敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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他所話-戦えないNPC(戦えないとは言ってない)

 

 

 あたしこと、ヒヒガネ・クサビには彼氏がいる。

 彼の持つ店、花屋『フルール』はそれほど盛況という訳でもない。偶にやたらと忙しくなる程度…店主が宣伝ではなく、仕入れに力を入れているせいだろう。

 しかし、それでも経営に支障は出ていないのだから、不思議なものだと、あたしは思う。

 

 夕方の後半、空にも紺色が滲み出す頃。早上がりになったあたしは、帰りに彼の店仕舞いの手伝いをする。

 毎回断られるけど、押し切ってるのがあたし。折れるのが彼の方。

 よっこいせ、と花束の入ったカゴを片付けながら話すのは、明日からのあたしの部下にして、ここの単発アルバイトに来ていた少年の話。

 

「それじゃあ、ブラスは無事に告白成功したんだね、良かった。少し、いやかなり、というか滅茶苦茶に気になってて、発注ミスっちゃって」

「ちょっと待って初耳なんだけど?」

「来週にハスター・ベーカリーさんのレモンドーナツが50じゃなくて500来るから、取り敢えずアカウント作ってSNSで宣伝してみる予定」

「ごめん、もう少し慌ててもらって良い?????」

 

 店主である彼が、青いポニーテールと、お揃いにしたピンクのメッシュを揺らしながら、カラカラと笑う。

 笑いごとじゃないと思うんだけどね。

 

 でも彼は昔からこうだ。

 本当に滅多なことじゃ動揺しない。

 生きた凪か何か? とドン引きしたのは、記憶に新しいというか、刻まれてるというか。

 …幼い頃にあたしを家に連れ戻しに来た人をタコ殴りにしても真顔だったのが怖かったというか…

 

「いやぁ、僕のお店もSNSデビューかぁ」

「微塵も華々しくないデビューだよ、初っ端から発注ミスを公言する店は剛の者にも程があるよ」

「実直な経営を心がけております」

「ものは言いようすぎる…」

 

 スマホを見ながら目をキラキラさせてる。

 そんな調子でいいのか。よりにもよって初投稿が発注ミスはヤバいと思う。芸風が固定化されるよ下手したら。

 そもそも発注ミスでドーナツ過多の花屋って何よ。

 

 でも、SNSは良いかもしれない。

 この店、どこから調達したのか、宝石とか鼈甲とかをバカみたいに安い値段で取り扱ってるし、良くも悪くも有名にな…いや、高額品を安価で取り扱ってるのに、いまだに店の規模も忙しさも小さいままなのおかしいな?

 …勝手に『知る人ぞ知る名店』扱いされてたりとかしてそう。今度調べてみようか。

 

「…? ?? ???」

「はいはい、あんたスマホ苦手でしょ。やったげるから、とりあえず店の鍵閉めちゃって」

「あはは…ごめん、ありがとう」

 

 案の定、スマホの画面を見てはてなだらけになってる彼の手から、スマホを取ってあたしは言う。

 機械だけは、本当に苦手なままだ。

 まぁあたしがいるから、大丈夫だとは思うけどと思いつつ、彼のSNSアカウントを作り始める。

 

 …とりあえずセンシティブ系は非表示設定にしておかないと、未だにウブだし、そこが可愛いんだけど。

 それを思うと、アマネもブラスも一足飛びというか、初手から飛び越えすぎというか、スラム育ちの後者はともかく、前者は…うんまぁ、ストレスかなぁ…。

 

 ……ともかく、二人が結ばれたのはめでたいことだ。

 ただ思うに、あの二人は互いの存在がデカすぎる。湿度が高すぎてもはや水だ。見てる分には心が過充電されるので、存分にいちゃついて欲しい。やっぱ人間、幸せが一番だよね。

 人様の恋愛見て肴にしてるだけだろって?

