敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
9月21日 天候:快晴 蘭善中央一区
特異対策局本部:上層部会議室
一脚の長方形の机があった。特に豪奢な装飾もない、どこにでもあるような会議室用のデスクがあった。
白いプラスチックのそれに、用意された席は八つ。
横に三つずつ、縦に一つずつ。
その席もまた、安価な事務用の椅子。回転する以外の特徴はない。全ての参加者が、その座席の上に各々持参したクッションを乗っけているのが辛うじての個人差である。
全ての席は埋まっている。
その中で最初に口を開いたのは、部屋の一番奥、従ってデスクの最奥の席に座っている人物。
束ねた黒い長髪を肩に置いた、若々しい見た目の男。
「はぁい時間だね、じゃあ会議を始めようか。
クリフ、始まりの挨拶をお願いしてもいいかい?」
「早朝会議は滅ぼすべき因習」
「素晴らしい挨拶ありがとう。全く同意見だ」
男が指名したのは、特異対策局副局長の一人。
名をクリフ・サンダーズ。
特徴的なのは大男と言えるほどの恵体、そして金色の逆立った髪と顎髭にライオンのような瞳。
彼の発した『挨拶』は憤りの暴露であった。
「んなっ、仕方ないでしょう!この時間帯にしか皆さんの時間が合わなかったんですから…!!」
「話が長くなりそうだね、本題に行こうか」
「いきなり梯子外してくるなこの局長…」
会議の出席者の一人、年若い青年が『挨拶』に対して食ってかかるがすぐさま片付けられた。
局長と呼ばれた、肩に束ねた髪を置く男によって。
男の名はマツバ・マサムネ。
特異対策局のトップ、つまりは局長である。
彼の人格については、この一連の流れを取り立て止めることもしない『出席者』の態度から少しは窺い知れる。
そうして、特に問題なく『会議』は始まった。
「さて、晴れて戦力を増強した昨今だ。
『協力者』の『正式加入』によって、我々はテロ組織『ラメント』の情報を多く握ることになった。
今は地下勢力と潰し合っている彼等をどう迎えるか。
最初の話題はこれで構わないかな?」
異論の声は上がらない。これを同意である合図にしているのだろう、マツバは一度だけ頷いて会議を進める。
どうやら、余計な形式に拘らない人格をしているらしい。或いは単に面倒くさがりなのか。
しかしどことなくユーモアのある人物でもあった。
先の漫才じみたやりとりを見るに、彼は形式やしきたり自体を重視していないのかもしれない。
そんな彼は肩に置いた髪を撫でながら、出席者の一人である局員、クサナギ・カムイに対して問う。
「で、索敵の首尾はどうかな? カムイ主任?」
「地上残存勢力の動きは、大方予想がつきました。やはり6区の方が騒がしくなりそうです。
ただ、地下本体の予測は少し難航してますね、こればかりは趨勢を待つ必要があります」
「…出たとこ勝負になりそうだね」
「とは言え、本隊が地下勢力に敗北する可能性は十分にあります。仮に勝ったとしても、大いに戦力を削られることは必至でしょう…報告書に書かれたことが本当だとしたら、我々は子どもに助けられた形になります」
「不甲斐ないね、来月は僕含めて全員減俸する?」
冗談なのか本気なのか分からない局長直々の言葉に、会議室は「マジかお前」みたいな沈黙に包まれる。
真に受け取られそうだと気づいたのか、マツバは「急な減俸は契約に入れてないよ」と言った。
続けて、クリフが資料を揺らしながら言う。
「天体と天候のアイザックを始めとして、厄介な連中が多い。問題なのは元幹部のブラスでさえ、予想外の『進化』が起きたということだ…エリヤ・マクベスの方は?」
「沈黙、だな。公安室が痺れを切らして『尋問』を強行しようとして鎮圧したのが昨夜の出来事だったか。
…やはりブラス・リッターと会わせるべきでは? 彼の人格なら問題はないと思うんだが」
クリフの声に、出席者の一人である老婆が返答する。
彼女の提案はすぐさまにクリフから否定された。
「故郷を焼いた男と、故郷を焼かれた男だぞ?
