敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
他人の恋愛事情程面白い物はない。
そして酒飲みにとっては最高の肴である。
雑誌で見たそんな言葉が頭をよぎる。何故なら、ボクは今まさにその体現を目の当たりにしているからだ。
…きっかけは本当に些細なことだった。
単にブラスと一緒に買い物へ行く日が決まったから、その日にどんな服を着れば良いのかとか、気を付けるべきことは何か、そんなことをクサビ主任に聞いたのだ。
そしたら「ぃよしわかったぁ!」との太い声での二つ返事が返ってきて、更にレオネさんが「混ぜろ、じゃないと泣くぞ」と乱入して来た。
数分後にはボクの所にクサビさんが車でやってきて「あたしの家に来な!ッフーゥ!」とハイテンションなお迎え。
…どうしてそんなにもハイなのだろう?
そんな風に疑問に思いながら、ボクとレオネさんはクサビさんの家にやって来た。
揃っていたのは、酒と酒と酒。
しかもなんか達筆なラベルが貼られた瓶とか、どうにも高そうなお酒ばっか。
加えておつまみ各種もしっかり並んでいる。
ともかく、それを見てボクは「ああ、これ相談代として酒の肴にされるやつだ」と確信した。
「で、どこに行く予定なんだ?」
「4区のラズリ・ストリートです」
「なるほど、悪くないな」
レオネさんが行き先を聞いてくる。
何気ない会話のはずなのに、尋問みたいだと思ってしまうボクがいる。いや実際尋問というか、聞き出されてる感はものすごいのだけれど。目が『聞かせろ、もっと聞かせろ』と言っている。正直怖い。
時刻は夜の8時。休暇中ということもあって、二人の先輩方は早々にお酒を飲んだ。
ボクはお酒から距離を置いている。
特にそれを言及しないでくれるのはありがたい。
そう思っていると、クサビさんはピンと来てない顔でお酒を飲みながら疑問を口にする。
「ラズリかぁ最近行ってないな…何があったっけ?」
「あそこは何でも揃ってますよ。元々はアクセがメインだったから、そっちの方が多めだったか」
「ッ…!」
アクセサリーがメイン、その言葉に『チョーカーを贈る』という事前予告を思い出して一気に顔が熱くなる。
ブラスからつけてもらえたり、するのだろうか。
……苦しくても構わないからつけて欲しい、とか思っちゃったりして───!
「よぉし、尋問ポイントだフジワラァ」
「ぴぃ…」
「待って今新しくお酒開ける」
そんなことを考えていた時だ。
レオネさんがボクと肩をがっしりと組む。
彼女のぼさっとした金髪が揺れて、猫のような瞳が獰猛に光っていて「言い逃れは出来ない」と理解した。
…クサビさんはクサビさんで、新しく『皆殺し』と書かれたお酒を開けている。物騒すぎる、どんなお酒…?
「なぁんで顔赤くしたんだ? ん?」
「うえ、いや、そのあのその、これって言わないとダメなんですかね!? 叶うなら黙秘したいなぁとか!」
「あたしら 酒で 忘れる 安心」
「せめて信じさせるような言い方をして欲しかった!!」
レオネさんからの尋問に、黙秘権がないか確認した結果、クサビさんからカタコトな返答が返ってきた。
見事なまでに信用できない。
けどボクとしては、クサビさんにお酒で我と行動を忘れたことを話しているので、信用するしかないというか言外に『わかってるよね?』と言われているような!?
ああ、もう言うしかないじゃないかこんなの!!