 それの何が悪い。こちとら女性だ、自分の恋と同じくらいに人様の恋も気になるっての。彼以外の癒しも見つけているんだ、勝りはしないけど。

 

 ただまぁ、仕事上、少し怖いとも思っている。

 特異対策局は進化者や、彼等を利用する者達を相手にする組織。死も重傷もつきものだ。

 ブラスは格闘も悪くないし、アマネは相変わらず能力が万能だし、滅多なことは起こらないと思うけど、起きてからじゃ遅い。いざという時に暴走されたら困るし、その辺りは班長であるあたしが頑張らないといけないことだ。

 

 ともかく、アマネに出してる個人訓練の成果も見たい。ブラスが能力無しでどれくらい戦えるのかも。となると、やっぱり一回合同訓練とかするべきだろうか。

 …クサナギに出席頼めるかなぁ?

 

 総思考を巡らせながら、彼のアカウントを作っていると、店の出入り口の方から声が聞こえてきた。

 穏やかな声じゃない、トラブルだろうか、そう思いながらあたしは声のした方向へ。

 

「うわっ、うわわっ、何ですかちょっと」

「うるっせぇ!!さっさとこの店にあるもん寄越せってんだよ!!舐めやがって、この野郎…!」

「……つまりお買い上げするつもりはないってコト!?」

「バカにしてんのかテメェ!!!!!」

 

 ───ナイフを振り回す強盗と思しき人、振り回されたそれをなんかホイホイと避けて距離を詰めてる彼

 あたしは一目散に走って、彼の元に駆け寄ろうとする。

 

 けど間に合わない。彼が『構えた』。

 ナイフを振り回す人を、客ではなく『強盗』としっかり認識した。してしまった。

 左の拳をさながら矢を引き絞るように構え、腰を落として重心をずらし、片足を軽く上げて、一撃を見舞おうとしているのは、火を見るよりも明らかだ。

 

 まずい、下手したら強盗が死ぬ。

 

「待って!! 幾ら何でも手加減───」

───()ッ───

 

 駄目だった。間に合わないくらい一瞬だった。

 震脚一回で滑空した彼は、その勢いを諸共に乗せた拳を、強盗の鳩尾に突き刺した。

 そして、ぼぐしゃ、と嫌な音が鳴る。

 人体を破砕するような一撃。くの字に曲がる強盗は、錐揉み回転を伴って店の外へと追い出された。

 …どう考えても、花屋に相応しくない戦闘技術。

 それを見てドン引きするあたしを他所に、彼はふんす、と鼻を鳴らしながら構えを解いて言う。

 

「当店は! 強盗お断り! です!」

「普通の花屋は『疾』なんて息遣い使わないし、滑空しながら人を吹っ飛ばさないと思うよ、あたしは」

「護身術!!」

護身術は人体を破砕する音出さないんだよ、もしかして攻撃は最大の防御を地で行く流派?

 

 きょとん、とした顔の店主さん。

 …彼は昔からこうだ。人としての『動』がちょっと少ない。かと言って、共感能力や良心がないわけでもない。

 悲しいことがあったら泣くし、捨て猫を拾って里親が見つかるまで奔走したこともある。

 善人だけど、機微が何処かおかしい。

 言っちゃ悪いけど、優しさを搭載した人外みたいな。

 だから、昔っから放っておけない。

 あたしは、彼の身体に触れながら、傷がないかどうか確認をすびっくりするくらい無傷だな。どんな反射神経してんだ。

 

「……怪我はない?」

「? ないけど?」

「良かった、すぐ気づけなくてごめん」

「大丈夫だよ、何とかなったから」

 

 心配が一蹴された気分…そういうことじゃないんだけどなぁ。多分本当に『問題ないから大丈夫』って考えているのだろう。このやろう。普通の人なら死ぬかと思ったみたいな感想ぐらい溢すだろうが。

 そう考えながら、彼を襲った強盗を縛り上げる。けど、その途中で、少しばかりの違和感が。

 

「…?」

 