下手をしたら殺し合いに発展しかねん。ブラス自体、此方の予想を大きくぶち壊す行動をする。
安易に彼の人格全てを信じるのは避けたい…」
心の底から搾り出すような声に、一同が沈黙する。
どうやら、ブラス・リッターについてのあらかたの事情は共有されているらしい。
先の提案をした老婆の声が、慌ててフォローにもなっていないフォローを入れた。
「いやこう『アレ』は情熱的なパッションみたいな」
「傷の舐め合いの間違いでは?」
「そんな朝ドラみたいなそんな」
「セクハラで処分されたいのかい君達? 僕をワンオペ地獄に送るつもりの巧妙な攻撃なら止めて欲しい」
マツバが脱線しそうな『出席者』達を矯正する。
彼の顔は苦虫を噛み潰したように歪んでいた。
そんな中『出席者』達の中で、ひときわ態度の悪い座り方をしている中年の男が言う。
「会わせない判断には俺も賛成かなぁ。折角手に入れた戦力を『問題行動起こしたからダメです』とかされたらたまったもんじゃないしね!」
「問題行動は滅茶苦茶起こしてるんだよなぁ…」
「あれれ、そうだっけぇ? ちゃんと付き合ってんならどーでも良いんじゃないのそーいうの?
というか個人の事情なら黙認しちゃおうよ」
中年の男はゲラゲラと笑いながら言う。
その発言には異論がないのか「ま、それもそうだね」みたいな沈黙が会議室に流れた。
「で、その本人は今どこに?」
「フジワラ局員とデート、だそうで」
「はっはははは!! 僕らが恐れる進化者も、カメラを通さなきゃただの男子と女子か!! …場所は?」
「ラズリ・ストリート、4区ですね」
「青春してるねぇ」
そしてマツバは、少しだけ真剣な声で言った。
「じゃ、そこに人員を回しておこっか。
狙撃特化の子を一人だけね…念の為…報復がそろそろきても、おかしくはないだろうし。
本当に来たら、まぁ芋蔓式を狙おう」
◆
9月21日 天候:快晴 蘭善中央4区。
ラズリ・ストリート近辺広場。
ラズリとは、外国の言語で青色を示す。
これにあやかってか、ラズリ・ストリートは青や水色を基調とした建築物や店が多い。
近隣の広場にも、当然青色のオブジェがあった。
透き通った素材で作られた六角柱。先端はピラミッド状であり、側面には他言語の詩が刻まれている。
そんな待ち合わせスポットに、一人の少女がいる。
緑のショートヘアに、同じ色の瞳。
顔立ちは可愛い系に入るが、喉元にある葉のような赤い刺青がひどく目を引く。160と少しの身長と、快活そうな瞳にあまりにもミスマッチなそれは、どことなく退廃的な雰囲気を放ってしまっていた。
現在時刻は10時ぴったりぐらい。
少女ことフジワラ・アマネは、待ち合わせの時間より早くに着いてしまったようである。
『今朝のニュースです。昨夜未明、六区住宅街で起きた爆発音の原因は未だわかっておらず、警察によりますと火薬類を用いた悪戯の可能性も視野に───』
街頭モニタから流れるニュース。それに目も耳もくれず、彼女はしきりに髪をいじったり、自身の服装を見直したりと落ち着きが一切ない。
デニム生地のショートパンツに、黒のニーハイ。タンクトップのシャツに、薄手のパーカーを羽織っている。
彼女は改めて、そんな自身の服装を振り返る。
〝流石にこれより露出を増やす度胸はなかった…〟
ニーハイとパーカーで隠しているが、腋に肩に足に胸元にと、彼女の服には露出が多い。
ちなみに彼女の服装相談に乗った上司や先輩は「もっと攻めよう」と悪い提案をして来たが、アマネが「これ以上はNO」と言ったらしっかり引き下がった。
その代わり「絶対に相手を離すな、絡まるくらい行け」「同じ棺桶に入る勢いで行け」と激励なのか、脅迫なのか分からない応援を貰ったのであるが。