「ブラスがボクを離したくないってチョーカー贈りたいってそれでボクらの関係にも名前をつけたいってそのためにだって言ってくれたんですそれで付けてもらえたりって考えたんですよ満足ですか!!!」
「うわー!うっわー!何それやっば!!もう勝ちじゃん!!確約みたいなもんじゃん!!!」
「おお、神よ…」
大興奮のクサビさん。
感涙して祈り出したレオネさん。
二人が揃ってお酒を呷る。
ご満悦というか、良いものを見たという感じの表情をされてひたすらに恥ずかしい。
レオネさんは興味深そうに何度も頷いてから、チョーカーというチョイスに納得した顔をする。
「チョーカーが初プレゼント…。
ああ、そうか喉元の刺青…」
「です、服選びが難しくなるだろって」
本人の欲しい物が、やっぱり誰かの為の物でもあって、少し筋金入りだなぁなんて思ったりもしたけど。
ブラスは「自分の為の買い物」をしたことがあるのかな? この際だから何か一緒に買っても良いかもしれない…なんか凄い下手なお金の使い方をしてそうだ。
そんなことを考えていると、クサビさんが目を輝かせながら聞いてくる。というより、ボクが予め話していた、聞きたいと思っていたことを話題にしてくれた感じ。
「で、当日はどんな服着る予定なの?」
当日の服の問題だ。
ボクにとっては一番大事なこと。
何を着たら喜んでくれるかなとか、浮かないかなとか、引かれないかなとか、そんな感じ。
一応決めてはあるけれど、それが問題ないかどうか見て欲しいし、良い意見があれば教えて欲しい。経験が乏しいので、どうにもこういうのはわからないんだ。
ボクはスマホを弄って、決めた服を二人に見せた。
「この服を、着たいと思ってて…」
「…やっぱりハイネック選んだか」
「ノースリーブのハイネックにカーディガン、サスペンダー付きのゆるズボンなぁ…」
レオネさんがボクのコーデを復唱する。
やっぱり、喉元の赤い葉のような刺青は隠しておきたい。別に恥ずかしいとかではないけれど、どうしても人目を引いてしまう。変なことに巻き込まれても嫌だし、そうなったら折角のイベントも台無しになる。
だから首元を隠せる服を選んだ。
一応、ボクなりに真剣に考えた組み合わせ。
だけど、二人の先輩方は渋い顔をする。
何処が駄目なのだろうか、素直に分からないことを聞こうと思って、ボクは口を開こうとした。
けど、レオネさんとクサビさんが先に口を開く。
そしてぶっ飛んだ言葉の応酬が展開された。
「主任、フジワラのデート相手の性癖は?」
「逆転好きの推定Sとしか」
「息をするようにブラスの名誉が死んだ…!?」
ごめん、ブラス。
先輩にキミの性癖が割れた。
なんかもう謝罪の文面も最悪すぎる。
そう心の底から今は自宅にいるであろう彼に謝罪していると、周りの状況が目まぐるしく変わり始める。
お酒もおつまみも二の次に。
クサビさんは部屋にあったクローゼットを開き、多種多様な服が収まった空間を露わにした。
そしてレオネさんはブツブツと会議を始める。
ボクは蚊帳の外であった。
「逆転好きでボーイッシュが癖だとしたら…優位な感じが出る方が刺さるよな…でも顔立ち可愛い系だし、パンツスーツは微妙か…」
「下はショートパンツとタイツにしよっか、生意気な雰囲気になるようにして『上にいる感』を出そう」
「その手があったか、主任もしかして天才? じゃ上はタンクトップにプラスして羽織ものとかでいけるか」
「いけるでしょ、アマネ童顔だし」
あれよこれよと話が進んでいく。
タンクトップって何!? ボクは堪らず膝で立ち上がりながら大声を上げようとする。
「いや、ボクは喉元を隠っ」
「「喉元の刺青は絶対に隠すな」」
「え、ぇ〜…?」
けれど、それはあっという間に圧殺された。
二人して、ボクの喉元を指差しながら言った。頑として譲らない、そんな意志をひしひしと感じる。
ボクはそれに面くらい、立ち上がる事もできずヘナヘナと座り直してしまう。
「ど、どうしてですか…?」
「ああいう奴はそれだけでドキドキするから。なんなら人差し指もって喉元撫でさせな、面白い反応見れるよ。
独占欲とか煽れると思うんだよね、絶対に」
「耳元で〝見られるの嫌かな?〟とか言っちまえ。
少なくともお相手はずっと意識することになる」
「そんなガツガツいけないですよ!?」
「ガツガツ食われに行ったのに?」
「ごはあっ!?」
痛い所を刺しに来た!?
吐血しながら倒れ伏すけれど、それでも二人からの追撃は止まない。どんだけボクに喉元晒してデートに行って欲しいんだこの人達!?
