がないか調べた。金は分散して隠してるから、まだ余裕はある…久々に『フルール』にでも行こうか。

 

 そんな風に、先のことを考えていた。

 でもシャラはそうじゃない。コイツは苛まれたような顔で、縋るようにオレへ手を伸ばした。

 

 濁るような目が、オレを見る。

 そんな目は腐るほど見てきた。一度裏側の世界に飛び込めば、そんな目をしたド底辺が転がっている。

 …オレはこの世のどん底を見たと思っていた。

 けど、どうやらこの世に底は無いらしい。だって、不幸なんて何処にもありふれている。

 恵まれているか、いないかでしかない。

 この女はその証明と言えるだろう。

 

 伸ばされた手を握る。

 冷たくて震えていて、骨ばっていて、少しでも力を加えたらガラス細工みたいに壊れそうだ。

 …コイツがこうなる謂れは無いはずなのに。

 そんなことを感じながら、言葉を聞く。

 

「……夜が、今日も過ぎました。

 でも今までと違って、一人の夜じゃなくて、私以外の声があって音がありました」

 

 大きな変化なのだろう。彼女の言う今までは、果たしてどれくらいの長さと苦痛だったのか。

 その時が良ければそれで良い、そんな生き方をしていたオレには想像もつかない。

 

「怖いんです…貴方は私にいてよかったと言ってくれた、生きて良いのかもって思えた。きっと幸せで良いことのはずなのに、それをくれた人に、たくさんの感謝があるはずなのに…今を拒みたくて仕方ない…」

 

 また無くなるのが怖い、彼女はそう言った。

 なら最初から失ってしまえば、そんな考えもよぎったけれど、簡単に自分から捨て去ることも出来ない。

 失いたくないけど、失ってしまいたい。

 なんてこった、この女はとことん幸せになるのに向いていないらしい。幸福な自分を描けない、損な人間だ。

 

 たまたま得ることのできた幸福が、明日には消えてしまうことを恐れている。

 凄ェな、こいつはギャンブルとかしないだろう。

 まぁ今はしおらしいこの女が、競馬場でわぎゃわぎゃ騒ぐことになったらオレはきっと大爆笑するだろうが。

 

 …今は、そんな『もしも』とかどうでもいい。

 

 どうせ拾ったなけなしの幸運(オレみたいなクソ野郎)なんだ。カラス金でもあるまいし、儲けものだと思えば良い。

 握る手を引いて、シャラを自分に倒れさす。

 そのまま抱き締めれば、ひどく脆い身体をより強く実感する。背中を優しく叩いても、それが背骨を砕いてしまわないか心配だ…だから言葉は余計に長々しい。

 

「なー、大丈夫だって。オレはクズだし、碌でもない奴らのところ転々として、クソみたいなことやって来たけど、なんか日の下で生きてるし。昨日が大丈夫なら、明日も多分大丈夫だろ」

「……信じ方がわかりません。この感情もわかりません。貴方が消えない保証が欲しいのに、それが無いと知ったら壊れてしまいそうで、会って間もないのにこんなにも執着するなんて、おかしいことなのに」

 

 …すげェ口説き文句、オマエ本当に16かよ。

 

「初めて会った貴方が、いなくなることが怖いです」

「バァカ、オマエはもっと他の幸せを知るべきだ」

 

 

 





Tips:ハイバラは学生時代、保育ボランティアに参加したことがあるが、人形劇でウサギのパペットからデスボイスを出して子ども達を泣かせた。本人はウケると思っていたので割と傷ついた。

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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