「ボクは離すつもりないのに」
逆ならともかく、とアマネは笑って溢す。
太陽が明日もあることを疑わないように、当然のことのように刺青を刻んだ喉から言う。
少女はもう一度、今の自分の装いを見る。普段なら先ずしないような選択、初めての組み合わせ。
それをしようと思ったのは、一重に彼女が彼からの視線や喜びが欲しいと思ってしまったからであり、言ってしまえば誘惑の為のようなもの。加えて、自分を見る時間が増えたら良いな、とそんな思い。
言ってしまえば彼女なりの独占欲の発露だ。
一つ不安があるとすれば。彼が今回の『買い物』を義務や責任感にとらわれて、楽しめなくなってしまうことだろうか───と、そんな心配をしていた時だった。
不意に、彼女に話しかける軽薄な声が現れる。
「喉にタトゥーとか、気合い入ってんじゃん」
「なに、一人? 暇なら来ない?」
ガラの悪い風体の男が二人。揃って派手な髪色で、良く見積もってもチンピラ、ごろつき。悪く言えば半グレじみた見た目であった。
彼等から話しかけられた、そう理解したアマネは一気に遠い目になる。分かりきっていたというか、予想出来ることだったというか。なんならそんな危険も承知だった。
〝だよねぇやっぱり絡まれるよね!? でも残念リスクを冒してもブラスに見て欲しかったんだよねぇ頭茹だりすぎじゃないかなぁボクうわはははー!!〟
というより少女は『危険じゃない?』と訴える冷静な自分の部分を、首っ丈な方の自分が『うるせぇ知らねぇ見てもらいてぇ』とぶちのめしてしまったのだが。
ともあれ、既に過ぎたことだ。
今更後悔というか、リスクを改めて思いしっても仕方がないとアマネは思考を回し始めようとする。
ヒリヒリと喉に痛みが走った気もするが、そこに考える力を割く余裕もない。
〝どうしよう…断ってもしつこそ───!?〟
けれど、回る前に思考が寸断される。
ぐい、と少女の体が突如後ろに引っ張られたからだ。
続いて、背後から彼女の首から下を細い右腕が抱きしめる。唐突なことではあったが、少女は特に驚いてはいない。
彼女はその腕が誰のものなのか知っていたから。
少しだけ視線を後ろに回すと、アマネの予想通り、蒼白色の髪が揺れるのが見えた。
その髪の持ち主はブラス・リッター。
走ってやってきたのか、息はかすかに慌ただしく、加えて頬は薄っすら赤色に染まっていた。
彼は蒼白色の目を尖らせている。
そして彼はアマネを背後から、人差し指でつぅと彼女の喉にある刺青を撫でながら言った。
「……俺の」
「…………〜〜ッ^☆◆○×#△*ッ!?」
いきなりの発言。なんの予備動作もないアッパーカットじみた言葉。まさかの初手から『俺の』宣言。
これによってアマネは情緒が大いに乱れた。
言語野が感情に飲まれて仕事を放棄したらしい。彼女は声にならない叫びを喉からあげた。
それを見せられたナンパの二人組だが───
「ぁ…うっす…」
「これは無理だわ、余地がないわ」
「わかる。つか怖いなんか、病みを感じる」
───ドン引きの目をしてから退散した。
そんなこともあったが、アマネとブラスは無事に合流出来た。ブラスはナンパ男達を引かせた後「いきなり抱き締めてすいませんでした…」とアマネに謝罪していたが、当の彼女から「何でそこで謝るかなぁ!?」と少しキレられたことを明記しておく。
ブラスはおっかなびっくり、と言った具合でアマネの心配をする。何もされていないかと、しきりに聞くその姿は「兄じみてる」なと少女は少し笑ってしまった。
だが、それとは反対の感情も少し。
「本当に大丈夫か?何もされてないんだよな?」
「心配しすぎだよ、大丈夫。キミが守ってくれたから平穏無事だよ! というか、それよりも!」