 キチキチ、と小さな音が聞こえる。

 恐らくは、強盗の衣服からだ。あたしが、その音のする辺りを軽く弄ると、ぱり、と小さく薄い何かが割れたような音。

 …これあれだな、何かよくないことが起こるな。

 強盗は苦しげながらも、首を傾げてる。何のこっちゃって表情。うん、絶対に面倒かつ良くないことの前触れだね。

 

「ごめん、今日泊まっていい?」

「全然良いけど?」

「ありがと、じゃあ警察呼ぶから…過剰防衛になるのかなこれ」

「あ、待って」

 

 とりあえず、今日は一緒に居ておこう。そう思って、泊まりの提案をしながら通報の準備をしていると、彼はおもむろに縛られている強盗の前までやって来た。

 そして、目線を合わせるように目の前で座る…自分の体にとんでも一撃をかました人が、間近に座ってくるのはとても怖いと思うよ、あたしは。

 

「ウヒッ!?」

 

 だよね、怯えるよね。

 でも大丈夫、まだ序の口だと思うから。

 あたしはそう思いながら、万が一に備えて、青髪の色々ぶっ飛んだ彼の側に控える。

 下手な抵抗はないと思うけど、心配は心配だった。

 そして、そんなあたしの心配を、杞憂にするかの如く、花屋の店主さんは言葉を吐くのだ。

 

「あなたに何があったとか、どんな状況にいるとか、僕は知りません。でも、叶うなら、どうか次は『お客さん』として来てください。冷やかしでも、試食のお茶菓子くらい出せますから」

 

 …嫌味とかじゃなくて、心からの本音を。

 

「どうか悪いままで終わらないでください。

 自分には悪いことをするしかないって、勘違いしたままでいないでくださると、僕は嬉しいです」

 

 ……これを本心で言うんだ。仲の良い人に対してはともかく、喧嘩や護身で打ちのめした人に対しても。

 下手な脅迫と勘違いされたこともあったっけ。

 …全部本音なんだよなぁ。

 手の届く範囲で、悪いものを良くしたいと思っていて、人が喜ぶならそれが一番と考えているけど、致命的に何処かが『ズレて』いる。

 だから、怯えられることもあった。

 

「…イカれてんのかよ…おまえ…!」

「む、イカれは取り扱っておりません!」

「あーこらこら、怯えてるから一回離れて離れて」

 

 怖がっている強盗と、彼の距離を離す。

 人は彼を時に理解し難いっていうけど、あたしは、彼のようなシンプルさは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 正の走光性を持つ人間。

 彼を始めとしたこういう『誰か』は、大別された人間同士が相争う羽目となったこの世界に必要だと思う。

 

 思えば、あなたはずっとあたしの光だったのかも。

 

 あたしは自分の原点を思い返す。

 青髪の彼のように、危ないことから何かを守れる力が欲しかっただけだし、そんな職に就きたいだけだった。

 ぶっちゃけた話、警察でも消防士でも良かった。

 夢の最低限ラインが叶えられるらのなら。

 だからまぁ、皆みたいに、そんな綺麗な動機も、しっかりした理由も思想もないけれど、今の自分が彼や誰かの為になっていれば、良かったなぁ程度。

 

 うん、少し『そういう』気分になった。

 昔のことはそうそう思い出すもんじゃないかも、強盗騒ぎで不安もあったから尚更だ。

 

「…今日、事後処理終わったら抱いて良い?」

「ぅ、えぇー……っ!? と、とうとつ…!」

 

 顔を真っ赤にしてしゃがみ込む店主さん。ノーとは言ってないから、オーケーサインと受け取ろう。

 そんなことを考えつつ、胸騒ぎを誤魔化す。

 ……あー、嫌な不安だ。今日は甘えて忘れて寝よう。今後のことは明日に回そう。

 

 





Tips:ハスター・ベーカリー…主に状態異常付与系のアイテムを取り扱うパン屋。また、シナリオ後半で店長が主人公のデバフ耐性の底上げもしてくれる。店長は常に黄色い服を着ている。仲の悪い兄がいて、偶に店番をしてる。

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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