「向こう視点で考えてみろよ、無防備に晒された刺青の入った彼女の喉元を自分から絞め隠せんだぞ? たまんねぇな目の当たりにしたい光景No.1だな尾行して良い?」
「尾行の意味知ってますか??????」
「じゃあ独占欲まっしぐらの彼、見たくないの?」
レオネさんにキレかけたボクの頭へ、クサビさんからの言葉が強く響いた。
独占欲一杯のブラスを、頭が勝手に想像する。
あの優しいというか、困った人やら辛そうな人を見た途端に駆け出してしまいそうな彼からの束縛。
きっと苦しそうな顔をするだろう。
これは駄目なことだとか、考えに考えて、それでも歯止めが利かなくなってしまった青白色の目を思い浮かべる。
…多分、ボクの足は竦むだろう。
怖いと感じるだろう。
でもそれより、嬉しいと思ってしまうボクがいる。怖いと思っても、きっとボクは口元を歪めてしまう。きっと喜んで独り占めされに行く。彼に閉じ込められることを受け入れてしまう。
「〜〜〜〜…っ見たい、です…!すっごい見たい!」
気付けば、ボクは本音をぶちまけていた。
「なんか皆が特別みたいで一人だけ特別みたいな感じがしなくてそこが好きなんだけど彼だけのものにも成りたくて、でもこんなの欲張りというかめんどくさいかなって思っちゃって。ブラスのことを歪ませてしまうかもだけど、それはそれで悦んじゃいそうで怖くて。
ブラスからチョーカーだって付けてもらいたいし、なんなら苦しくても良いし、それで困った顔しそうだし、ボクは絶対それ見て幸せだなぁって思っちゃいますきっと…こんなの絶対言えないよ変態だって思われる…」
「いきなり早口になったなこの子…」
「ご馳走様ぁ…!」
「レオネ、顔がニチャってるニチャってる」
ボクは結構危ういのかもしれない。
改めて本音を口にして思ったけど、何というか、あまりにもブラスに首っ丈すぎる気がする。
こんな思いをするなんて夢にも思わなかった。
…少しだけ、以前のことを思い出す。
〝生まれた時が違うなら、死ぬ時は一緒が良い〟
まだ学校にいられた頃、皆と違って恋に関する話を持ってなかったボクが友達に話せた一応の返事。
漠然とした、そうなれたら良いなってこと。
好きな人に死なれたら、きっと寂しい。
好きな人を遺してしまうのも、不安になると思う。
そんな考えがあったから、ボクはそう言った。
意外って顔をされたのは、まだ覚えている。
今にして思うと、あの顔は意外って言うより、もしかしたらドン引きの顔だったのかも…。
「あ、そうだ。タンクトップだと襟ぐり深いじゃん。
レオネ、デコルテどうする?」
「鎖骨エロくしましょう」
「エロっ!?」
「あとでハイライト試しに乗っけよっか」
なんて昔のことを思い出してたらとんでもないワードが飛んできた!? 鎖骨エロくするって何!?
というかもう二人が決めた服で確定なの!?
そんなことを考えてる間でもお構いなし。
今にも着せ替えが始まろうとする。
…色々思うところはある。
けど、必死に考えてもらっているのは本当。
それはとても嬉しいしありがたい。
しかし、連続で耳に入るワードに驚くばかりで、中々お礼を言い出せないボクがいた。
そうして、夜はふけていく。
次第に酒も深く回ったのか、レオネさんもクサビさんも口が軽くなり始めていく。
「ああ、そうだ。一つ聞きたいんだけど
…正直、スる時って明かりつける?」
「クサビさん? あの、クサビさん!?」
「いや、彼氏が恥ずかしいって毎回電気消すから、目が慣れるまでちょっと抱きにく…」
「そこから先は彼氏さんの名誉がですねぇ!?」
「待ってくださいまさかの女攻めカプですか詳しく」
「レオネさん!?」
………ボクも酔い潰れてやろうかなと、収集つけ難くなる状況に揉まれながらそう思った。
同時に、喉元から少しひりつくような痛みが走ったような気がしたけど…これはきっと気のせいなのだろう。
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