何度も心配するブラスに、若干の不満を覚える。
少しは自分の結果を素直に受け止めたらどうなのか、そんなことを思いつつアマネは羽織るパーカーの裾を持ち上げ、披露するように自身の服装をブラスに見せつけた。
「そ、その…どう…かな?」
デコルテが広く出た胸元。鎖骨を強調するようなハイライト。足を多く出そうとするショートパンツに、太腿だけを微かに見せるニーハイ。そんな気合の入った格好。
何より、無防備に晒された喉元の刺青。
そして少女は感じる。蒼白色の瞳からの視線を。
年相応に、最初は胸元と喉元。
そこから慌てたように足に移るが、やっぱり目は逃げて慌てて腕や瞳とあっちこちへ。
慌てる視線の動きが、少しおかしかった。
くすり、と少女が照れと喜びを混ぜて笑う。
しかし、少年は何も感想を発さない。
それどころか、どういうわけか近場にあった照明柱をつかむ。更に頭を横に倒して、かなりの勢いをつけて。
「不埒者ァ!!!!!!」
自分の頭を思い切り金属製の柱に叩きつけた。
「うわああああああああ!?」
悲鳴を上げるアマネ。頭から血を吹くブラス。間違ってもデート開始前とは言えない惨状であった。ホラー映画かサスペンスのプロローグと言われた方がまだ信じられる。
「何してるの何してるの何してるの!?」
「邪な目を向けました殺してくださいというか死ぬそもそも絡まれたの絶対刺青のせいじゃんなのに『俺の』とか馬鹿なのか頭悪いのか俺はおがごごごごご」
少年は自責の念やら湧き上がった本能やらで、まぁまぁ大変なことになっていた。どうやら彼には刺激が強かったらしい。少なくとも頭から血を抜いて冷静になろうとするくらいには。アマネは慌てた様子で少年をフォローする。
「その、嫌な気持ちにはなってないから! 大丈夫だから、安心して! というか、目線がやらしくてもキミのなら不快じゃないし…」
「はい…申し訳ございません…」
「大体この服を選んだのだって、先輩達のアドバイスもそうだけど、キミに見てもらいたくて選んだっていうのも理由だし、だからキミがそういう目を向けても大丈夫というかむしろ狙い通りというか」
「はい…申し訳ございません…」
「あの、…ブラス?」
「はい…申し訳ございません…」
「ブラック勤めの新卒!?」
壊れた人形のように謝罪を繰り返す少年。
顔を両掌で覆いながらしゃがみ込む彼に、目線を合わせようとか同じようにしゃがむ少女。
体の距離は近い。声の届く距離も短い。
それを見越してなのか、ともかくブラスはか細い声で、ようやく感想を吐き出す。
「………服、似合ってるし、…かわいい…デス。
正直言って、他の人に見られたくないっつーか…。
胸元っつーか鎖骨とかその辺出し過ぎじゃねぇかなとか、なんか色々考えちゃうの許してください…!」
どうやら、少女の選んだ戦略は効果的だったらしい。
「へぇー…?」
嬉しいやら恥ずかしいやら。そんな充足感の中で、ざわりとアマネの心に嗜虐にも似た欲求が湧き上がる。
それは彼女にとっては未知の感覚だ。
彼女は改めて状況を飲み込む。今日のブラスはなんだか、とても感情豊かというか、反応が良くて面白い。
ならばもう少し、と悪戯心が芽生えてしまう。
アマネは先ほどよりも声量を抑えて、少年の耳側で揶揄うような声色で囁いた。
「…えっち」
「コ゜ッ゜ァ゜」
少年は滅茶苦茶死んだ。
Tips:ブラスの「俺の」は本人が(友達?恋人?いやまだ告白してないし、なんて言おう…)と悩んでその先を言えなかった為に途中で止まった故の産物。結果的にクリティカルである。
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